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【その後の話】
21.捕獲した護衛騎士 Side.セドリック
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正直両思いになれたと少しだけ浮かれていた。
もうアルフレッドはどこにもいかないと思い込んでいた。
だから…油断していたのだ。
嫌だ嫌だと言ってもいつだってアルフレッドは自分に抱かれていたし、部屋だって同じだと思っていた。
同室なんて嫌だと言ってはいても、そこにしか居場所がなくなれば諦めるだろうと…そう思っていたのに────。
『残念ですが俺の居場所は見事に片付けられていましたのでこれで失礼します。 アルフレッド』
そんな紙切れ一枚でアルフレッドはここから去っていってしまった。
(アルフレッド…………!)
愛しさ余って憎さ百倍とはよくも言ったもので、俺から逃げ出したアルフレッドにあり得ないほどの怒りが湧いた。
絶対に逃がすものかとすぐさま動き街の出入りを止める。
多少騒ぎになろうともアルフレッドが外に出てしまうよりはずっといい。
ちなみにここでは『側妃がいなくなった』とはせず『若い護衛騎士が逃げた』としておいた。
一般的に側妃というと女のイメージが強いため逃げられる可能性が高まるからだ。
アルフレッドは常に帯剣しているし、こう言っておいた方が捕まえられる確率は上がるだろう。
そして騎士達を追うように自分もまたアルフレッドを探しに城を出る。
街に着くと皆が何事だと驚きながらも騎士達へと道を開けていた。
そして探し求めていたアルフレッドはというと……。
「騎士長!おとなしく戻ってきてください!」
広場で姫の護衛騎士達に囲まれて説得されていた。
「だって俺の部屋…もうないし」
「王子の部屋に移っただけでしょう?!屁理屈はやめてください!」
本当にその通りだ。
「姫だって部屋が片付けられてるなら出ていっていいって言ってただろ?」
「そんなの詭弁です!大体報告をあんな紙切れ一枚で済ませてる時点で確信犯ですよね?」
「止められるのはわかりきってるからな」
「だったら…!」
「だって!みんながみんな俺が側妃だって言うから息苦しいんだ!」
「護衛騎士の仕事だってしてるじゃないですか!」
「それでも!俺は強い相手と戦うか、仕事に没頭するかしたいんだ!それができないなら戦場に行ってくる!」
そこになら強い相手もいるからとアルフレッドは言い切った。
その言葉に俺の中でヒヤリとした感情が込み上げてくる。
戦場で強い相手に会ったなら、そいつがもしアルフレッドに勝ったなら抱かれるとでもいうのかと…そんな冷たい感情が込み上げてきたのだ。
こうして城を抜け出すくらいだ。
アルフレッドは自分ほどには俺を愛してくれているわけじゃない。
どちらかというと俺が強いからおとなしく抱かれていたのだろう。
それがこの件でよくわかった。
「アルフレッド!!」
だから剣を抜き、殺気を全開にして名を呼んだ。
「「「「ひっ……!!」」」」
その場にいたアルフレッド以外の者達がその殺気を受けてその場にへたり込むが、アルフレッドは俺からの殺気を受けてちょっとびっくりした後、物凄く嬉しそうに笑った。
あの顔は強者を見つけた時につい出てしまうのだと以前言っていた顔だ。
だからそのままスッと剣を向け、勝負を申し込む。
「俺が勝ったらおとなしく俺のものになれ」
城に帰ってこいとも俺の元に帰ってこいとも言わない。俺を好きになれとも言わない。
俺はただ、俺のものになれと言った。
そこにあるのは強い想い。
アルフレッドを二度と逃がさないために俺は本気で勝負を挑んだのだ。
「…………お前のものに…ね」
そしてその意味をちゃんと受け取ったアルフレッドがひたとこちらを見ながらスラリと剣を抜く。
「じゃあこれに勝ったら俺を逃がしてくれるんだな?」
「……約束しよう」
「わかった」
