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【恋の自覚なんてしたくない】
40.※恋の自覚なんてしたくない⑦
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訪問初日、そこから交渉三日、そして何故か休日を一日。これで五日。
そして今夜はパーティーで明日が使節団を見送る日となっている。
本当に大丈夫だったのかと言ってやりたい。
けれど今夜のパーティーさえ乗り切れば特に問題が起こることなく全て滞りなく無事に終わる。
だから────。
「そんなにベタベタするなってば…!」
護衛騎士の正装をしている自分を抱き寄せるような真似はしないでほしい。
本当は側妃だからとこれでもかと着飾られそうになったけど、それだといざという時動けないだろうと言って無理矢理こっちの正装にさせてもらったのだ。
どうしてもセドの隣にいろと言われたので、苦肉の策で護衛の一人として置いてもらうことにした。
側妃は嫌だ。
それなのにセドはどこまでも俺を側妃扱いしてくるからたまらない。
「アルフレッド。喉は乾いていないか?」
「……職務中なので結構です」
「またそうやって意地を張る。先程までのように砕けた口調で構わないぞ?ほら、肉でもどうだ?」
そう言いながら楽し気に俺の口元に肉を差し出してこないでほしい。
肉は好きだがこんな公の場所で何が悲しくてセドに食べさせてもらわないといけないんだ。
ふざけるのも大概にして欲しい。
「職務中なので結構です」
けれどそんな俺にセドは無理矢理口に肉を突っ込んでくる。
「んぅっ…」
「可愛い側妃に食べさせてやると言っているのだ。素直に食べろ」
可愛い側妃なんて言いながら口に無理矢理突っ込むなよなとモグモグしながら睨みつけると、実に楽し気にしながらもう一口と言って更に突っ込まれた。
俺は男だからいいけど、こんなこと女にしたら嫌われるぞと言ってやりたくて仕方がない。
少なくとも姫なら泣くと思う。
そういう意味ではターゲットが俺でまだよかったと言うべきなんだろうか?
そうこうしているうちに王への挨拶を済ませたカリン王子達一行がやってきて、セドに挨拶をしてくる。
「セドリック王子、アルフレッド殿、本日は盛大なパーティーを催していただき有難く思います」
「いや。明日は出発も早いと聞いている。せめて今夜は楽しんでいってほしい」
特に出立時刻は早くはなかったはずなのに……それ、明日はさっさと帰れって言ってないか?
いいのかそれでと思いながらカリン王子の様子を窺うが、彼はどこまでも笑顔だ。
「気遣いありがとうございます。では他の貴族の方々とも交流をして互いの友好を深めたく存じます」
そしてあっさりとその場を立ち去ってくれたので、俺としても少し肩の力が抜けた。
今のところこのパーティー会場におかしな動きをする者の姿は見られないし、ある程度気をつけておけばこのまま無事に終わるはず。
「セド、念のため毒とかの暗殺には気をつけろよ?」
酒は一気に飲まず舌の上で少量転がして安全をできるだけ確認してから飲むことと言ってやったらそれはもういい笑顔で「わかってる」って言ってきた。
別に…お前を心配して言ったんじゃないからなって言ったんだけど、きっとセドは聞いてないと思う。
だってすっごく嬉しそうだったから。
「全く…俺は護衛として言ってやったのに……」
なんだか腹が立って、他の護衛騎士に目配せしてからそっとその場から離れて飲み物を取りに行く。
さっき食べた肉の味が濃かったせいで喉が渇いたのだ。
姫の護衛中なら絶対我慢しただろうけど、このままセドの傍に居続けるのも息が詰まるし、抜け出す口実にしてしまったというのもある。
俺以外にも護衛はいるからちょっとくらいは大丈夫だろう。
「どれにしようかな…っと」
そう言いながら置かれている飲み物を見ていると、給仕がやってきて冷えたシャンパンはいかがですかと言ってきたのでそれを貰うことにした。
もちろんさっきセドに言ったように毒が入ってないかもちゃんと確認してから飲んだ。
そして飲みながらさり気なく本来の主である姫の姿を探す。
姫は今日はカリン王子の傍に居て、各貴族達の紹介などをやっている。
だから危険なことはないとは思うのだが、安全確認と念のため何か問題が起きていないかは確認しておきたかった。
姫は王子と違って自衛できないから心配なのだ。
そうして姿を探していると、意外にも向こうの方からこちらへとやってきてくれてホッとする。
勿論カリン王子も一緒だ。
「アルフレッド殿。セドリック王子のお傍にいなくてよいのですか?」
「え?ええ、まあ。少し喉が渇いたので離れただけですぐに戻りますよ」
「そうですか。そちらはシャンパンでしょうか?乾杯させて頂いても?」
「はい」
特に断る理由もないので俺は近くにいた給仕に声をかけ、カリン王子にも同じものを持ってきてもらう。
そうしてカチンとグラスを合わせて乾杯をした。
それから色々と話題を振られるがままに話をしていたのだけれど……。
(うぅ…なんだ?身体が…熱い……?)
