14 / 215
【本編】
10.強者同士の対決
しおりを挟む
その日の午後、夕刻前に俺は刃引きされた剣を手に王子へと対峙していた。
この勝負結果によっては今夜俺はまた抱かれなければいけないのだ。嫌でも気合いが入る。
絶対に負けられない勝負だが、力んだら負けると必死に心を落ち着かせるよう努めた。
そして俺はキッと顔を上げ王子へと鋭く視線を向ける。
そんな俺に王子もまた楽し気な笑みを浮かべていた。
互いに剣を構え緊迫感が増していく中、審判役にと連れてこられた騎士団長がはじめっと声を上げる。
それと同時に飛び出し、先手必勝とばかりに剣を合わせると、王子の方もまた突っ込むようにしながら俺の剣を正面から受け止めにかかった。
ギィンッ!!
激しくぶつかり合う剣を挟んで互いに相手の力量を見計らう。
一歩引いて半身の態勢で次の攻撃を避け、流れるよう二撃目を放つ。
三撃、四撃……。
剣を打ち合う度に互いのスピードが上がっていく。
(強い……)
これはもしかしたら英雄トルセンと同じくらいかもしれない。
(それでも…負ける気はないがな)
スピードが上がるにつれてパワーは落ちていくが、その分隙を突きやすくはなっていく。
相手が強かろうが関係はない。
「ははっ…楽しいなぁ、おい」
強敵に出会った時にだけ入るスイッチが勝手に入り、俺を愉悦が満たしていく。
(やばいな……)
まさかこれほどできる相手とは思っていなかった。
これ以上となるとうっかり惚れてしまいそうだ。もちろん恋愛的意味合いではなく男としてだが…。
向こうにはまだ余裕がありそうに見えるが、それは俺も同様だ。
こんなやりがいのある手合わせ……折角なのだから楽しまないと損だ。
「もっともっとお前の実力を晒してみろ!」
その言葉に煽られるようにセドリック王子が嗜虐的に笑った。
(来る…)
そして実に楽し気にしながら物凄い速さで剣戟を連打してきた。
(しかも重い…!)
「ちっ…!」
それならそれでこちらは流し斬りに切り替えるだけだ。
正面から受け止めるだけが剣の極意ではない。
(五月雨斬り!!)
相手の攻撃を受け流しながら剣戟に相手の力を上乗せし、連撃を繰り出す達人技の一つで攻め立てる。
これでどうだとばかりに攻撃を繰り出したのに、多少押され気味ではあったが王子はそれをギリギリ受け切った。
「はぁ…最高だな」
一旦引いて距離を置きうっとりとそんな事を口にした俺に、王子が楽しげにしながらSっ気でもあるのかと茶化してきた。
別にそういうわけではないんだが、昔から強い相手に出会うと興奮するたちなのだ。
「面白い…面白いぞ、アルフレッド」
それはどうやら相手も同じらしく二人で同じように笑い合う。
どうやらこの王子は自分とどこか同類らしい。
夜にさえ誘って来なければきっと同志として剣の道を共に極めていけただろうに…。
(惜しいな…)
だがおとなしくこの男のものになる気はない。
「悪いが仕留めさせてもらうぞ」
そして俺は呼吸を整え、全力の一撃をもって王子へと突撃した。
高速の剣戟を王子の目は確かに追ってはいるが、そちらはフェイクだ。
ヒュゴッと下段からの切り上げで繰り出された剣をかろうじて避けた王子を引き掴み、俺はそのまま膝蹴りを腹に叩き込んだ。
「グフッ…」
「悪いな王子。俺の…勝ちだ」
こうして崩れ落ちた王子に、俺は恍惚としながら勝利を宣言したのだった。
***
「王子!セドリック王子!ご無事ですか?!」
審判をしていた騎士団長が慌てて飛んできて王子の無事を確認するが、別に命に別状はない。
単にものすっごく痛くて苦しいだけだ。
ちなみに俺をヤッたんだからそれくらいの仕返しは我慢してほしいくらいだと俺は思っている。
けれど騎士団長からすれば先程の勝負は業腹だったのだろう。
剣の勝負と見せかけつつ最終的には膝蹴りだったからな。
だが……。
「剣術だけではなく体術も立派な戦術の一つだ。まさか俺の勝ちを取り消すとは言わないよな?」
「~~~~~~っ!!」
俺の煽りに騎士団長の怒りが更に膨らんでいく。
一応王子には剣での勝負と言っていたから、そうなるようにわざと仕掛けてみたのだ。
剣の勝負だけで言えば同格。かなり楽しませてもらったから俺としては満足している。
後はここであのセリフを言ってもらえたら手っ取り早いんだけど。
「貴様のような者にこの城にいる資格などない!姫の護衛は我々騎士団の者に任せてさっさと荷物を纏めて…ッッ?!」
(あ~…残念)
後ちょっとだったのにと少しだけガックリきてしまった。
それもそのはず。
肝心の王子が物凄い速さで剣を振るい、騎士団長の首筋に刃先をピタリと当てたのだ。
「貴様の方こそその口を今すぐ噤め。王にも認められた人の側妃にそのような口を利くとはどういった了見だ?」
「ひっ…?!も、申し訳ございません!」
(ここでそれを言う?)