そこからは双方同時に動き激しい剣戟のやりとりが始まった。
いつもは夕刻に立ち合いの騎士の前でだけ行われるその打ち合いが衆人環視の中繰り広げられる。
周辺にいた者達は慌てて巻き込まれないようにと退避するが、なんだかんだと遠巻きにしながら勝負の行方を見守っていた。
上段、下段、横凪ぎ、連撃。
アルフレッドの剣技はまさに戦場で磨かれた実戦に即したもので、隙なんてそうそうはない。
だからこそこちらから誘いをかけ隙を作らざるを得ないのだが、そのあまりにも速すぎる剣速に対応するのは至難の業だ。
これまで何度も苦汁を舐めさせられてきた俺はそれが悔しくて何度もアルフレッドに挑み続けてきた。
今日はそれら全ての経験を活かして必ず勝つとこれまでにないほどの集中力を持って挑み剣を合わせる。
キンッキンッ!と高い金属音が鳴り、シュバッと鋭く斬り込まれ、ヒュンッと風切り音が耳を掠める。
どれくらいそうして打ち合っていただろうか?ようやくその瞬間がやってきた。
アルフレッドが勝負に出たのだ。
初めて手合わせを行った時と少し状況が似ているかもしれない。
俺はそれを逆手にとってその最高の一撃を僅かに逸らしながらアルフレッドの死角へと飛び込み、流れるように剣を上へと押し上げそのまま前足を払って態勢を崩し、腰を抱いて口づけた。
「ふ…ぅ?ふぇ…っ?」
何が起こったのかわからずアルフレッドがキスの合間に間の抜けた声を出すが、勝負は俺の勝ちだ。文句は言わせない。
「んっ…んぅッ!はッ…ちょ、やめッ…んんっ…、あっふ…ッ」
アルフレッドの苦手な吸い上げも駆使してやると段々身体から力が抜けていき、そのままカラン…と剣を取り落とす。
「アルフレッド。捕まえた」
そしてそのままアルフレッドを抱き上げると、近くにいた騎士にアルフレッドの剣を持ってくるようにと告げた。
「側妃は無事に捕獲した。帰るぞ」
ついでに後始末の指示も合わせて行いさっさと城へと足を向ける。
今回の事で街の者達になんと噂されるかわからないが、アルフレッドは捕まえたのだからそれでいい。
「アル…もう絶対に離さないからな」
そしてチュッと口づけを落として真っ赤になったアルフレッドに嫣然と微笑んだ。
もうアルフレッドはどこにもいかないと思い込んでいた。
だから…油断していたのだ。
嫌だ嫌だと言ってもいつだってアルフレッドは自分に抱かれていたし、部屋だって同じだと思っていた。
同室なんて嫌だと言ってはいても、そこにしか居場所がなくなれば諦めるだろうと…そう思っていたのに────。
『残念ですが俺の居場所は見事に片付けられていましたのでこれで失礼します。 アルフレッド』
そんな紙切れ一枚でアルフレッドはここから去っていってしまった。
(アルフレッド…………!)
愛しさ余って憎さ百倍とはよくも言ったもので、俺から逃げ出したアルフレッドにあり得ないほどの怒りが湧いた。
絶対に逃がすものかとすぐさま動き街の出入りを止める。
多少騒ぎになろうともアルフレッドが外に出てしまうよりはずっといい。
ちなみにここでは『側妃がいなくなった』とはせず『若い護衛騎士が逃げた』としておいた。
一般的に側妃というと女のイメージが強いため逃げられる可能性が高まるからだ。
アルフレッドは常に帯剣しているし、こう言っておいた方が捕まえられる確率は上がるだろう。
そして騎士達を追うように自分もまたアルフレッドを探しに城を出る。
街に着くと皆が何事だと驚きながらも騎士達へと道を開けていた。
そして探し求めていたアルフレッドはというと……。
「騎士長!おとなしく戻ってきてください!」
広場で姫の護衛騎士達に囲まれて説得されていた。
「だって俺の部屋…もうないし」
「王子の部屋に移っただけでしょう?!屁理屈はやめてください!」
本当にその通りだ。
「姫だって部屋が片付けられてるなら出ていっていいって言ってただろ?」
「そんなの詭弁です!大体報告をあんな紙切れ一枚で済ませてる時点で確信犯ですよね?」
「止められるのはわかりきってるからな」
「だったら…!」