この感じは毒ではないと思うが、酔ったわけでもないのに身体に熱が籠って仕方がなかった。
しかも段々とその身体の熱は増している気がして、何かがおかしいと感じてしまう。
「アルフレッド殿?どうかされましたか?」
こちらの様子がおかしいと感じたのかカリン王子がそう声をかけてくれるが、ここで変に気づかれるのはマズいような気がして何でもないと笑顔で躱した。
けれどカリン王子は何を思ったのかグッと俺に近づいてきて俺の顔色を確認するようにジッと見つめてくる。
「アルフレッド殿…どうも顔が赤く、熱があるように見えますが?具合でも悪いのですか?」
「だ、大丈夫です。お気遣いなく」
「もしかして酒に酔ってしまわれたのでは?無理はなさらず別室で少し休憩致しましょう。座れば多少気分も落ち着くでしょうし」
その親切な言葉に少し心が揺らぐが、エスコートとばかりに王子の手が腰へと触れたところで背中をゾクゾクとした快感が走って驚愕した。
(これ…もしかして媚薬盛られてないか?!)
今更ながらにそんな考えが浮かんで焦りに焦る。
これはマズい。絶対にマズい。
誰が何の目的でそんなものを自分に盛ったのか皆目見当がつかない。
側妃の俺が目障りだったから、他国の使節の前で失態でも犯させようとしたのか?
それとも俺にカリン王子を誘惑させてセドとの仲を悪化させようとした?
いや、逆に向こう側が犯人の可能性もあるのか?向こうが俺を攫うために罠を張った…とか?
(いや、まさかな)
女相手に媚薬を盛るならわかるが、男相手に盛る意味が分からない。
攫うための罠なら媚薬よりも睡眠薬を盛るだろう。
そうは思うが、段々と正常な判断能力が奪われていってしまう。
「さあアルフレッド殿。向こうでゆっくり致しましょう。勿論、退屈はさせませんよ?」
カリン王子が妙に甘ったるい声で囁き、大丈夫だと言いながら優しくエスコートするように誘導していく。
でもその触れられているカリン王子の手が物凄く気持ち悪くて、俺はどうしようもなく嫌だと感じた。
(俺にこんな風に触れていいのは────セドだけなのに…………)
思わずそんな考えがよぎって愕然としてしまう。
前にカッツェに迫られた時以上に拒絶感が酷いのは媚薬のせいなんだろうか?
セドだけなんて…そんな考えは振り払うべきだと思って慌てて首を振るけど、気持ちの悪さだけはどうしようもなかった。
これは由々しき事態だ。
なんとか一刻も早くここから離脱したい。
それなのに、カリン王子の手から抜け出せないほどすでに媚薬に侵されてしまっていて…途方に暮れる。
剣さえあれば大丈夫だと思っていたのに、まさか自分がこんな目に合うなんて思いもよらなかった。
(最悪だ……)
「う……」
そんな俺に姫が気づいてくれたのは幸いだった。
俺の様子がおかしいのを見るや否や物凄い速さでセドを呼びに行ってしまう。
「セドリック殿下!!貴方の寵姫が体調を崩して今にも倒れてしまいそうですわ!」
いや、セドを呼んでくれたのは嬉しいけど、俺は寵姫じゃなく護衛騎士だしそんな情けないことを大声で言わないでほしい。
けれどその声でセドがすぐに来てくれて、あっという間に俺を抱き上げてしまった。
「ああ、これは大変だ。カリン王子、お騒がせして申し訳ない。後のことは父王と私の正妃に任せるので何かあればそちらに。我々はここで失礼させてもらう」
そして俺はそのままセドに抱かれながら会場を後にして、その足でセドの部屋まで連れていかれたのだった。
***
「アル。大丈夫か?」
ベッドに降ろされ、差し出された水をコクリと飲むとほんのり甘い味が口の中へと広がっていく。
水なのに不思議だ。これも媚薬のせいなのだろうか?
「はぁ…セド……。酔ったわけじゃないのに身体…熱い……」
「ああ。媚薬だろう?」
「え?」
「お前が飲んだシャンパングラスに混入されたものだ。暗部の報告も受けているから間違いない」
酒と一緒に取ると効果が倍増するからなと言ってセドがそのまま俺を押し倒してくる。
しかもその後あり得ないことを口にしてきたので俺は一瞬自分の耳を疑ってしまった。
「犯人はカリン王子に買収されていた給仕だ。後で始末しておくよう伝えておこう」
「え……」
「ついでに迂闊なお前にも今からお仕置きだ」
「へ?あ…ぁあっ!」
チュゥッと鎖骨付近を吸い上げられてビクッと快感に身を震わせる。
「俺から勝手に離れていつまでも戻ってこず、あんな王子と呑気に話しているからそうなる」
「はぁ…っ。だって…それは……っ」
「国際交流もいいが、そんなものは姫に任せておけと言っただろう?」
「んんっ…!やめっ…」
敏感な身体を絶妙な力加減で撫で上げられて過剰なまでに反応してしまう。
「ククッ…よく効く媚薬だな。追加で盛らなくてもよかったか?」
その言葉に俺はなんだか嫌な予感がして、恐る恐る確認の言葉を口にした。
「セド?も…もしかして……?」
「前に盛って欲しそうにしていただろう?さっきの水にも混ぜておいてやったぞ?」
「こ、この、最低最悪の極悪王子────!!ひぁあッ!!」
やっぱりかと思って逃げ出そうとしたけど、逃がすわけがないだろうと言わんばかりに囲われて思い切り胸を捻りつぶすように引っ張られ悲鳴を上げる。
「心配するな。最初の媚薬はこちらですり替えておいた軽微で安全なものだし、追加分も少量にしておいた。だから…お前は安心してただ俺の手で快楽に堕ちればいいだけだ。簡単だろう?」
どこまでも悪そうな顔で楽しげに笑うセドに俺はただプルプルと震えて睨みつけることしかできない。
どうしてこんな最悪な変態王子を俺は嫌いになれないんだろう?
「さて…もう攫われる心配もなくなったことだし、存分に可愛がってやるからな」
そしてぺろりと舌なめずりした狼に俺はそのまま襲われたのだった。
【Side.カリン王子】
首尾よく媚薬を盛って、計画通りこのままアルフレッドを手中に入れようと思っていたのに、どうしてこうなった?
