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【ガヴァムからの来客】
125.ガヴァムからの来客⑧ Side.セドリック
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頃合いを見計らってロキの元へ行ってみると、ソファに座りながらべったりとロキに凭れかかり甘えるカリンの姿があって驚いた。
「ちっ…」
なんだか見せつけられているようでちょっと悔しい。
やはりアルフレッドを連れてくればよかったと後悔してしまう。
とは言えここでそれを言うのも大人げないし、後で好きなだけアルフレッドを愛でようと気持ちを切り替えることにした。
「ロキ。カリン陛下は落ち着いたか?」
「セドリック王子。ええ。一応」
「それにしてはベッタリだな」
「可愛いでしょう?以前ブルーグレイから帰ってから暫くはこんな感じでしたよ?」
どうやら完全に快楽堕ちさせたらこうなったらしい。
確かにその目はどこか正気でないように見えなくもない。
とは言え羨ましいのは羨ましかった。
「そうか。アルフレッドもそれくらい甘えてくれたらいいんだがな」
ついつい本音がこぼれ落ちてしまう。
俺もアルフレッドにこれくらい甘えて欲しい。
「ふふっ。そう言いつつ、照れて逃げるくらいがお好きなのでは?」
「まあな」
甘えては欲しいがよりアルフレッドらしいのはやはりそちらだ。
ロキはそれをわかっているからこそ楽し気にそう言ってきたんだろう。
「本当に滞在を延ばしても?」
「ああ。父も是非と言っていたしな。お前はアルフレッドに手を出すこともないし、俺としては全然構わん」
「そうですか。まあ政務をいつまでも放っておくわけにもいかないので後二日ほどで帰ろうと思います」
滞在が伸びたのは仕方がないと言わんばかりだが、どうやら大量の仕事を捌くのは不慣れな様子。
カリンがこちらに来てしまったから更に溜まっていることだろう。
「大変そうだな」
「それはそうですよ。腰掛けの俄か仕込みの王ですし」
「ククッそう言いつつ少しは慣れてきただろう?」
「まあ兄上のお陰で少しは?」
ロキからすればこんな兄でも頼りにしているようだ。
まあ、やることは酷いが。
「それは何より。それより、ソレは戻るのか?」
「ええ。一晩経てば恐らく」
「幸せそうだな」
「もちろん。こんなに可愛い愛しの兄上がわざわざ俺に会いに来てくれたんですから当然です」
そう言いながら愛おしそうにカリンを抱きしめるロキ。
今のその姿からはドSの片鱗は全く伺えなかった。
本当に極端な奴だ。
やはり俺の読みはそう外れてはいないのではないだろうか?
愛情が過ぎてカリンの愛情を確認している────その線が濃厚な気がする。
(試しに聞いてみるか…)
「そう言いつつ酷かったとも聞いたが?」
「まあ怒っていましたから?だって閨の相手まで置いてきたのに、そちらは無視でレオナルド皇子にずっとくっつく事を選んだんですよ?」
許容範囲が広いんだか狭いんだかよくわからない返答につい笑ってしまう。
「ふっ…やはり歪んでいるな。普通は自分以外と寝る方が嫌だろうに」
「たかが一時間の触れ合いは許せても、三日も四六時中ベッタリくっつかれるのは許せないんです。全く……」
どうやらロキは誰かと寝られるより、長時間自分以外の男とくっついていられる方が嫌だったらしい。
「俺ならどちらも嫌だがな」
アルフレッドが三日間誰かに抱き着きながら移動するのも、他の男に抱かれるのも絶対に嫌だし、そうなったら相手を殺してやりたいと思う程俺は怒り狂う自信がある。
そう考えるとロキの方がまだ心は広いんだろうか?
そんな事を考えていると徐にカリンがロキへと顔を寄せ、チュッと口づけを落とした。
「ご主人様……」
その目はロキしか見つめていない。
どうやらまだまだ正気に返るには時間が必要そうだ。
「ああ…まだもう少しかかりそうですね」
そう言いつつ、ロキは嬉しくて仕方がないとばかりに頬を緩ませた。
そんな幸せそうな姿に俺もアルフレッドを抱きしめたくなり、さっさと部屋を出ることにした。
「正気に戻ったら連れてくるといい。ではな」
「ええ。ありがとうございます」
そうして自室へと戻ったのだが、アルフレッドはまだ部屋に帰ってはいなかった。
まだレオナルド皇子のところにいるのだろうか?