正直側妃云々なんて俺には枷でしかないのだが…。
「アルフレッド…」
「なんでしょう?」
「今日のところは諦めるが、実に良い鍛錬になった。また明日も頼む」
(明日……。明日?!)
「そ…それは……」
(楽しかったけど俺の身がかかってるからできればやめたいし、もっと言えばここから逃げたいんだけどな)
「どうした?まさか疲れが出て無理だとは言うまいな?」
これしきの事で?と煽られて、俺もサラリとは流せない。
「……わかりました。できる限りはお受けしましょう」
「そうか。ではよろしく頼む」
まあ俺だっていい鍛錬にはなるから手合わせ自体は別に構わないかとなんとか割り切ろうとしたところで、いつの間にか傍らまでやってきていた王子にグイッと引き寄せられ、またしても唇を奪われた。
「~~~~~ッ?!」
「今日の褒美だ。ありがたく受け取れ。明日は絶対にお前自身を手に入れてみせるぞ」
そして二ッと笑うと満足げにしながら去っていってしまう。
(何が褒美だ!勝っても負けても俺が損なだけじゃないか!!)
悲しきかな。俺の声にならない心の叫びだけが、殺気と共にその場に満ちた。
二人の戦いは、まだ始まったばかり────。
****************
※当初はここで終わろうと思ってたんですが、後日談を書いたので章を追加しました。
その後の話としてセドリックが勝った話からとなりますので次話はR‐18です。
苦手な方はお気を付けください。
この勝負結果によっては今夜俺はまた抱かれなければいけないのだ。嫌でも気合いが入る。
絶対に負けられない勝負だが、力んだら負けると必死に心を落ち着かせるよう努めた。
そして俺はキッと顔を上げ王子へと鋭く視線を向ける。
そんな俺に王子もまた楽し気な笑みを浮かべていた。
互いに剣を構え緊迫感が増していく中、審判役にと連れてこられた騎士団長がはじめっと声を上げる。
それと同時に飛び出し、先手必勝とばかりに剣を合わせると、王子の方もまた突っ込むようにしながら俺の剣を正面から受け止めにかかった。
ギィンッ!!
激しくぶつかり合う剣を挟んで互いに相手の力量を見計らう。
一歩引いて半身の態勢で次の攻撃を避け、流れるよう二撃目を放つ。
三撃、四撃……。
剣を打ち合う度に互いのスピードが上がっていく。
(強い……)
これはもしかしたら英雄トルセンと同じくらいかもしれない。
(それでも…負ける気はないがな)
スピードが上がるにつれてパワーは落ちていくが、その分隙を突きやすくはなっていく。
相手が強かろうが関係はない。
「ははっ…楽しいなぁ、おい」
強敵に出会った時にだけ入るスイッチが勝手に入り、俺を愉悦が満たしていく。
(やばいな……)
まさかこれほどできる相手とは思っていなかった。
これ以上となるとうっかり惚れてしまいそうだ。もちろん恋愛的意味合いではなく男としてだが…。
向こうにはまだ余裕がありそうに見えるが、それは俺も同様だ。
こんなやりがいのある手合わせ……折角なのだから楽しまないと損だ。
「もっともっとお前の実力を晒してみろ!」
その言葉に煽られるようにセドリック王子が嗜虐的に笑った。
(来る…)
そして実に楽し気にしながら物凄い速さで剣戟を連打してきた。
(しかも重い…!)
「ちっ…!」
それならそれでこちらは流し斬りに切り替えるだけだ。
正面から受け止めるだけが剣の極意ではない。
(五月雨斬り!!)
