【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

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【ガヴァムからの来客】

123.ガヴァムからの来客⑥ Side.セドリック

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庭園でアルフレッドを抱いて、そのまま部屋に連れ帰り互いにシャワーを浴びた後、俺だけ鍛錬場へと戻る。
アルフレッドも戻ると言って煩かったが、抱いた後のアルフレッドの可愛い顔を誰にも見せたくはなかった。
それにどうせロキにとってはアルフレッドは空気みたいなものだし、別にいなくても問題はないだろう。

鍛錬場へと戻るとちょうどリヒターがロキの鍛錬が終わったと言って探していたのでその足でロキの元へと向かう。
なにやらオーガストと話していたようだから何かアドバイスでも貰ったのかもしれない。
アルフレッドにはつれないくせにオーガストの言葉は真面目に聞いてそうなのが面白いなと思った。
何かしらロキの心に響くものでもあったのだろうか?

「ロキ、行くぞ」

そう声を掛けたらすぐこちらに来たが、話を聞いてなるほどなと思った。
ロキ曰く、終わってからのアドバイスなら聞く価値はあるのだそうだ。
どうにもアルフレッドとは相性が悪いと溢すロキに笑いが込み上げてきてしまう。

「アルフレッドはああ見えて面倒見がいいから、基本的に嫌う輩はいないんだがな」
「そうですか。まあ俺も嫌ってるわけじゃないですよ?単に苦手なだけです」

ロキはアルフレッドより俺の方が話しやすくていいらしい。
本当に変わった奴だ。

「カリンとは毎日話しているのか?」
「ええ。ツンナガールは離れていても話せるのが本当に有難いです。兄上の声を聞きながらシャメルの印刷画を見ていれば少しは寂しい気持ちも紛らわせられますし」

そう言ったロキは本当に寂しそうで、カリンが明日レオナルド皇子と共にこちらに来ることを知らされていないようだと確信してしまう。

(カリンも馬鹿だな)

毎日話しているなら素直にこちらに向かっていると言えばいいものを。
これほど寂しがっているロキのことだ。
喜ぶとは思うが────。

(俺なら怒るな)

他の男と二人でワイバーンの旅なんて俺なら激怒案件だ。
ロキも似たところがあるから怒ってもおかしくはない。

(まあカリンは虐められるのも好きだし、大丈夫かもしれないがな)

もしかしたら今夜にでもサプライズとばかりに教えてもらえるのかもしれないし、俺からロキに言うつもりはない。
最後までカリンが黙っているのならそれはそれで精々お仕置きとばかりに可愛がってもらえばいいとこの日は軽く考えていた。


***


翌日。アルフレッドと共に朝食の席へと向かうと、食堂の前で姫と話すロキの姿があった。
どうもレオナルド皇子の話をしているらしい。

「今晩は兄がこちらに到着するそうです。なので色々事業のお話なども聞かせてくださいね」
「レオが?」
「ええ。天気にも恵まれて順調にこちらに向かっているそうですわ」

初耳とばかりにそう言っていたので、どうやらロキは昨夜もカリンに言ってもらえなかったようだと察することができた。
これはいよいよ面白いことになりそうだ。
ロキが怒ることを想定して根回しでもしておこうか?
そんな事を考えながら揃って食堂へと足を踏み入れる。

「ロキ、今日は何かしたいことはないか?」
「今日は兄上にお土産を買いに行きたいなと思っていまして」

カリンのことしか頭にないロキは明日は朝から帰る気満々で、土産を買いたいと口にした。
そこへ姫が余計な一言を口にしてくる。

「あら、それなら明日にでも一緒に行けば……」
「姫?」
「ひっ?!いえ、なんでもありませんわ!」

カリンがロキに虐められるのを楽しみに黙っていたらどうする気だ?
ここでバレたら台無しではないかと威圧してやると慌ててそのお喋りな口を閉じた。
その顔色は真っ青だが、水を差そうとする方が悪い。

「どうかされましたか?」
「いや。そうだな。今日中に買っておいた方が無難だろう。明日はそんな暇はないだろうしな」
「ですよね」

俺なら同じことをされたら明日は一日中部屋に閉じ込めて犯し倒すなと思いそう口にしたのだが、ロキは朝一番で帰るからだと勝手に勘違いしてくれる。

(これで面白いものが見れる可能性が上がったな)

