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【国際会議】
97.国際会議㉟ Side.セドリック
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その後疲れ切ったアルフレッドを部屋へと運び、目が覚めるまでゆっくり休ませるよう指示を出してからパーティーへと向かった。
結婚祝いに来ているのだからこのパーティーには適当に参加すべきだろう。
そう思いながらロキに祝いの言葉を述べ、例の機器───シャメルについての話を行う。
それによるとやはり多岐に渡って使用したいとのことで、取り敢えず三ヵ国事業のやり取りで使いたい旨を伝えられた。
その後詳細を詰め、レオナルド皇子や他の三ヵ国事業の主要メンバーとの顔合わせもしてもらい、技術協力をしているフォルティエンヌも含めた四カ国での需要が本決まりになった。
かなり大きな需要が見込めるため、ブルーグレイにとっても美味しい話だ。
それこそ発案者であるロキにマージンを回しても問題がないほどの儲け話だったので、後できちんと契約書を用意しようと言っておいた。
レオナルド皇子とは例の鉱山の話もしたのだが、マニアックな鉱山ホテル計画は順調のようで俺にまでどんな部屋が好みか聞いてきた。
それに対して俺は素直に声が響く教会風の部屋がいいと伝えておく。
あれは本当に最高だったからだ。
するとロキの方からもレオナルド皇子に勧めてくれたので、意外にもその案はあっさりと通り快諾してもらうことができた。
それを聞き、完成した暁には是非アルフレッドを連れて利用したいものだと密かに思ったのだった。
***
それから暫くしてアルフレッドが会場へと顔を出した。
「お前、起こせよな!」
そんな風に真っ赤になりながら言ってきたが、このパーティーは夜まで続くらしいから別に焦る必要はない。
ゆっくり休んでから来ても十分ロキと話す時間はあるのだから気にするなと言って流してやった。
そして改めて祝辞を二人揃って言いに行くと、カリン王子が戻ってくる姿が見えたので長居はせずさらりとその場を離れバルコニーへと向かう。
今回のパーティーではあちらこちらに休憩室も用意されていて、二人でしけこむことも難しくはないらしい。
けれど今日は既に教会でやっているので、たまにはのんびりアルフレッドと酒でも傾けながら語らおうと思った。
「はぁ…パーティーもいいけど、こうも長いと疲れるな」
「そう言うな。ロキ達は主役だから夜までずっとだぞ?」
「お前いつからロキ陛下を呼び捨てにしてるんだよ?」
随分仲が良いなと言われたが、別に本人の前では呼び捨てにはしていない。
「本人の前で呼び捨てにはしないぞ?単に俺がそう呼びたくて勝手に呼んでいるだけだ」
「へぇ…。ま、いいけど。どうせ変態同士仲間意識でも強いんだろ?」
「アルフレッド。焼きもちか?可愛いものだな」
ククッと笑ってやると顔を真っ赤にして噛みついてくる。
「誰がだ!あ~もう!剣を二本持ってくればよかった!」
そうしたらこっそり庭で手合わせもできたかもしれないのにとアルフレッドは言うが、それが照れ隠しだということを俺は知っているので、微笑ましく見遣った。
そんな俺達の元へ何故か暗部がやってきて報告があると言ってきた。
アルフレッドがいる前に出てくるのは珍しいので、同席してでも伝えたい何かかと尋ねるとそうだという答えが返ってくる。
「何があった?」
よもやまた刺客でも湧いて出たのかと尋ねると、全く違う話で────。
「ロキ陛下がアンシャンテのシャイナー陛下の指示で連れ去られました」
「…………は?」
一瞬聞き間違いかと思ったがどうやら違ったらしい。
「ロキはガヴァムの王だぞ?近衛はどうした?」
「それが…近衛騎士も護衛騎士もついておらず、ただ一人ついていた暗部が慌てたように追いかけては行ったのですが…」
「こちらの手の者は?」
「三人で尾行中です」
その返答にホッと安堵の息を吐く。
それにしても一国の王が護衛もつけずに暗部一人で護っているとはどういう状況なのだろう?
ロキ自身が腕が立つならまだしもそうではないのだ。
いくらなんでも一国の王が無防備過ぎる。
「それで?シャイナーの目的は?」
どうせ衰退の一途をたどっているアンシャンテをなんとか立て直そうと暴挙に出たのだろう。
愚かにも程がある。
普通に祝いにかこつけて三か国事業に上手く取り入れば済むだけの話なのに────。
そう思っていたところ、それが大きな勘違いだということに驚愕を覚えた。
「シャイナー陛下は婚礼の儀でロキ陛下を見初めてしまったらしく、どうしても手に入れて恋人にしたかったようです」
「…………おかしいだろう」
お互いに王なのに流石にそれはどう考えてもおかし過ぎる。
実行する前にやめようとは思わなかったのだろうか?
