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【本編】
4.仕方がない。奥の手を出すか。
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「アルメリア王女」
「何かしら?アルフレッド。そんなに改まって」
「今日は姫がセドリック王子の元へ行ってください」
「え?お断りよ」
「どうしてです?」
「だって王子からは引き籠っていても構わないと言っていただいているし…」
必要ないでしょうと笑顔で逃げようとしてくるが、そうは問屋が卸さない。
何故ならそのしわ寄せが来るのはどう考えても俺だからだ。
「姫?姫はここに引き籠るために嫁いできたのではないですよね?跡継ぎを残すために嫁がれたのですよね?責務を放棄するおつもりですか?それは許されませんよ?」
「…………い、一度は寝ろと?」
「一度と言わずこれから先ずっと王子のお相手をしてください」
「なっ…!なんて酷いことを言うの?!主人である私に向かってあまりにも酷くはなくて?」
「酷いのは姫の方でしょう?俺はもう王子とは二度と寝ませんから」
「薄情者!」
「なんとでも」
「ひ、筆頭騎士長の位を剥奪するわよ?!」
「そうなったらなったで何も気にせずここから出ていけるので別に構いませんが?」
「な、なななっ?!正気なの?!」
「正気ですよ。俺の腕があればどこの国でも冒険者になれますし、護衛任務も得意なので商人のお抱えにだってなれるでしょう」
「よ、世の中そんなに甘くはないわよ?他国でそんなに上手くいくなんて思わないことね」
「嫌ですね、姫。俺の経歴、知らないんですか?」
「……知らないわ」
「俺、二十歳までミラルカ皇国以外の国にいたんですよね…」
「そうなの?」
「ええ。知りません?ゴッドハルトの英雄の片腕……」
「ゴッドハルトの英雄ってあの腐ったゴッドハルト国を大きく改革し正道へと導いた英雄トルセンのことよね?その片腕って言うと…確か英雄の補佐を務めながら百の兵を一人で相手したという剣豪…アル…フレッド……。…え?」
姫の目がまさかと言うような目で俺を見てくるが、そのまさかだ。
俺が平和な国で悠々自適に過ごしたいと言ったらトルセンがじゃあミラルカ皇国に行ったらどうだと言って伝手を使って一騎士として採用してもらうことができた。
それがまさか流れ流れてブルーグレイ王国までやってくる羽目になるなんて思ってもみなかったけど…。
「だから…ね?姫。俺は別にいつ出ていっても全く何も困らないんですよ」
さあどうします?とにっこり笑顔で脅しにかかると姫はたちまち蒼白になって「今日は行ってくるわ」と返事を返した。
「わかって頂けて嬉しいです。今後は俺の手を煩わせないでくださいね?お願いしますよ?」
はぁ~良かった良かった。これで今日はゆっくり休めそうだ。
そう思いながら俺は平和的に解決したこの問題をさっさと頭から追い出したのだった。
***
【Side.アルメリア】
コンコンと悪魔の部屋の扉をノックする。
来たのがアルフレッドではなく私だと知ったらあの悪魔はどんな顔をするだろう?
考えるだけで卒倒しそうになる。
初めて会ったあの時の殺気は今思い出しただけでも恐ろしくて身が震えてしまう。
思えばあんな殺気を前にして平気で話ができたアルフレッドはやはり只者ではなかったのだ。
まさか英雄の片腕だっただなんて────。
「…入れ」
部屋の中から悪魔の声が聞こえ、私は恐る恐る扉を開く。
すると目が合った瞬間殺されるかと思う程の威圧が襲い掛かってきた。
「ひっ…!」
殺さないで殺さないで…!!
(無理無理無理無理……!!!)
