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【恋の自覚なんてしたくない】
37.恋の自覚なんてしたくない④
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「初めまして。ガヴァム王国王子 カリン=ガハム=ヴァドラシアと申します。以後お見知りおきを」
「ご丁寧にありがとうございます。私はブルーグレイ王国王太子妃のアルメリア=ミラルカ=ブルーフェリアです。皆様がご滞在中に心地よく過ごせるよう案内役を仰せつかっておりますので、なんでも仰ってくださいませ。どうぞよろしくお願い致します」
にこやかにそう挨拶をする姫に俺は護衛として控えていたのに、姫が急に俺を引き寄せこう言った。
「こちらは私の護衛騎士兼、夫の側妃にあたるアルフレッドと申します。夫のいる場ですと少々ややこしいことになりかねませんので、この場にて私の方から簡略にてご紹介させていただきます」
(なんっで、わざわざ紹介するんだよ?!)
黙ってたらわからないのにと思いつつ、姫は自分の主人なので怒るに怒れない。
「ほぉ。もしやあの有名なゴッドハルトの英雄の?」
しかもどうやら相手は俺のことを知っているらしい。
「ええ。そうですの。とても頼りになる騎士なのですよ?」
「それはそうでしょう。勇猛果敢な戦場での戦いぶりはまさに鬼神の如しと言われておりますし…。いや、そんな彼を護衛騎士に出来るなど羨ましい限りですね」
「ふふっ…。そう言っていただけて光栄ですわ。ではいつまでも立ち話もなんですから、お部屋の方へご案内いたしますわ。どうぞこちらへ」
そう言って姫は優雅にカリン王子を案内していくので俺も黙ってそれについていく。
そして部屋についたところで姫から俺以外の護衛騎士達は扉の外で待機で、俺だけついて来いと言われた。
今日はここで暫く歓談をして、昼餐の準備が整ったら移動。その後、護衛は交代で俺はセドのところに行くよう言われている。
要するに今日の分はセドが言っていた貸し出すと言っていた3日の内に含まれてはいなかったりする。
ただの顔見せの挨拶。
本当はこれさえいらないだろうってセドは言ってたんだけど、姫から「セドリック王子から無茶振りをされてしまったの。お願いだから助けてちょうだい」とこっそり泣きつかれたのでごり押ししてこちらに加わった次第だ。
だから俺はできるだけこの短い時間でカリン王子のことを探らなければならない。
そんなにすぐにしっぽを掴ませてはくれないだろうけど、やらないよりはマシだろう。
何か気づいた事があれば他の護衛騎士達とも情報交換しておかなければならないし、重要だ。
それから予め打ち合わせていた通り姫に話してもらいながら色々探りを入れたんだけど……。
(やっぱガードは固いな)
そんなに簡単には探れるはずもない。
けれどいくつかはわかったことはある。
主には『俺と姫には好意的』ということと、『ガヴァム国に興味を持たせようとしている』ということだ。
後は俺に剣の稽古についてあれこれ聞いてきたことと、暗に自分達の騎士にも教えて欲しいと匂わせていることなどを総合的に考えると、今のところは多分『俺狙い』だと思われる。
姫に好意的なのは俺の主人が姫だからだろうか。
国家転覆や戦争の下準備的なことは今話しただけでは窺えないし、そちらの線はまだ考えなくても大丈夫だと思われる。
そういうことを考えている輩はトルセンのところで散々見てきたから空気だけでわかるし。
寧ろ俺狙いということが確定したら一番楽かもしれないとさえ思ってしまう。
誘われても断ればいいだけの話だし、捕まっても逃げればいいだけの話だからだ。
但し、その場合は姫の安全の確保のために動かなければならないので、他の護衛騎士達には十分注意するよう言っておかなければならない。
(はぁ…。さて、どうしたものかな)
セドが俺が姫の傍にいるのを三日なんて制限をかけなければ常に側で姫を守ることができて安心だったのだが……。
(姫はセドの命令は絶対だからと言って譲らないしな…)
あんなの無視してやればいいのにと思うけど、姫としてはそれだけはやめて欲しいらしい。
そろそろ慣れてもいい頃だと思うけど、そんなにまだ怖いんだろうか?
殺気なんてゾクゾクウキウキわくわくするだけじゃないか。
(戦いたくて仕方がなくなるし…あれ、本当にクセになるよな。そうだ!寧ろ殺気を向けて欲しいからちょっと好きに動いてみようか?)