無防備なロキも、王に惚れた王もどちらもおかしすぎてとても現実とは思えない。
そう思っていると、どうも側近が躊躇うシャイナーを唆したらしいということが分かった。
おそらくではあるが、きっとその男が野心家だったのだろう。
あわよくば政変をとでも考えたのかもしれない。
(もしくはただの馬鹿かのどちらかだな)
代替わりに伴いアンシャンテの様子を探っていただけだったのだが、思いもよらぬところでそれが役に立った。
「それでガヴァムの方は?」
「はっ。現在騎士団長始め情報局長などが動き始め情報収集に動きながら城内をくまなく捜索しているようです」
「はぁ…既に城外に出ているということすら把握できていないのか。後手に回りすぎだ」
「はい。いかがいたしましょう?」
情報を共有するのは簡単だし、ロキを救出するのもこちらの手の者を使えば簡単にできるだろう。
だがカリン王子に恩を売っても然程大きな利はないし、そもそも声を掛けるだけで怯えられるのがオチだ。
敢えて言うならロキに恩を売った方が利は大きいが、あの男がすんなり助けを求めるとも思えない。
なんだったら自力で何とかして戻ってきそうな気もしないでもない。
あれは裏稼業の者と親しくしているらしいので、王宮よりも外での方がその本領を発揮してきそうだ。
それならそれでこちらはシャイナーの動向を追って拉致の証拠を押さえた方がずっと有意義な気がする。
「ロキの方は所在確認だけでいい。こちらはシャイナーの動向を探れ」
「かしこまりました」
そう言って暗部はすぐさまその場を離れたので、これまで黙って話を聞いていたアルフレッドへと目線を向けてやった。
「お前ならどうする?」
ガヴァム側にこの情報を渡してやるか、黙ってこの先の展開を見届けるか。
そんな思いで尋ねてやると、アルフレッドは実に護衛騎士らしい答えを返してきた。
「まずはガヴァム側と連携するのが最優先だろ?攫われたのなら真っ先に助けに行くべきだ」
馬の用意が必要だからカリン王子に言ってくると踵を返し今にも飛んでいきそうになったので、素早く捕まえて腕の中へと閉じ込める。
「アルフレッド。ここは他国だ。ガヴァムとアンシャンテの問題にブルーグレイが大っぴらに首を突っ込むのは感心しないな?」
「でもっ!」
「もちろん何とかしたいお前の気持ちはわからないでもない。だからこそ────裏で動いて恩を売るんだ」
結婚祝いに来たのに花婿が攫われたのだ。
少しくらい手を貸してやってもおかしくないだろうと言って笑ってやったらアルフレッドから思い切り睨まれて、素直に助けてやりたいって言えばいいだろと言われてしまった。
まあ…攫われた相手がカリン王子だったなら放っておいただろうが、相手が気に入っているロキなら話は別だ。
そんな思いがアルフレッドには透けて見えたのだろう。
「ロキがいないとシャメルの販路を確保するのも手間だしな」
そんな言い訳を口にしながら、俺はクッと笑みを浮かべたのだった。
結婚祝いに来ているのだからこのパーティーには適当に参加すべきだろう。
そう思いながらロキに祝いの言葉を述べ、例の機器───シャメルについての話を行う。
それによるとやはり多岐に渡って使用したいとのことで、取り敢えず三ヵ国事業のやり取りで使いたい旨を伝えられた。
その後詳細を詰め、レオナルド皇子や他の三ヵ国事業の主要メンバーとの顔合わせもしてもらい、技術協力をしているフォルティエンヌも含めた四カ国での需要が本決まりになった。
かなり大きな需要が見込めるため、ブルーグレイにとっても美味しい話だ。
それこそ発案者であるロキにマージンを回しても問題がないほどの儲け話だったので、後できちんと契約書を用意しようと言っておいた。
レオナルド皇子とは例の鉱山の話もしたのだが、マニアックな鉱山ホテル計画は順調のようで俺にまでどんな部屋が好みか聞いてきた。
それに対して俺は素直に声が響く教会風の部屋がいいと伝えておく。
あれは本当に最高だったからだ。
するとロキの方からもレオナルド皇子に勧めてくれたので、意外にもその案はあっさりと通り快諾してもらうことができた。
それを聞き、完成した暁には是非アルフレッドを連れて利用したいものだと密かに思ったのだった。
***
それから暫くしてアルフレッドが会場へと顔を出した。
「お前、起こせよな!」
そんな風に真っ赤になりながら言ってきたが、このパーティーは夜まで続くらしいから別に焦る必要はない。
ゆっくり休んでから来ても十分ロキと話す時間はあるのだから気にするなと言って流してやった。
そして改めて祝辞を二人揃って言いに行くと、カリン王子が戻ってくる姿が見えたので長居はせずさらりとその場を離れバルコニーへと向かう。
今回のパーティーではあちらこちらに休憩室も用意されていて、二人でしけこむことも難しくはないらしい。
けれど今日は既に教会でやっているので、たまにはのんびりアルフレッドと酒でも傾けながら語らおうと思った。
「はぁ…パーティーもいいけど、こうも長いと疲れるな」
「そう言うな。ロキ達は主役だから夜までずっとだぞ?」
「お前いつからロキ陛下を呼び捨てにしてるんだよ?」
随分仲が良いなと言われたが、別に本人の前では呼び捨てにはしていない。
「本人の前で呼び捨てにはしないぞ?単に俺がそう呼びたくて勝手に呼んでいるだけだ」
「へぇ…。ま、いいけど。どうせ変態同士仲間意識でも強いんだろ?」
「アルフレッド。焼きもちか?可愛いものだな」
ククッと笑ってやると顔を真っ赤にして噛みついてくる。
「誰がだ!あ~もう!剣を二本持ってくればよかった!」
そうしたらこっそり庭で手合わせもできたかもしれないのにとアルフレッドは言うが、それが照れ隠しだということを俺は知っているので、微笑ましく見遣った。
そんな俺達の元へ何故か暗部がやってきて報告があると言ってきた。
アルフレッドがいる前に出てくるのは珍しいので、同席してでも伝えたい何かかと尋ねるとそうだという答えが返ってくる。
「何があった?」
よもやまた刺客でも湧いて出たのかと尋ねると、全く違う話で────。
「ロキ陛下がアンシャンテのシャイナー陛下の指示で連れ去られました」
「…………は?」
一瞬聞き間違いかと思ったがどうやら違ったらしい。
「ロキはガヴァムの王だぞ?近衛はどうした?」
「それが…近衛騎士も護衛騎士もついておらず、ただ一人ついていた暗部が慌てたように追いかけては行ったのですが…」
「こちらの手の者は?」
「三人で尾行中です」
その返答にホッと安堵の息を吐く。
それにしても一国の王が護衛もつけずに暗部一人で護っているとはどういう状況なのだろう?
