【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

オレンジペコ

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【本編】

1.姫の輿入れ

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ある日ミラルカ皇国の姫、アルメリアが大国ブルーグレイ王国へと嫁ぐことが決まった。
相手はブルーグレイ王国のセドリック王子で、噂では大層見目麗しい容姿をしているとのこと。
但し性格は極悪残忍で、気に入らない者はすぐさま殺されるのだと実しやかに噂される人物でもあった。
そんな相手の元へ姫が嫁ぐとあって、姫本人は嫌の一点張りだった。

「どうして私なの?!もっと他にも適任の姫は周辺国にだっているじゃない!」

でも他の姫達にお断りされて回りまわってやってきた話だったので、こちらの弱みを盾に向こうはこれでもかと条件を出してきた。
所謂金だ。
あちらこちら他国へと借金をしている状態のミラルカ皇国に対し、ブルーグレイ王国は多額の金銭を提示し、姫を嫁がせてくれるならこの金を渡すと言ってきたのだ。
実質売られたと言っても過言ではない。

姫としてはここまで来たらもうどうしようもないと腹を括らざるを得なかったのだろう。
最終的には一つの条件を付けてきた。

「わかりました。もう逃げ場がないというのならこの政略結婚は受け入れましょう。でも、護衛騎士は30人、侍女は50人、きっちりつけてくださいませ」

これには王はじめ大臣達もホッとした様子で、快く了承を示した。

「アルフレッド、頼んだぞ」

いざブルーグレイ王国へと向かう出立の日、俺は騎士団長直々にそんな風に頼まれた。
今回護衛騎士として姫についていくのは実は若手ばかりの新人騎士達なのだ。
そんな中、筆頭騎士長として任命されたのが俺、アルフレッドだった。
御多分に漏れず俺も若いと言えば若い方で、年は22才で姫とは6才差。
まだ16才の姫が間違っても他の騎士達に襲われないよう見張っておいて欲しいともこっそり頼まれる。
それは確かに危惧すべき案件だ。万が一にでも何かあっては一大事だし、快く引き受けた。
そして約一月かけて俺達ははるばる大国ブルーグレイ王国までやってきた。

「わぁ~…空気が違うわ」

初めての他国に姫の目がキラキラと希望に輝く。
ブルーグレイ王国は大国なだけあって色々な人種が入り混じり、扱っている物もまた豊富だった。
中には珍しい織物や民族衣装、変わった楽器、見たこともないような宝飾品などなど皇国では見られないものが所狭しと並べられ、一行の目を楽しませた。

ここに来るまでのひと月で姫の気分も徐々に上向きになり、今では少しは前向きに考えられるようになったようだ。
言っても嫁ぎ先は大国。自国にいるよりもずっと贅沢な暮らしができるのだと気づいたというのも大きいだろう。
多少不便はあるかもしれないが、こちらは侍女も護衛騎士も豊富に連れてきている。
味方が沢山いるのだと思うだけでも心持ちも楽になる事だろう。

そうして王城へと入り、俺達は歓迎を受けてブルーグレイ王国での生活が始まった。


******


ゴーン…ゴーン…厳かな教会の音が響き渡る。
今日は姫と王子の結婚式。
この日を迎えるまでに姫が王子と顔を合わせたのは実はたったの一回、挨拶に行った時だけだった。
その時を思い返すに、俺はついつい遠い目になってしまう。

「お前がミラルカ皇国の姫、アルメリアか…」

そう眼光鋭く姫を見遣ったのは確かに噂に違わぬ美丈夫ではあったが、人を何人も殺してそうなほどの殺気を纏った男だった。
これには流石の姫もブルブルと震えて声も出せないほどで、思わず自分が代わりに挨拶を行ったほどだ。

「お初にお目に掛かります殿下。この度は我が国の王女、アルメリア姫をお迎えいただき感謝申し上げます。何分不慣れなことも多く、また繊細な姫君でもありますので私が代わりにお話させて頂くことをお許しいただけたらと思います」

そんな俺に王子は鋭い眼差しを向けてくるが、俺は若くとも護衛騎士だ。
これくらいの殺気で怯んだりはしない。

「お前は?」
「はい。今回姫の護衛騎士として参りました、筆頭騎士長のアルフレッドと申します。何かございましたら私の方までご連絡頂ければ幸いです」
「……そうか」

その時の会話はそれで全てだ。
正直輿入れ相手に対する態度ではなかったなと思わざるを得ない。
けれどこの婚姻を破棄するなどといった話は一切なく、今日この日のためにドレスやら装飾品やらの手配も行ってくれて生活の一切合財も保障してくれていたし、まあそれほど困ることはなかった。
ただ一つ問題があるとすれば────。

「姫、式のお時間です」
「わ…わかったわ……」

ブルブルと震えているこの花嫁だろう。
姫はあの最初の一回ですっかり王子のことを恐れるようになってしまっていて、顔を合わせなくても怖がるようになってしまった。
こんな状態で本当に大丈夫なのかと思いながら式場へとエスコートし、介添えの女性へと姫を預け護衛へと回った。

「来たか」

そこに現れたのは新郎であるセドリック王子。
きっちりと真っ白な正装に身を包み、その美麗な顔には酷薄な笑みを浮かべ花嫁を見遣っていた。

「ひっ…!」

今日は以前のような殺気を放っているわけでもないのに姫は恐怖に顔を引きつらせ、真っ直ぐ立つのも儘ならない様子。
これではとてもではないが式を行うのは無理なのではないだろうか?

「姫、深呼吸して落ち着いてください」
「お、落ち着くなんて無理よ…!」
「このままでは誓いを行うための聖壇前にたどり着けませんよ?」
「そんなことを言っても立てないものは立てないのよ。アルフレッド、もういっそ代わってくれないかしら?」
「寝言は寝てから言ってください。どこに花嫁の代わりに愛の誓いをする騎士がいるんですか」
「でも同じアル仲間じゃないの。お願い!」
「アルメリア様は姫でアルフレッドである俺は騎士です。変な共通点を見出さずさっさと義務を果たしてください」
「うぅ…酷いわ……」

グスグスと半泣きになっている姫には悪いが、これだけは果たしてもらわないと困るのだ。
なにせ近隣諸国からも沢山の貴賓たちがお祝いに駆け付けてくれているのだから。
そんな俺達のやり取りを見て、セドリック王子が初めておかしそうに噴き出した。

「ククッ…面白い姫だな。ではこうしようではないか」

そしてふわりと姫の身体を横抱きにし、笑顔でこう宣う。

「この式さえ乗り切ったなら、後は好きにしてくれて構わないぞ?」
「そ…その言葉は、ほ、本当ですか?」
「ああ。これは政略結婚だ。俺を好きになれとは言わないし、嫌なら宮に籠って暮らせばいい。最低限の義務さえ果たせば其方は自由だ」
「…………わかりましたわ」

そして姫は何かを決意するかのようにキュッと唇を噛みしめ、セドリック王子に頼みごとをする。
コソコソと耳打ちしているから俺には内容は聞こえなかったけれど、それを聞いたセドリック王子は何故か楽し気な笑みを浮かべてわかったと口にした。

こうして王子と姫は一見仲睦まじく見える姫抱っこで式を進め、無事に婚姻を成立させたのだった。


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