【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

オレンジペコ

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【王宮騒動】

閑話5.国王と姫のお茶の時間 Side.ブルーグレイ国王

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※国王の心境も知りたいと言ってくださる方がいらっしゃったので、ここで投下しておきますね。
宜しくお願いしますm(_ _)m

****************

私はこの大国ブルーグレイの国王、ヴィンセント=プリモ=ブルーフェリア。
息子セドリックの実の父親だ。
息子は昔からよくできた息子で、とても優秀な王子だった。
だからこそ期待を寄せ、『国のためにあれ』と早いうちから国政を学ばせ仕事を手伝わせた。

妃はキャンキャン吠えて『もっと優雅で王子様然とした素敵なキラキラ王子に育てて!』と文句を言っていたが、馬鹿らしいのでずっとスルーしていたら、怒って『もう国に帰る!』と家出してしまいそれっきりだ。
因みに執拗な家出するする詐欺の末に出て行かれたので、愛想も尽きていたし追い掛ける気はない。
離縁はしていないので戻ってきたくなったら勝手に戻ってくるだろう。

そうしてセドリックに相手の裏の裏まで読むよう徹底して教え込み、悪人に情けは掛けぬよう指導し、完璧な王太子に育て上げたはずだったのに…。

「……息子が怖い」

気づけば極悪非道と周辺諸国にまで恐れられる王子として有名になってしまっていた。
小国と大臣が手を組んでよからぬことを企んでるようだからちょっと懲らしめてやってくれないかと初仕事を振ってやっただけだったのに、国を本当に潰してくるとか…怖すぎないか?
しかも本人は何が悪いのだと言わんばかりに全く悪気なくやっているので、こちらも怒るに怒れない。
悪いことをしていたのだから当然。そう息子に教えてきたのは他でもない自分なのだ。

(ちょっと…育て方を間違ってしまったかもしれないな…)

私自身は然程生真面目な性格ではないので、王太子時代はやんちゃして親を困らせたりしたものだが、セドリックの場合はやんちゃどころではないのが怖いのだ。

(困ったな…)

今からでも誰かストッパーになってくれる者はいないかな?
そう思って周囲を見回してみるが、全員セドリックを恐れているのでストッパーになれる者がいない。
困った。本当に困った。

それに加えて嫁になってくれる相手まで見つからない。
これには本気で困って公爵令嬢から下の男爵令嬢まで全てに当たってみたが全部泣きながら断られてしまった。
周辺諸国の姫達にも揃って断られ、もう打つ手なしかとガックリしていたところで当の本人から一つの提案があった。
要約すると、弱みを使って無理矢理嫁がせればいいじゃないかという何とも酷い提案だった。
本当に血も涙もない非道な奴だなぁと思ったものだが、もうそれしかないのは明白だったので、仕方なく手を打ち借金で大変なことになっているミラルカ皇国に打診してなんとか姫を嫁がせてもらえることになった。
姫には大変申し訳ないが、背に腹は代えられないので許してほしい。

そうして嫁いで来てくれた姫はセドリックよりも8才も年下で、年相応の可愛らしい少女だった。
可哀想に顔を合わせて早々セドリックから殺気を飛ばされて怯え切ってしまっていた。
その目は潤んでいて今にも泣きだしそうだ。
こんな可愛い少女を甚振るなんてやめてやれと思ったところでセドリックが不意に別の人物に目を向けたのを感じた。
どうやら姫の護衛騎士のようだ。
その男はセドリックに臆することなく真っ直ぐに言葉を紡ぎ、堂々とセドリックに向き合った。

(こ、これはっ!)

セドリックもこの男にはとても興味が惹かれたようで会話を楽しんでいる。
それを見てこれはもしかしたらセドリックへのいいストッパーになってくれるのではと期待を寄せたのだが…。


***


「陛下。アルフレッドがまた王子を怒らせてしまったようですわ」
「そうか。困ったものだな」

姫が嫁いできてからこうしてたまに一緒にお茶を飲んでいるのだが、その度にこうしてセドリックと側妃アルフレッドの話を聞くことになっている。

セドリックが姫の護衛騎士であるアルフレッドを気に入りすぎて側妃にと言い出した時はどうしようかと思ったが、今ではそれを了承してよかったなと思っているし、当初の狙い通りいいストッパー役にもなってくれてはいるからありがたい限りだ。

