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【アルフレッドの家出】
57.アルフレッドの家出⑮ Side.アルメリア
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「姫!ただいま戻りました」
そう言って不機嫌に家出していた自分の護衛騎士は満面の笑みで帰ってきた。
後ろには機嫌が良さそうな悪魔の姿も見られるので無事に仲直りできたのだろう。
そんな姿にホッと息を吐く。
「お帰りなさい、アルフレッド。休暇を楽しめたようで安心したわ」
「ええ。ちゃんと姫にもお土産を買ってきたんですよ?王子と一緒に選んだのできっと気に入ってもらえると思います」
にこやかにアルフレッドは私にお土産とやらを渡してくるけれど、あの悪魔が私に選ぶわけがない。
多分それをダシにアルフレッドとデートでも楽しんだんだろう。
容易に想像がつく。
「最近姫は綺麗なものに興味が出てきてたので、お好きな青系統で選んでみました」
「まあ素敵!流石アルフレッドね!護衛騎士の鏡だわ!」
勿論ここで迂闊なことは言わないわよ?
あくまでも私にとってアルフレッドは護衛騎士なのだと悪魔にはしっかり印象づけておかないと首が飛んでしまうもの。
包みを開けるととても素敵な装飾が施された宝石箱が出てきて思わず嬉しくなってしまう。
こんなものを贈られたら勝手に飛び出したことを許さないわけにはいかないだろう。
「アルフレッド。今度からはちゃんと王子にお伺いを立ててから休暇を取ってね?約束してくれるなら今回の件は不問に付すわ」
「え…………。わかりました。以後気をつけます」
「そうしてちょうだい」
こう言っておけば悪魔も何も言ってこないでしょう。
そうしてホッと一息ついたところでアルフレッドが思いもよらないことを言い出した。
「そうだ!姫。今すぐではないんですが、そのうちミラルカからオーガストっていう奴が来るので、その際は俺の副官として採用の方宜しくお願いします」
「…………え?」
「向こうで会って意気投合したんですけど、凄く強い奴で、俺と剣の腕が張るんですよ!だから副官にもってこいだと思ってスカウトしてきたんです!」
アルフレッドは凄くノリノリでそんなことを言ってくるけど、後ろで悪魔が冷たい笑みを浮かべてるからやめてほしいわ。
言えば言う程墓穴を掘っているようにしか聞こえないからやめてちょうだい。
とばっちりで殺されたらどうしてくれるの?
(こ…ここは断るの一択ね)
そう思って口を開こうとしたところで、アルフレッドが先んじてあり得ない一言を口にしてきた。
「あ、ちゃんと王子から許可も取ったので安心してください」
「そ…そう……なの」
本当かと思って疑わしい目を向けた後、悪魔の方を見ると物凄く不本意そうにはしたけれど特に異論はないようだったので本当なのだと察することができた。
きっと余程上手く言い包めたんだろう。
けれど────。
(絶対に後で問題が出るわよね?)
アルフレッドが王子の機嫌を損ねることを多々やらかすに違いないことはこれまでの経験上簡単に予想がつく。
(ごめんなさいね。アルフレッド)
何も知らないふりをして単純に護衛騎士として雇ってあげられればよかったのだけど、私だけではなく皆の命がかかっているのだ。
ここはひとつ頭を使って一応王子側に提案くらいはしておいた方がいいだろう。
「わかったわ。心強い仲間が増えるのは嬉しいことだもの。歓迎させてもらうわ。でも輿入れの時から付いてきてくれている貴方達とは違って今回は新規採用ってことになるでしょ?しかもいきなりの副官。良く思わない者も出てくるかもしれないわ」
「え?そんなの予め伝えておけば大丈夫ですよ」
「ダメダメ。貴方はそうでも皆が皆そうとは限らないのよ。だからもし不具合が出た時の保険として、ブルーグレイ側と給与は折半という形での雇用にしたらどうかと思うのだけれど…どうかしら?」
やんわりと悪意はないのよと提案すると、王子の目がキラリと光った。
どうやら意図は伝わったようだ。
現状アルフレッドはブルーグレイと雇用関係にないから王子はいつもやきもきする羽目になっている。
