【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

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【ミラルカ旅行】

140.ミラルカ旅行④ Side.アルメリア

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ミラルカの鉱山ホテルへとやってきた日、私は兄から相談を受けていた。
部屋の内装の件もそうだけどそれとは別件だ。

「婚約者選びに協力してほしい?」
「そうなんだ」

兄には現状婚約者はいない。
これは自分がまだ嫁ぐ前からで、財政状況が逼迫していた関係で婚約者にはお金を持っている相手をと色々吟味に吟味を重ねてきていたせいだ。
結局私がブルーグレイに嫁いでだいぶ借金もなくなったことからそこまでお金に拘る必要もなくなったのでそこで決めれば良かったのだけど、金にならない枯渇寸前の鉱山を買ったり、お金のかかる国際会議の主催国を押し付けられたりで国庫が枯渇してそれどころではなくなってしまった。
それが花畑事業や鉱山ホテル事業、三ヵ国事業などが上手くいき始めたことによって改善されて、相手を選べるようになったのだ。
そんな兄の元にタイミングよくとてもいい婚約の打診が二件来た。

一件はガヴァムで一、二を争うほど裕福なカトレシア公爵家のご令嬢 ミーシャ=カトレシア。
もう一件は隣国レトロンの王女 ユーフェミア=クロス=レトロン。

どちらも三カ国事業で繋がりがある国との縁談だ。
兄としてはガヴァムとの親交を深めるのも悪くはないと思って少し調べたら、そのカトレシア公爵家の嫡男フィリップ様はロキ陛下の補佐官にもなっているらしく、ご令嬢の方も清楚な感じなのだとか。
姿絵が好みだったので嬉々としてロキ陛下に「どう思う?」と聞いてみたらしいのだけど、予想に反して「一切お勧めはしない」ときっぱり言われたらしい。
とは言えやっぱり自分の目で相手を見るのも大切だと思って、会ってみることに。
そして実際に会ってみると兄の好みど真ん中だったから、取り敢えず断りは入れず保留にしてもらっているらしい。

そしてユーフェミア様だが、この方は私とも面識がありしっかりしたタイプの女性で、私の目から見てもとてもお勧めな方だった。
でもこちらは兄としては好みからは外れているからちょっと気が乗らないと言う感じ。

「彼女はちょっと好みじゃないんだ。ほら、迫力があってなんか怖いし。それに王女の方が散財しそうだろ?」
「ユーフェミア様ならその点は大丈夫だと思いますわ」

彼女は意味もなく散財するようなタイプではなく、どちらかと言うと代々王家に受け継がれるような貴金属を大切にしているイメージが強い。
ドレスは流石に王女なのでお金はかかっていそうだが、それでも散財しているイメージはない。
精々上質な布を使って丁寧に仕上げたドレスに美しい刺繍を施してあるくらいではないだろうか?
ゴテゴテと宝石を散りばめているような印象は全くと言っていいほどなかった。
凛と立つ姿と気品ある仕草はそれだけで見る者の目を奪う麗しさ。
言ってみればドレスはついでにしかすぎず、彼女は彼女自身の魅力を振りまきながらいつだってそこに居た。
ミラルカの皇妃になってもらうのなら最適な人物だと思う。
いや、寧ろ兄には勿体ないほど素晴らしい人だと言えるのではなかろうか?
あの良さがわからないなんて見る目がないなとしか思えない。

「寧ろちょっとぼんやりしたお兄様にはあれくらいしっかりした方に来て頂けた方が私も安心できそうなのですけど?」
「え?!いやいやいや。俺は俺でお嫁さんに求めているものがあるんだよ」
「何をお求めで?」
「彼女にはないけどミーシャ嬢は持っている、こう…なんというかほんわかした感じの癒し?」
「そんなものロキ陛下からいくらでも貰ってくださいませ」
「え~?!だってロキはそう言うのと違うんだよ。にっこり笑って虐めてくるところがいいというかなんというか…」
「お兄様のそう言った話は今はいいです。兎に角、お兄様が大好きなロキ陛下は彼女をお勧めしないって言っていたのでしょう?」
「そうだけどロキはほら、ちょっと女性不信なところがあるし、女性に興味がないだけだと思うんだ」

『そもそもカリン陛下のことしか見てないから、わかってないんだよ』と兄は言うが本当だろうか?
私としてはあのロキ陛下がお勧めしないと言うのなら本気でやめておいた方がいいと思うのだけど…。

「だって側近の妹なんでしょう?それをお勧めしないって言い切ってるんでしょう?本人に何か問題があるんじゃないかしら?」
「でも調べても特に何も問題は出てこなかったけど?それにロキの場合ミーシャ嬢を特定して言ってるわけじゃなくて、ガヴァムの令嬢全般に対して言ってる気がするから微妙なんだ」
「他には何か仰っていませんでしたか?」
「う~ん…。ミラルカの貴族令嬢の方が多分100倍素敵な人がいるからそっちから選んだ方がいいと思うとかなんとか、珍しくお世辞は口にしてくれてたけど、それくらいかな?」

(ロキ陛下が意味もなくそんなあからさまにお世辞を言うかしら?)

なんだか私の中の素直で可愛いらしいロキ陛下と微妙に繋がらない気がする。
きっと何か理由があるはずだ。
とは言えミラルカの貴族令嬢達はこちらがグズグズ先送りにしているうちに皆婚約者を決めてしまったから、結婚に適したちょうどいい相手がいないはず。
だからこそ他国から花嫁を迎える話になっているのだろうけど…。

「……お兄様?ここは好みだけで決めない方が良いと思います。どうかご慎重に」
「そっか。父上達はレトロンの王女の方がいいって言ってたから、アルメリアが賛成してくれたらミーシャ嬢を妃にしたいって言いやすいかと思ってたんだけど…」
「人をダシに使うのはやめてくださいな。大体お兄様はお母様と一緒で先見の明はあまりないんですから、ここはレトロンの王女一択でしょう」
「失礼な。最近は事業がどれも上手くいっているから、流石の先見の明をお持ちですねってよく褒められるのに!」
「ほとんどロキ陛下のアイデアを元に成功させたとお忘れですか?」
「う…で、でも、ロキは俺が頑張ったからだっていつも言ってくれるし」
「それはロキ陛下がお優しいからですよ。全く」

大体お兄様は自分がポンコツなのを忘れすぎだと思う。
最近でこそ色々成功させているけれど、元々鉱山での失敗を何とかしようと何をとち狂ったのかセドリック王子に話を持ってこようとしていたほどのポンコツなのに。
そんなお兄様に見る目があるとはとても思えない。
折角こちらまで来ているのだから、後でオーガストに言ってワイバーンで王宮まで飛んでもらおうかしら?
どうも話をちゃんと通しておいた方がいいような気がする。
そう思っていたら、思いがけない言葉が兄の口から飛び出してきた。

「あ、そのミーシャ嬢とユーフェミア王女だけど、折角アルメリアがこっちに来るしと思ってこのホテルに招待しておいたんだ。ほら、どうせセドリック王子達は二人でイチャイチャしてるし、アルメリアは暇だろう?」

丁度いい話し相手になると思ってと兄は言うけれど、これでは身動きが取りづらい。

(仕方がないわ。ササッとお父様に手紙だけ書いて届けておきましょう)

そう考えながら私は深い溜息を吐いた。


***


「アルメリア様。ご無沙汰しております。お元気そうで安心いたしましたわ」

そう言って艶美に微笑みながら私に挨拶してくれたのはユーフェミア王女だ。
元々私がブルーグレイに嫁ぐ前、私の嫁ぎ先として最有力だったのがレトロンで、レトロンの王太子でありユーフェミア王女の弟であるカール王子と私が懇意にさせてもらっていた経緯がある。

ただ特に婚約者として決まっていたという訳でもなかったし、候補自体は他にもいたから、取り敢えずまあお互いが18になった時に双方の気持ちを確認してとか何とか呑気なことを言っていた。
それなのに何の縁か私が16でブルーグレイに嫁ぐことになってしまったという…。

だからお父様達はそれを申し訳なく思っていて、今回余計にユーフェミア王女押しなのだと思う。
しっかり者だし私としてもいいと思うのだけど、肝心要のお兄様が乗り気じゃないのが大問題だ。

「初めまして、アルメリア様。ガヴァムの公爵家から参りました。ミーシャ=カトレシアと申します。偉大なる大国ブルーグレイの王太子妃にお目通りが叶い大変嬉しく思います」

そんな二人に笑顔で挨拶を返し、取り敢えずお茶でもと着席を促した。
こんなに緊張感のあるお茶会は久しぶりだ。
取り敢えずお兄様が凄く押しているミーシャ嬢の為人ひととなりを確認しておくべきかと色々話を振ってみるけれど、全部そつなく答えが返ってきて正直警戒していた分だけ拍子抜けしてしまう。

(あら?)

ロキ陛下的にどこがダメなのかがさっぱりわからなかった。
もしかしてお兄様が言っていた件は的を射ていたのだろうか?
令嬢として特におかしな点は見られないように思うのだけれど…。

(う~ん……)

でもロキ陛下はブルーグレイに滞在中私とは普通に話してくれていて、特に女性不信のようには感じなかった。
アンシャンテのシャイナー陛下の婚約者をもてなしたいと言って話している姿からも特におかしな点はなかったし、後から届いた手紙にも楽しげな様子が窺えた。

(そうだ!)

物は試しと彼女にロキ陛下の話を振ってみることに。

「そう言えば最近ガヴァムのロキ陛下がブルーグレイまで来てくださって、色々お話し致しましたの」
「まあ。ロキ陛下が。私、実はまだお会いする機会がなくて。噂によるととても優秀な方だとか」

ユーフェミア王女は興味津々とばかりに話に乗ってきてくれたけれど、対するミーシャ嬢の方は笑顔ではあるがそのまま黙してしまう。
自国の王だと言うのにどう考えてもこれはおかしい。

「ええ。でも噂とは違ってとても可愛らしい印象を受けましたわ」
「まだお若いですものね。でもレオナルド皇子と三か国事業であれこれと動いて経済を活発化なさっておられるでしょう?レトロンも随分恩恵を受けておりますの。本当に有難い限りですわ」
「ロキ陛下の発想と兄の行動力が上手く噛みあって成功したのかもしれませんね。本当にロキ陛下には色々感謝しておりますの」

そう言ってユーフェミア王女と微笑み合っていたらやっとミーシャ嬢が乗ってきた。

「私も三か国事業は素晴らしい一大事業だと父から聞いておりますわ。特にレオナルド皇子の機動力の高さは凄まじいものがあると父も兄も称賛しておりました。ご尊敬申し上げますわ」
「あらお兄様なんてロキ陛下に比べれば全然ですわ」
「まあご謙遜を」

表面上婚約者候補である兄を普通に持ち上げて称賛しているように見えるけれど、どうしても何かが引っ掛かってしまう。
やっぱり何かあると思えて仕方がない。

「そう言えばロキ陛下とはミーシャ嬢はお会いしたことはありますの?」
「ええ。デビュタントのパーティーでお見掛けしたくらいですが」
「そうですの。一曲お相手して頂いたりは?」
「恐れ多いですわ。私、その際はたまたま来られていたシャイナー陛下に踊って頂きましたの。とてもリードがお上手で身体が羽根のように感じられましたわ」
「まあ、シャイナー陛下と。そう言えばシャイナー陛下はセドリック王子と従兄弟関係にありましたわね」
「ええ。ロキ陛下がこちらに来る前に少しだけ滞在なさっていたんですが、実はお話しする機会はなかったので残念に思っていたのです。ミーシャ嬢。お話はしてみられたんですか?」
「いいえ。でも優しい笑みでエスコートしてくださったので、それだけでとても良い思い出に出来ましたわ」

そう話す彼女の表情はとても嬉しそうに見えた。

(シャイナー陛下には好意的なのね)

こうして比べてみると一目瞭然だ。
理由はわからないけれど彼女はロキ陛下を嫌っている。

(やっぱりダメじゃないの…!)

ロキ陛下にいい印象を持っていない彼女を皇妃に迎えたら友情にひびが入りそうでならない。

(これは絶対にやめておくべきね)

結婚前に気づいてよかったと、兄が思ってくれればいいけれど…。

(後でやめておいた方がいいってちゃんとお兄様には言っておかなくちゃ)

そんな事を思いながら溜息を吐いた。


****************

※そんなわけで全く賛成できないお相手を、次回アルフレッドが余計な事言ってレオを後押ししちゃう的お話になる予定です。

他国の姫×2人で書いても良かったんですが、わかりやすくダメな相手を持ってきた方が読んでてわかりやすく軽く読めるかな~と思ったのでこうしてみました。

お付き合い頂ける方はまた宜しくお願います(^^)

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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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