【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

オレンジペコ

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【国際会議】

99.国際会議㊲ Side.セドリック

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カリン王子の姿を見つけこちらから声を掛けると、案の定飛び上がられてしまった。

一体何の用だと言わんばかりに今にも泣き出しそうな怯えの表情を浮かべられたが、逃げはしなかった。
ロキが行方知れずになっているためなんとか正気を保っていると言ったところか。
ロキの件について話があると振ってやると、気持ちを落ち着かせて『聞かせてもらおう』と言い、そのまま別室へと案内された。
本人的には藁にも縋る気持ちだっただろう。
なにせ手掛かり一つ掴めてはいなかったのだから────。

因みに部屋にいるのは俺とアルフレッドとカリン王子の他にもう一人、レオナルド皇子が同席している。
どうやら個人的に大親友とやらの捜索に加わっていたらしい。

「ロキ陛下の行方について、何か掴めたか?」
「いや…こちらでは何も」
「そうか。実は俺の暗部がロキの無事を既に確認している」
「……え?」
「そしてロキを攫った犯人も突き止め済みだ」
「なっ?!」
「一体誰が?!」
「アンシャンテのシャイナー王だ」
「シャイナー王が犯人だと?!」

その言葉に驚いたカリン王子がガタッと席を立ち、驚愕に目を見開く。
まあそれはそうだろう。驚くのも無理はない。
普通はあり得ないことだからだ。
けれどここで更にあり得ないことを伝えなくてはならない。

「シャイナーは教会でカリン王子を抱くロキを見て、欲しくなったらしい」

その言葉に案の定、カリン王子は驚き過ぎて言葉が咄嗟に出なくなってしまっていた。
国の利の為でもなく、何らかの交渉のためといったわけでもない。
個人的にロキに惚れこんで欲しくなったから攫ったと聞き、驚き過ぎて思考がうまく働かないようだ。
けれどそんなカリン王子を戻したのはレオナルド皇子だった。

「ロキ陛下、モッテモテだね。俺もロキ陛下にならちょっと可愛がられたいなって思ったことがあるし、気持ちもわからないではないなぁ」
「……っ?!なっ…!」
「あ、もちろん今は友情100%だからご心配なく」
「~~~~っ!!」

そんな軽い口調ではあったが、意外にもその目は座っていた。
どうやらレオナルド皇子は結構本気で怒っているらしい。
けれどカリン王子の手前それ以上言う気はないようだ。
なのでこちらも普通に話を続けていく。

「既にロキの身柄はここから遠く離れた山の側だ。護衛騎士が誰もついていなかったのが悪かったな。暗部が一人近くにいた騎士に声を掛けてから追っていったようだが、その後は連絡手段がないようでついていくしかできなかったようだ」
「う…」
「まあそのあたりは言っても仕方がない。だが……この先事態は動くぞ?」
「と言うと?」
「ロキが脱出したと先程報告が入った」
「……え?」

ここでカリン王子は一般的に考えられる言葉を口に出した。

「それならすぐに迎えを…!」

けれど、ロキはそんな『普通』の枠には全く納まりはしないのだ。

「いや。それは必要ない。あの男は本当に面白くてな…」

そしてロキは走る馬車から上手く脱出した後、山中で月華と言う薬効を持つ植物をゲットし街まで移動。
そこで薬師ギルドに入りそれを売り払って金を作ったらしいと教えてやる。

「……逞しいな」
「その後酒場で裏カジノの情報を得て裏カジノに潜入。資金を稼いだ上に裏家業の者を味方につけて裏の者専用の宿を紹介してもらったらしい。あいつは本当に王族か?あれは流石に俺でも無理だぞ?」
「……ロキ」

それを聞いてカリン王子は脱力して肩を落とすが、どこかホッとしたように安堵の息を吐いた。

「まあそういうことで、逃げ出したとしてもあれなら捕まることなく自力でここまで帰ってこれるだろう」
「ああ」

これでロキはある程度安全だと察し、改めてこちらへと真剣な目を向けてくる。

「ということは…」
「そうだ」

カリン王子達がすることはロキを救出しに行くことではない。

「アンシャンテのシャイナー王を捕縛しなければならないということか…」
「ああ」

とは言え彼は他国の王だ。
安易に拘束するなどできはしない。
余程の証拠を揃えなければまず無理だろう。
だからこそ────持参したものが役に立つ。

「どうすれば…」
「どうせそろそろロキが逃げたと報告が入る頃だ。暗部に見張らせておけばいい」
「それで尻尾を出すと?」
「ああ。だが暗部の証言だけでは難しいだろう。だからこのシャメルとこちらの機器…ロックオンを貸してやろう。短時間なら映像を撮ることが可能だ」

ブルーグレイの最新機器を前にカリン王子が驚いたように目を瞠る。

「……これは」
「使い方は簡単だ。精々上手く使って証拠を固めろ。俺が手を貸してやるのはここまでだ」
「あ……」
「ロキに言っておけ。これで貸し一つだとな」
「あり…ありがとう、ございます」

カリン王子の目にじわりと涙が浮かぶが、それは喜びからか悔しさからか。
グッと握り込まれた拳は微かに震えていた。

その後カリン王子は自分の暗部にそれを預け、速やかに主要メンバーを集めにかかる。
レオナルド皇子も引き続き同席するようだ。
乗り掛かった舟だからと言ってはいたが、その目はガヴァムの騎士達に大親友を預けられないと言わんばかりに昏く燃えていた。
どうやらあのポンコツ皇子から見ても今回の騎士達の動きは最悪だったらしい。