そこに鎖をつけられる話が出たとしたら乗ってこないはずがない。
アルフレッドは強い相手が好きだから、この気に入り具合からしてオーガストは絶対によい鎖になってくれるはず。
「それはいいな。確かに他の騎士達と上手くいかず姫がやむなくオーガストの首を切ることにでもなったらアルフレッドも悲しむだろう。こちらが半分給与を負担しているのならそちらで切られてもこちら側でスムーズに引き取れるようになるし、アルフレッドにとっても何ら損はない。名案だ」
「でもそんな言い掛かりをつける奴、うちの護衛騎士にはいないと思うんだけどな…」
何かが引っ掛かると言わんばかりのアルフレッドだが、ここで今日の護衛騎士コリンズとレジェが一役買った。
「騎士長!腕が確かなのはいいですけど、信頼関係のない相手に素直に最初から従うなんて俺は嫌ですよ。ほら、合う合わないだってあるじゃないですか」
「そうですよ。ここはひとつ姫が言うように保険的に王子に甘えてみては?騎士長だって強い奴がこの国から簡単に出ていってしまうのは本意ではないでしょう?こっちがダメでもブルーグレイの騎士団に留まってくれるならいいと思います」
「う~ん。まあ確かに一理あるな」
「そうよね。そうしましょう。雇用条件は最初が肝心よ。ではセドリック殿下。それでよろしいでしょうか?」
「ああ。勿論だ。その方が俺としても安心できる」
これでアルフレッドが王子と喧嘩して怒ってそのオーガストという男と二人で家出することはできなくなったし、オーガストがアルフレッド関連で何かやらかした時も王子サイドで罰することができるようになった。
しかも強い相手がそこにいるのならアルフレッドはわざわざ外に行こうとはしなくなるし一石二鳥。
多少嫉妬でやきもきすることはあっても、それ以上に利点があるから王子としてもそこまで文句は言ってこないだろう。
そしてこれで王子はオーガストを殺したり追い出すことがし難くなったとも言えるので、私としてはこちらの方に安堵したと言っても過言ではない。
王子が万が一オーガストを殺したらアルフレッドは怒ってあっさりここを去る可能性が出てくるし、追い出したら追い出したでアルフレッドが追いかける可能性が出てくるのだから。
これでオーガストの身の安全を確実に確保できたと言ってもいいだろう。
自分としてはよく咄嗟に思いついたなと自分で自分を褒めてあげたい気持ちでいっぱいだった。
オーガストを平和的に護衛騎士に迎え、アルフレッドを笑顔でここに引き留め、王子の機嫌を損ねることなくさり気なく応援する。それが何より大切だ。
(平和が一番なのに…本当にアルフレッドは次から次へと厄介事を持ち込むわね)
それでもこの恐ろしい王子の相手をアルフレッドがしてくれているのだから文句は言えない。
惚れてくれてよかったと思うし、二人でイチャイチャしていてくれる分には平和だし全然構わないとも思う。
だからこそ、思うのだ。
「アルフレッドはもうちょっと自分がトラブルメーカーだって自覚した方がいいと思うわよ?」
気苦労が絶えない一番の原因はそれだと思うと溜息を吐いたら、アルフレッドはトルセンにも言われたとかなんとか言ってたから、きっと昔から色々やらかしてたんだろうなとちょっとだけ同情してしまったのだった。
***
それからひと月半後、オーガストという男が父と騎士団長からの推薦状を手に笑顔でやってきた。
「オーガスト=セントーリアです。以後よろしくお願い致します」
そして一目見て「あ、アルフレッドの同類ね」と納得して、やっぱり折半にして正解だったなと改めて思いつつ、他の護衛騎士達や侍女達に紹介したのだけど────。
「レベルが高すぎて化け物級でした」
そんな風に口々に言われていたので、ミラルカにもそんな人材がいたんだと驚いてしまう。
辺境伯の息子らしいけれど、やはりあちらの方は魔物が多いからだろうか?
気になって自分の目でも確かめようと鍛錬場に向かうと……。
「オーガスト!やっぱお前とやると楽しいな!」
「アルフレッドこそ!やっぱお前の剣技は一級品だな」
そんな風に笑い合う二人が視界に入った。
随分仲良くしているところ申し訳ないけど、殺気が近づいているのに気付いているのかしら?
嫌な予感がビシビシ伝わってくるわ。今にも気を失いそうよ?
