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【国際会議】

71.国際会議⑨ Side.アルメリア

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兄の件がまさかこんな結末を迎えるなんて思ってもみなかった。

兄はこれまでの態度が嘘のように悪魔に怯えるようになった。
余程あの殺気が怖かったらしい。
昨日の夕食会でも悪魔の視界に入らないよう気を配り、終始怯えていたように思う。
きっと悪魔の噂を思い出したんだろう。
可哀想だが自業自得なので何も言えない。

「アルメリア!頼む!レオナルドの命だけは助けてほしいとセドリック王子にお願いしてきてくれないか?!」

あの後事の顛末を知った父からそう懇願されたけれど、私に言われても困るだけだ。
そもそも忠告を無視した兄が悪いのに、その尻拭いを私にさせようとするなんてあまりにも酷すぎる。

(どうせ悪魔はもう忘れているわよ)

今はアルフレッドを愛でるのに忙しいから、何か事を起こすとしたら機嫌を損ねた時だろう。
アルフレッドが悪魔を怒らせないことを願うばかりだ。

そう思って憂鬱な気分を吹き飛ばそうと気分転換に朝の散歩に出たところでガヴァム王国の王子に出くわした。
最初は誰かわかっていなかったのだが、兄の従者が案内していたのでもしや兄に呼び出されたのではと思い話しかけたらビンゴだった。

(ガヴァム王国の王子をお兄様が呼び出すなんて…どういった要件なのかしら?)

呼び出される心当たりはあるのかと聞いたら『昨夜襲撃された件かもしれないけれど一人で呼び出されたから多分違うと思う。正直どういった要件で呼ばれたのかわからない』と首を傾げていた。
あの恐ろしい悪魔を『親切な方』呼ばわりする兎に角変わった王子ではあったが、話した感じ優しげではあったのであの悪魔もきっとこの王子には優しく接したんだろうと無理矢理自分を納得させた。
それよりも、あの兄が他国の王太子に一体何の用だろう?
それが気になって仕方がなかった。
だからその王子を送り出した後、こっそり扉に耳をつけて内容を聞こうとしたんだけれど、兄の楽しげな声しか聞こえてこなかった。
ただの友人関係なんだろうか?
そうは思ったけれど、もし違っていたらと考えると怖くて仕方がなかった。
こうして和気藹々と話した後に借金の申し入れでもしてしまったらと気が気でない。

(やっぱりこれは相談案件よね?)

とは言え父も母も全く頼りにはならない。
頼るならいつも相談に乗ってくれるアルフレッドだろう。
けれど今アルフレッドの隣にはあの悪魔が漏れなくついてくる。

(うぅぅ…。でも、背に腹は代えられないわ)

どうか致してる真っ最中ではありませんようにと祈りながら二人の部屋のドアをノックし、外から話しかける。
間違ってもここで中に突入をしてはいけない。
アルフレッドが恥ずかしがって逃げたら一気に悪魔の機嫌は悪くなるからだ。
扉越しなら多少はマシだろう。
そして至急相談したいことがあると持ち掛けると、嫌そうではあったが一応中に入れてもらえて、話も聞いてもらえた。

けれど予想はできても兄がどういった意図でロキ王子を呼び出したのかがわからないと何もできないというのが現状だ。
さてどうしたものかとあの悪魔まで悩んでいるほど。
『面倒だからいっそ国を滅ぼすか』と極端な結論に至られないことを願うばかりだ。
そうしてドキドキしながら悪魔の言葉を待っていたら、兄のところから先触れがやってきた。
私からしたら死のカウントダウンが始まったのではと戦々恐々としてしまう事態で、思わずアルフレッドの方を見てしまう。

(いざという時は貴方だけが頼りよ、アルフレッド!)

