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第五章 油断大敵
98.油断 Side.ディオ
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昼下がり。
少し休憩を入れようと手洗いへと席を立ち、用を済ませて執務室へと戻る最中、何やら騒々しい声が耳へと飛び込んでくる。
「お退きなさい!私はディオ様に面会する為に来たのですよ?!」
「ですが何度も言うように、我々はディオ陛下から何も伺っておりません!ヴィオレッタ王女からもシェリル様をお通ししないようにと再三お願いされておりますので、どうぞお帰りください!」
「貴方もガヴァムの者なら他国の王女より自国の公爵令嬢の言葉を優先なさい!」
「本当に困ります!現在バロン国の国王陛下も来られていて、ディオ陛下もお忙しいのです!どうぞお引き取りを!」
どうやらシェリル嬢が俺に会いに来ていたらしい。
最近見なくなったから、諦めてくれたんだと思っていたけど、どうやら違っていた様子。
そしてそんなやり取りをぼんやり見ていたのが悪かった。
思い切りシェリル嬢と目が合ってしまったのだ。
「ディオ様!お会いしたかったですわ!私を迎えに来てくださったのですね。嬉しゅうございます」
ポッと頬を染められるけど、ただの通りすがりだと言ってやりたい。
しかも嬉しそうにこちらへやってきたと思ったら、絡みつくように腕に手を回してピッタリとくっついてくる始末。
やめてほしい。
「シェリル嬢。許可なくこう言った行為はやめてほしい」
「冷たいお言葉ですわ。私が最近ディオ様のところに来られなかったから、お怒りですの?」
「いや。そんなことは…」
寧ろ来てくれない方が嬉しい。
邪魔だし。
「戴冠式の際、王配としてルーセウス王子をご紹介なさっていたでしょう?それを見て私、ピンと来たんです。ディオ様はロクサーヌ嬢のことを忘れられなくて、友人のお二人にお願いしたのではないかと」
「え?」
「調べてみれば、ルーセウス王子と出会った時期はちょうどロクサーヌ嬢に振られた後。心の傷を癒す為に彼に協力してもらったのでは?けれどそれだけだと周囲も納得しないだろうということで、面白いことが大好きなヴィオレッタ王女に協力を願い出て、婚約してもらった。違いますか?」
ウフフと笑いながらギュッと胸を押し付け、彼女が見当違いな提案をしてくる。
「ディオ様。いつまでも過去を引きずってはいけませんわ。私が身体を使ってお慰め致します。どうぞ今夜、夜伽にお召しくださいませ。精一杯ご奉仕させていただきますわ」
「それは十分間に合っているから、必要ないよ」
本当にやめてほしい。
お金を払ってでも遠慮したい。
だって俺は全く彼女に興味がないんだから。
「何故です?ヴィオレッタ王女に気を遣われていらっしゃるのですか?」
「いや。俺が寝たいのはルーセウスだけだから」
もうこの際ハッキリ言おう。
彼女にはこれくらいハッキリ言わないときっと通じないだろうし。
「ホホホ!お戯れを。ルーセウス王子は体格もガッシリしたお方。女性のような豊満な胸も、柔らかなお尻も、魅惑のくびれも何一つ持ち合わせておられませんわ」
「そうかな?ルーセウスの鍛えられた逆三角形の身体って惚れ惚れするほどカッコいいし、魅力的だと思うけど?」
「それは普通に男性目線から見たらそうかもしれませんが、伴侶として見るなら話は別なのでは?ディオ様は柔らかな胸に顔を埋めたいと思いません?この胸を…揉んでみたいと、お思いにはなられませんか?」
シェリル嬢が艶美に微笑み、そっと俺の手を胸へと誘導してくる。
「特に思うことはないかな」
昔からアンヌ母様に『ディオ!ロキ陛下がツレないの!慰めてちょうだい!』と言って思い切り抱き締められることが多かったのだけど、それで窒息するかと思ったこと数回。
あれはある種凶器だと思っている。
胸を揉むのも、何歳頃だったか。
ディアが『お母様みたいに胸が大きくなるように自分で揉んでるけど、ちっとも大きくならない!ディオ!試しに揉んでくれないかしら?お願い!一回でいいから!』ってお願いしてきたことがあった。