そうほくそ笑みながら朝食を食べ進めた。

「何かお勧めの土産物はありますか?」

場の空気を和ませようとしたのだろうか?
ロキが姫へと気を遣って尋ねてくる。

「そ、そうですわね。腕時計などは如何でしょう?」
「時計は…実はお揃いの懐中時計を持ち歩いているので、できればそれ以外のものの方が有難いです」
「そうですか。では…」

姫が他の物を提案しようとしているが、今ロキが必要としているものはどうせその口からは出てこないだろう。

責めたい相手がいないのにロキが道具の類を持ってきているとは考えにくい。
夕方の為にも、ここはやはり俺が一肌脱いでやるとしようか。

「ロキ。手錠でも買っておいたらどうだ?きっとすぐに使えると思うぞ?」
「手錠…ですか?」

言われた当の本人はキョトンとするだけだが、同席しているアルフレッドも姫も何をいきなり言い出すんだとドン引きしている。
でもこれは絶対に必要だろう?

「ああ。後で商人でも呼んでおいてやろう」
「それは有難いですが、それならついでに色々見てみても?」

ほらみろ。ロキは普通に話に乗って来たぞ?

「構わない。拷問官御用達の最高の責め具の数々を用意させておこう」
「ありがとうございます」

けれど満足げな様子とは別に他に土産に欲しいものを思い出したらしく、続けて聞いてきた。

「そうだ、セドリック王子。他にも茶葉などもお勧めがあれば教えて頂きたいんですが」
「茶葉?」
「ええ。この間兄上が気に入ったものはアンシャンテのものでして…。似たものが手に入るならできれば他でと」
「ああ、シャイナーのせいで手に入れにくくなったのか。構わない。姫、茶葉なら姫が詳しいだろう。ロキに教えてやってくれ」
「は、はい!」

これには姫もホッとした様子だ。

「ありがとうございます。兄が気に入っていたのは────」

そう言いながらロキは普通に話を進め、あっという間に先程まであったおかしな空気を普通のものへと戻してしまった。
ロキはこういうところは素直に凄いなと思う。
普通なら空気が悪いまま終わってしまうだろうに。
何はともあれカリンを虐めてやるのが今から楽しみだなと俺はそっと嗤った。




【Side.アルメリア】

兄の友人であるロキ陛下があの悪魔とも親しいと聞いて本当かしらと思っていたのだけれど、話して納得した。
彼は天然なのだ。
兄の手紙にはよく『ロキは無防備で心配』と書いてあるけれどそれも納得のいく天然振り。

ついこの間アンシャンテのシャイナー陛下がここへとやって来て暫く滞在していたけれど、嘘か真かロキ陛下を『ご主人様』と言っていたらしい。
それだけを聞くと危ない人に聞こえなくはない。
でもいざロキ陛下を目の前にすると穏やかな人にしか見えないし、私は言葉の綾なんじゃないかと思っている。
きっとご主人様にしたくなるほど性格の良い人────なのでは?
現にシャイナー陛下はロキ陛下に嫌われたくないと言って凄く泣いていたのだとか。
結局仲直りをして帰って行ったようだけれど、穏やかな人ほど怒らせると怖いと聞くし、単なる喧嘩だったのだろうと私は侍女達を話していた。
ロキ陛下もなかなか罪作りな人だ。
けれど同時に凄いなと思う。

(だってお兄様も悪魔もシャイナー陛下も皆性格が全然違うのに、皆と仲良くできてるってことでしょう?)

なかなかできることではない。
天然で穏やかな性格だからこそできるのではないだろうか?

悪魔が嫌がらせの如く土産に手錠でも買ったらどうだと言った時にはどうしようかと思ったけど、普通に世間話かという程あっさりと話に乗り、笑顔で話し続けていたのには本当に驚いてしまった。
きっとこれくらい嫌がらせを嫌がらせと受け取らない天然な性格じゃないとこの悪魔とは仲良くなれないのねとほろりと涙が…。
だから茶葉が欲しいと言われた時には張りきって選んでみた。
兄弟婚という珍しい組み合わせで結婚したロキ陛下だけれど、兄の話では本当にカリン陛下のことが大好きらしいのでとっておきのお土産を勧めてあげたい。
そんな気持ちでいたらヴィンセント陛下も一緒に茶葉を見たいと言われたので、昼食後に来た商人を前に三人で楽しく選んだ。
ロキ陛下はあまり甘い菓子等は食べないらしいのだけど、では甘い物が嫌いかというとそういうわけでもないようで、色々訊いて口当たりのいいほのかな甘みのある茶を勧めてみた。

「美味しい…」

そう言ってどこかホッとしたような顔で笑ったロキ陛下の顔はどこかあどけなくて、可愛らしい印象を受けた。
こんな人があの悪魔の友人だなんてとても信じられない。
柔和で優しい声で話すから兄の友人というのはとてもよくわかるのだけど…。

「お口に合ってよかったですわ」
「砂糖の甘味とは全く違うのに実に舌を楽しませてくれますね」
「はい。茶葉独特の甘みで、特に何かを加えたりはしておりません」

商人の言葉も素直に聞いているし、こうしてみると国王という感じにも見えないし、とても話しやすい人だと思う。

「ではこちらとこちら、あとこっちの二種類も頂きたいと思います」
「はい。ありがとうございます」

商人にも丁寧に話し、定期的にガヴァムに届けてもらえたら嬉しいとも言っていたので新しい販路が開けて商人も嬉しそうだ。
そして何よりもヴィンセント陛下も好印象を持っている様子。

「ロキ陛下。ついでにこの後三人で茶会でもしないか?」
「ありがとうございます。ただ…セドリック王子に他の商人も呼んで頂いているので、短時間でも構わないでしょうか?」
「もちろんだ。セドリックの話も色々聞かせてくれ」

陛下自らロキ陛下を茶会に呼んだけれど、ちゃんと王子の顔も立てるこの律義さ。
あの悪魔が怖いのはわかるけど、ここは陛下に茶会に呼ばれたからとそっちは断ってもよかったと思うのだけど…。

(だって拷問官が使うような怖い道具を扱っている商人でしょう?付き合って買う必要なんてないと思うわ)

大体拷問官御用達の最高の責め具って何?!
怖くて聞けないわと思わずあの時は蒼白になってしまった。

(あ、でも確かロキ陛下は剣が苦手で武器が鞭だって聞いたわね)

それなら鞭の類を買う可能性はなくはないのかもしれない。
あれも一応拷問なんかに使ったりするものだから。
何はともあれあの悪魔と付き合っていたら命がいくつあっても足りないと思うから無理だけはしないでほしいと思う。

それから三人でお茶を飲みながらロキ陛下の口から悪魔の話を色々と聞かせてもらった。
主にはヴィンセント陛下が尋ねていたけれど、私もちょっと興味が湧いて手紙でのやり取りなどを聞かせてもらう。
意外なことに手紙のやり取りは儀礼的なものではなく、近況報告や相談事など私的な事が多々含まれているらしい。
なんだか話を聞いていると本当に友人という感じ。
でもそれを言うとロキ陛下は決まって困った顔で違うんですけどと言ってくるのが面白い。
まあロキ陛下からすればあんな悪魔と友人なんて無理無理と言う感じかもしれないし、気持ちもわからなくはない。

(でも…怯えてもいないのよね)

大らかと言うかなんと言うか、ロキ陛下は不思議とあの悪魔を慕っているように見えた。
それはヴィンセント陛下も言葉の端々で感じたらしく、小さく『なるほど。ロキ陛下からすればセドリックは年の離れた兄のような感じなのかもしれないな』と仰っていた。
あんな恐ろしい男を兄と慕うなんて俄かには信じがたいけれど、可能性としては高いかもしれないと少しだけ納得できた気がする。
そうこうしているうちに商人が来る時間となり、ロキ陛下は笑顔で席を立った。

「楽しい時間をありがとうございました」
「いやいや。また是非話を聞かせてくれ」
「今度は夕食の席で兄達も交えて話せたら嬉しいですわ」
「ありがとうございます。ではまた夕食の席で」

そうして和やかに去って行ったのだけど…。
まさか夕食をご一緒できないなんてこの時は全く思いもしなかったし、更にその後ひと騒動あるなんて考えもしなかったのだった。

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