流石に腹立たしいのだが……。
そうして暫く経ったところで騎士が慌てたように俺の元へとやってきて、ロキが攫われたと言ってきたので驚いて立ち上がってしまう。
「セドリック王子!ロキ陛下が襲撃され攫われたようです!至急ご指示を!」
ついさっき話していたのにどういうことだと速やかに情報を集めさせると、どうやらあれからすぐに俺の名で何者かがロキを部屋から連れ出したらしいことが判明した。
何か言い忘れたことでもあったか、それとも危急の要件でも出来たのかと暗部と騎士一人を連れてついていったところで襲われたらしい。
まさかこの城内で国賓を攫う馬鹿が出現するとはと苦い顔になってしまう。
ロキなら大丈夫だとは思うが如何せんあいつはこの国に土地勘はあまりないし、万が一にでも殺されたら国際問題は必至だ。
「厄介なっ!」
どうしてこんなに面倒事にすぐに巻き込まれるのだろうか?
ツイていない星回りにもほどがある。
そう思いながらカリン達の元へと向かうと、そこには既にアルフレッド達もやってきていたようなのだが、ロキが攫われたと聞いてカリンが半狂乱になってしまっていた。
「放してっ放してぇ!ロキッロキッ!やだぁああっ!」
叫びながら部屋を飛び出そうとするカリンをロキの騎士達が必死に引き留めている。
「カリン陛下!落ち着いてください!」
けれどこのままでは埒が明かないと思ったのか、アルフレッドが素早く動いてトスッと手刀を落としてカリンの意識を刈り取った。
きっとシャイナーの件もあったからこういう場合は気絶させるのが一番と思ったのだろう。
「状況は?」
「攫われたのはロキ陛下お一人です。同行していた暗部と騎士は無事でした」
「そうか」
そうしてすぐさま捜索隊をと指示を出そうとしたところで、リヒターがロキの居場所はすぐにわかると言ってとある機器を取り出した。
(……魔道具か?)
どう見ても手元の袋には入りそうにないサイズの機器を手に、これは発信機だと言ってくる。
「ロキ陛下が以前攫われた後、もしもに備えて発信機を持ってもらっています」
「それですぐにわかると?」
「はい。ただ、俺では土地勘がないのでフォローはお願いしたいのですが」
「わかった。すぐに騎士達を集めろ。出るぞ!」
ブルーグレイ側の騎士達を早急に集め、リヒターに案内されながらロキのいる場所へと急いだ。
辿り着いたのはとある路地裏の一見して普通の集合住宅にしか見えない三階建ての建物。
どうやらここにロキはいるらしい。
リヒターがザッと目を走らせ必死にロキの居場所を特定しにかかる。
「あそこです!」
そうして一つのドアを指差すと共に、止める間もなく駆け出しバァンと扉を大きく開いた。
「ロキ陛下!!」
けれどそこには思っていたのとは違う光景が広がっていた。
「ロキ。攫われたと聞いたが、誤報だったか?」
「いいえ。本当ですが?」
どうしてそう言われたのかがわからないとロキは首を傾げているが、これは駆け付けた騎士達が絶句する程あり得ない光景だぞと言ってやりたかった。
どうして縛られて半泣きになっているのがロキではなく相手の方なんだ?