こんな男に抱かれろなんて無茶苦茶すぎる。
まだ火の中に飛び込めと言われた方がずっとマシだ。
ギロチンを前にした方がいっそのこと一思いにやってくれそうな気がするから気が楽かもしれない。
それほどこの男の殺気やら威圧やらは自分には恐ろしすぎた。
「…どうしてお前が来た?」
「し、仕方がなかったんです!お許しください!」
そして私はその場で王子の顔を見なくて済むようにと平伏すように床へとダイブした。
「ア、アルフレッドが義務は果たして子を作れと言いまして、そうしないとここから出ていくと…!」
ブルブル震えながら多少内容を端折って話をすると、王子はスッと殺気を引っ込めてくれた。
どうやら彼的にはアルフレッドに出て行かれたくはないらしい。
「子ができれば側室に収まると?」
「い、いえっ!そこまでは……。ひっ…!」
また殺気を振りまき始めたセドリック王子に私は悲鳴を上げて逃げ出したくなった。
もう帰りたい…。
「お許しください!アルフレッドはかの有名なゴッドハルトの英雄の片腕だった男でして、私にはどう足掻いても説得できそうになかったのです!」
ところがその話が意外なほど王子の気を惹いたのか、あっさりとまた殺気は霧散してしまった。
「ははっ…!なるほどな。それなら納得だ」
「…………」
一体何が納得だと言うのか。顔を見なくてもわかるほど、悪魔の機嫌は急上昇したようだった。
けれどきっとここで突っ込んで聞いてはいけないのだろう。
それくらいのことはわかる。
「では姫。これからについて話し合うとしようか…」
「……は、はい」
こうして私は蚊の鳴くような声で返事をし、怯えながら王子と共に今後の対策を考えた。
「ああ、わくわくするな」
「左様ですか」
「知っているか?あの男につけた俺の暗部達は皆気づかぬ間にしてやられたのだ」
「…それはとんだご無礼を」
「いや。怒っているわけではない。寧ろ他の護衛騎士達は全く気付いていないのにあの男だけは別格だと思っていたのだ。だからこそ先日完全に気配を断って近づいてみたんだが……」
ククッとそれはそれは楽し気に笑うセドリック王子。やっぱり性格が悪いですね。
目をつけられたアルフレッドには申し訳ないけれど、自分としては非常に助かるのでできれば頑張ってこのままこの凶悪な王子の手綱を握っていて欲しい。
「あの男をこの手に入れる日が待ち遠しいな」
「……頑張ってくださいませ」
そうして義務だからとお互い割り切って至極あっさりと事を終え、明日以降は絶対にアルフレッドをここにと誓い合ったのだった。
「何かしら?アルフレッド。そんなに改まって」
「今日は姫がセドリック王子の元へ行ってください」
「え?お断りよ」
「どうしてです?」
「だって王子からは引き籠っていても構わないと言っていただいているし…」
必要ないでしょうと笑顔で逃げようとしてくるが、そうは問屋が卸さない。
何故ならそのしわ寄せが来るのはどう考えても俺だからだ。
「姫?姫はここに引き籠るために嫁いできたのではないですよね?跡継ぎを残すために嫁がれたのですよね?責務を放棄するおつもりですか?それは許されませんよ?」
「…………い、一度は寝ろと?」
「一度と言わずこれから先ずっと王子のお相手をしてください」
「なっ…!なんて酷いことを言うの?!主人である私に向かってあまりにも酷くはなくて?」
「酷いのは姫の方でしょう?俺はもう王子とは二度と寝ませんから」
「薄情者!」
「なんとでも」
「ひ、筆頭騎士長の位を剥奪するわよ?!」
「そうなったらなったで何も気にせずここから出ていけるので別に構いませんが?」
「な、なななっ?!正気なの?!」
「正気ですよ。俺の腕があればどこの国でも冒険者になれますし、護衛任務も得意なので商人のお抱えにだってなれるでしょう」
「よ、世の中そんなに甘くはないわよ?他国でそんなに上手くいくなんて思わないことね」
「嫌ですね、姫。俺の経歴、知らないんですか?」
「……知らないわ」
「俺、二十歳までミラルカ皇国以外の国にいたんですよね…」
「そうなの?」
「ええ。知りません?ゴッドハルトの英雄の片腕……」
「ゴッドハルトの英雄ってあの腐ったゴッドハルト国を大きく改革し正道へと導いた英雄トルセンのことよね?その片腕って言うと…確か英雄の補佐を務めながら百の兵を一人で相手したという剣豪…アル…フレッド……。…え?」
姫の目がまさかと言うような目で俺を見てくるが、そのまさかだ。
俺が平和な国で悠々自適に過ごしたいと言ったらトルセンがじゃあミラルカ皇国に行ったらどうだと言って伝手を使って一騎士として採用してもらうことができた。
それがまさか流れ流れてブルーグレイ王国までやってくる羽目になるなんて思ってもみなかったけど…。
「だから…ね?姫。俺は別にいつ出ていっても全く何も困らないんですよ」
さあどうします?とにっこり笑顔で脅しにかかると姫はたちまち蒼白になって「今日は行ってくるわ」と返事を返した。
「わかって頂けて嬉しいです。今後は俺の手を煩わせないでくださいね?お願いしますよ?」
はぁ~良かった良かった。これで今日はゆっくり休めそうだ。
そう思いながら俺は平和的に解決したこの問題をさっさと頭から追い出したのだった。
***
【Side.アルメリア】
コンコンと悪魔の部屋の扉をノックする。
来たのがアルフレッドではなく私だと知ったらあの悪魔はどんな顔をするだろう?
