【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

オレンジペコ

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【ガヴァムからの来客】

130.※ガヴァムからの来客⑬

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ロキ陛下が来てから俺は俺らしくもない嫉妬ばかりしている気がする。

「セドに友人ができるのはいいことだと思うんだけど…」

なのにどうしてこんなにモヤモヤするんだろう?
ロキ陛下のことをセドが何故か凄く理解しているからか?
それともロキ陛下と話している時に楽しそうだから?
面白い奴だと褒めるから?
わざわざロキ陛下のためにと動くことが多いからというのもあるのかもしれない。
それはトルセンやトルセンの奥さんに感じた嫉妬よりもより一層鮮明で、無視できないほど俺の中で主張し始めた。

セドは俺のなのに────と。

「うぅ~俺らしくない!俺らしくないぞ!」

こういう時は身体を動かすに限る。
そう思っていた矢先にセドとの二人きりのデートになって、久しぶりに闘技場に行くことになった。
姫の護衛から外れてしまったのはすっごく納得がいかないけど、本当は少しだけホッとしていたのは確かだ。
ロキ陛下は観劇に行ったことがないと言っていたから、もしかしたらセドがそれなら一緒に行くかと言い出すかもしれないと一瞬でも思ってしまったから。
だから俺と二人で闘技場にと提案してくれた時、素直に嬉しく思ってしまった。
セドはロキ陛下より俺の方が好きなんだとちゃんと思えたから。
後は思う存分身体を動かしていつもの自分に戻るだけ!
そう思っていたのに何故だ────。

「うぅ…。弱い。弱すぎる」

闘技場で戦った相手は誰もかれも皆弱くて、全く手応えがなかった。
セドは「そう言うな」と言ってきたが、これなら鍛錬場で騎士達相手に剣を振った方がずっと良かった気がする。
できれば前回同様早々にセドと戦って城に帰りたい。
そう思ったのに今回に限り何故か主催者はそれは決勝戦でと言って譲ってくれなかった。
しかも観客席からの声援は凄いし、なんだか前回よりも熱気にあふれている気がする。
だからつい俺はセドに何かおかしくないかと聞いてしまったのだけど────。

「お前が俺の妃になって一年以上過ぎたことだし、単純に知名度が上がったというだけの話だろう」

最初はそう言った。
でもちょっと考えた後で、もう一つの理由を話してくれる。

「後は今民達の間でとある劇が流行っているせいだ」
「劇?」
「ああ。父が俺の印象を良くしようとイメージ払拭のための劇を作らせたんだ」
「へぇ…」

これは正直意外だった。
でもよく考えたら凄くいい案に思える。
周辺諸国へとセドの印象は決していいわけではない。
同じように国を一つ潰したとはいえ、トルセンは革命の英雄的に持て囃されているのに対し、セドは未だに冷酷非道な王子と呼ばれているのがその証拠だ。
国際会議でも結構恐れられていたし、未だに畏怖の対象であることは疑いようがないと言えた。
その印象を陛下が変えたいと思うのは至極当然のことだろう。

「確かにお前の印象って冷酷王子って感じだったし、いい案だったかもな」

『流石陛下』と感心してしまう。

「お前が主役の劇なら俺もちょっとは出てるってことだよな?そのせいでこの盛り上がりなのか…。なるほどな」

セドが主役の劇なら後半部分にでも俺が出てくるのかもしれない。
多分ラストは姫と結婚してハッピーエンドくらいの話なのだろう。
劇ではよくあるエンディングだと思う。
俺はそう言う恋愛系の劇は全く興味はないけど、デートで行ってきたと言う話は腐るほど聞いてきたから、まず間違いはないはず。

「納得したか?」
「ああ」

それなら劇を楽しんだ者達がこの試合に熱狂するのもまあわからないではない。

(しょうがないな)

そういうことなら少しくらいはセドのイメージ払拭に貢献しておくかと気持ちを切り替えることにした。
どうせ最後にはセドと戦えるのだから文句を言うのも野暮というものだ。

そして半ばお遊び気分で決勝まで進み、最後の最後で思い切りセドと打ち合う事ができた。

下段からの斬り上げも、死角からの一撃も、次々受け止め俺を十二分に満足させてくれるセド。
その剣技に一層興奮し、胸に喜びが満ち溢れていく。
思う存分剣を振れるこの相手が俺の夫なのだと、そう思っただけで嬉しくて、ずっとずっと剣を合わせていたくなった。
セドを求めて好きがどんどん溢れてくる。
抱かれるのもいいけど、やっぱりこうして戦っている時が一番好きと言っても過言ではない。
うっとりする程の天才的剣技に魅了されて、俺は結局のところいつの間にかセドに心底惚れ込んでたんだと再認識することとなった。

「本当、お前の剣技って天才的だよな!最高に興奮する!」

だから試合が終わった後、満面の笑みでそう言ったし、それを受けてセドからキスされた時は凄く嬉しかった。
『もう城に帰ろう』と言われて『絶対に帰ったら襲う気だろ?!』と返し『帰らない!』と言うのもまあ言ってみればいつもの流れだったと思う。
でもいつも通りでなかったことが一つだけあったんだ。

いつもなら俺がいくら『買い物して帰ろう』とか、『他にもどこか行きたい』とか言っても問答無用で城に連れ帰るセドなのに、初めて『そう言えば買いたい物があったな』と言って買い物に付き合うと言ってきたのだ。

(え……)