セドからは姫の護衛は三日と言われてるけど、独自で動くのがダメとは言われていない。
自分の傍に侍れとも言われていなければ、調査をするなとも特に言われてはいないのだ。
それなら勝手に動いても命令違反にはならないから、セドが姫に文句を言ったり害を加えたりなどといった方向にもいかないだろう。
好きに動いてカリン王子サイドを探って、何か起こったらその時はその時で殺気を向けてもらえる可能性もある。
(あぁ、いいかもしれないな)
意外とそれがベストかもしれないとさえ思い立ち、俺はクスリと思わず笑ってしまった。
(じゃあまずは…お近づきになっておく相手を見定めないとな)
そして俺はカリン王子の周辺へとサッと目を走らせ、誰に近づこうかなとウキウキしながら動き始めたのだった。
***
【Side.カリン王子】
姫と顔を合わせ、可愛らしい姫だなという印象を受ける。
傍に居るアルフレッドも想像していたようないかつい男ではなく、どちらかというと優男と言った印象を受けた。
これなら交渉もし易そうだし、付け入る隙も多々あるように思える。
「例の薬を用意しておけ。それと────」
相手があの感じならこの手も使えるだろうとニヤリと笑い、部下へと指示を出してアルフレッドを奪う計画を立てた。
きっとアルフレッド自体、こんな手を使ってくるなんて思いもしないだろうから……。
「これでアルフレッドは俺のものになって、我が国の軍事力増強は間違いなしだ」
色々話してみて思ったが、姫は物凄く慎重な性格のようで、今のところ付け入る隙を全く見つけられなかった。
さすがあのセドリック王子の正妃と言ったところか。若いのにこれは意外だった。
アルフレッドの方も姫を随時フォローしていたが、意外なことにずっとついているという訳ではないようで、どうやら持ち回り制のようだった。
自分ならまず間違いなく滞在中はずっとアルフレッドを傍に置くだろうが、どうやらこの姫は他の護衛も重用しているらしい。
けれどそれはこちらとしては嬉しい誤算で、そこにこそ隙ができると言えた。
(楽しみだな……)
人質を取られれば流石の王子も手も足も出せなくなるはず。
快楽堕ちしたアルフレッドを連れ去り、そのまま自分の愛人にしてやったらセドリック王子はどんなに悔しがることだろう?
アルフレッドはセドリック王子のお手付きではあるが、きっとその分自分を十分に楽しませてくれるはずだ。
その日がくるのが今から楽しみで仕方がない。
そんなことを思いながら、俺はそっとほくそ笑んだ。
「ご丁寧にありがとうございます。私はブルーグレイ王国王太子妃のアルメリア=ミラルカ=ブルーフェリアです。皆様がご滞在中に心地よく過ごせるよう案内役を仰せつかっておりますので、なんでも仰ってくださいませ。どうぞよろしくお願い致します」
にこやかにそう挨拶をする姫に俺は護衛として控えていたのに、姫が急に俺を引き寄せこう言った。
「こちらは私の護衛騎士兼、夫の側妃にあたるアルフレッドと申します。夫のいる場ですと少々ややこしいことになりかねませんので、この場にて私の方から簡略にてご紹介させていただきます」
(なんっで、わざわざ紹介するんだよ?!)
黙ってたらわからないのにと思いつつ、姫は自分の主人なので怒るに怒れない。
「ほぉ。もしやあの有名なゴッドハルトの英雄の?」
しかもどうやら相手は俺のことを知っているらしい。
「ええ。そうですの。とても頼りになる騎士なのですよ?」
「それはそうでしょう。勇猛果敢な戦場での戦いぶりはまさに鬼神の如しと言われておりますし…。いや、そんな彼を護衛騎士に出来るなど羨ましい限りですね」
「ふふっ…。そう言っていただけて光栄ですわ。ではいつまでも立ち話もなんですから、お部屋の方へご案内いたしますわ。どうぞこちらへ」
そう言って姫は優雅にカリン王子を案内していくので俺も黙ってそれについていく。
そして部屋についたところで姫から俺以外の護衛騎士達は扉の外で待機で、俺だけついて来いと言われた。
今日はここで暫く歓談をして、昼餐の準備が整ったら移動。その後、護衛は交代で俺はセドのところに行くよう言われている。
要するに今日の分はセドが言っていた貸し出すと言っていた3日の内に含まれてはいなかったりする。
ただの顔見せの挨拶。
本当はこれさえいらないだろうってセドは言ってたんだけど、姫から「セドリック王子から無茶振りをされてしまったの。お願いだから助けてちょうだい」とこっそり泣きつかれたのでごり押ししてこちらに加わった次第だ。
だから俺はできるだけこの短い時間でカリン王子のことを探らなければならない。
