王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第五章 油断大敵

101.飲み会 Side.ディオ

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ルーセウスと合流することにしたため、飲みの席でつまむからと言って晩餐をパスし、ひたすら仕事に励む。
『人間業じゃないっすよ。本当に書類読んでます?』なんてシグは失礼なことを言ってくるが、ちゃんと全部読んでいるし、判断ミスをしないようにダブルチェックもしてるから大丈夫だ。
ルーセウスに会うならちゃんとしっかりとそつなく仕事の目処をつけておかないと。
途中で邪魔が入るのが一番困る。

「…早くルーセウスに愛されたいな」

恋しくて思わず溜め息を吐いたら、シグから『そろそろ薬が切れかけてくる時間だから、ヤバいっすよ!』と言われ、性欲を遠ざける薬を飲んだらどうかと勧められた。
別にそこまでしなくても大丈夫なのに。
朝飲んだ薬はまだ切れてないし、仕事に没頭してたら時間が経つのもあっという間だろう。
飲み会があるとは言え短時間の予定だし、その後がルーセウスと話してそのまま寝るだけだ。
追加で飲む必要はない。

「必要ない」
「でも薬が切れた状態で飲み会参加なんてしたら、ディオ様の色気にあてられてパーシバル陛下が悩殺されるかもしれないじゃないっすか」
「そんなことあるはずがないだろう?パーシバルだって王族なんだからそういう耐性はあるはずだ。そもそも俺は男だし、色気なんてないから」
「えー?もしかしてまだ自覚してないんっすか?ルーセウス陛下に愛されまくってるから、ここ最近のディオ様の色気はなかなかのものっすよ?」

シグが茶化して言ってくるけど、ルーセウスに愛されているからと言われるのはちょっと嬉しい。

「うん。そんなルーセウスに明日は思う存分愛してもらいたいから、追加で薬を飲むのは嫌だ」

今飲んだら明日の午前中いっぱいは薬が効いてるだろうし、折角のルーセウスとの時間が堪能できなくなってしまう。
そうなるのがわかってて飲む気はない。

「相変わらず頑固っすね。それじゃあせめて飲み会前にこれだけ飲んでおいてください」

コトリ、とシグが執務机に小瓶を一つ置いてくる。

「これは?」
「予め飲んでおくタイプの媚薬の緩和剤っす。ディオ様は元々毒耐性薬の効果で少しだけ媚薬耐性はありますけど、完全ではないのでこれは絶対に飲んでてほしいっす。ルーセウス陛下も万全の体制で飲み会に挑ませるよう言ってましたから、必ず飲み会前に飲んでおいてください」
「ふ~ん?」

まあルーセウスの指示ならちゃんと飲んでおこう。
どうせ何もないだろうけど、ルーセウスが心配する気持ちもわからなくはないし、ちゃんと反省しているというアピールにもなるだろう。

そうして素直に小瓶を胸元へと仕舞い、あと一息とばかりに仕事へと取り掛かる。
飲み会までは後二時間。
それだけあれば急ぎのものは全部片付くだろう。
後は部屋に持ち帰ってルーセウスとの通話後に終わらせればいい。
睡眠時間は減るけど、最悪ワイバーンの操縦をシグに任せて仮眠を取れば十分だろう。
ルーセウスとの時間をいっぱい確保したいから頑張らないと。

「ホント。ディオ様って一途だけど、極端で可愛いっすよね。そういうところに男心が擽られるんっすよ?本当にパーシバル陛下に襲われないよう気をつけてくださいね?」
「心配しなくても大丈夫だ」
「そう言いながらすぐ油断するくせに。まあそういうちょっと抜けてるところがまた可愛いんすけど」
「何か言ったか?」
「気のせい!気のせいっすよ!すぐに暗器チラつかせるのやめてくれません?!」
「全く。わかった。眠り針はたっぷり仕込んでおくよ。もしパーシバルがしつこく迫ってきたらプスッと刺すから。ほら、これでいいだろう?」
「あ~…まあ取り敢えずそれでいいっす。ディオ様ってそもそも変態騎士達に対しての『絶対無理!』な過剰反応的拒絶しかできなかったし、他は全部やんわりお断りコースでしたもんね」

しみじみ言われるけど、これまで特にそれで困ったこともないし、スマートにやんわり躱せる方がいいんじゃないだろうか?

