【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

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【国際会議】

67.国際会議⑤ Side.アルメリア

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兄であるミラルカ皇国の皇太子レオナルドは、久しぶりに会う妹の私と甥っ子になるルカを笑顔で迎えてくれた。

「アルメリア。元気そうだな」
「お兄様もご健勝そうで何よりですわ」
「そんな堅苦しい話し方をしなくても前みたいに気さくに話してくれていいのに」

久しぶりに会う兄は相変わらず笑顔でフレンドリーに話してくれるけど、それを子供っぽく感じてしまうのはどうしてだろう?
年は自分より4つ上の20才だ。
ブルーグレイに嫁ぐまでは随分大人に見えたものだけど、今ではとてもそうは見えない。
もしかしたらいつも一緒に居るアルフレッドや王子の年齢が兄よりも上だから余計にそう感じてしまうのかもしれないなと思った。
アルフレッドはいつも王子とじゃれていて子供っぽく見えるけど、あれでも22才だし、考え方も脳筋部分を差し引いても大人だなと感じることは多い。
王子に至っては我儘な子供がそのまま大きくなったような印象は受けるが、怖い部分を見なければ普通に切れ者だと思う。
ああ見えてかなり有能で仕事ができる王子なのだ。
それに比べるとどうしても見劣りしてしまう我が兄。
でもそこが何となく落ち着くから、改めて帰ってきたんだなと安心できるのかもしれない。

(だってお兄様は表情一つとってもわかりやすいし、間違っても殺気なんて巻き散らさないもの。王子とは大違いだわ)

毎日毎日恐ろしい王子の顔色を窺ってきたから、今ではすっかり王子の表情一つで考えていることが読めるようになってしまったけど、元々はそんな器用なことができる自分ではなかった。
それもこれもアルフレッドが王子に気に入られたからこそ身に着けたスキルと言えるだろう。

「それでお兄様。私を呼んだのはこの子の顔を見たかったからだけではないんでしょう?」
「え?ああ、なんだ。アルメリアにはお見通しか。実はちょっと困ったことが起こってて…」
「なんでしょう?」
「その……母上がどうやらやらかしたらしいんだよ」
「何をです?」
「その……」
「何をです?」

あまりにも言い渋るからなんだか嫌な予感がしてつい強く問い質してしまう。

「…………借金して鉱山を買っちゃったみたいなんだけど、そこ…ほとんど取り尽くされてしまった鉱山だったみたいで……」
「ばっ…!」

一瞬馬鹿じゃないのかと口走りそうになったが、必死に言葉を呑み込む。
多分母としては借金返済のために思い切ったのだろう。
娘を借金返済のために大国に売り飛ばすようにして嫁がせたのを引け目に感じたのかもしれない。
それにしたって酷い話だが。

「……それで?」
「えっと…」
「……お兄様?」
「悪いんだけど、王子にお願いして少し援助してもらえないかな…と思って」

(…………終わった)

その言葉に一気に気が遠くなってしまう。
いくらなんでもそれはない。
そんなことを口にしたら最期、殺されてしまうではないか。
跡取りはもう産まれているし、自身は側妃としてアルフレッドを囲っているのだから私の命なんて紙切れのようなものだ。
そんな紙切れから多額の借金を申し込まれたら────。

(切り捨てられておしまいね……)

けれどそんな私の気持ちなんて全く気付くことなく、兄は困ったように懇願してくる。

「なあアルメリア。頼むよ。この通り!跡継ぎを産んだお前の頼みなら王子は融通を利かせてなんでも聞いてくれるだろう?」

(聞いてくれるわけないでしょう?!)

「返済が必要なら無利子で50年かけて俺が返すって言ってくれたらいいから」

(そんなこと言ったら奴隷に落とされて働かされるわよ?!国を潰してでもやりそうで怖いわ!)

兄はこんなにも考えなしの稚拙な人だったかしらとつい重い溜息を吐いてしまう。
頭が痛くて仕方がない。

「…………お兄様」
「言ってくれる気になったか?」
「申し訳ないですがお断りさせて頂きます。もし納得がいかずどうしてもと言うのであれば、アルフレッドに手順を踏んだ上で頼んでください」
「アルフレッドに?」

多分自分から言うよりもアルフレッドに頼んでもらった方がまだマシだ。

「う~ん…そっか。確か王子の愛人になってくれてるんだったっけ?確かにそっちからも言ってもらえれば聞き入れてもらえる可能性が上がるかもな」

(ちょっ?!)

「お兄様?!間違っても愛人とか本人に言わないでくださいね?それで二人の仲が破綻したらミラルカは滅ぼされますよ?!」
「またまた、アルメリアは冗談が上手いな。国母になったお前の祖国を王子が滅ぼすわけがないじゃないか」

あははと軽快に笑われるが、冗談では済まない。

「あの王子なら普通に滅ぼしにかかると思いますが、それが何か?」

それこそ借金の申し入れよりも怒らせる確率は高い。
だから真剣な顔でそう伝えてみる。

「…………冗談だよな?」
「冗談ならよかったですね?」
「…わかった。まあそんなにピリピリしなくても大丈夫だろう。アルフレッドを呼んでもらえるか?」
「わかりました。でも王子がついてくる可能性は高いと思うので、その時は絶対に口を噤んでくださいね?」