気づけば部下達は全て捕らえられ、俺自身もまた牢へと入れられていた。
「俺を誰だと思っているのだ!こんな場所に入れるなど言語道断!無礼だぞ!」
貴賓用の牢だというその場所は確かに他の牢とは違う特別仕様ではあったが、それは部屋が豪華とかそう言う類のものではない。
「どれも素晴らしい責め具でしょう?すべてお金をかけた特別仕様なのですよ?ほら、これなんてカリン王子によく似合いそうですよね?」
そう言いながら恐ろしく艶美な笑みを浮かべる拷問官らしき男は、ソレを手にゆっくりと近づいてきて俺に見せびらかしてくる。
「大丈夫。殺したりはしませんよ?セドリック王子の御命令で、今回は快楽堕ちにしてやれとのことでしたので」
「な…ななな…っ……!」
「アルフレッド殿はある意味我が国の希望であり地雷なんですよ?そんな方に媚薬を盛って手を出そうとするなんて…命知らずもいいところです。さて、では念入りに躾けて差し上げましょうかね?」
「ひ…っ…!や、やめ……」
後日、カリン王子を迎えに来た使者はあり得ないものを目にしてその場で固まってしまった。
「ひ…ぁあ…………あへぇ…」
「ひぃっ!我が国の王太子がこのような姿に……っ!」
権謀術数に長けた王子と持て囃されて将来を有望されていた王子だというのに、最早その姿は見る影もなくただただ快楽に堕ちきった姿でそこにいた。
「どうされますか?セドリック王子から、このままおとなしく連れ帰って何もなかったことにするか、ひと月で国を沈めるかは選ばせてやれと言われておりますが」
しかも国を潰すぞと暗に脅され、崩れ落ちそうな身体をなんとか支えるのに精一杯になる。
(やる。あの噂の冷酷な王子なら絶対にやる……!)
それがわかっているだけに答えはもう一つしかなかった。
「連れ、連れて帰ります…!こちらとしましてはブルーグレイ王国に歯向かう気は一切ありませんので、くれぐれも、くれぐれも王子にはよろしくお伝えください!」
「そうですか。では今後とも友好的なお付き合いをということで」
「はいっ!もちろんでございます!」
こうして事件後、ガヴァム王国では弟王子が王太子となり、何故かカリン王子はその王子の慰み者にされてしまったとか────。
そして今夜はパーティーで明日が使節団を見送る日となっている。
本当に大丈夫だったのかと言ってやりたい。
けれど今夜のパーティーさえ乗り切れば特に問題が起こることなく全て滞りなく無事に終わる。
だから────。
「そんなにベタベタするなってば…!」
護衛騎士の正装をしている自分を抱き寄せるような真似はしないでほしい。
本当は側妃だからとこれでもかと着飾られそうになったけど、それだといざという時動けないだろうと言って無理矢理こっちの正装にさせてもらったのだ。
どうしてもセドの隣にいろと言われたので、苦肉の策で護衛の一人として置いてもらうことにした。
側妃は嫌だ。
それなのにセドはどこまでも俺を側妃扱いしてくるからたまらない。
「アルフレッド。喉は乾いていないか?」
「……職務中なので結構です」
「またそうやって意地を張る。先程までのように砕けた口調で構わないぞ?ほら、肉でもどうだ?」
そう言いながら楽し気に俺の口元に肉を差し出してこないでほしい。
肉は好きだがこんな公の場所で何が悲しくてセドに食べさせてもらわないといけないんだ。
ふざけるのも大概にして欲しい。
「職務中なので結構です」
けれどそんな俺にセドは無理矢理口に肉を突っ込んでくる。
「んぅっ…」
「可愛い側妃に食べさせてやると言っているのだ。素直に食べろ」
可愛い側妃なんて言いながら口に無理矢理突っ込むなよなとモグモグしながら睨みつけると、実に楽し気にしながらもう一口と言って更に突っ込まれた。
俺は男だからいいけど、こんなこと女にしたら嫌われるぞと言ってやりたくて仕方がない。
少なくとも姫なら泣くと思う。
そういう意味ではターゲットが俺でまだよかったと言うべきなんだろうか?