アルフレッドがこっそり言っていたが、ミラルカは国際会議の時こそ警備上失態を犯してしまっていたが、基本的に騎士達に対して実力主義を謳っているらしく弛んでいる者は許されないらしい。
なので個々人の実力は当然ガヴァムより上だし、上からの命令に対しきっちり機敏に動けるとの事。
そんな中で育ってきたからこそ余計にレオナルド皇子はガヴァムの騎士達の不甲斐なさに腹を立てているのだろう。

(さて…これでどうなるか)

自分は同席しないが、この先どうなるか気にはなるので引き続き暗部へと指示を出す。

「引き続き双方の様子を確認し、報告を入れろ」
「御意」

こうして怒涛の一日を終え、翌日になったのだが────。

(まさか俺の暗部を撒くとはな…)

ロキの姿が途中で消えたと報告を受けいつの間にか攫われたのかと思ったが、どうやら暗部を撒いて独自のルートで城へと戻ったらしいことが判明した。
表向きのルートではなく、裏稼業の者達特有のルートが使われたらしい。
恐らく地下だろうが、他国のそう言った場所にまではこちらも精通していないため仕方がない。
そして城に戻ったロキはカリン王子達をも煙に巻き、一番信用を置いている近衛を一人連れてシャイナーへと突撃した。
これは正直言って予想外だ。
てっきりカリン王子あたりが始末をつけると思っていたのに……。
しかも別に調教したわけでもなく、穏やかな話し合いでこれでもかと利を毟り取っていったらしい。

ここ半年でロキは国政についても学んだらしく、無駄なく搾取に踏み切ったようだった。
元々培っていた裏稼業の知識がここにきて花開いたのだろう。
あれを育てた裏稼業の者達の腕は大したものだ。
様子を窺っていた暗部曰く、見事なほど交渉には裏稼業の手口が使われており、アンシャンテ王は機嫌よくその利をロキに差し出していたとか。
けれどそれでアンシャンテが傾くかと言うとそういう訳でもないらしい。
細く長くアンシャンテから利を得るために、相手から多くを奪いながらも上手く餌も撒いていた。

その一つが三ヵ国事業への参入だ。
ガヴァムとアンシャンテの間にある小競り合いの絶えない二国の厄介な交渉までシャイナーに丸投げし、アンシャンテまでレールを繋ぐという甘美な餌を撒いたのだ。
アンシャンテにも大きな利のある話だし、双方が繋がればロキに会いやすくなるとシャイナーは張りきり随分意気込んでいたそうだが、なかなかどうして難しい案件だろう。

(まああの優秀そうな男ならやってのけてしまいそうではあるがな…)

それにしても恋心を利用して掌の上で転がすとは…女相手に聞き込みを得意とする情報スパイの知り合いでもいるのだろうか?
あまりにも手口が鮮やか過ぎる。

ロキは思いつきで言っただけかもしれないが、これが実行できたらガヴァムにもより大きな利が転がり込むはずだ。
アンシャンテは衰退傾向にあるとは言え、新王はなかなか優秀だし、やりようによってはまだまだ栄えていく可能性が高い。
そんな相手をロキは見極め利用したのだ。
まさかこんな風に自分を攫った相手を上手く懐に取込んでしまうとは思っても見なかった。
色仕掛けともまた違う手法に驚きを隠せない。
キスの一つもせずによくも上手く転がしたものだ。
こうなってみるとシャイナーも存外可愛いものだと笑いたくなる。

優秀なくせにその恋心故にロキに利用されるなんて…本当におかしくてたまらない。
これはある意味俺には思いつかない手法だった。
恐れられることが多い俺には絶対に真似できない手だ。
もしかしたらロキはこの先大化けするかもしれない。

(これでは今回の手助けはロキへの貸しにはならないな…)

自力で帰還し、自力で交渉して相手を懐に抱き込み、利益を確保しつつ自分の安全までをも確保したのだから恐れ入る。
この事業の話が出たことで、国と国の間に重要な案件が発生し、シャイナーは国王としてロキを攫うことができなくなったと言っても過言ではないのだから…。

終わってみればガヴァムの問題点が浮き彫りになっただけで、ロキ自身にマイナスになる事など何一つなかった。
誰の手も借りず、ほぼ一人で解決したようなものだ。
これでは恩に着せることもできやしない。

(ああ…本当に見ていて全く飽きない男だ)

きっとこれから先もロキは俺を存分に楽しませてくれることだろうし、益々目が離せなくなった。
それならそれでこちらからもレールを繋ぐ手伝いくらいはしてやろうか?
アンシャンテの手前で逆側に分岐させルートを確保すればブルーグレイまで繋いでいくのもそう難しい話ではない。
そうなればミラルカに行くにも時間短縮になるし、姫のためにとアルフレッドも協力的になるかもしれない。
ロキ達を利用しつつアルフレッドとやってみようか?
夫婦で取り組む初事業と言うのも悪くはない。
できればそれを使ってレオナルド皇子が作るという鉱山ホテルにも行ってみたい。
その頃にはきっと完成していることだろう。
仕事次第ではあるがアルフレッドとのんびり旅行に行くのも悪くはないし、夢は広がる一方だ。

とりあえず、後で面白いものを見せてくれたロキの顔でも見に行こうか。
あの狂王子ならぬ、狂王が周辺諸国の者達に良い意味で見直されるその姿を、きっと見られると思うから……。
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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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