相手の攻撃を受け流しながら剣戟に相手の力を上乗せし、連撃を繰り出す達人技の一つで攻め立てる。
これでどうだとばかりに攻撃を繰り出したのに、多少押され気味ではあったが王子はそれをギリギリ受け切った。
「はぁ…最高だな」
一旦引いて距離を置きうっとりとそんな事を口にした俺に、王子が楽しげにしながらSっ気でもあるのかと茶化してきた。
別にそういうわけではないんだが、昔から強い相手に出会うと興奮するたちなのだ。
「面白い…面白いぞ、アルフレッド」
それはどうやら相手も同じらしく二人で同じように笑い合う。
どうやらこの王子は自分とどこか同類らしい。
夜にさえ誘って来なければきっと同志として剣の道を共に極めていけただろうに…。
(惜しいな…)
だがおとなしくこの男のものになる気はない。
「悪いが仕留めさせてもらうぞ」
そして俺は呼吸を整え、全力の一撃をもって王子へと突撃した。
高速の剣戟を王子の目は確かに追ってはいるが、そちらはフェイクだ。
ヒュゴッと下段からの切り上げで繰り出された剣をかろうじて避けた王子を引き掴み、俺はそのまま膝蹴りを腹に叩き込んだ。
「グフッ…」
「悪いな王子。俺の…勝ちだ」
こうして崩れ落ちた王子に、俺は恍惚としながら勝利を宣言したのだった。
***
「王子!セドリック王子!ご無事ですか?!」
審判をしていた騎士団長が慌てて飛んできて王子の無事を確認するが、別に命に別状はない。
単にものすっごく痛くて苦しいだけだ。
ちなみに俺をヤッたんだからそれくらいの仕返しは我慢してほしいくらいだと俺は思っている。
けれど騎士団長からすれば先程の勝負は業腹だったのだろう。
剣の勝負と見せかけつつ最終的には膝蹴りだったからな。
だが……。
「剣術だけではなく体術も立派な戦術の一つだ。まさか俺の勝ちを取り消すとは言わないよな?」
「~~~~~~っ!!」
俺の煽りに騎士団長の怒りが更に膨らんでいく。
一応王子には剣での勝負と言っていたから、そうなるようにわざと仕掛けてみたのだ。
剣の勝負だけで言えば同格。かなり楽しませてもらったから俺としては満足している。
後はここであのセリフを言ってもらえたら手っ取り早いんだけど。
「貴様のような者にこの城にいる資格などない!姫の護衛は我々騎士団の者に任せてさっさと荷物を纏めて…ッッ?!」
(あ~…残念)
後ちょっとだったのにと少しだけガックリきてしまった。
それもそのはず。
肝心の王子が物凄い速さで剣を振るい、騎士団長の首筋に刃先をピタリと当てたのだ。
「貴様の方こそその口を今すぐ噤め。王にも認められた人の側妃にそのような口を利くとはどういった了見だ?」
「ひっ…?!も、申し訳ございません!」
(ここでそれを言う?)
正直側妃云々なんて俺には枷でしかないのだが…。
「アルフレッド…」
「なんでしょう?」
「今日のところは諦めるが、実に良い鍛錬になった。また明日も頼む」
(明日……。明日?!)
「そ…それは……」
(楽しかったけど俺の身がかかってるからできればやめたいし、もっと言えばここから逃げたいんだけどな)
「どうした?まさか疲れが出て無理だとは言うまいな?」
これしきの事で?と煽られて、俺もサラリとは流せない。
「……わかりました。できる限りはお受けしましょう」
「そうか。ではよろしく頼む」
まあ俺だっていい鍛錬にはなるから手合わせ自体は別に構わないかとなんとか割り切ろうとしたところで、いつの間にか傍らまでやってきていた王子にグイッと引き寄せられ、またしても唇を奪われた。
「~~~~~ッ?!」
「今日の褒美だ。ありがたく受け取れ。明日は絶対にお前自身を手に入れてみせるぞ」
そして二ッと笑うと満足げにしながら去っていってしまう。
(何が褒美だ!勝っても負けても俺が損なだけじゃないか!!)
悲しきかな。俺の声にならない心の叫びだけが、殺気と共にその場に満ちた。
二人の戦いは、まだ始まったばかり────。
****************
※当初はここで終わろうと思ってたんですが、後日談を書いたので章を追加しました。
その後の話としてセドリックが勝った話からとなりますので次話はR‐18です。
苦手な方はお気を付けください。
86
※皆様いつもありがとうございます♪この度スピンオフ作品をアップしましたので、ご興味のある方はそちらも宜しくお願いしますm(_ _)m『王子の本命~ガヴァム王国の王子達~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/91408108/52430498
お気に入りに追加
3,643
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。


【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる