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【ミラルカ旅行】
149.ミラルカ旅行⑬ Side.レオナルド
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ミーシャ嬢とちゃんと話をしようと思って夕食に誘いに行くと、どこか落ち込んだ様子で部屋から出てきた。
「ミーシャ嬢?」
「レオ様……」
グスッと目に涙を浮かべる彼女は思わず抱きしめてあげたくなるほど可愛くて、ついそっと抱きしめてしまう。
「ごめっ…ごめんなさいっ…」
これは何に対する謝罪なんだろう?
取り敢えず落ち着かせてあげないとと思って、外へと連れ出しベンチに座ることに。
このままだととてもレストランで食事なんて無理だろう。
「ミーシャ嬢。泣かないで」
そっとハンカチを差し出すと彼女は素直にそれを受け取って、小さな声で何度も謝ってくれた。
「私…レオ様に寄り添えてなかったのかしらって…もっとユーフェミア王女に強く言えばよかったって思って…」
「ユーフェミア王女に?」
彼女が何かしたんだろうか?
「はい。レオ様に寄り添う気もなく国政に口出しする気満々で言い放ったユーフェミア王女に、私はもっと抗議するべきだったんですよね?」
「え?!それは違うよ?!」
「……え?」
どこをどう考えたらそうなったのかがさっぱりわからなくて、でもここはちゃんと彼女の考えも聞いてあげるべきかと尋ねてみることに。
「えっと…ミーシャ嬢は皇太子妃…将来の皇妃について、どんな風に思っているのかな?」
「はい。皇王になられるレオ様を支える立場と考えております」
「そうだよね?」
「はい」
「つまりそれは、同じ目線で政治を見なければならないことだってわかってるってことだよね?」
「……え?」
最初の言葉で納得しそうになったけど、一応確認と思って尋ねてみると、彼女は大きく目を見開いて物凄く不思議そうな顔をしてきて、俺は凄く嫌な予感がした。
「ミーシャ嬢も皇妃になったらお仕事があるってわかってるよね?」
「え?その…相談役のような形でお話を伺うくらいですよね?」
「違うよ?皇妃は皇王が例えば視察なんかに行っている時は皇王代理で政務を行わないといけないから、ちゃんと全部の仕事を理解して、責任をもって裁定を下せないといけないんだ」
「…………」
「それはガヴァムでも同じはずだけど…?」
「で、でもガヴァムはカリン陛下が政務を行っていて、あのクズは然程仕事をしていないはずです!」
彼女は慌てたようにそう言い放ったけど、その言葉に俺の心が一気に冷え込むのを感じた。
「…………ミーシャ嬢。ちょっと聞いてもいいかな?」
「はい」
「ミーシャ嬢はロキの事、どう思ってる?正直に俺に教えて欲しいな」
「ロキ陛下のこと…ですか?」
「うん」
「正直言ってカリン陛下の足手まといだと思っておりますが?」
「…そう。他には?」
「無能なら無能らしくおとなしく昔のように部屋に引っ込んでいればいいと思います」
「……ふぅん?そうなんだ」
「そうですよ。当然ですわ。大体あの男は学園にも行っていないんですのよ?ガヴァムの貴族の子息子女はほぼ全て通うはずの王都の学園に、あの無能は入学すらできなかったんです!信じられます?ふふふっ。本当に馬鹿でしょう?」
クスクスとあからさまにロキを馬鹿にする彼女に怒りが湧いてくる。
俺はこれまで一体彼女の何を見て浮かれていたんだろう?
こんな性悪女だとわかっていたら最初から婚約の打診なんて断っていただろうに。
「ねえ、レオ様。レオ様もあの無能を利用するために近づいたんですよね?やっぱり愚かだから扱いやすいですか?」
『友情を盾にしたら何でも言うことを聞いてくれるんじゃありません?』なんて楽しげに言ってくる彼女を……俺は気づいたらペチンと叩いてしまっていた。
だって凄く凄く腹が立ったんだ。
俺の友情までバカにされて、本気で傷ついた。
「ロキはちょっとズレたところはあるけど、優しくて思いやりがあるいい奴だ。馬鹿にするな!」
「レオ…様?」
頬を叩かれた彼女は驚いたように俺を見てきたけど、俺が怒りながら泣いているのを見て呆然となっていた。
「ミーシャ嬢。婚約の話はなかったことにして欲しい」
そう言って俺は踵を返す。
もう彼女と話すことなんて何もない。
そんな気持ちでその場を去った。
***
【Side.アルメリア】
(ちょっと、ちょっと、ちょっと────!!どこにいるのよ彼女は?!)
アルフレッドから連絡をもらってすぐにオーガストを引き連れ、フロントで訊いた彼女の部屋に行ってはみたものの応答はなく、もう殺されたのかとホテルスタッフに無理を言って鍵を開けてもらったのだけど、そこに彼女の姿はなかった。
一先ずそれに安心したけれど、それならそれですぐに身柄を確保しないと悪魔に殺されてしまうと焦ってしまった。
そしてレストランの方に行ってみたり、すれ違うスタッフ達に尋ねたりしたものの、一向に彼女の居場所がわからない。
そうこうしているうちに前から兄が歩いてくる姿が目に留まった。
てっきり一緒かと思っていたけど、どうやら違ったらしい。
益々危険だ。
「お兄様!」
「アルメリア」
「ミーシャ嬢は?!ミーシャ嬢は一緒ではありませんの?!」
「ミーシャ嬢?さっきまで一緒だったけど?」
「どこです?!」
「どこって…あっちの庭園のベンチのところだけど?」
「あちらの庭園ですね!」
場所さえわかればこのまま保護に向かえると思って急いでそちらへと走る。
「ちょっ…!アルメリア?!」
一体何があったんだと聞いてくるけど今はそんなことに時間を割いている暇はない。
「急がないと彼女が悪魔に殺されるんです!」
「悪魔?……もしかしてセドリック王子?」
「そうです!」
夢中で走って彼女の無事な姿を確認できたのも束の間、ゾクッと寒気が走ったと思ったらヒュッと風を切る音がして、目の前で彼女の長くて綺麗な髪がザクッと肩まで切り落とされた。
「ひぃいいいっ?!」
思わず悲鳴を上げてしまったけれど、彼女の方は何が起こったのかわかっておらず、パラパラと落ちて行く自分の髪を呆然と見た後、蒼白になりながらゆっくりと背後を振り返った。
そこに立っていたのは夕日を背に冷酷な眼差しで剣を手に持つ悪魔────セドリック王子。
(ぎゃぁああああっ?!)
思わずあまりの恐ろしさに腰を抜かしてしまったけど、このままでは確実に彼女が殺されてしまうと思って、すぐさまオーガストに合図を送った。
「全く…貧乏くじだなぁ」
そう言いつつ楽しそうなのはどう言うこと?!
結局オーガストもアルフレッド同様、強敵と戦うのが大好きなのかもしれない。
「ミーシャ嬢?」
「レオ様……」
グスッと目に涙を浮かべる彼女は思わず抱きしめてあげたくなるほど可愛くて、ついそっと抱きしめてしまう。
「ごめっ…ごめんなさいっ…」
これは何に対する謝罪なんだろう?
取り敢えず落ち着かせてあげないとと思って、外へと連れ出しベンチに座ることに。
このままだととてもレストランで食事なんて無理だろう。
「ミーシャ嬢。泣かないで」
そっとハンカチを差し出すと彼女は素直にそれを受け取って、小さな声で何度も謝ってくれた。
「私…レオ様に寄り添えてなかったのかしらって…もっとユーフェミア王女に強く言えばよかったって思って…」
「ユーフェミア王女に?」
彼女が何かしたんだろうか?
「はい。レオ様に寄り添う気もなく国政に口出しする気満々で言い放ったユーフェミア王女に、私はもっと抗議するべきだったんですよね?」
「え?!それは違うよ?!」
「……え?」
どこをどう考えたらそうなったのかがさっぱりわからなくて、でもここはちゃんと彼女の考えも聞いてあげるべきかと尋ねてみることに。
「えっと…ミーシャ嬢は皇太子妃…将来の皇妃について、どんな風に思っているのかな?」
「はい。皇王になられるレオ様を支える立場と考えております」
「そうだよね?」
「はい」
「つまりそれは、同じ目線で政治を見なければならないことだってわかってるってことだよね?」
「……え?」
最初の言葉で納得しそうになったけど、一応確認と思って尋ねてみると、彼女は大きく目を見開いて物凄く不思議そうな顔をしてきて、俺は凄く嫌な予感がした。
「ミーシャ嬢も皇妃になったらお仕事があるってわかってるよね?」
「え?その…相談役のような形でお話を伺うくらいですよね?」
「違うよ?皇妃は皇王が例えば視察なんかに行っている時は皇王代理で政務を行わないといけないから、ちゃんと全部の仕事を理解して、責任をもって裁定を下せないといけないんだ」
「…………」
「それはガヴァムでも同じはずだけど…?」
「で、でもガヴァムはカリン陛下が政務を行っていて、あのクズは然程仕事をしていないはずです!」
彼女は慌てたようにそう言い放ったけど、その言葉に俺の心が一気に冷え込むのを感じた。
「…………ミーシャ嬢。ちょっと聞いてもいいかな?」
「はい」
「ミーシャ嬢はロキの事、どう思ってる?正直に俺に教えて欲しいな」
「ロキ陛下のこと…ですか?」
「うん」
「正直言ってカリン陛下の足手まといだと思っておりますが?」
「…そう。他には?」
「無能なら無能らしくおとなしく昔のように部屋に引っ込んでいればいいと思います」
「……ふぅん?そうなんだ」
「そうですよ。当然ですわ。大体あの男は学園にも行っていないんですのよ?ガヴァムの貴族の子息子女はほぼ全て通うはずの王都の学園に、あの無能は入学すらできなかったんです!信じられます?ふふふっ。本当に馬鹿でしょう?」
クスクスとあからさまにロキを馬鹿にする彼女に怒りが湧いてくる。
俺はこれまで一体彼女の何を見て浮かれていたんだろう?
こんな性悪女だとわかっていたら最初から婚約の打診なんて断っていただろうに。
「ねえ、レオ様。レオ様もあの無能を利用するために近づいたんですよね?やっぱり愚かだから扱いやすいですか?」
『友情を盾にしたら何でも言うことを聞いてくれるんじゃありません?』なんて楽しげに言ってくる彼女を……俺は気づいたらペチンと叩いてしまっていた。
だって凄く凄く腹が立ったんだ。
俺の友情までバカにされて、本気で傷ついた。
「ロキはちょっとズレたところはあるけど、優しくて思いやりがあるいい奴だ。馬鹿にするな!」
「レオ…様?」
頬を叩かれた彼女は驚いたように俺を見てきたけど、俺が怒りながら泣いているのを見て呆然となっていた。
「ミーシャ嬢。婚約の話はなかったことにして欲しい」
そう言って俺は踵を返す。
もう彼女と話すことなんて何もない。
そんな気持ちでその場を去った。
***
【Side.アルメリア】
(ちょっと、ちょっと、ちょっと────!!どこにいるのよ彼女は?!)
アルフレッドから連絡をもらってすぐにオーガストを引き連れ、フロントで訊いた彼女の部屋に行ってはみたものの応答はなく、もう殺されたのかとホテルスタッフに無理を言って鍵を開けてもらったのだけど、そこに彼女の姿はなかった。
一先ずそれに安心したけれど、それならそれですぐに身柄を確保しないと悪魔に殺されてしまうと焦ってしまった。
そしてレストランの方に行ってみたり、すれ違うスタッフ達に尋ねたりしたものの、一向に彼女の居場所がわからない。
そうこうしているうちに前から兄が歩いてくる姿が目に留まった。
てっきり一緒かと思っていたけど、どうやら違ったらしい。
益々危険だ。
「お兄様!」
「アルメリア」
「ミーシャ嬢は?!ミーシャ嬢は一緒ではありませんの?!」
「ミーシャ嬢?さっきまで一緒だったけど?」
「どこです?!」
「どこって…あっちの庭園のベンチのところだけど?」
「あちらの庭園ですね!」
場所さえわかればこのまま保護に向かえると思って急いでそちらへと走る。
「ちょっ…!アルメリア?!」
一体何があったんだと聞いてくるけど今はそんなことに時間を割いている暇はない。
「急がないと彼女が悪魔に殺されるんです!」
「悪魔?……もしかしてセドリック王子?」
「そうです!」
夢中で走って彼女の無事な姿を確認できたのも束の間、ゾクッと寒気が走ったと思ったらヒュッと風を切る音がして、目の前で彼女の長くて綺麗な髪がザクッと肩まで切り落とされた。
「ひぃいいいっ?!」
思わず悲鳴を上げてしまったけれど、彼女の方は何が起こったのかわかっておらず、パラパラと落ちて行く自分の髪を呆然と見た後、蒼白になりながらゆっくりと背後を振り返った。
そこに立っていたのは夕日を背に冷酷な眼差しで剣を手に持つ悪魔────セドリック王子。
(ぎゃぁああああっ?!)
思わずあまりの恐ろしさに腰を抜かしてしまったけど、このままでは確実に彼女が殺されてしまうと思って、すぐさまオーガストに合図を送った。
「全く…貧乏くじだなぁ」
そう言いつつ楽しそうなのはどう言うこと?!
結局オーガストもアルフレッド同様、強敵と戦うのが大好きなのかもしれない。
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