そんな肩を抱き合いながら心底楽しそうに笑い合うのは危険だからちゃっちゃと離れなさい!
けれどそんな忠告をする暇もなく、悪魔の声音がその場に響いた。
「アルフレッド…」
地を這うようなその声に私含めて周囲の護衛騎士達も震えあがってしまう。
でも────。
「セドリック殿下。先程ぶりです」
給与の関係で先に悪魔と挨拶をしていたせいか、オーガストが悪びれることなく笑みを浮かべそう言い放った。
さすがアルフレッドの同類。規格外だわ。
「オーガスト。俺の側妃から今すぐ離れろ」
「はいはい。そんなに威嚇しなくてもアルフレッドが俺と剣を合わせた後は寝れるんだしラッキーくらいに思ってくれたらいいでしょうに」
それはどういう意味だろう?
「……?」
「え?だって向こうでそう言ってたでしょう?」
「そう言えばそうだな」
「そうですよ。だから安心してアルフレッドとイチャついてください」
どうやらゴッドハルトでそういったやり取りがあったらしい。
そういうことなら安心だ。
「ちょ…っ?!それは向こうだけでの話だろ?!そんな言い方されたらなんか状況悪化に繋がる気がするんだけど?!」
「状況悪化ではなく好転と言ってほしいな」
「はぁあっ?!」
「アルフレッド、頑張れ」
「オーガスト?!俺を腹上死させる気か?!」
「大丈夫大丈夫!こっちは他の護衛騎士達に色々教えてもらっておくから気にせず行ってこい。それにこれもここでの処世術らしいぞ?さっきレジェが教えてくれたんだ。仲良しなお前達の邪魔をしたら馬に蹴られるから笑顔で見送れって」
「なっ?!レジェ、余計なことを言うなよ!この裏切り者────!!」
何だかんだとレジェのアドバイスでオーガスト自身が処世術とやらを身に着けてくれるようなので、あまり心配はいらないのかなとホッと息を吐く。
取り敢えず、レジェには臨時ボーナスを上乗せしておいてあげよう。
そんな風に思いながら、アルフレッドが悪魔に捕まるというある意味いつもの平和な光景を眺めたのだった。
そう言って不機嫌に家出していた自分の護衛騎士は満面の笑みで帰ってきた。
後ろには機嫌が良さそうな悪魔の姿も見られるので無事に仲直りできたのだろう。
そんな姿にホッと息を吐く。
「お帰りなさい、アルフレッド。休暇を楽しめたようで安心したわ」
「ええ。ちゃんと姫にもお土産を買ってきたんですよ?王子と一緒に選んだのできっと気に入ってもらえると思います」
にこやかにアルフレッドは私にお土産とやらを渡してくるけれど、あの悪魔が私に選ぶわけがない。
多分それをダシにアルフレッドとデートでも楽しんだんだろう。
容易に想像がつく。
「最近姫は綺麗なものに興味が出てきてたので、お好きな青系統で選んでみました」
「まあ素敵!流石アルフレッドね!護衛騎士の鏡だわ!」
勿論ここで迂闊なことは言わないわよ?
あくまでも私にとってアルフレッドは護衛騎士なのだと悪魔にはしっかり印象づけておかないと首が飛んでしまうもの。
包みを開けるととても素敵な装飾が施された宝石箱が出てきて思わず嬉しくなってしまう。
こんなものを贈られたら勝手に飛び出したことを許さないわけにはいかないだろう。
「アルフレッド。今度からはちゃんと王子にお伺いを立ててから休暇を取ってね?約束してくれるなら今回の件は不問に付すわ」
「え…………。わかりました。以後気をつけます」
「そうしてちょうだい」
こう言っておけば悪魔も何も言ってこないでしょう。
そうしてホッと一息ついたところでアルフレッドが思いもよらないことを言い出した。
「そうだ!姫。今すぐではないんですが、そのうちミラルカからオーガストっていう奴が来るので、その際は俺の副官として採用の方宜しくお願いします」
「…………え?」
「向こうで会って意気投合したんですけど、凄く強い奴で、俺と剣の腕が張るんですよ!だから副官にもってこいだと思ってスカウトしてきたんです!」
アルフレッドは凄くノリノリでそんなことを言ってくるけど、後ろで悪魔が冷たい笑みを浮かべてるからやめてほしいわ。
言えば言う程墓穴を掘っているようにしか聞こえないからやめてちょうだい。
とばっちりで殺されたらどうしてくれるの?
