【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

オレンジペコ

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【その後の話】

22.どうしてこうなった?!

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意気揚々と城を抜け出し食料を買いに行ったのはいいものの、店を出たところで俄かに街が騒がしくなった。

「げっ…!」

「あっ!居ました!騎士長発見!」
「見つけたぞー!!」

そこにはミラルカ皇国からずっと一緒だった者達がいて、俺を見つけるや否や捕まえろとばかりに追い掛けてきたのだ。
そこからは鬼ごっこだ。
あっちにもこっちにも追手がいて、とてもじゃないけど逃げ切れない。

(一体何人来てんだよ?!)

ミラルカ皇国から来てる者達はもしかして全員探しに来てるんじゃないかと疑いたくなるほど必死に追いかけられて、姫の本気を感じてしまう。
しかも王子の追っ手までそこに加わったのか、いつの間にか街の外門まで閉ざされてしまったのだからたまったものではない。

(逃げ場がない!)

まさかここまで早く街の捜索が行われるとは思ってもみなかった俺は焦って広場へと駆けた。
ここなら広いから囲まれても逃げる余地はあるだろうと踏んでのことだ。

「騎士長!おとなしく戻ってきてください!」

コリンズはじめ他の騎士達も俺を説得にかかってくる。

「だって俺の部屋…もうないし」
「王子の部屋に移っただけでしょう?!屁理屈はやめてください!」

わかってるよ、もちろん。わざとだし。

「姫だって部屋が片付けられてるなら出ていっていいって言ってただろ?」
「そんなの詭弁です!大体報告をあんな紙切れ一枚で済ませてる時点で確信犯ですよね?」
「止められるのはわかりきってるからな」
「だったら…!」
「だって!みんながみんな俺が側妃だって言うから息苦しいんだ!」
「護衛騎士の仕事だってしてるじゃないですか!」
「それでも!俺は強い相手と戦うか、仕事に没頭するかしたいんだ!それができないなら戦場に行ってくる!」

そう、つい本音を溢してしまう。
だって…最近つまらないんだ。

ミラルカ皇国での二年間は特に何も思うことなく平和で悠々自適な日々を過ごしてきたし、ここに来てからもそれは変わらないはずだった。
俺はそれでちゃんと満足していたし何も問題はないはずだった。

でも…俺は王子に出会ってから戦場のあの懐かしい空気を思い出してしまった。
殺気を向けられ、剣を交えて同じレベルの相手と戦う楽しさに触れて、もっともっと味わいたいとまた思い始めてしまったんだ。

そもそも悠々自適な日々を送りたいとトルセンに申し出たのは剣で俺の相手になる相手がいなくなったから、それならと思ってのことだった。
トルセンは俺と同じくらいの腕だけど、改革後でなにかと忙しそうだしずっと俺に付き合わせるわけにもいかない。
だから一段落したタイミングで申し出たのだ。外に出たいと。
本音を言うと、強敵がいるところに俺はずっとずっと行きたかった。
きっとここに送り出してくれたミラルカ皇国の騎士団長はそれをわかってたんだと思う。
だから王子に出会って戦えたのは正直嬉しかった。
でも…そんな日々も最近は色褪せてきたように思う。

俺が求める刺激がない。一言で言えばそれに尽きた。

王子がそれを与えてくれたらいいのに、王子は俺が前より抱けるようになったからか前ほどやる気満々で向かってきてくれなくなった。
殺気だって殆ど向けてくれないし、そんなの全然面白くない。
ただなし崩し的に抱かれるだけなのも不満だった。
だったらちょっとここを出て戦場で強い奴と戦いたいと思ったっていいじゃないか。

そんな事を考えていると、前からもの凄くゾクゾクするような殺気が飛んできた。
────王子だ。
まさか王子直々にこんなところにまで追いかけてくるなんて思ってもいなかったからちょっと驚いてしまう。
でも…………。

(ああ…そうそう。俺が欲しかったのはこれなんだよ)

俺がずっと欲しかったのは王子の甘々な愛情ではなく、この空気がピリピリするほどの殺気────。
まるで戦場にいるような緊張感がたまらなく好きなのだ。

(これを毎日くれるんなら俺だって少しはおとなしく城に留まるのにな……)

俺はどこまで行っても戦うのが大好きな男なんだなと最近になってよく思う。
鍛錬は日常。戦いはスパイス。強さこそ正義。

だから…王子からの宣戦布告にも嬉々として乗ったんだ。
こんなに楽しそうなことはそうそうない。
「俺のものになれ」と言ってくるということは本気でやってやるということだ。
この王子は俺が言うのもなんだが、物凄く強い。
どうして一国の王子がこの国の騎士団長より強いんだと思いながら手合わせを続けてきたし、その実力は俺が一番よくわかってる。
そんな男と本気で戦えるなんてわくわくしてくるじゃないか。
しかも今回は勝てば自由になれるという特典付き。
俄然やる気だって湧いてくる。

それから俺と王子は本気で剣と剣を交え合った。
いつものような刃引きしたものではなく本物の剣での打ち合いだ。
当たれば当然怪我をするし、下手をしたら死んでしまうだろう。
でもその緊張感がたまらなくてゾクゾクする程の高揚感に満たされる。
脳筋?何とでもいえばいい。
俺は結局そういう奴なのだから────。

そうしてどれくらいやり合っていただろう?
王子は強く、このままいっても全く決着はつきそうにない。
王子は然程疲れていないだろうが、俺はそもそも街中追い回されて体力が削られているのでそろそろ勝負を決めたいところだった。
だからこれ以上長引かせず勝負を出来るだけ早く決めてしまおうと思って、少し間合いを取ってから一気に駆けた。

ズバッと渾身の力で死角から振りぬいたスピードも乗った必殺の一撃────。
なのに気づけばその剣は躱されていて、何故か俺の唇が王子によって塞がれていた。

「ふ…ぅ?ふぇ…っ?」

正直何が起こったのか全く分からなくてパニックになってしまう。
さっきまで命を懸けた戦いをしていたはずなのに、なんでキス?!

「んっ…んぅッ!はッ…ちょ、やめッ…んんっ…、あっふ…ッ」

文句を言おうにも口内に入り込んだ王子の舌が俺を責め立て、あろうことかその後俺の舌を絡めとって吸い上げてきた。

(これ…ダメなのに…ッ!)

身体から力が抜けていきカラン…と大事な剣を落としてしまった音がした。

(お、俺の剣がーーーー!!)

「アルフレッド。捕まえた」

王子の勝利宣言を受けて俺は涙目で訴える。

(こんなの、詐欺だ!)

でも王子はそのまま俺を抱き上げて、さっさと城に向けて撤収していく。

「アル…もう絶対に離さないからな」

しかもそんな言葉と共にチュッと口づけを落としてきたので公衆の面前で何をするんだと真っ赤になってしまった。

────心の底から俺は言いたい。

(その甘々が嫌なんだ!クソッ!覚えてろよ!絶対絶対また逃げ出してやるから!)

今日は負けたけどまだまだ諦めてなどやるものかと思いながら俺は城へと連れ帰られたのだった。


***


「アルフレッド!!」

城に入ってすぐ王子の部屋に連れて行かれるのかと思いきや、それより先に姫に見つかったので一先ず下ろしてもらった。
王子が俺の言うことを聞いてくれるなんて珍しい。明日は雨か?

「姫」
「この馬鹿馬鹿、お馬鹿~!今回は本気で死ぬかと思って肝が冷えたじゃないの~!」

泣きながら俺に突撃してきたのでこれは甘んじて受け止めた方がいいのかと無防備に立ったのが悪かった。

「ひゃっ!」
「グフッ…!!」

絶妙のタイミングでスッ転んだ姫の頭突きが腹を直撃して蹲る羽目になってしまった。
王子の一撃より強烈な気がする…。

「ひ…姫。酷い…」
「ごめんなさい!わざとじゃないのよ?!でもね、殺されたらきっとそれよりもっと痛かったと思うの!」
「はぁ…」
「だから、もう貴方は王子に四六時中監視してもらいなさい!」
「嫌ですよ」
「どうして」
「だって俺は姫の護衛騎士なんですから」
「逃げ出したくせに何を言っているのかしら?そもそもどうして逃げ出したの?王子のこと結構気に入ってたでしょう?手合わせ云々がと言ってたじゃない」
「勘違いしないでください。俺はその手合わせが楽しかったのと殺気が嬉しかっただけですよ。気に入ってるのは王子ではなくそっちです」
「なっ…?!あんな恐ろしい殺気が嬉しいっておかしいわよ?!変態なの?!」
「失礼なこと言わないでください。俺はただの戦闘狂です!」
「脳筋ってことね!頭脳派な私とは対極だわ!」
「姫…頭脳派という言葉を是非辞書で引いてきてください。頭を使うって言っても、さっきみたいな頭突きをすることじゃないんですよ?」
「意味くらい知っているわよ!」
「……本当ですか?」
「もちろんよ!と言うか、脳筋は否定しないのね?」
「一応補佐もできますけど、戦ってる方が好きなんで」
「護衛向きね!」
「でしょう?なのでもう一度雇って頂けますか?」
「…仕方がないわね。同じアル仲間だし、今回だけよ?」
「はい。宜しくお願いしますね」

そんなやり取りをしていると後ろからクククッと笑う声が聞こえてきた。
相手は当然セドリック王子だ。
しかもそっちを見遣るとお腹を抱えて笑ってる?!初めて見た。
明日は雷雨間違いなしだな。
そんな風に思っていると、たちまちまた抱き上げられて楽し気に言われてしまう。

「なるほど?これは俺が悪かったな。側妃が求めているものを与えてやれず悪かった。アルメリア姫。協力感謝する」
「お、お役に立てたようで良かったですわ。アルフレッドは単純おバカのようなのでどうぞしっかり捕まえておいてくださいませ。私も命は大事にしたいので…」
「もちろん。わかっている」

そして姫は綺麗なカーテシーで挨拶をすると何故か「明日は反省日よ!」と俺に言い放ち、一日部屋でおとなしく反省しておけば護衛に戻っていいと言ってもらえた。

(よかった)

これには心から感謝だ。
このまま王子の側妃としてだけ置いておかれたら絶対またストレスが溜まると思うから……。

姫の護衛騎士────今度こそそれを全うしよう。そう思っていると軽い殺気が王子から放たれた。

「…?どうかしたか?」
「なに、ちょっとした嫉妬だ」
「嫉妬で殺気放つなよ。また姫が腰を抜かすだろ?」
「ではお前に向けるのならいいのか?」
「是非そうしてくれ。お前の殺気は俺にだけ向けてくれたら周りは平和だし俺も嬉しい」
「なるほどな」

そして王子は上機嫌で俺をお持ち帰りし、お仕置きと称して散々嬲ってきたのだった。


****************

※次回R‐18です。苦手な方はお気を付けください。

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※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
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