ロキは鞭らしきものを手に持っているし、他には何故か恍惚とした顔で気絶して床に転がっている者、土下座して隅で震えている者などがいるばかり。
これでは攫われたと言われても俄かには信じられないのだが…。
一瞬自主的に夜遊びにでも出かけたのかと思った。
「一応今回は見逃すと言っておいたんで考慮してもらえたら嬉しいんですけど、取り調べをするならお連れ下さい」
「そうだな。そうしよう」
けれど淡々とそう言われたらこちらも冷静になるというもの。
すぐさま散らばっている輩を取り押さえるよう騎士達へと指示を出す。
幸い怪我人は一人もいなさそうだし、緊急性はないだろう。
そう思ったのも束の間。その中の一人が何故かロキめがけて走り出した。
「どうせ捕まるならぁあっ…!」
「陛下!」
それを受けロキを守ろうと咄嗟にリヒターが間に入り抱き込むが、それには構わずロキは手に持っていた変わった形状の鞭を素早く横へと走らせた。
「ぎゃあぁあああっ!」
それが相手の目を見事に潰し、男がその場でのたうち回る。
「目がっ!目がぁあっ!!」
「逆上するのも大概にしろ」
剣ではないが攻撃力は抜群だ。
すぐさま男を連行するよう指示を出し、そのままロキへと謝罪する。
「ロキ。すまなかったな。まさかこんな奴らが入り込んでいたとは」
この間のスパイ潜入の対策が全く活かされていないことに苛立ちを覚える。
より一層対策を考えなくてはと苦々しく思っていると、ロキは気にしていないとばかりに平然と言い放った。
「まあ裏稼業の者達は潜入が得意ですしね。仕方がないですよ」
「それでもだ」
結局のところ見つけたのはリヒターで、相手を倒したのもロキだから俺達の出番はほぼないも同然だった。
これでは大国ブルーグレイの優秀な騎士達の名が泣く。
うちはダメダメなガヴァムの騎士達とは違って練度も高いのに、同列にされるのは流石に屈辱的だ。
(尋問して手口をしっかり把握しなければ…)
二度と同じことが起こらないように対策をとらなければ俺のプライドが許さない。
そうしてこちらは危機感を露にしていると言うのに、ロキは至って呑気に返してくる始末。
「う~ん…。今回は俺目当てだったようですし、調教しておいたのでもう大丈夫だと思いますよ?」
「奴らがそう言ったのか?」
「ええ。アンシャンテにもセドリック王子にも高値で売れるとか、オークション云々言っていたので、金目当てじゃないですかね?」
確かにロキはシャイナーの元へでも連れて行けば高値で買ってもらえるだろう。
そのまま部屋にでも監禁すればやりたい放題だ。
だが────。
「それで何がどうしてこうなった?」
「俺の味見がしたいとかなんとかふざけた事を言ってたのでお仕置きしたんですけど、ダメでしたか?」
首を傾げながら無害そうな顔でそう宣うロキ。
だがやってることは全く正反対だ。
「…………それはこいつらがバカだったな」
「ええ」
「いずれにせよ無事で良かった。カリンがお前が攫われたと聞いて半狂乱になっていたぞ。早く帰ってやるんだな」
「兄上が?」
『それなら早く戻らないといけませんね』と柔和に笑って、ロキは何事もなかったかのようにリヒターを伴い城へと足を向けた。
「俺、今日夢に見そう…」
ブルーグレイの騎士達に蒼白な顔でげんなりとそう言われながら……。
「ちっ…」
なんだか見せつけられているようでちょっと悔しい。
やはりアルフレッドを連れてくればよかったと後悔してしまう。
とは言えここでそれを言うのも大人げないし、後で好きなだけアルフレッドを愛でようと気持ちを切り替えることにした。
「ロキ。カリン陛下は落ち着いたか?」
「セドリック王子。ええ。一応」
「それにしてはベッタリだな」
「可愛いでしょう?以前ブルーグレイから帰ってから暫くはこんな感じでしたよ?」
どうやら完全に快楽堕ちさせたらこうなったらしい。
確かにその目はどこか正気でないように見えなくもない。
とは言え羨ましいのは羨ましかった。
「そうか。アルフレッドもそれくらい甘えてくれたらいいんだがな」
ついつい本音がこぼれ落ちてしまう。
俺もアルフレッドにこれくらい甘えて欲しい。
「ふふっ。そう言いつつ、照れて逃げるくらいがお好きなのでは?」
「まあな」
甘えては欲しいがよりアルフレッドらしいのはやはりそちらだ。
ロキはそれをわかっているからこそ楽し気にそう言ってきたんだろう。
「本当に滞在を延ばしても?」
「ああ。父も是非と言っていたしな。お前はアルフレッドに手を出すこともないし、俺としては全然構わん」
「そうですか。まあ政務をいつまでも放っておくわけにもいかないので後二日ほどで帰ろうと思います」
滞在が伸びたのは仕方がないと言わんばかりだが、どうやら大量の仕事を捌くのは不慣れな様子。
カリンがこちらに来てしまったから更に溜まっていることだろう。
「大変そうだな」
「それはそうですよ。腰掛けの俄か仕込みの王ですし」
「ククッそう言いつつ少しは慣れてきただろう?」
「まあ兄上のお陰で少しは?」
ロキからすればこんな兄でも頼りにしているようだ。
まあ、やることは酷いが。
「それは何より。それより、ソレは戻るのか?」
「ええ。一晩経てば恐らく」
「幸せそうだな」
「もちろん。こんなに可愛い愛しの兄上がわざわざ俺に会いに来てくれたんですから当然です」
そう言いながら愛おしそうにカリンを抱きしめるロキ。
今のその姿からはドSの片鱗は全く伺えなかった。
本当に極端な奴だ。
やはり俺の読みはそう外れてはいないのではないだろうか?