もうこうなったら破滅覚悟で呼び出すしかないだろう。
そうしてアルフレッドを呼び出したら予想通り王子がくっついてきて、イチャイチャいつもの如く戯れていた。

「おいこら、離せよ!皇太子殿下の前だぞ?!挨拶ができないだろ?!」
「大げさだな。非公式の面会なのだし、少しくらい構わないだろう」
「離せってば!レオナルド殿下!お召しによりアルフレッド参上いたしました」

王子をなんとか突き飛ばしてアルフレッドが騎士の礼を取るが、王子は非常に不満げだ。
そもそも呼び出したタイミングが悪かったのだろう。
きっともっとじゃれ合いたかったに違いない。

「いや…うん」

そんな二人のじゃれ合いを初めて見た兄は、その仲の良さに頬を引き攣らせている。
私からしたら最早見慣れた光景ではあるのだけれど、兄にはかなり衝撃的だったみたいだ。
まさかここまで王子がアルフレッドにべた惚れとは思ってもみなかったのだろう。

もしかしたら実際に見るまでは『正妃の私が妊娠中だったから傍に居たアルフレッドに手を付けそのまま愛人にした』程度に思っていたのかもしれない。
だからこそ子供が産まれたなら寵愛も戻るだろうとこんな話を持ち込んできたのかも……。
けれどそれは大きな勘違いだ。

(最初から王子はアルフレッドしか見ていませんから!)

子供は義務で作っただけでそもそも寵愛されていたなんて事実はどこにもないし、そこだけは勘違いしないでもらいたい。

「それで、ご用件は?」
「あ~…その……」

チラチラと王子と私の方を見てくるけれど、私は何も助ける気はない。
そもそもこんな申し入れは無礼だからだ。
諦めて適当にそれらしい話題でも振ってお茶を濁してほしい。

念のためルカは別室に連れ出してもらったけれど、万が一兄がここで王子を怒らせでもしたら、下手をすれば今生の別れになってしまうだろう。
なんとかこのままただの世間話で終わってくれればいいのだけれど────。

けれどそんな私の心中など露とも知らず、兄は余程切羽詰まっていたのか、思い切ったように切り出してしまった。

「アルフレッド!申し訳ないが母上が騙されて廃坑寸前の鉱山を買わされてしまったんだ!悪いがアルメリアと一緒にセドリック王子に口添えをお願いしたいのだが、頼まれてくれないか?!」

その言葉を聞いた途端王子はチラリと鋭くこちらを見遣り、次いでふざけるなと言わんばかりに兄に向けて殺気を向けた。

(あの視線は私の思惑を読み取るためだったわよね…。ええ、ええ。ごめんなさい。止めなかった私が悪かったです)

知っててこれを言わせたのかとお怒りなんですよね?
首を飛ばすほどではないけれど、後で話は聞かせてもらうぞともうそのオーラが嫌という程物語っていますね。

(怖くて泣きそうだわ!お兄様の馬鹿馬鹿ー!)

ちゃんと手順を踏んで、王子が来たら口を噤めと説明していたのに、ここでまさかの直球────もう何も言えない。

ちなみに兄はあまりにも恐ろしい殺気を正面から受け止める羽目になって、真っ青になって腰を抜かしてしまっていた。
ちびっていないといいけれど…。

「…………」
「…………」

誰も何も言えず静寂と恐怖がその場を支配する。
そんな状況を救ってくれるのはやはりアルフレッドで────。

「セド?あんまりレオナルド殿下をビビらすなよ?」
「…………」
「それで、王妃様が廃坑寸前の鉱山を買わされたんでしたよね?」
「あ…あぁ……」

なんとかそう答えた兄に、アルフレッドは別の使い道でも模索したらどうだろうかと話し始めた。

「何か他の鉱石が出ないか確認したり、ダメだったらこう…自然を利用した訓練場みたいにして一般開放してみるとか、近場の木で産業を始めてみるとか……他にも頭を使えば何かしらの資源になるんじゃないかと」

それでもダメなら何かしらの付加価値をつけて売るしかないかなとアルフレッドは言う。
アルフレッドのこういう前向きなところは非常に素晴らしい。
流石元英雄の右腕だ。色々な案をちゃんと持ち合わせている。
しかも今の話のお陰で王子の纏う雰囲気もなんとか落ち着いてくれた。
非常にありがたい。これでやっと息を吐ける。

「流石アルフレッド。ただの脳筋ではないな」
「どういう意味だよ?!」
「そのままの意味だが?」
「絶対馬鹿にしてるだろ?!」
「いや?そこの短絡的な皇太子よりずっと評価しているぞ?」

それってお兄様を短絡的な馬鹿って言ってるんですよね?ええ、ええ。わかります。
私もちょっと思っていたので特に口は挟みませんわ。

「では話はこれで終わりだな。姫。後で事情は聞かせてもらうが、その前にその皇太子の首にしっかり縄をつけておくんだな」
「……大変申し訳ございません」

首吊っておけって言ったわけじゃないわよね?
手綱を握っておけってことでいいのよね?
本当に殺されなくてよかったわ。

「お兄様?取り敢えず、命があって良かったですわね?」

去り行く二人を見送ってにっこりと笑ってあげたら兄は蒼白な顔でそのまま気を失った。
これで少しは反省して成長してくれればいいのだけれど……。

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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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