面倒臭いなとは思ったけど、『将来ロクサーヌに触れる時に力加減を間違えなくて済むかもよ?』って言われたから渋々やったっけ。
フニフニしてたけど、特になんとも思わなかった。
思うに好きでもなんでもない相手にやっても何とも思わない物なんだろう。
取り敢えず力加減だけ覚えたし、まあいいかと言った感じ。
「私に…口づけしたいと、お思いにはなりませんか?」
「うん。全く思わないかな」
それなら部屋に戻ってルーセウスのを模したディルドにキスしてる方がずっといいと思う。
もしくはルーセウスとのキスを思い出しながらさくらんぼをモグモグしたい。
「やっぱりそういうのは好きな人としたいと思う」
ニコリと答える俺を見て、シェリル嬢が悔しそうに顔を歪めた。
「…それほどまでに、ロクサーヌ嬢のことが忘れられないと?」
「ロクサーヌ?」
「そうでしょう?!ディオ様はルーセウス王子のお名前を口になさいますけど、本当はロクサーヌ嬢のことがずっと忘れられないのですわ!」
おかしい。
俺はずっとルーセウスのことを頭に思い浮かべながら話していたつもりだったのだけど、彼女の中では違ったようだ。
「私が!過去なんて忘れさせて差し上げます!」
そんな言葉と共にグイッと引き寄せられ、驚いている間にシェリル嬢の唇が思い切り重ねられる。
「ディオ様!!」
そして今度はそんな言葉と共に後ろへと引っ張られて、そのまま別の誰かの唇が俺の唇を塞いできて…。
「ほらディオ。口直しだ」
何故か気づけば最終的にパーシバルに抱き込まれながら口づけされていた。
瞬く間に三連続で唇を奪われて俺は放心するしかない。
「…………え?」
「ヴィオレッタ王女!何故私達の愛の口づけを邪魔するのです?!」
「貴女が勝手にしただけでしょう?!そこに愛はありませんわ!」
「なっ?!では貴女との口づけに愛はあるとでも?!」
「少なくとも友愛くらいはありますわ」
呆然としている間にヴィオレッタ王女とシェリル嬢の言い争いが白熱していく。
そんな中、宥めるようにパーシバルがチュッチュッと啄むようにキスしてくるんだが、俺は誰にどこから突っ込めばいいんだろう?
驚き過ぎて思考が停止するって本当にあるんだと愕然となった。
プルルルル…。
しかも狙いすましたように鳴るツンナガール。
恐ろしい事に表示はルーセウスのものだ。
「…………はい」
『ディオ?なんとなくさっき嫌な予感がしたんだけど、何もなかったか?特になかったならいいけど』
ルーセウスの第六感が鋭過ぎて隠し事ができない。
「…ルーセウス。俺は一体どうしたら?」
『何かあったのか?』
「シェリル嬢と…」
『シェリル嬢?最近見かけなかったのに、来たのか?』
「ヴィオレッタ王女と…」
『ああ、彼女が間に入ってくれたのか?』
「パーシバルの三人に…」
『パーシバル?何かされたのか?』
訝しげな声。
言ったら絶対に怒られる。
でも言わないともっと怒られる気がするから、言うしかない。
「立て続けに口づけされたんだけど、これは浮気になるのかな?」
『……は?』
物凄く低音で紡がれたかつてない程の『は?』に心臓がバクバク弾んで壊れそうだ。
(逃げたい!)
そんな俺を見てパーシバルがニヤニヤ笑う。
「ディオ。逃げたいならルーセウスが来る前に俺とワイバーンで逃亡するか?ちょうどブルーグレイに呼び出されたところだしな。あそこなら、逃げ込むには最高じゃないか?」
「乗り気じゃなかったくせに」
「ディオと二人で行けるならアリだと思ってな?」
「取り敢えず離れようか?」
「もう少しくらいこうして守らせてくれないか?」
「いや。シェリル嬢と戦ってくれてるのはヴィオレッタ王女だから」
そんなやり取りをしていたら、ツンナガールの向こうからルーセウスの声が聞こえてきた。
『ディオ?取り敢えず、まずはパーシバルから今すぐ離れろ』
その冷ややかな声音にすぐさまパーシバルから距離をとる。
「離れた!」
ツンナガール越しにルーセウスの怒りがビシバシ伝わってくる。
(かなり怒ってる)
当然と言えば当然だろう。
あんなに忠告されていたのにこんな事になったのだから。
でもまさか、パーシバルなら兎も角として、シェリル嬢があんな暴挙に出るなんて思いもしなかったのだ。
動揺もする。
『話はこの後聞くから、一旦ヴィオレッタ王女に代わってくれないか?』