その衝撃たるや相当なもので、俺が思わずその場で固まったのも無理はなかったと思う。

「アルフレッド?」
「い、いや。なんでもない」

そう言って俺は買いたかった物を一応買いに行ったんだけど、セドが何を買うのか気になって仕方がなかった。
だからそわそわしながらセドに聞いてみたんだ。

「何買うんだ?」
「筆だ」
「筆?」
「ああ。大きめの…手触りが抜群の物をロキに買ってやろうと思ってな」

それは予想通りの言葉と言えばその通りだったんだけど、なんだか胸のモヤモヤが増した気がして、つい沈んだ声を出してしまったような気がする。

「…………またロキ陛下か」
「ククッ。そう妬くな。後でたっぷり可愛がってやる」
「や、妬いてなんてっ…!」
「わかっている。ちょっと待っていろ」

俺が妬いているのを見て嬉しそうにはするけど、セドはちゃんとロキ陛下の物を選んでいたから、片手間にする気がないのだと言うのは凄く伝わってきた。
単純に俺に焼きもちを妬かせようとして言い出したのではなく、ちゃんと選ぶ気だったのだというのがそれだけでよくわかる。

ちゃんと自分の手で『これは良さそうだな』と吟味し選ぶその姿に、俺がどれだけ嫉妬してるかなんてきっとセドはわかっていないだろう。
俺だってセドにこんな風に何かを見繕ってほしいなんて…そんなことを初めて思ってしまって、慌てて首を振った。

(ロキ陛下より俺を見て欲しい)

そう思ったら、気づけばセドの袖を引いていた。

「……決まったか?」
「ああ。これならロキも喜んで使ってくれるはずだ」
「そっか。じゃあさっさと買って帰ろう」

帰ったらきっとセドは俺を抱いてくれる。
そうしたらこんなモヤモヤはきっとなくなるはずだ。
そんな気持ちを抱えながらセドと城に帰った。

でもその後すんなり抱いてもらえたかと言うと答えは否だ。
キスして愛撫が始まって、お互いに手で扱き合ってイッたところまでは順調だったのに、そこでセドはあっさりと身を引いてきた。
思わず『続きは?!』と叫んだ俺にセドは満面の笑みで言ってくる。

「夕方には姫達も帰ってくる。その時食事も一緒に食べるだろう?」
「今はまだ昼過ぎだ!それにお前、そんなのいっつも気にしないじゃないか!」

どうしてどうしてとそんな言葉ばかりが頭の中でグルグルと渦を巻く。

「どうした?アルフレッド。真昼間から俺に抱かれたくなったならそう言えばいい」
「うっ…」
「『激しく犯してほしい』と言ってきたら抱いてやるぞ?」
「誰が言うか!」
「そうか。なら我慢するんだな」
「うぅ…。絶対お前の思う通りになんて動いてやらない!今日の夜は部屋から締めだしてやるから覚えてろ!」

意地悪な顔で余裕たっぷりに言われて俺は段々腹が立って、思わずそんなことを口にしてしまっていた。
俺ばっかり嫉妬してバカみたいだと思いながら手早く乱れた衣服を整えて、ダメ押しとばかりに『暗部に頼んでも無駄だからな!』と言ってやった。
でもセドは特に俺の機嫌を取るでもなく、何か別のことを考え始めたんだ。
別によからぬことを考えている様子もなく、ましてや俺を焦らして楽しんでいるようでもないその姿に、俺の不安はこれ以上なく煽られてしまう。

(もしかしてまたロキ陛下のことでも考えてるんじゃないだろうな)

ついついそんな風に考えがいってしまって、俺はどうしようもない焦燥感に襲われてしまった。
だから珍しく自分から言ってしまったのかもしれない。

「…………セ、セド」
「なんだ?」
「…………やっぱり…その…」
「どうした?」
「~~~~っ!し、しないか?」

俺の精一杯の誘いだったけど、セドはちゃんと俺の方を向いてくれた。
俺だけを見て嬉しそうにしてくる姿に安堵が込み上げる。

「可愛い俺のアルフレッド。夜までずっと可愛がって欲しいか?」
「…………ゆ、夕食は皆と食べる」
「そうか。それなら一度愛し合ってシャワーを浴びてまったりするか」

いつも意地悪なセドだけど、今はまるで甘やかすかのように俺に優しくそう言ってくれた。
多分俺が嫉妬に身を焦がしているのを察してくれたんだと思う。

「ん…セド……」
「アル……」

だからいっぱい愛してほしくて、与えてもらえるキスを積極的に受け入れた。
でも何故かここでもまた焦らされたから、もう焦らさないでほしくて欲しいと素直にねだってみる。

「はあ…っ、セドッ、それ、やぁっ…!早くっ…」
「早く?どうしてほしい?」
「うっうっ…これ、挿れて……」
「どこにだ?」
「お、俺に……」
「なら好きにねだってみろ」
「えっ?!」
「できるだろう?」

そう促されて俺は一生懸命考えた。
セドが喜ぶ誘い方ってどんなのだろう?
いつもは自分なりの精一杯でしてきたけど、ここにきてそれが『セドが喜ぶのは』という考え方へと変わった。

(セドが好きな誘い方…セドが好きな俺の虐め方?違うな。セドが嬉しそうなのは俺が感じすぎてる時だから……)

そうして羞恥に耐えながら頑張ってねだってみたら、セドは凄く嬉しそうに俺を抱いてくれた。
多少虐められはしたけど、一緒にイケた時のセドの表情は凄く嬉しそうで幸せいっぱいといった感じで、そんなセドを見て俺も嬉しくてもっとずっとくっついていたくなった。
大好きなセドのこんな顔をもっと見たいって思うのはおかしいだろうか?

そう思いながら、今日はセドにいっぱい甘えたいなと珍しく思ったのだった。

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