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【アルフレッドの家出】
56.アルフレッドの家出⑭
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(全く、何考えてんだよ?!)
今日は夜中にいきなり訳の分からない理由で襲われて、朝起きても挿れっぱなしにされてたせいでトイレに駆け込む羽目になった。
気分は最悪だ。
トルセンに言って薬をもらい、その足でオーガストのところに行って剣を合わせた。
腹立たしくてちょっと剣筋が荒くなってしまったけど、オーガストは楽し気にしていたからまあいい。
こうして互角に打ち合えるのはやっぱり嬉しくて、剣を合わせれば合わせるほど副官になってくれないかなという気持ちが増してきてしまった。
セドとの打ち合いも勿論楽しいが、ああ見えてセドは忙しいのだ。
王太子としての仕事があるからどうしてもずっと俺に付き合って剣を合わせるわけにもいかない。
その点オーガストなら訓練も兼ねていつでも剣を合わせられるし、俺も好きな時に腕を磨けるから嬉しいのだ。
「アルフレッド!ちょっと試したい技を思いついたんだけど、試してもいいか?」
「もちろん!」
こうして切磋琢磨できるのもまたたまらなく楽しく感じられる。
キキンッ、キンキンッ!と小気味よく響くこの剣の音がたまらなく自分を高揚させてきて、もっともっと打ち合いたくなってしまう。
どうせ今日は最終日なのだ。思う存分剣を合わせようと俺もやりたかった技をオーガストに沢山試した。
終わった後はもう俺達親友だよなって感じで笑顔で剣の柄をコツンと軽く合わせていたほど。
こんなに気が合う相手はトルセン以外では初めてだ。
「なあオーガスト。本気で俺の副官としてブルーグレイに来ないか?姫には話を通しておくし、給料も結構出るぞ?」
「あ~それな。行きたいのはやまやまだけど、あの王子が許さないだろ?」
お前にぞっこんだしとオーガストが困ったように言ってくる。
セドのことなら気にしなくてもいいのに。
「セドは気にしなくていいぞ?どうせ給料は姫から出るし」
「姫から?」
「そう。姫が嫁ぐ時にミラルカ皇国内に領地をもらってさ、連れていく護衛騎士や侍女達の給与はそこからの収入から賄うようにって言われてて、もし離縁された場合はそこの領地でのんびり暮らすようにって言われたらしい。結構産業が盛んな土地だから収入も多いらしくて、今は陛下に依頼された領主代行が管理してくれてるみたいなんだけど…」
特に問題なく運営されてるから、姫のOKさえもらえれば副官として雇う分には問題はないはずだ。
ちなみに一応王太子妃としてブルーグレイからも金銭はもらっているので、日々のあれこれはそちらで賄っていたりする。
あくまでも俺達の給与はブルーグレイではなくミラルカからというそれだけの話だ。
因みに側妃としても国から金銭は出るらしいけど、俺はあくまでも護衛騎士だからと全部断っている。
だって俺は姫みたいに着飾る場面だってないし、特に剣関連のもの以外にほしいものもないから全部給料で事足りてしまう。
なので実質ブルーグレイと俺の間に金銭のやり取りは存在しないというのが現状だ。
それ故に側妃だなんだと言われても実質なんの効力もなく、自由の身でいられるという訳なのだが。
俺は男だから子供ができるわけでもないし、なんの恩恵もないから側妃と言うのは意味のない称号でしかないとも思うんだけど、その辺は皆どう考えているんだろう?
結局のところ、セドが俺を好きだから側妃ってだけだよな?