(こ…ここは断るの一択ね)
そう思って口を開こうとしたところで、アルフレッドが先んじてあり得ない一言を口にしてきた。
「あ、ちゃんと王子から許可も取ったので安心してください」
「そ…そう……なの」
本当かと思って疑わしい目を向けた後、悪魔の方を見ると物凄く不本意そうにはしたけれど特に異論はないようだったので本当なのだと察することができた。
きっと余程上手く言い包めたんだろう。
けれど────。
(絶対に後で問題が出るわよね?)
アルフレッドが王子の機嫌を損ねることを多々やらかすに違いないことはこれまでの経験上簡単に予想がつく。
(ごめんなさいね。アルフレッド)
何も知らないふりをして単純に護衛騎士として雇ってあげられればよかったのだけど、私だけではなく皆の命がかかっているのだ。
ここはひとつ頭を使って一応王子側に提案くらいはしておいた方がいいだろう。
「わかったわ。心強い仲間が増えるのは嬉しいことだもの。歓迎させてもらうわ。でも輿入れの時から付いてきてくれている貴方達とは違って今回は新規採用ってことになるでしょ?しかもいきなりの副官。良く思わない者も出てくるかもしれないわ」
「え?そんなの予め伝えておけば大丈夫ですよ」
「ダメダメ。貴方はそうでも皆が皆そうとは限らないのよ。だからもし不具合が出た時の保険として、ブルーグレイ側と給与は折半という形での雇用にしたらどうかと思うのだけれど…どうかしら?」
やんわりと悪意はないのよと提案すると、王子の目がキラリと光った。
どうやら意図は伝わったようだ。
現状アルフレッドはブルーグレイと雇用関係にないから王子はいつもやきもきする羽目になっている。
そこに鎖をつけられる話が出たとしたら乗ってこないはずがない。
アルフレッドは強い相手が好きだから、この気に入り具合からしてオーガストは絶対によい鎖になってくれるはず。
「それはいいな。確かに他の騎士達と上手くいかず姫がやむなくオーガストの首を切ることにでもなったらアルフレッドも悲しむだろう。こちらが半分給与を負担しているのならそちらで切られてもこちら側でスムーズに引き取れるようになるし、アルフレッドにとっても何ら損はない。名案だ」
「でもそんな言い掛かりをつける奴、うちの護衛騎士にはいないと思うんだけどな…」
何かが引っ掛かると言わんばかりのアルフレッドだが、ここで今日の護衛騎士コリンズとレジェが一役買った。
「騎士長!腕が確かなのはいいですけど、信頼関係のない相手に素直に最初から従うなんて俺は嫌ですよ。ほら、合う合わないだってあるじゃないですか」
「そうですよ。ここはひとつ姫が言うように保険的に王子に甘えてみては?騎士長だって強い奴がこの国から簡単に出ていってしまうのは本意ではないでしょう?こっちがダメでもブルーグレイの騎士団に留まってくれるならいいと思います」
「う~ん。まあ確かに一理あるな」
「そうよね。そうしましょう。雇用条件は最初が肝心よ。ではセドリック殿下。それでよろしいでしょうか?」
「ああ。勿論だ。その方が俺としても安心できる」
これでアルフレッドが王子と喧嘩して怒ってそのオーガストという男と二人で家出することはできなくなったし、オーガストがアルフレッド関連で何かやらかした時も王子サイドで罰することができるようになった。
しかも強い相手がそこにいるのならアルフレッドはわざわざ外に行こうとはしなくなるし一石二鳥。
多少嫉妬でやきもきすることはあっても、それ以上に利点があるから王子としてもそこまで文句は言ってこないだろう。
そしてこれで王子はオーガストを殺したり追い出すことがし難くなったとも言えるので、私としてはこちらの方に安堵したと言っても過言ではない。
王子が万が一オーガストを殺したらアルフレッドは怒ってあっさりここを去る可能性が出てくるし、追い出したら追い出したでアルフレッドが追いかける可能性が出てくるのだから。
これでオーガストの身の安全を確実に確保できたと言ってもいいだろう。
自分としてはよく咄嗟に思いついたなと自分で自分を褒めてあげたい気持ちでいっぱいだった。