考えるだけで卒倒しそうになる。
初めて会ったあの時の殺気は今思い出しただけでも恐ろしくて身が震えてしまう。
思えばあんな殺気を前にして平気で話ができたアルフレッドはやはり只者ではなかったのだ。
まさか英雄の片腕だっただなんて────。
「…入れ」
部屋の中から悪魔の声が聞こえ、私は恐る恐る扉を開く。
すると目が合った瞬間殺されるかと思う程の威圧が襲い掛かってきた。
「ひっ…!」
殺さないで殺さないで…!!
(無理無理無理無理……!!!)
こんな男に抱かれろなんて無茶苦茶すぎる。
まだ火の中に飛び込めと言われた方がずっとマシだ。
ギロチンを前にした方がいっそのこと一思いにやってくれそうな気がするから気が楽かもしれない。
それほどこの男の殺気やら威圧やらは自分には恐ろしすぎた。
「…どうしてお前が来た?」
「し、仕方がなかったんです!お許しください!」
そして私はその場で王子の顔を見なくて済むようにと平伏すように床へとダイブした。
「ア、アルフレッドが義務は果たして子を作れと言いまして、そうしないとここから出ていくと…!」
ブルブル震えながら多少内容を端折って話をすると、王子はスッと殺気を引っ込めてくれた。
どうやら彼的にはアルフレッドに出て行かれたくはないらしい。
「子ができれば側室に収まると?」
「い、いえっ!そこまでは……。ひっ…!」
また殺気を振りまき始めたセドリック王子に私は悲鳴を上げて逃げ出したくなった。
もう帰りたい…。
「お許しください!アルフレッドはかの有名なゴッドハルトの英雄の片腕だった男でして、私にはどう足掻いても説得できそうになかったのです!」
ところがその話が意外なほど王子の気を惹いたのか、あっさりとまた殺気は霧散してしまった。
「ははっ…!なるほどな。それなら納得だ」
「…………」
一体何が納得だと言うのか。顔を見なくてもわかるほど、悪魔の機嫌は急上昇したようだった。
けれどきっとここで突っ込んで聞いてはいけないのだろう。
それくらいのことはわかる。
「では姫。これからについて話し合うとしようか…」
「……は、はい」
こうして私は蚊の鳴くような声で返事をし、怯えながら王子と共に今後の対策を考えた。
「ああ、わくわくするな」
「左様ですか」
「知っているか?あの男につけた俺の暗部達は皆気づかぬ間にしてやられたのだ」
「…それはとんだご無礼を」
「いや。怒っているわけではない。寧ろ他の護衛騎士達は全く気付いていないのにあの男だけは別格だと思っていたのだ。だからこそ先日完全に気配を断って近づいてみたんだが……」
ククッとそれはそれは楽し気に笑うセドリック王子。やっぱり性格が悪いですね。
目をつけられたアルフレッドには申し訳ないけれど、自分としては非常に助かるのでできれば頑張ってこのままこの凶悪な王子の手綱を握っていて欲しい。
「あの男をこの手に入れる日が待ち遠しいな」
「……頑張ってくださいませ」
そうして義務だからとお互い割り切って至極あっさりと事を終え、明日以降は絶対にアルフレッドをここにと誓い合ったのだった。
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