まあ俺も好きになったから別にいいんだけど…。割とその辺は謎。
「う~ん…そういうことなら前向きに考えてみようか」
「是非そうしてくれ。俺もお前と毎日鍛錬出来たら嬉しい」
話を戻して、俺がオーガストを積極的にスカウトしてたらトルセンがちょっとだけアドバイスをしてくれた。
どうもこのまま一緒にオーガストがブルーグレイに行くのは上手くいかなくなる可能性が高く、非常にマズいらしい。
だから日を置いてから改めて姫の護衛騎士として正式にブルーグレイを訪問してはどうかと言われた。
「このままごり押ししても王子はアルフレッドを取られたくないからきっと難癖付けてやめさせようとするだろう?」
「ああ。それはありそうだな」
「だからまずはお前が王子にアピールしておくんだ」
「何を?」
「だから、オーガストが来た時の利点だ」
「ああ。俺が毎日手合わせできるようになるから嬉しいって言えばいいんだな?」
「この馬鹿!それじゃあ逆効果だろ?!オーガストが来たら護衛騎士の面倒を全部丸投げできるようになるから王子との時間が増えて嬉しいとかなんとか言えばいいんだ!それくらい機転を利かせろこの脳筋!」
「あいたっ!」
「間違ってもこの間のように暴走して口を滑らすなよ?この間失敗しているから、もうほぼ一回きりのチャンスだぞ?」
「わかった。わかったって!」
あれは確かに俺が悪かったけど、副官にってすごく思ったのは確かなんだし許してほしい。
「じゃあ俺はアルフレッドの働きを信じてミラルカに帰って親父にブルーグレイ行きを許可してもらってくる。その後で城に行ってミラルカの陛下と騎士団長の許可を取れば正式に紹介状を書いてもらえるだろう。それを持っていったら姫も雇いやすくなるんじゃないか?」
「そうだな。じゃあオーガストはそうしてくれ。俺はセドを説得しつつ姫に話を通しておくから」
「ああ。そうしてくれ。期待してる」
「任せてくれ」
(う~ん…。オーガストを護衛騎士に迎え入れるためにちょっと気合い入れて頑張るとするか)
失敗はできないからなんとか上手く言ってセドを説得しないとな。
そんな風に話を纏め終わったところでちょうど昼になったので、三人揃って食堂へと足を運ぶとセドの姿があったので合流した。
ちゃんと朝の俺の言葉を聞いて邪魔せずにいてくれたから、ここは許してやるべきかと思っていたら向こうから話しかけてくる。
「アルフレッド。朝の件はちゃんと反省したから、午後からは姫への土産物を一緒に買いに行かないか?明日には帰るし、いいタイミングだと思うんだが」
「…それもそうだな」
ちゃんと反省してくれたんならいいぞと言って笑ってやったらどこかホッとしたように俺を見た後で、オーガストにチラッと目を向け、なにやら思わせぶりな態度をとった。
よくわからないけど、お前には半日しか譲らないぞ的な何かか?
そんな牽制しなくてもいいのに。
どれだけ意識してるんだ?
でもこんなセドを見てしまうと益々ちゃんと考えて話を進めなければと思ってしまう。
(さて…どう説得しようか)
そんなことを考えながら昼食を摂り終え、トルセン達と別れてセドと一緒に街に出た。
「姫の好みはわかるのか?」
「え?まあ一応?」
「そうか」
「逆にセドは姫の好みはどれだと思う?」
「さあな。興味がないから全くわからん」
「言うと思った」
そんなやり取りをしながら俺がメインで土産を選ぶ。
姫は若いだけあって可愛らしいものが好きだ。
でも最近はちょっと背伸びしたいのか綺麗なものにも興味津々。
だから俺は海をイメージした綺麗な水色メインの宝石箱を手に取り、そこに綺麗な貝殻が散りばめられたものをいろんな角度で確認して、これなら気に入るだろうと思う物を厳選し購入することにした。
決して子供っぽくはなく、かといって大人過ぎない上品で美しい宝石箱。
うん。これならきっと喜んでもらえるだろう。
「姫は最近ピンクよりも落ち着いた青系統の色の方が好きだから覚えとけよ」
「そうか」
「うん。あ、ついでにこれも買おうかな」
その宝石箱の近くにセドに似合いそうなカフスを発見してそっちも一緒に購入する。
「こういう時にしかお金って使わないし、ちょうど良かったな」
そして店を出てからそれをセドに渡して、たまに気が向いたら使ってみてくれよなって言って笑ったら目を丸くされて驚かれたんだけど、何かおかしかっただろうか?
「俺にか?」
「うん。だって姫にだけっておかしいだろ?」
どっちも大事だしって言ってやったら路地裏に連れ込まれそうになったから慌てて抵抗して何とか引き戻した。
正直何がスイッチだったのかさっぱりわからない。
俺としては素直に受け取ってくれるだけでいいんだけどな?