オーガストを平和的に護衛騎士に迎え、アルフレッドを笑顔でここに引き留め、王子の機嫌を損ねることなくさり気なく応援する。それが何より大切だ。
(平和が一番なのに…本当にアルフレッドは次から次へと厄介事を持ち込むわね)
それでもこの恐ろしい王子の相手をアルフレッドがしてくれているのだから文句は言えない。
惚れてくれてよかったと思うし、二人でイチャイチャしていてくれる分には平和だし全然構わないとも思う。
だからこそ、思うのだ。
「アルフレッドはもうちょっと自分がトラブルメーカーだって自覚した方がいいと思うわよ?」
気苦労が絶えない一番の原因はそれだと思うと溜息を吐いたら、アルフレッドはトルセンにも言われたとかなんとか言ってたから、きっと昔から色々やらかしてたんだろうなとちょっとだけ同情してしまったのだった。
***
それからひと月半後、オーガストという男が父と騎士団長からの推薦状を手に笑顔でやってきた。
「オーガスト=セントーリアです。以後よろしくお願い致します」
そして一目見て「あ、アルフレッドの同類ね」と納得して、やっぱり折半にして正解だったなと改めて思いつつ、他の護衛騎士達や侍女達に紹介したのだけど────。
「レベルが高すぎて化け物級でした」
そんな風に口々に言われていたので、ミラルカにもそんな人材がいたんだと驚いてしまう。
辺境伯の息子らしいけれど、やはりあちらの方は魔物が多いからだろうか?
気になって自分の目でも確かめようと鍛錬場に向かうと……。
「オーガスト!やっぱお前とやると楽しいな!」
「アルフレッドこそ!やっぱお前の剣技は一級品だな」
そんな風に笑い合う二人が視界に入った。
随分仲良くしているところ申し訳ないけど、殺気が近づいているのに気付いているのかしら?
嫌な予感がビシビシ伝わってくるわ。今にも気を失いそうよ?
そんな肩を抱き合いながら心底楽しそうに笑い合うのは危険だからちゃっちゃと離れなさい!
けれどそんな忠告をする暇もなく、悪魔の声音がその場に響いた。
「アルフレッド…」
地を這うようなその声に私含めて周囲の護衛騎士達も震えあがってしまう。
でも────。
「セドリック殿下。先程ぶりです」
給与の関係で先に悪魔と挨拶をしていたせいか、オーガストが悪びれることなく笑みを浮かべそう言い放った。
さすがアルフレッドの同類。規格外だわ。
「オーガスト。俺の側妃から今すぐ離れろ」
「はいはい。そんなに威嚇しなくてもアルフレッドが俺と剣を合わせた後は寝れるんだしラッキーくらいに思ってくれたらいいでしょうに」
それはどういう意味だろう?
「……?」
「え?だって向こうでそう言ってたでしょう?」
「そう言えばそうだな」
「そうですよ。だから安心してアルフレッドとイチャついてください」
どうやらゴッドハルトでそういったやり取りがあったらしい。
そういうことなら安心だ。
「ちょ…っ?!それは向こうだけでの話だろ?!そんな言い方されたらなんか状況悪化に繋がる気がするんだけど?!」
「状況悪化ではなく好転と言ってほしいな」
「はぁあっ?!」
「アルフレッド、頑張れ」
「オーガスト?!俺を腹上死させる気か?!」
「大丈夫大丈夫!こっちは他の護衛騎士達に色々教えてもらっておくから気にせず行ってこい。それにこれもここでの処世術らしいぞ?さっきレジェが教えてくれたんだ。仲良しなお前達の邪魔をしたら馬に蹴られるから笑顔で見送れって」
「なっ?!レジェ、余計なことを言うなよ!この裏切り者────!!」
何だかんだとレジェのアドバイスでオーガスト自身が処世術とやらを身に着けてくれるようなので、あまり心配はいらないのかなとホッと息を吐く。
取り敢えず、レジェには臨時ボーナスを上乗せしておいてあげよう。
そんな風に思いながら、アルフレッドが悪魔に捕まるというある意味いつもの平和な光景を眺めたのだった。
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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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