「だって!みんながみんな俺が側妃だって言うから息苦しいんだ!」
「護衛騎士の仕事だってしてるじゃないですか!」
「それでも!俺は強い相手と戦うか、仕事に没頭するかしたいんだ!それができないなら戦場に行ってくる!」
そこになら強い相手もいるからとアルフレッドは言い切った。
その言葉に俺の中でヒヤリとした感情が込み上げてくる。
戦場で強い相手に会ったなら、そいつがもしアルフレッドに勝ったなら抱かれるとでもいうのかと…そんな冷たい感情が込み上げてきたのだ。
こうして城を抜け出すくらいだ。
アルフレッドは自分ほどには俺を愛してくれているわけじゃない。
どちらかというと俺が強いからおとなしく抱かれていたのだろう。
それがこの件でよくわかった。
「アルフレッド!!」
だから剣を抜き、殺気を全開にして名を呼んだ。
「「「「ひっ……!!」」」」
その場にいたアルフレッド以外の者達がその殺気を受けてその場にへたり込むが、アルフレッドは俺からの殺気を受けてちょっとびっくりした後、物凄く嬉しそうに笑った。
あの顔は強者を見つけた時につい出てしまうのだと以前言っていた顔だ。
だからそのままスッと剣を向け、勝負を申し込む。
「俺が勝ったらおとなしく俺のものになれ」
城に帰ってこいとも俺の元に帰ってこいとも言わない。俺を好きになれとも言わない。
俺はただ、俺のものになれと言った。
そこにあるのは強い想い。
アルフレッドを二度と逃がさないために俺は本気で勝負を挑んだのだ。
「…………お前のものに…ね」
そしてその意味をちゃんと受け取ったアルフレッドがひたとこちらを見ながらスラリと剣を抜く。
「じゃあこれに勝ったら俺を逃がしてくれるんだな?」
「……約束しよう」
「わかった」
そこからは双方同時に動き激しい剣戟のやりとりが始まった。
いつもは夕刻に立ち合いの騎士の前でだけ行われるその打ち合いが衆人環視の中繰り広げられる。
周辺にいた者達は慌てて巻き込まれないようにと退避するが、なんだかんだと遠巻きにしながら勝負の行方を見守っていた。
上段、下段、横凪ぎ、連撃。
アルフレッドの剣技はまさに戦場で磨かれた実戦に即したもので、隙なんてそうそうはない。
だからこそこちらから誘いをかけ隙を作らざるを得ないのだが、そのあまりにも速すぎる剣速に対応するのは至難の業だ。
これまで何度も苦汁を舐めさせられてきた俺はそれが悔しくて何度もアルフレッドに挑み続けてきた。
今日はそれら全ての経験を活かして必ず勝つとこれまでにないほどの集中力を持って挑み剣を合わせる。
キンッキンッ!と高い金属音が鳴り、シュバッと鋭く斬り込まれ、ヒュンッと風切り音が耳を掠める。
どれくらいそうして打ち合っていただろうか?ようやくその瞬間がやってきた。
アルフレッドが勝負に出たのだ。
初めて手合わせを行った時と少し状況が似ているかもしれない。
俺はそれを逆手にとってその最高の一撃を僅かに逸らしながらアルフレッドの死角へと飛び込み、流れるように剣を上へと押し上げそのまま前足を払って態勢を崩し、腰を抱いて口づけた。
「ふ…ぅ?ふぇ…っ?」
何が起こったのかわからずアルフレッドがキスの合間に間の抜けた声を出すが、勝負は俺の勝ちだ。文句は言わせない。
「んっ…んぅッ!はッ…ちょ、やめッ…んんっ…、あっふ…ッ」
アルフレッドの苦手な吸い上げも駆使してやると段々身体から力が抜けていき、そのままカラン…と剣を取り落とす。
「アルフレッド。捕まえた」
そしてそのままアルフレッドを抱き上げると、近くにいた騎士にアルフレッドの剣を持ってくるようにと告げた。
「側妃は無事に捕獲した。帰るぞ」
ついでに後始末の指示も合わせて行いさっさと城へと足を向ける。
今回の事で街の者達になんと噂されるかわからないが、アルフレッドは捕まえたのだからそれでいい。
「アル…もう絶対に離さないからな」
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