「アルフレッド。お前は欲しいものはないのか?」
でも向こうの方からそんな風に言われたから、ちょっと考えてここでオーガストの件を言ってみようかなと慎重に口にしてみる。
「そうだな。急にほしい物って言われても困るけど、オーガストを副官にしてくれたらセドとの時間が増えていいかなとは思う」
「……つまりお前が欲しいものは、こうした物ではなく俺との時間ということか?」
「そう」
「そういうことならあの男を副官に迎えることを許可してもいい」
「…!やった!じゃあ姫には俺から言っておくな」
「ああ。その代わりそこまで言うのなら、帰ったら剣よりも俺を優先するんだぞ?」
「え?それは無理」
「…………アルフレッド?」
「だってセドとの剣の打ち合い時間削ったら面白くないだろ?俺、あの時間を一番楽しみにしてるのに、酷くないか?」
「…………そういうことなら許そう」
「うん。早くセドの剣も出来上がるといいな。オリハルコンの剣でお前とこれでもかと打ち合いたいから凄く楽しみにしてるんだ!」
絶対毎日が楽しくなるよなってウキウキ話してたら道のど真ん中なのに抱き寄せられて唇を塞がれてしまった。
「んんんんん────っ?!」
「本当に、剣バカで困った側妃だ」
そんな風に言いながらもセドは蕩けるように甘い顔で俺を見て、もう帰ろうと言いながら腰を抱いてきた。
まあ買い物はもう終わったし、いいんだけど…。
なんかグイグイ帰りを急いでないか?
しかもこのままベッドに直行しようとしてないか?
(ちょっと待て!!)
流石に嫌な予感がする。
「あ、明日帰るなら、今日はこれから美味しい物でも食べに行かないか?!」
「ご馳走なら目の前にあるからな。早く食べたいものだ」
「ちょ、間違ってる!間違ってるから!俺はご馳走じゃない!ご馳走じゃないぞ?!」
「どこからどう見てもご馳走だ。大丈夫。目が覚めたら船の上だ。俺が責任もって優しく優しく国に連れ帰ってやるからな」
「それ、トルセン達に帰りの挨拶させる気ないだろ?!」
「ないな」
「この、極悪王子────!」
結局昼のあの時にじっくり話しておいて正解だったということか?!
なんだかんだで、オーガストの件はちゃんと許可は取ったからな?!忘れるなよ?!
そうしてぎゃあぎゃあ言いながら部屋に帰った俺はセドにこれでもかと激しく抱かれて、セドの宣言通り目が覚めたら船に乗せられていて、トルセンにもオーガストにも挨拶できないままゴッドハルトを後にしていた。
後で手紙は送るつもりだけど、常識外れの王子だとトルセンに呆れられていないだろうか?
仕方がないから、手紙だけじゃなくお詫びの品も用意して一緒に送ろうかなと思った。
取り敢えず怒って飛び出した家出ではあったけど、これ以上ない剣友達をゲットできたなかなかいい休暇だったとだけ言っておこう。
今日は夜中にいきなり訳の分からない理由で襲われて、朝起きても挿れっぱなしにされてたせいでトイレに駆け込む羽目になった。
気分は最悪だ。
トルセンに言って薬をもらい、その足でオーガストのところに行って剣を合わせた。
腹立たしくてちょっと剣筋が荒くなってしまったけど、オーガストは楽し気にしていたからまあいい。
こうして互角に打ち合えるのはやっぱり嬉しくて、剣を合わせれば合わせるほど副官になってくれないかなという気持ちが増してきてしまった。
セドとの打ち合いも勿論楽しいが、ああ見えてセドは忙しいのだ。
王太子としての仕事があるからどうしてもずっと俺に付き合って剣を合わせるわけにもいかない。
その点オーガストなら訓練も兼ねていつでも剣を合わせられるし、俺も好きな時に腕を磨けるから嬉しいのだ。
「アルフレッド!ちょっと試したい技を思いついたんだけど、試してもいいか?」
「もちろん!」
こうして切磋琢磨できるのもまたたまらなく楽しく感じられる。
キキンッ、キンキンッ!と小気味よく響くこの剣の音がたまらなく自分を高揚させてきて、もっともっと打ち合いたくなってしまう。
どうせ今日は最終日なのだ。思う存分剣を合わせようと俺もやりたかった技をオーガストに沢山試した。
終わった後はもう俺達親友だよなって感じで笑顔で剣の柄をコツンと軽く合わせていたほど。
こんなに気が合う相手はトルセン以外では初めてだ。
「なあオーガスト。本気で俺の副官としてブルーグレイに来ないか?姫には話を通しておくし、給料も結構出るぞ?」
「あ~それな。行きたいのはやまやまだけど、あの王子が許さないだろ?」
お前にぞっこんだしとオーガストが困ったように言ってくる。
セドのことなら気にしなくてもいいのに。
「セドは気にしなくていいぞ?どうせ給料は姫から出るし」
「姫から?」
「そう。姫が嫁ぐ時にミラルカ皇国内に領地をもらってさ、連れていく護衛騎士や侍女達の給与はそこからの収入から賄うようにって言われてて、もし離縁された場合はそこの領地でのんびり暮らすようにって言われたらしい。結構産業が盛んな土地だから収入も多いらしくて、今は陛下に依頼された領主代行が管理してくれてるみたいなんだけど…」
特に問題なく運営されてるから、姫のOKさえもらえれば副官として雇う分には問題はないはずだ。
ちなみに一応王太子妃としてブルーグレイからも金銭はもらっているので、日々のあれこれはそちらで賄っていたりする。
あくまでも俺達の給与はブルーグレイではなくミラルカからというそれだけの話だ。
因みに側妃としても国から金銭は出るらしいけど、俺はあくまでも護衛騎士だからと全部断っている。
だって俺は姫みたいに着飾る場面だってないし、特に剣関連のもの以外にほしいものもないから全部給料で事足りてしまう。
なので実質ブルーグレイと俺の間に金銭のやり取りは存在しないというのが現状だ。
それ故に側妃だなんだと言われても実質なんの効力もなく、自由の身でいられるという訳なのだが。
俺は男だから子供ができるわけでもないし、なんの恩恵もないから側妃と言うのは意味のない称号でしかないとも思うんだけど、その辺は皆どう考えているんだろう?