兄の首が飛ぶ前に悪魔を止めてねと涙目で訴えるとアルフレッドは心得たとばかりに力強く頷いてくれる。
これでいくらかはマシだろう。
きっと兄は死ななくて済むはず。
そうやって密かに対策を取っていると兄がここへとやってきた。
何故か────ロキ王子と一緒に。

そして入ってきた扉がパタンと閉まると同時にそれはもう見事な土下座を披露してきたので、一瞬気が触れたのかとさえ思ってしまった。

「大変、申し訳ございませんでした!!」
「…………」

これまで兄がこんな風に謝る姿なんて見たことがなかった。
見たことがあるとしたら「ごめんごめん。悪気はなかったんだよ~」と軽く笑いながら謝る姿だけだ。
あんな謝罪を悪魔にしようものならきっと更に怒らせていたことだろう。
だからこそ何が起こったのかがわからない。

「うぅ…。他国を巻き込みとんでもないことを要求しようとした私は世界一の愚か者です!踏まれても仕方のない犬です!鞭打たれても文句は言えません!どうかお好きなように罰を与えてくださいー!」

(え?あれ?言ってること、何かおかしくないかしら?)

そう思ってちらりとアルフレッドの方を見たらアルフレッドは何故か蒼白な顔でロキ王子をガン見していた。
それに釣られるように私もロキ王子へと目を向けたのだけれど……。

(お、怒ってる~~~~?!)

廊下で話した時の穏やかな姿はそこにはなくて、物凄く冷たい目で蔑むように兄を見下ろす姿が────。

(お兄様?!あんな穏やかな人を怒らせるなんて何を言ったの?!)

それともこの場に無理矢理連れてこられたことに対して怒っているのだろうか?
まあ確かに怒りたくなる気持ちもわからないでもない。
だってこの王子からしたら全く関係のないことに巻き込まれたということなのだから。
それでも一応悪魔に口添えしてくれているところは優しいと思う。
ただちょっと本音が漏れてるところがいただけないけれど…。

「セドリック王子。レオナルド皇太子はセドリック王子に誠心誠意謝りたいと俺なんかを頼ってきました。どうやら本気で反省しているようなので、後は煮るなり焼くなり本人の望むようにしてやってください」

『煮るなり焼くなり』ってかなりお怒りですね?
後でちゃんと兄を叱っておくので許してくださいね。
そんなことを思っていたら急に悪魔が嗤い出した。
怖い!死の宣告だったらどうしよう?!

「くっ…はははっ…!ロ、ロキ王子、身内が迷惑をかけたようで申し訳なかったな」
「いえ。皇太子殿下曰く、俺を親友として頼ってくれたらしいので…」

しかもあの悪魔が兄を身内と呼び、謝罪まで?!

(え?何?実はこの二人、仲が良かったりするのかしら?)

そう言えばロキ王子はこの悪魔のことを親切とかなんとか言っていたような…。
あり得ない話だけれど、実は悪魔はこの王子のことを気に入っているのだろうか?

(で、でもロキ王子はあのカリン王子の弟だし……。実は嫌がらせの機会を狙ってるとかそういうことだったりしないかしら?)

そう思っていたら────。

「ククッ…し、親友……。そうか。ではレオナルド皇子への罰はそれに決まりだな」
「……?」
「レオナルド皇子。今後ふざけたことをしでかしたらロキ王子にしっかり躾けてもらうことを罰とする。それに承諾するのなら今回の件は不問としよう」
「…………っ!!」
「……迷惑なのですが?」

(やっぱり────!!)

親切にして油断させておいて、兄をダシにここぞとばかりに嫌がらせを口にした悪魔に、やっぱり悪魔は悪魔だったと愕然とする。

(ああ…可哀想なロキ王子)

ロキ王子に嫌がらせの言葉を吐いた悪魔は終始楽しそうだが、虐めないで上げて欲しい。
けれど健気なロキ王子は凄く嫌そうな顔はしたもののそれ以上何も言ってはこなかった。
きっとこの悪魔には言っても無駄だと察したのだろう。

(何もしてあげられなくてごめんなさい)

申し訳ないけれど取り敢えず殺されそうな雰囲気ではないので、そこだけが救いだと思って許してほしい。

何はともあれロキ王子のお陰で悪魔は機嫌が良さそうだし、兄の命も助かったようなので一安心と思っていいだろうか?
巻き込んでしまって本当に申し訳なかったので、あとで御礼と謝罪をしておこう。
父にも報告に行かなければならない。

(ロキ王子が悪魔の機嫌を直してくれたから助かったって伝えておけば会議でも手助けして下さるわよね)

そう思い、この後すぐに知らせに行こうと思ったのだった。

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