ロキ自身が腕が立つならまだしもそうではないのだ。
いくらなんでも一国の王が無防備過ぎる。
「それで?シャイナーの目的は?」
どうせ衰退の一途をたどっているアンシャンテをなんとか立て直そうと暴挙に出たのだろう。
愚かにも程がある。
普通に祝いにかこつけて三か国事業に上手く取り入れば済むだけの話なのに────。
そう思っていたところ、それが大きな勘違いだということに驚愕を覚えた。
「シャイナー陛下は婚礼の儀でロキ陛下を見初めてしまったらしく、どうしても手に入れて恋人にしたかったようです」
「…………おかしいだろう」
お互いに王なのに流石にそれはどう考えてもおかし過ぎる。
実行する前にやめようとは思わなかったのだろうか?
無防備なロキも、王に惚れた王もどちらもおかしすぎてとても現実とは思えない。
そう思っていると、どうも側近が躊躇うシャイナーを唆したらしいということが分かった。
おそらくではあるが、きっとその男が野心家だったのだろう。
あわよくば政変をとでも考えたのかもしれない。
(もしくはただの馬鹿かのどちらかだな)
代替わりに伴いアンシャンテの様子を探っていただけだったのだが、思いもよらぬところでそれが役に立った。
「それでガヴァムの方は?」
「はっ。現在騎士団長始め情報局長などが動き始め情報収集に動きながら城内をくまなく捜索しているようです」
「はぁ…既に城外に出ているということすら把握できていないのか。後手に回りすぎだ」
「はい。いかがいたしましょう?」
情報を共有するのは簡単だし、ロキを救出するのもこちらの手の者を使えば簡単にできるだろう。
だがカリン王子に恩を売っても然程大きな利はないし、そもそも声を掛けるだけで怯えられるのがオチだ。
敢えて言うならロキに恩を売った方が利は大きいが、あの男がすんなり助けを求めるとも思えない。
なんだったら自力で何とかして戻ってきそうな気もしないでもない。
あれは裏稼業の者と親しくしているらしいので、王宮よりも外での方がその本領を発揮してきそうだ。
それならそれでこちらはシャイナーの動向を追って拉致の証拠を押さえた方がずっと有意義な気がする。
「ロキの方は所在確認だけでいい。こちらはシャイナーの動向を探れ」
「かしこまりました」
そう言って暗部はすぐさまその場を離れたので、これまで黙って話を聞いていたアルフレッドへと目線を向けてやった。
「お前ならどうする?」
ガヴァム側にこの情報を渡してやるか、黙ってこの先の展開を見届けるか。
そんな思いで尋ねてやると、アルフレッドは実に護衛騎士らしい答えを返してきた。
「まずはガヴァム側と連携するのが最優先だろ?攫われたのなら真っ先に助けに行くべきだ」
馬の用意が必要だからカリン王子に言ってくると踵を返し今にも飛んでいきそうになったので、素早く捕まえて腕の中へと閉じ込める。
「アルフレッド。ここは他国だ。ガヴァムとアンシャンテの問題にブルーグレイが大っぴらに首を突っ込むのは感心しないな?」
「でもっ!」
「もちろん何とかしたいお前の気持ちはわからないでもない。だからこそ────裏で動いて恩を売るんだ」
結婚祝いに来たのに花婿が攫われたのだ。
少しくらい手を貸してやってもおかしくないだろうと言って笑ってやったらアルフレッドから思い切り睨まれて、素直に助けてやりたいって言えばいいだろと言われてしまった。
まあ…攫われた相手がカリン王子だったなら放っておいただろうが、相手が気に入っているロキなら話は別だ。
そんな思いがアルフレッドには透けて見えたのだろう。
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