結局のところ、セドが俺を好きだから側妃ってだけだよな?
まあ俺も好きになったから別にいいんだけど…。割とその辺は謎。
「う~ん…そういうことなら前向きに考えてみようか」
「是非そうしてくれ。俺もお前と毎日鍛錬出来たら嬉しい」
話を戻して、俺がオーガストを積極的にスカウトしてたらトルセンがちょっとだけアドバイスをしてくれた。
どうもこのまま一緒にオーガストがブルーグレイに行くのは上手くいかなくなる可能性が高く、非常にマズいらしい。
だから日を置いてから改めて姫の護衛騎士として正式にブルーグレイを訪問してはどうかと言われた。
「このままごり押ししても王子はアルフレッドを取られたくないからきっと難癖付けてやめさせようとするだろう?」
「ああ。それはありそうだな」
「だからまずはお前が王子にアピールしておくんだ」
「何を?」
「だから、オーガストが来た時の利点だ」
「ああ。俺が毎日手合わせできるようになるから嬉しいって言えばいいんだな?」
「この馬鹿!それじゃあ逆効果だろ?!オーガストが来たら護衛騎士の面倒を全部丸投げできるようになるから王子との時間が増えて嬉しいとかなんとか言えばいいんだ!それくらい機転を利かせろこの脳筋!」
「あいたっ!」
「間違ってもこの間のように暴走して口を滑らすなよ?この間失敗しているから、もうほぼ一回きりのチャンスだぞ?」
「わかった。わかったって!」
あれは確かに俺が悪かったけど、副官にってすごく思ったのは確かなんだし許してほしい。
「じゃあ俺はアルフレッドの働きを信じてミラルカに帰って親父にブルーグレイ行きを許可してもらってくる。その後で城に行ってミラルカの陛下と騎士団長の許可を取れば正式に紹介状を書いてもらえるだろう。それを持っていったら姫も雇いやすくなるんじゃないか?」
「そうだな。じゃあオーガストはそうしてくれ。俺はセドを説得しつつ姫に話を通しておくから」
「ああ。そうしてくれ。期待してる」
「任せてくれ」
(う~ん…。オーガストを護衛騎士に迎え入れるためにちょっと気合い入れて頑張るとするか)
失敗はできないからなんとか上手く言ってセドを説得しないとな。
そんな風に話を纏め終わったところでちょうど昼になったので、三人揃って食堂へと足を運ぶとセドの姿があったので合流した。
ちゃんと朝の俺の言葉を聞いて邪魔せずにいてくれたから、ここは許してやるべきかと思っていたら向こうから話しかけてくる。
「アルフレッド。朝の件はちゃんと反省したから、午後からは姫への土産物を一緒に買いに行かないか?明日には帰るし、いいタイミングだと思うんだが」
「…それもそうだな」
ちゃんと反省してくれたんならいいぞと言って笑ってやったらどこかホッとしたように俺を見た後で、オーガストにチラッと目を向け、なにやら思わせぶりな態度をとった。
よくわからないけど、お前には半日しか譲らないぞ的な何かか?
そんな牽制しなくてもいいのに。
どれだけ意識してるんだ?