愛情が過ぎてカリンの愛情を確認している────その線が濃厚な気がする。
(試しに聞いてみるか…)
「そう言いつつ酷かったとも聞いたが?」
「まあ怒っていましたから?だって閨の相手まで置いてきたのに、そちらは無視でレオナルド皇子にずっとくっつく事を選んだんですよ?」
許容範囲が広いんだか狭いんだかよくわからない返答につい笑ってしまう。
「ふっ…やはり歪んでいるな。普通は自分以外と寝る方が嫌だろうに」
「たかが一時間の触れ合いは許せても、三日も四六時中ベッタリくっつかれるのは許せないんです。全く……」
どうやらロキは誰かと寝られるより、長時間自分以外の男とくっついていられる方が嫌だったらしい。
「俺ならどちらも嫌だがな」
アルフレッドが三日間誰かに抱き着きながら移動するのも、他の男に抱かれるのも絶対に嫌だし、そうなったら相手を殺してやりたいと思う程俺は怒り狂う自信がある。
そう考えるとロキの方がまだ心は広いんだろうか?
そんな事を考えていると徐にカリンがロキへと顔を寄せ、チュッと口づけを落とした。
「ご主人様……」
その目はロキしか見つめていない。
どうやらまだまだ正気に返るには時間が必要そうだ。
「ああ…まだもう少しかかりそうですね」
そう言いつつ、ロキは嬉しくて仕方がないとばかりに頬を緩ませた。
そんな幸せそうな姿に俺もアルフレッドを抱きしめたくなり、さっさと部屋を出ることにした。
「正気に戻ったら連れてくるといい。ではな」
「ええ。ありがとうございます」
そうして自室へと戻ったのだが、アルフレッドはまだ部屋に帰ってはいなかった。
まだレオナルド皇子のところにいるのだろうか?
流石に腹立たしいのだが……。
そうして暫く経ったところで騎士が慌てたように俺の元へとやってきて、ロキが攫われたと言ってきたので驚いて立ち上がってしまう。
「セドリック王子!ロキ陛下が襲撃され攫われたようです!至急ご指示を!」
ついさっき話していたのにどういうことだと速やかに情報を集めさせると、どうやらあれからすぐに俺の名で何者かがロキを部屋から連れ出したらしいことが判明した。
何か言い忘れたことでもあったか、それとも危急の要件でも出来たのかと暗部と騎士一人を連れてついていったところで襲われたらしい。
まさかこの城内で国賓を攫う馬鹿が出現するとはと苦い顔になってしまう。
ロキなら大丈夫だとは思うが如何せんあいつはこの国に土地勘はあまりないし、万が一にでも殺されたら国際問題は必至だ。
「厄介なっ!」
どうしてこんなに面倒事にすぐに巻き込まれるのだろうか?
ツイていない星回りにもほどがある。
そう思いながらカリン達の元へと向かうと、そこには既にアルフレッド達もやってきていたようなのだが、ロキが攫われたと聞いてカリンが半狂乱になってしまっていた。
「放してっ放してぇ!ロキッロキッ!やだぁああっ!」
叫びながら部屋を飛び出そうとするカリンをロキの騎士達が必死に引き留めている。
「カリン陛下!落ち着いてください!」
けれどこのままでは埒が明かないと思ったのか、アルフレッドが素早く動いてトスッと手刀を落としてカリンの意識を刈り取った。
きっとシャイナーの件もあったからこういう場合は気絶させるのが一番と思ったのだろう。
「状況は?」
「攫われたのはロキ陛下お一人です。同行していた暗部と騎士は無事でした」
「そうか」
そうしてすぐさま捜索隊をと指示を出そうとしたところで、リヒターがロキの居場所はすぐにわかると言ってとある機器を取り出した。
(……魔道具か?)