そんなにすぐにしっぽを掴ませてはくれないだろうけど、やらないよりはマシだろう。
何か気づいた事があれば他の護衛騎士達とも情報交換しておかなければならないし、重要だ。
それから予め打ち合わせていた通り姫に話してもらいながら色々探りを入れたんだけど……。
(やっぱガードは固いな)
そんなに簡単には探れるはずもない。
けれどいくつかはわかったことはある。
主には『俺と姫には好意的』ということと、『ガヴァム国に興味を持たせようとしている』ということだ。
後は俺に剣の稽古についてあれこれ聞いてきたことと、暗に自分達の騎士にも教えて欲しいと匂わせていることなどを総合的に考えると、今のところは多分『俺狙い』だと思われる。
姫に好意的なのは俺の主人が姫だからだろうか。
国家転覆や戦争の下準備的なことは今話しただけでは窺えないし、そちらの線はまだ考えなくても大丈夫だと思われる。
そういうことを考えている輩はトルセンのところで散々見てきたから空気だけでわかるし。
寧ろ俺狙いということが確定したら一番楽かもしれないとさえ思ってしまう。
誘われても断ればいいだけの話だし、捕まっても逃げればいいだけの話だからだ。
但し、その場合は姫の安全の確保のために動かなければならないので、他の護衛騎士達には十分注意するよう言っておかなければならない。
(はぁ…。さて、どうしたものかな)
セドが俺が姫の傍にいるのを三日なんて制限をかけなければ常に側で姫を守ることができて安心だったのだが……。
(姫はセドの命令は絶対だからと言って譲らないしな…)
あんなの無視してやればいいのにと思うけど、姫としてはそれだけはやめて欲しいらしい。
そろそろ慣れてもいい頃だと思うけど、そんなにまだ怖いんだろうか?
殺気なんてゾクゾクウキウキわくわくするだけじゃないか。
(戦いたくて仕方がなくなるし…あれ、本当にクセになるよな。そうだ!寧ろ殺気を向けて欲しいからちょっと好きに動いてみようか?)
セドからは姫の護衛は三日と言われてるけど、独自で動くのがダメとは言われていない。
自分の傍に侍れとも言われていなければ、調査をするなとも特に言われてはいないのだ。
それなら勝手に動いても命令違反にはならないから、セドが姫に文句を言ったり害を加えたりなどといった方向にもいかないだろう。
好きに動いてカリン王子サイドを探って、何か起こったらその時はその時で殺気を向けてもらえる可能性もある。
(あぁ、いいかもしれないな)
意外とそれがベストかもしれないとさえ思い立ち、俺はクスリと思わず笑ってしまった。
(じゃあまずは…お近づきになっておく相手を見定めないとな)
そして俺はカリン王子の周辺へとサッと目を走らせ、誰に近づこうかなとウキウキしながら動き始めたのだった。
***
【Side.カリン王子】
姫と顔を合わせ、可愛らしい姫だなという印象を受ける。
傍に居るアルフレッドも想像していたようないかつい男ではなく、どちらかというと優男と言った印象を受けた。
これなら交渉もし易そうだし、付け入る隙も多々あるように思える。
「例の薬を用意しておけ。それと────」
相手があの感じならこの手も使えるだろうとニヤリと笑い、部下へと指示を出してアルフレッドを奪う計画を立てた。
きっとアルフレッド自体、こんな手を使ってくるなんて思いもしないだろうから……。
「これでアルフレッドは俺のものになって、我が国の軍事力増強は間違いなしだ」
色々話してみて思ったが、姫は物凄く慎重な性格のようで、今のところ付け入る隙を全く見つけられなかった。
さすがあのセドリック王子の正妃と言ったところか。若いのにこれは意外だった。
アルフレッドの方も姫を随時フォローしていたが、意外なことにずっとついているという訳ではないようで、どうやら持ち回り制のようだった。
自分ならまず間違いなく滞在中はずっとアルフレッドを傍に置くだろうが、どうやらこの姫は他の護衛も重用しているらしい。
けれどそれはこちらとしては嬉しい誤算で、そこにこそ隙ができると言えた。
(楽しみだな……)
人質を取られれば流石の王子も手も足も出せなくなるはず。
快楽堕ちしたアルフレッドを連れ去り、そのまま自分の愛人にしてやったらセドリック王子はどんなに悔しがることだろう?
アルフレッドはセドリック王子のお手付きではあるが、きっとその分自分を十分に楽しませてくれるはずだ。
その日がくるのが今から楽しみで仕方がない。
そんなことを思いながら、俺はそっとほくそ笑んだ。
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