でもこんなセドを見てしまうと益々ちゃんと考えて話を進めなければと思ってしまう。
(さて…どう説得しようか)
そんなことを考えながら昼食を摂り終え、トルセン達と別れてセドと一緒に街に出た。
「姫の好みはわかるのか?」
「え?まあ一応?」
「そうか」
「逆にセドは姫の好みはどれだと思う?」
「さあな。興味がないから全くわからん」
「言うと思った」
そんなやり取りをしながら俺がメインで土産を選ぶ。
姫は若いだけあって可愛らしいものが好きだ。
でも最近はちょっと背伸びしたいのか綺麗なものにも興味津々。
だから俺は海をイメージした綺麗な水色メインの宝石箱を手に取り、そこに綺麗な貝殻が散りばめられたものをいろんな角度で確認して、これなら気に入るだろうと思う物を厳選し購入することにした。
決して子供っぽくはなく、かといって大人過ぎない上品で美しい宝石箱。
うん。これならきっと喜んでもらえるだろう。
「姫は最近ピンクよりも落ち着いた青系統の色の方が好きだから覚えとけよ」
「そうか」
「うん。あ、ついでにこれも買おうかな」
その宝石箱の近くにセドに似合いそうなカフスを発見してそっちも一緒に購入する。
「こういう時にしかお金って使わないし、ちょうど良かったな」
そして店を出てからそれをセドに渡して、たまに気が向いたら使ってみてくれよなって言って笑ったら目を丸くされて驚かれたんだけど、何かおかしかっただろうか?
「俺にか?」
「うん。だって姫にだけっておかしいだろ?」
どっちも大事だしって言ってやったら路地裏に連れ込まれそうになったから慌てて抵抗して何とか引き戻した。
正直何がスイッチだったのかさっぱりわからない。
俺としては素直に受け取ってくれるだけでいいんだけどな?
「アルフレッド。お前は欲しいものはないのか?」
でも向こうの方からそんな風に言われたから、ちょっと考えてここでオーガストの件を言ってみようかなと慎重に口にしてみる。
「そうだな。急にほしい物って言われても困るけど、オーガストを副官にしてくれたらセドとの時間が増えていいかなとは思う」
「……つまりお前が欲しいものは、こうした物ではなく俺との時間ということか?」
「そう」
「そういうことならあの男を副官に迎えることを許可してもいい」
「…!やった!じゃあ姫には俺から言っておくな」
「ああ。その代わりそこまで言うのなら、帰ったら剣よりも俺を優先するんだぞ?」
「え?それは無理」
「…………アルフレッド?」
「だってセドとの剣の打ち合い時間削ったら面白くないだろ?俺、あの時間を一番楽しみにしてるのに、酷くないか?」
「…………そういうことなら許そう」
「うん。早くセドの剣も出来上がるといいな。オリハルコンの剣でお前とこれでもかと打ち合いたいから凄く楽しみにしてるんだ!」
絶対毎日が楽しくなるよなってウキウキ話してたら道のど真ん中なのに抱き寄せられて唇を塞がれてしまった。
「んんんんん────っ?!」
「本当に、剣バカで困った側妃だ」
そんな風に言いながらもセドは蕩けるように甘い顔で俺を見て、もう帰ろうと言いながら腰を抱いてきた。
まあ買い物はもう終わったし、いいんだけど…。
なんかグイグイ帰りを急いでないか?
しかもこのままベッドに直行しようとしてないか?
(ちょっと待て!!)
流石に嫌な予感がする。
「あ、明日帰るなら、今日はこれから美味しい物でも食べに行かないか?!」
「ご馳走なら目の前にあるからな。早く食べたいものだ」
「ちょ、間違ってる!間違ってるから!俺はご馳走じゃない!ご馳走じゃないぞ?!」
「どこからどう見てもご馳走だ。大丈夫。目が覚めたら船の上だ。俺が責任もって優しく優しく国に連れ帰ってやるからな」
「それ、トルセン達に帰りの挨拶させる気ないだろ?!」
「ないな」
「この、極悪王子────!」
結局昼のあの時にじっくり話しておいて正解だったということか?!
なんだかんだで、オーガストの件はちゃんと許可は取ったからな?!忘れるなよ?!
そうしてぎゃあぎゃあ言いながら部屋に帰った俺はセドにこれでもかと激しく抱かれて、セドの宣言通り目が覚めたら船に乗せられていて、トルセンにもオーガストにも挨拶できないままゴッドハルトを後にしていた。
後で手紙は送るつもりだけど、常識外れの王子だとトルセンに呆れられていないだろうか?
仕方がないから、手紙だけじゃなくお詫びの品も用意して一緒に送ろうかなと思った。
取り敢えず怒って飛び出した家出ではあったけど、これ以上ない剣友達をゲットできたなかなかいい休暇だったとだけ言っておこう。
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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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