そうこうしているうちに王への挨拶を済ませたカリン王子達一行がやってきて、セドに挨拶をしてくる。
「セドリック王子、アルフレッド殿、本日は盛大なパーティーを催していただき有難く思います」
「いや。明日は出発も早いと聞いている。せめて今夜は楽しんでいってほしい」
特に出立時刻は早くはなかったはずなのに……それ、明日はさっさと帰れって言ってないか?
いいのかそれでと思いながらカリン王子の様子を窺うが、彼はどこまでも笑顔だ。
「気遣いありがとうございます。では他の貴族の方々とも交流をして互いの友好を深めたく存じます」
そしてあっさりとその場を立ち去ってくれたので、俺としても少し肩の力が抜けた。
今のところこのパーティー会場におかしな動きをする者の姿は見られないし、ある程度気をつけておけばこのまま無事に終わるはず。
「セド、念のため毒とかの暗殺には気をつけろよ?」
酒は一気に飲まず舌の上で少量転がして安全をできるだけ確認してから飲むことと言ってやったらそれはもういい笑顔で「わかってる」って言ってきた。
別に…お前を心配して言ったんじゃないからなって言ったんだけど、きっとセドは聞いてないと思う。
だってすっごく嬉しそうだったから。
「全く…俺は護衛として言ってやったのに……」
なんだか腹が立って、他の護衛騎士に目配せしてからそっとその場から離れて飲み物を取りに行く。
さっき食べた肉の味が濃かったせいで喉が渇いたのだ。
姫の護衛中なら絶対我慢しただろうけど、このままセドの傍に居続けるのも息が詰まるし、抜け出す口実にしてしまったというのもある。
俺以外にも護衛はいるからちょっとくらいは大丈夫だろう。
「どれにしようかな…っと」
そう言いながら置かれている飲み物を見ていると、給仕がやってきて冷えたシャンパンはいかがですかと言ってきたのでそれを貰うことにした。
もちろんさっきセドに言ったように毒が入ってないかもちゃんと確認してから飲んだ。
そして飲みながらさり気なく本来の主である姫の姿を探す。
姫は今日はカリン王子の傍に居て、各貴族達の紹介などをやっている。
だから危険なことはないとは思うのだが、安全確認と念のため何か問題が起きていないかは確認しておきたかった。
姫は王子と違って自衛できないから心配なのだ。
そうして姿を探していると、意外にも向こうの方からこちらへとやってきてくれてホッとする。
勿論カリン王子も一緒だ。
「アルフレッド殿。セドリック王子のお傍にいなくてよいのですか?」
「え?ええ、まあ。少し喉が渇いたので離れただけですぐに戻りますよ」
「そうですか。そちらはシャンパンでしょうか?乾杯させて頂いても?」
「はい」
特に断る理由もないので俺は近くにいた給仕に声をかけ、カリン王子にも同じものを持ってきてもらう。
そうしてカチンとグラスを合わせて乾杯をした。
それから色々と話題を振られるがままに話をしていたのだけれど……。
(うぅ…なんだ?身体が…熱い……?)
この感じは毒ではないと思うが、酔ったわけでもないのに身体に熱が籠って仕方がなかった。
しかも段々とその身体の熱は増している気がして、何かがおかしいと感じてしまう。
「アルフレッド殿?どうかされましたか?」
こちらの様子がおかしいと感じたのかカリン王子がそう声をかけてくれるが、ここで変に気づかれるのはマズいような気がして何でもないと笑顔で躱した。
けれどカリン王子は何を思ったのかグッと俺に近づいてきて俺の顔色を確認するようにジッと見つめてくる。
「アルフレッド殿…どうも顔が赤く、熱があるように見えますが?具合でも悪いのですか?」
「だ、大丈夫です。お気遣いなく」
「もしかして酒に酔ってしまわれたのでは?無理はなさらず別室で少し休憩致しましょう。座れば多少気分も落ち着くでしょうし」
その親切な言葉に少し心が揺らぐが、エスコートとばかりに王子の手が腰へと触れたところで背中をゾクゾクとした快感が走って驚愕した。
(これ…もしかして媚薬盛られてないか?!)