「それより、報告があるんじゃないのか?」

シグがすぐに去らないと言うことは用があると言うことに他ならない。
だからさっさと言えと促した。

「はいっす」

バサリと渡された報告書の束を手に取り、ザッと目を通す。

「ふーん…」
「どれもパーシバル陛下が把握していないフレッシュな情報っすよ」
「流石シグだな。諜報員達をどこまで深入りさせたんだ?」
「え?ちょっと王弟の補佐官の補助に二人ほど紛れ込ませて、宰相補佐に三人ほど紛れ込ませただけっすよ?」
「よくそこまで深く入り込めたな」
「ええ。王弟の補佐官補助は兎も角として、宰相の補佐の方は潜入は超簡単だったみたいっすよ?どうも宰相はパーシバル陛下を我々ガヴァムの者達に暗殺されたことにして弟王子を新王に据えたいみたいっすね。少ししか城に居ないくせに成果を上げていく扱いにくいパーシバル陛下より、王代理として頼ってくる弟王子の方が扱いやすいと踏んだようです。だからこっちに罪を着せるべく、しっぽ切り要員の補佐官達を募集したってところなんすよ」

パーシバルが油断するように顔を覚えさせ、次に会った際に暗殺を実行に移す。
その後実はガヴァムの者が潜入してて、殺されたようだと話を纏めたいらしい。

「ハハッ。宰相もまさか本当にガヴァムの者が紛れ込んできたとは考えていないだろうな」
「そうっすね。それは全く考えてもいないみたいです。暗殺のタイミングは自分が出すからこの毒を使えって言って、毒を渡してきたみたいっすから」
「そうか。パーシバルも身内に毒蛇を飼っているなんて大変だな」
「もうこのまま宰相に乗っかってヤッちゃいます?今なら宰相の側に『こいつが暗殺計画立てて実行しました』って証拠を残すのも容易っすよ?」
「面倒臭いからやめておけ。火の粉が飛んでくるのは御免だ」
「わかりました。しょうがないからディオ様に手出ししない限りはのらりくらりと躱させます」
「パーシバルに恩を売るためのカードとしても使えるからな。油断なく立ち回るよう指示を出しておいてくれ。場合によっては人員を適宜入れ替えるように」
「はいっす。どうせバロン国の裏稼業連中とも協定を結んだんで、万が一暗殺者募集で話が来たとしてもうちの者が引き受けることになってるっす。後はディオ様のお心ひとつでお好きなように」
「わかった」

バロン国の方はこれでどうとでもなるはず。
そう考えながら残りの二時間仕事へと励んだ。


***


「ディオ。遅かったな」

ヴィオレッタ王女を連れてパーシバルの部屋へとやってくると、憮然とした顔で出迎えられた。

「すまない。なかなか仕事が片付かなくて」
「どうせルーセウスと話していたんじゃないのか?」
「いや?ルーセウスとは毎日話す時間が決まってるんだ。だから後一時間ちょっとしたら抜けるから」
「一時間ちょっと?短すぎないか?」
「しょうがないだろう?俺にルーセウスとの時間以上に大事なものはないんだから」

夫婦の時間を邪魔するなときっぱり口にしたら舌打ちされた。
独り身だからってひがまないで欲しい。

「まあいい。ほら。これが土産のアイスワインだ」
「ありがとう。ルーセウスがこっちに来た時に一緒に飲むよ」
「今飲まないのか?」
「うん。実は今日油断して次々唇を奪われたから、反省を込めて今日は飲むなって言われたんだ」
「そんなものバレなければどうとでもなるだろう?」
「俺は水でいいから。その代わりパーシバルには良いお酒を持ってきた。皆に聞いたらガヴァムの酒でのお勧めはこれだって。『天上の神々』っていうお酒らしいんだけど、まろやかで口当たりが良くて、度数も高いからあっという間に酔えるらしい」
「美味そうだな。じゃあまずは毒見にお前が飲んでみてくれ」
「そう言うと思って、今日は毒見役をちゃんと連れて来たよ」

シグが酒飲みの暗部を5人も用意してくれたから、毒見役は豊富にいる。
俺がわざわざ毒見をする必要はない。

「いや。そんなもの信用できないだろう?」
「では私は如何です?私は特にルーセウス王子から何も言われておりませんし、お付き合いはできますわ」

にこやかにヴィオレッタ王女がパーシバルへと飲みに付き合うと申し出てくれた。
有難いことだ。

「チッ…」
「舌打ちしないでくれ。大体キスが原因なんだから、飲めなくなったのはパーシバルのせいでもあるだろう?」
「いや。ルーセウスの心が狭いせいだ。黙ってたらわからないんだし、いいからお前も飲め」
「遠慮しておくよ。これで一か月もお預けされたら後悔してもしきれないから」
「なんだ?飲んだら抱いてやらんとでも言われたのか?それなら俺が代わりに抱いてやるぞ?喜んでな」
「いらない。絶対ルーセウスの方が上手いし」
「どうせ体力任せに自分勝手に抱くだけだろう?」

脳筋だしとパーシバルは決めつけてかかるが、過小評価にも程がある。

「あら。ルーセウス王子は確かロキ陛下監修の閨指導本を全巻読破して実践しているはずですわよ?ディオ様を満足させた上で夢中にさせるだけのテクニックは確実にお持ちのはずですわ」
「閨指導本?」
「そう。見てみる?」

ヴィオレッタ王女も面白がって昔読破してたけど、パーシバルは知らないだろうし、折角の機会だから見せてあげよう。
そう思ってシグに持ってこさせたら、興味深そうにパラパラ見始めて、何故か眉を顰めていた。

「……あいつはどこまでこれを実践してるんだ?」
「後半の道具編とか多人数のものはやってないけど、それ以外のものは殆ど完璧に実践してるかな?端的に言って凄く上手いよ」
「チッ…!」

パーシバルは苛立たし気に舌打ちすると、グラスに『天上の神々』を並々と注ぎ、グッと煽る。
きっと俺の答えが余程気に入らなかったんだろう。
でも酒の方は口に合ったらしく、目を丸くして感嘆の声を上げる。

「ん。美味いな」
「そう?口に合って良かった」
「では私も頂きますわ」
「どうぞ」

ヴィオレッタ王女もそっとグラスに口をつけ、一口味わった。

「まあ。まろやかで鼻に抜けていく芳香が素晴らしいですわ。まさに天上の神々の名にふさわしい美味しいお酒ですわね」
「へぇ…」

気になる。
どんな味なんだろう?

(今度ルーセウスと二人で飲みたいな)

ルーセウスと一緒なら万が一酔っぱらっても問題ないだろうし、是非試してみたいところだ。

そんなことを考えていたら突然グイッと引き寄せられて、パーシバルの唇が重ねられ、驚いている間に酒が口移しで流し込まれた。
鼻に抜けていく芳香は確かにヴィオレッタ王女が言うように素晴らしいけれど────。

「ハハッ!どうだ?初めての『天上の神々』の味は?」
「……パーシバル」
「興味津々に飲みたそうにしていたからな。俺からのサービスだ」

いつもの如く愉しげに笑って言ってくるが、これは思い切り俺の地雷を踏みぬいたと言っていいだろう。
冗談にも程がある。

(ルーセウスとの一か月を台無しにした罪は重いぞ?)

腹の底から怒りが湧いてくるのを理性で抑え込み、ニコリと笑ってハニートラップに切り替えた。

「パーシバル…」

甘えるように抱き着いてやると、俺がほろ酔いになったとでも思ったのかちょっと驚きながらも嬉しそうに抱きしめ返してきた。

(甘いな)

そして完全に油断したところで、プスッと即効性のある睡眠針を刺してやる。

「う…っ」

即頽れ意識を失ったパーシバルをソファーの座面へと突き飛ばし、冷たく見下ろしながら『踏んでいいかな?』って言ったら、皆から『やっちゃってください。寧ろ毒針でも良かったくらいですよ』って言われた。

暗殺実行指示、出してもいいかな?



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