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【ガヴァムからの来客】

127.ガヴァムからの来客⑩ Side.セドリック

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翌朝、ロキが言っていたようにカリンはきちんと正気に戻っていた。
本当に加減が抜群だなと感心してしまう。
そんなカリンにホッと安心したレオナルド皇子だったが、やはり心配は心配だったようで大丈夫かと随分気遣っていた。
意外にもカリンは平気そうで、慣れているから大丈夫だと言っていたのだが、普通ならとてもそんな風に気持ちは切り替えられないと思う。
一体普段からどんな目にあわされているのやら。

「あれくらいで泣いていたらロキの隣には居られないし、あっという間に誰かに取られるだろう?」
「カリン陛下の愛が凄い。尊敬する」

レオナルド皇子がそう称賛するが、盲目的にカリンしか見ていないロキが誰かにとられるなんて絶対にないような気がする。
愛の重さではアレは相当だとわかっていないのだろうか?
そんなカリンを俺はちょっと虐めてやりたくなった。

「カリン陛下。正気になったようでなによりだ」
「……昨夜はご心配をかけ、申し訳ない」

俺に声を掛けられたことでどこか居心地が悪そうにそう返し、そのままそっと視線を外してくるが、ここで昨日アルフレッドから受け取ったシャメル画を取り出してその場でロキへと返してやる。

「そうだロキ。昨日の現場にこれが落ちていたらしい。お前のだろう?ちゃんとしまっておけ」
「あっ!ありがとうございます!」

渡されたロキの方は物凄く嬉しそうだが、当然嬉しくない者がここに一人。

「ぎゃああああ!ロキ!絶対になくすなと言っただろう?!」

自分のあられもない姿をこんな場所で晒されて真っ青になりながら悲鳴をあげるカリン。
なのにロキはどこまでも通常運転だった。

「すみません。昨日懐から鞭を出した時に落としたんだと思います。今度から気をつけますね」

申し訳なさそうにはしているが、そこに反省の色はない。
そのやり取りが面白過ぎて笑いが込み上げてくる。
アルフレッドが焦っているが知ったことか。

だがここでカリンが怒ったようにそれをロキから素早く取り上げてしまう。

「没収だ!」
「えぇっ?!」
「本物が側にいればいいだろう?!」
「そんな…それはそれ、これはこれなのに」

目に見えて物凄くショックだと言わんばかりに落ち込んだロキには同情してしまった。

「兄上…」
「ダメだ」

悲しそうなロキを目の当たりにしてもカリンは全く譲りそうにない。
仕方がない。ここは俺が責任をもって慰めてやるとしよう。

「ロキ、そう気落ちするな。今度もう少し画像が綺麗になるよう改良したシャメルを作って送ってやろう。その時にもっと恥ずかしいシャメルを撮ってやれ」
「本当ですか?!」
「ああ。アレを見て俺もアルフレッドに使いたいと思ったからな。ついでだ」
「ありがとうございます!楽しみにしてますね」

忽ち笑顔になったロキに俺も笑顔を返してやる。
多少趣味は違えど通ずるところがある相手だ。
持ちつ持たれつ仲良くしておこう。
多分ロキなら普通に惚気の一つや二つだって聞いてくれるだろうし。
そう思ったところで何故かレオナルド皇子から予想外のことを言われた。

「そんな…。セドリック王子にロキとの大親友の座が奪われるなんて……」

(大親友?)

「何を言っている」
「そうですよ。セドリック王子に失礼です」

どうしてそんなことを思ったのか甚だ疑問だが、再度ロキと一緒に否定の言葉を口にする。

「……何が?」
「俺達は友人でも大親友でもないですよ?」
「ああ。ただの親しい知り合いだ」

なのに結局また嘘だろと言うような視線に晒され、二人揃って溜息を吐いたのだった。


***


その後レオナルド皇子達が来たことで帰国予定も変わり、ロキはカリンと街歩きに出掛けたいと言い出した。
恐らく例の屋台の物をカリンに食べさせたかったのだろう。
これだけなら普通にデートに行ってこいと送り出せたのだが、如何せん問題が生じた。

レオナルド皇子が折角だしアルメリア姫を連れてロキ達と街を歩きたいと言い出したのだ。
そうして必然的にアルフレッドが同行すると張り切りだしたのだが、無粋だとはわかっていてもアルフレッドが行くなら俺も行くと当然主張しておいた。
それを聞いた面々が当然の如く慄き始める(ロキを除く)。

俺が同行することになったせいで姫は涙目になるし、レオナルド皇子も居心地が悪そうだ。
カリンも俺に怯えているからロキだって前回の街歩きのようには楽しめないだろう。
いいことなんて何もない。
誰がどう見ても俺がアルフレッドを連れて離脱するのが一番いいに決まっている。

でもアルフレッドはこのメンバーに護衛を普通につけるとなると随分大所帯になってしまうから是非自分がと言って譲らなかった。
微妙に正論だから誰も文句を言い出せない。
アルフレッドが俺達の意見を聞く気がないのはこれまでの経験からも明らかだし、言うだけ無駄だとわかっているからだ。

けれどここでロキがサクッとこちらの都合がいいような提案をして人数削減を図ってきた。

「思ったんですが、オーガストという近衛騎士に頼めばよかったのでは?」
「え?!」
「確かアルフレッド妃殿下と同じくらい腕が立つんですよね?彼がいた方がセドリック王子はアルフレッド妃殿下とデートが楽しめますし、姫もレオナルド皇子と別行動しやすいし、大所帯にならなくて良いのでは?」

ロキは『自分達にはリヒターがいるし、護衛の人数を減らしつつ姫とレオナルド皇子を確実に守るならアルフレッドが認めるオーガストを同行させればいいだけでは?』と言ってきたのだ。
この提案には真っ先に姫が喜びの声を上げた。

「まあ!ロキ陛下、素晴らしいお言葉をありがとうございます!」

これで護衛騎士を減らしつつ俺とアルフレッドが離脱することが可能となった。
言い出したのが国王であるロキなのだからアルフレッドも面と向かって文句は言えないだろう。
アルフレッドを除く全員にとって最高の提案だった。

「だ、そうだ。アルフレッド。まさか他国の王の言葉を無碍にはしないだろうな?」
「そんなっ!うぅ…俺がロキ陛下苦手なのを知ってるくせに……」
「そう言うな。そもそもカリンが俺を怖がっているんだから今回は諦めろ」
「お前が同行しなかったら済む話だっただろ?!」
「断る。俺はお前とのデートの機会を逃す気はない」
「横暴だ!この自己中王子!」

悔しそうなアルフレッドには悪いがサラッと無視してすぐさま俺はオーガストを呼びにやらせた。
そうしている内にも話は進んでいく。

「そうですわ!ロキ陛下。観劇はお好きですか?ブルーグレイでしかやっていないものもありますので、もしお嫌いでなければ楽しんで行ってくださいね」

ここで姫は例のアルフレッドの劇を勧め始めた。
あれは今やここ王都でも大人気の劇となっており、連日込み合っていると聞く。
お陰で国内での俺の評価はだいぶ変わってきているとか。
この調子で他国までいい評判が広がっていけば父も安堵することだろう。
そんな事を考えていると、ロキの口からまたあり得ない言葉が飛び出してきた。

「観劇?兄上、行ったことはありますか?」
「なっ?!もしかして行ったことがないのか?!」
「ええ。街歩きもセドリック王子達とガヴァムの街を歩いたのが初めてでしたし、そういうものには疎くて」
「うっ。わかった。ちゃんと俺が付き合って教えてやる」

隠された王子の名は伊達ではなかったらしく、ロキは観劇すら行ったことがなかったらしい。
すっかり二人の世界に入ってしまっているし、レオナルド皇子も流石にこんな二人を邪魔したりはしないだろう。
このまま二人でデートに向かえば万事解決だとそう思ったのに……。

「それなら尚更お勧めですわ!私もご一緒しましょうか?お兄様もまだ見ていないはずですし」
「ああ!大親友の初の観劇に付き合えるなんて嬉しいし、是非!」

何故姫はわざわざデートの邪魔をするのだろうか?
ロキも迷惑そうにしているのがわからないのかと不思議でならない。
とは言え嫌なら自分で断るだろうと息を吐き、俺はさっさとアルフレッドを連れてこの場を離脱することにした。

「そうか。では俺達はここで別行動にするとしよう。アルフレッド、久しぶりに闘技場にでも顔を出さないか?」
「え?!」
「お前は観劇には一切興味はないだろう?」
「ま…まあ?」
「じゃあ決まりだ。オーガストを呼びに行かせたし、あっちは大丈夫だろう。ではロキ、楽しんできてくれ」
「ありがとうございます」

そして俺は無理矢理アルフレッドをその場から引き離し、一足先に街へと出掛けたのだった。

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