アルフレッドの存在のお陰でセドリックは日増しに柔和な表情を見せるようになり、人らしい感情を抱き始め、周囲もそれに釣られるようにセドリックに親切にアドバイスまでし始めた。
それによって王宮内の雰囲気は随分良くなったように思う。
それもこれもアルフレッドがセドリックの側妃になってくれたからだろう。
これを機に法を改正して同性婚をありにしてもいいかもしれないなと思っている。

ただ難点を挙げるなら、セドリックを頻繁に怒らせるところが困りものと言える。
割れ鍋に綴じ蓋で似合いの夫婦ではあるのだが、セドリックを振り回して殺気を巻き散らさせるのは勘弁してもらいたい。
すぐに出て行こうとするところは私の妃そっくりだなぁと妙な親近感を抱いてしまうのだが、迷惑なのでやめてほしいし、寝込まれた時も大変だった。
どうにかセドリックと仲良くやっていってほしいものだ。

ちなみにセドリックが正妃としての姫をないがしろにしている点はどうかと思ってはいるのだが、姫としては怖いセドリックの相手を全部アルフレッドが担当してくれているのでありがたいとのこと。
なんとも心の広い姫だ。

王太子妃としての仕事もきちんとこなし、子もちゃんと作ってくれたのだからこれ以上求めるのは酷だろう。
だからせめてもの慰めに相談役としてこうしてたまに一緒に茶を楽しんでいたりする。
愚痴だってなんでも溢してくれていいし、普段セドリックに言えないこともこの席では気軽に言ってくれて構わない。
我々の仲はとても良好だ。
姫も最初は兎も角今ではすっかりリラックスできている様子。

「姫。大変だとは思うがあの二人の仲が上手くいくよう気を配ってやって欲しい」
「はい。私も殺されたくはないので張りきって気を配らせて頂きます」
「すまないな。後で姫の好物である南国のフルーツを届けさせよう。私宛の献上品だからとても甘くて美味しいぞ?」
「まあ!そんな貴重なものを頂いてもよろしいんですか?」
「ああ。姫の喜ぶ顔も見たいしな。いつもセドリックのために気を遣ってくれているのだ。たまには私に気を遣わせてくれ」
「ありがとうございます」

可愛らしい姫の笑顔に癒されながら、自分の妃とは大違いだな…と少し思ってふるりと首を振る。
彼女は他国の姫ではあったが、ある意味押し掛け女房のようなものだったし、この姫とは全然違うのだ。
『思ってたのと違った。王妃の仕事もこんなに面倒だなんて思ってなかったし、もっと好きに贅沢三昧できると思ったのに』と結婚後言われたけれど、だからちゃんと結婚前に言っておいただろうにと溜め息しか出なかったものだ。
『大国ブルーグレイの王太子』に夢見て勝手な幻想を押し付けられたこちらの気持ちも察してほしい。
こんな可愛らしい姫を自分も娶っていれば、セドリックも母を慕ってもう少し怖さ控えめに育ってくれただろうか?
そう考えて……即座に否定する。

(いや。ないな)

あれはきっと元からの性格だと思い直し、そっと手元の茶を啜った。

仕事?ああ、あれは今半分以上セドリックがやってくれているから気にしなくてもいい。
さっさと跡目を譲って引退したいなと以前ちょっと溢したら、アルフレッドとの時間を奪ったら承知しないぞと言わんばかりに睨まれたので、慌てて「仕事を8割やってくれるなら死ぬまで現役でいてやるぞ?!」と叫んだ。

え?おかしなことを言ってる?気のせいだ。
そもそもそんなに気にする必要はない。セドリックはやればできる子だから。
王太子としての仕事もあるし、いきなり8割は無茶なので今で6割くらいだろうか?
渋々ではあるが、私が死ぬまで国王という煩わしい地位に居続けるということで妥協してくれたらしい。
そんなにアルフレッドに構いたいのかと思うがまあいいだろう。

こんな平和な時間を持たせてくれた二人に感謝しながら私はのんびり姫とお茶を楽しんでいる。

「なんだかんだで陛下もちゃっかりしてますよね?」
「私はこれでもブルーグレイの国王だしなぁ」

一方的に息子にやられてばかりではないんだよ────と、茶目っ気たっぷりに姫へと微笑んだ。


****************

※息子を怖がってはいるけど、実はちゃんと自論も持っていて意見も言える国王陛下。
ブルーグレイの国王なだけあってセドに似ているところも多いけど、意外と話しやすいちゃっかりした人です。
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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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