今更ながらにそんな考えが浮かんで焦りに焦る。
これはマズい。絶対にマズい。
誰が何の目的でそんなものを自分に盛ったのか皆目見当がつかない。
側妃の俺が目障りだったから、他国の使節の前で失態でも犯させようとしたのか?
それとも俺にカリン王子を誘惑させてセドとの仲を悪化させようとした?
いや、逆に向こう側が犯人の可能性もあるのか?向こうが俺を攫うために罠を張った…とか?
(いや、まさかな)
女相手に媚薬を盛るならわかるが、男相手に盛る意味が分からない。
攫うための罠なら媚薬よりも睡眠薬を盛るだろう。
そうは思うが、段々と正常な判断能力が奪われていってしまう。
「さあアルフレッド殿。向こうでゆっくり致しましょう。勿論、退屈はさせませんよ?」
カリン王子が妙に甘ったるい声で囁き、大丈夫だと言いながら優しくエスコートするように誘導していく。
でもその触れられているカリン王子の手が物凄く気持ち悪くて、俺はどうしようもなく嫌だと感じた。
(俺にこんな風に触れていいのは────セドだけなのに…………)
思わずそんな考えがよぎって愕然としてしまう。
前にカッツェに迫られた時以上に拒絶感が酷いのは媚薬のせいなんだろうか?
セドだけなんて…そんな考えは振り払うべきだと思って慌てて首を振るけど、気持ちの悪さだけはどうしようもなかった。
これは由々しき事態だ。
なんとか一刻も早くここから離脱したい。
それなのに、カリン王子の手から抜け出せないほどすでに媚薬に侵されてしまっていて…途方に暮れる。
剣さえあれば大丈夫だと思っていたのに、まさか自分がこんな目に合うなんて思いもよらなかった。
(最悪だ……)
「う……」
そんな俺に姫が気づいてくれたのは幸いだった。
俺の様子がおかしいのを見るや否や物凄い速さでセドを呼びに行ってしまう。
「セドリック殿下!!貴方の寵姫が体調を崩して今にも倒れてしまいそうですわ!」
いや、セドを呼んでくれたのは嬉しいけど、俺は寵姫じゃなく護衛騎士だしそんな情けないことを大声で言わないでほしい。
けれどその声でセドがすぐに来てくれて、あっという間に俺を抱き上げてしまった。
「ああ、これは大変だ。カリン王子、お騒がせして申し訳ない。後のことは父王と私の正妃に任せるので何かあればそちらに。我々はここで失礼させてもらう」
そして俺はそのままセドに抱かれながら会場を後にして、その足でセドの部屋まで連れていかれたのだった。
***
「アル。大丈夫か?」
ベッドに降ろされ、差し出された水をコクリと飲むとほんのり甘い味が口の中へと広がっていく。
水なのに不思議だ。これも媚薬のせいなのだろうか?