どう見ても手元の袋には入りそうにないサイズの機器を手に、これは発信機だと言ってくる。
「ロキ陛下が以前攫われた後、もしもに備えて発信機を持ってもらっています」
「それですぐにわかると?」
「はい。ただ、俺では土地勘がないのでフォローはお願いしたいのですが」
「わかった。すぐに騎士達を集めろ。出るぞ!」
ブルーグレイ側の騎士達を早急に集め、リヒターに案内されながらロキのいる場所へと急いだ。
辿り着いたのはとある路地裏の一見して普通の集合住宅にしか見えない三階建ての建物。
どうやらここにロキはいるらしい。
リヒターがザッと目を走らせ必死にロキの居場所を特定しにかかる。
「あそこです!」
そうして一つのドアを指差すと共に、止める間もなく駆け出しバァンと扉を大きく開いた。
「ロキ陛下!!」
けれどそこには思っていたのとは違う光景が広がっていた。
「ロキ。攫われたと聞いたが、誤報だったか?」
「いいえ。本当ですが?」
どうしてそう言われたのかがわからないとロキは首を傾げているが、これは駆け付けた騎士達が絶句する程あり得ない光景だぞと言ってやりたかった。
どうして縛られて半泣きになっているのがロキではなく相手の方なんだ?
ロキは鞭らしきものを手に持っているし、他には何故か恍惚とした顔で気絶して床に転がっている者、土下座して隅で震えている者などがいるばかり。
これでは攫われたと言われても俄かには信じられないのだが…。
一瞬自主的に夜遊びにでも出かけたのかと思った。
「一応今回は見逃すと言っておいたんで考慮してもらえたら嬉しいんですけど、取り調べをするならお連れ下さい」
「そうだな。そうしよう」
けれど淡々とそう言われたらこちらも冷静になるというもの。
すぐさま散らばっている輩を取り押さえるよう騎士達へと指示を出す。
幸い怪我人は一人もいなさそうだし、緊急性はないだろう。
そう思ったのも束の間。その中の一人が何故かロキめがけて走り出した。
「どうせ捕まるならぁあっ…!」
「陛下!」
それを受けロキを守ろうと咄嗟にリヒターが間に入り抱き込むが、それには構わずロキは手に持っていた変わった形状の鞭を素早く横へと走らせた。
「ぎゃあぁあああっ!」
それが相手の目を見事に潰し、男がその場でのたうち回る。
「目がっ!目がぁあっ!!」
「逆上するのも大概にしろ」
剣ではないが攻撃力は抜群だ。
すぐさま男を連行するよう指示を出し、そのままロキへと謝罪する。
「ロキ。すまなかったな。まさかこんな奴らが入り込んでいたとは」
この間のスパイ潜入の対策が全く活かされていないことに苛立ちを覚える。
より一層対策を考えなくてはと苦々しく思っていると、ロキは気にしていないとばかりに平然と言い放った。
「まあ裏稼業の者達は潜入が得意ですしね。仕方がないですよ」
「それでもだ」
結局のところ見つけたのはリヒターで、相手を倒したのもロキだから俺達の出番はほぼないも同然だった。
これでは大国ブルーグレイの優秀な騎士達の名が泣く。
うちはダメダメなガヴァムの騎士達とは違って練度も高いのに、同列にされるのは流石に屈辱的だ。
(尋問して手口をしっかり把握しなければ…)
二度と同じことが起こらないように対策をとらなければ俺のプライドが許さない。
そうしてこちらは危機感を露にしていると言うのに、ロキは至って呑気に返してくる始末。
「う~ん…。今回は俺目当てだったようですし、調教しておいたのでもう大丈夫だと思いますよ?」
「奴らがそう言ったのか?」
「ええ。アンシャンテにもセドリック王子にも高値で売れるとか、オークション云々言っていたので、金目当てじゃないですかね?」
確かにロキはシャイナーの元へでも連れて行けば高値で買ってもらえるだろう。
そのまま部屋にでも監禁すればやりたい放題だ。
だが────。
「それで何がどうしてこうなった?」
「俺の味見がしたいとかなんとかふざけた事を言ってたのでお仕置きしたんですけど、ダメでしたか?」
首を傾げながら無害そうな顔でそう宣うロキ。
だがやってることは全く正反対だ。
「…………それはこいつらがバカだったな」
「ええ」
「いずれにせよ無事で良かった。カリンがお前が攫われたと聞いて半狂乱になっていたぞ。早く帰ってやるんだな」
「兄上が?」
『それなら早く戻らないといけませんね』と柔和に笑って、ロキは何事もなかったかのようにリヒターを伴い城へと足を向けた。
「俺、今日夢に見そう…」
ブルーグレイの騎士達に蒼白な顔でげんなりとそう言われながら……。
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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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