「はぁ…セド……。酔ったわけじゃないのに身体…熱い……」
「ああ。媚薬だろう?」
「え?」
「お前が飲んだシャンパングラスに混入されたものだ。暗部の報告も受けているから間違いない」
酒と一緒に取ると効果が倍増するからなと言ってセドがそのまま俺を押し倒してくる。
しかもその後あり得ないことを口にしてきたので俺は一瞬自分の耳を疑ってしまった。
「犯人はカリン王子に買収されていた給仕だ。後で始末しておくよう伝えておこう」
「え……」
「ついでに迂闊なお前にも今からお仕置きだ」
「へ?あ…ぁあっ!」
チュゥッと鎖骨付近を吸い上げられてビクッと快感に身を震わせる。
「俺から勝手に離れていつまでも戻ってこず、あんな王子と呑気に話しているからそうなる」
「はぁ…っ。だって…それは……っ」
「国際交流もいいが、そんなものは姫に任せておけと言っただろう?」
「んんっ…!やめっ…」
敏感な身体を絶妙な力加減で撫で上げられて過剰なまでに反応してしまう。
「ククッ…よく効く媚薬だな。追加で盛らなくてもよかったか?」
その言葉に俺はなんだか嫌な予感がして、恐る恐る確認の言葉を口にした。
「セド?も…もしかして……?」
「前に盛って欲しそうにしていただろう?さっきの水にも混ぜておいてやったぞ?」
「こ、この、最低最悪の極悪王子────!!ひぁあッ!!」
やっぱりかと思って逃げ出そうとしたけど、逃がすわけがないだろうと言わんばかりに囲われて思い切り胸を捻りつぶすように引っ張られ悲鳴を上げる。
「心配するな。最初の媚薬はこちらですり替えておいた軽微で安全なものだし、追加分も少量にしておいた。だから…お前は安心してただ俺の手で快楽に堕ちればいいだけだ。簡単だろう?」
どこまでも悪そうな顔で楽しげに笑うセドに俺はただプルプルと震えて睨みつけることしかできない。
どうしてこんな最悪な変態王子を俺は嫌いになれないんだろう?
「さて…もう攫われる心配もなくなったことだし、存分に可愛がってやるからな」
そしてぺろりと舌なめずりした狼に俺はそのまま襲われたのだった。
【Side.カリン王子】
首尾よく媚薬を盛って、計画通りこのままアルフレッドを手中に入れようと思っていたのに、どうしてこうなった?
気づけば部下達は全て捕らえられ、俺自身もまた牢へと入れられていた。
「俺を誰だと思っているのだ!こんな場所に入れるなど言語道断!無礼だぞ!」
貴賓用の牢だというその場所は確かに他の牢とは違う特別仕様ではあったが、それは部屋が豪華とかそう言う類のものではない。
「どれも素晴らしい責め具でしょう?すべてお金をかけた特別仕様なのですよ?ほら、これなんてカリン王子によく似合いそうですよね?」
そう言いながら恐ろしく艶美な笑みを浮かべる拷問官らしき男は、ソレを手にゆっくりと近づいてきて俺に見せびらかしてくる。
「大丈夫。殺したりはしませんよ?セドリック王子の御命令で、今回は快楽堕ちにしてやれとのことでしたので」
「な…ななな…っ……!」
「アルフレッド殿はある意味我が国の希望であり地雷なんですよ?そんな方に媚薬を盛って手を出そうとするなんて…命知らずもいいところです。さて、では念入りに躾けて差し上げましょうかね?」
「ひ…っ…!や、やめ……」
後日、カリン王子を迎えに来た使者はあり得ないものを目にしてその場で固まってしまった。
「ひ…ぁあ…………あへぇ…」
「ひぃっ!我が国の王太子がこのような姿に……っ!」
権謀術数に長けた王子と持て囃されて将来を有望されていた王子だというのに、最早その姿は見る影もなくただただ快楽に堕ちきった姿でそこにいた。
「どうされますか?セドリック王子から、このままおとなしく連れ帰って何もなかったことにするか、ひと月で国を沈めるかは選ばせてやれと言われておりますが」
しかも国を潰すぞと暗に脅され、崩れ落ちそうな身体をなんとか支えるのに精一杯になる。
(やる。あの噂の冷酷な王子なら絶対にやる……!)
それがわかっているだけに答えはもう一つしかなかった。
「連れ、連れて帰ります…!こちらとしましてはブルーグレイ王国に歯向かう気は一切ありませんので、くれぐれも、くれぐれも王子にはよろしくお伝えください!」
「そうですか。では今後とも友好的なお付き合いをということで」
「はいっ!もちろんでございます!」
こうして事件後、ガヴァム王国では弟王子が王太子となり、何故かカリン王子はその王子の慰み者にされてしまったとか────。
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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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