「わかった。ヴィオレッタ王女!ルーセウスが代わって欲しいそうなんだけど、大丈夫かな?」
「構いませんわ」
そう言って音量を下げてヒソヒソと何かを話し出す。
ちょっと気になるけど、パーシバルが庇うように前に出てシェリル嬢との間に立ってる関係で話を聞くことができない。
ありがたいけど迷惑という絶妙な位置取りだ。
「ディオの唇を何度も味わってしまったしな。せめてもの詫びに守ってやろう」
「ただの言い訳だろう?」
「お前の唇をタダでもらう気はないぞ?どこかの女とは違って、俺は誠実な男だからな」
シェリル嬢を挑発するように見ながら言うところが実にパーシバルらしい。
「ディオ様!私が先程言ったこと、どうかお忘れにならないでくださいませ!今夜、お声がけいただけるのをずっとお待ちしておりますから!」
「悪いが今夜はこちらが先約だ。残念だがディオとの逢瀬は諦めてもらおうか」
「バロン国のパーシバル陛下とお見受けいたしますが、ディオ様の夜のプライベートにまで口出しする権利はお持ちでないはず。ディオ様。私が誠心誠意お慰め致しますので、どうぞお心のままお召しくださいませ」
熱い眼差しを向けられるけど、絶対拒否だ。
「いや。絶対に呼ばないから、潔く諦めてくれないか?」
「お恥ずかしいのですね。では後でコッソリお声掛けください」
「本当に呼ばない。先約があるのは本当だし、帰ってほしい」
キッパリ言い切るけど、シェリル嬢は引こうとしない。
そんな中、通話を終えたヴィオレッタ王女が戻ってくる。
「ディオ様!後は私が片付けますので、どうぞ執務室へお戻りを。ルーセウス王子が二人きりでゆっくり話を聞きたいとのことですわ。パーシバル陛下。ディオ様をお守りいただきありがとうございました。内輪の話にこれ以上巻き込むわけには参りませんので、どうぞお部屋でゆっくりとお寛ぎ下さいませ」
そう言ってヴィオレッタ王女は近くに控えていた侍従にパーシバルを連れて行ってもらい、騎士にも言ってシェリル嬢を帰すようお願いしていた。
俺は受け取ったツンナガール片手に執務室行きだ。
何を言われるのかわからなくてすごく怖い。
取り敢えず、『油断してゴメン』から始めようかな?
少し休憩を入れようと手洗いへと席を立ち、用を済ませて執務室へと戻る最中、何やら騒々しい声が耳へと飛び込んでくる。
「お退きなさい!私はディオ様に面会する為に来たのですよ?!」
「ですが何度も言うように、我々はディオ陛下から何も伺っておりません!ヴィオレッタ王女からもシェリル様をお通ししないようにと再三お願いされておりますので、どうぞお帰りください!」
「貴方もガヴァムの者なら他国の王女より自国の公爵令嬢の言葉を優先なさい!」
「本当に困ります!現在バロン国の国王陛下も来られていて、ディオ陛下もお忙しいのです!どうぞお引き取りを!」
どうやらシェリル嬢が俺に会いに来ていたらしい。
最近見なくなったから、諦めてくれたんだと思っていたけど、どうやら違っていた様子。
そしてそんなやり取りをぼんやり見ていたのが悪かった。
思い切りシェリル嬢と目が合ってしまったのだ。
「ディオ様!お会いしたかったですわ!私を迎えに来てくださったのですね。嬉しゅうございます」
ポッと頬を染められるけど、ただの通りすがりだと言ってやりたい。
しかも嬉しそうにこちらへやってきたと思ったら、絡みつくように腕に手を回してピッタリとくっついてくる始末。
やめてほしい。
「シェリル嬢。許可なくこう言った行為はやめてほしい」
「冷たいお言葉ですわ。私が最近ディオ様のところに来られなかったから、お怒りですの?」
「いや。そんなことは…」
寧ろ来てくれない方が嬉しい。
邪魔だし。
「戴冠式の際、王配としてルーセウス王子をご紹介なさっていたでしょう?それを見て私、ピンと来たんです。ディオ様はロクサーヌ嬢のことを忘れられなくて、友人のお二人にお願いしたのではないかと」
「え?」
「調べてみれば、ルーセウス王子と出会った時期はちょうどロクサーヌ嬢に振られた後。心の傷を癒す為に彼に協力してもらったのでは?けれどそれだけだと周囲も納得しないだろうということで、面白いことが大好きなヴィオレッタ王女に協力を願い出て、婚約してもらった。違いますか?」
ウフフと笑いながらギュッと胸を押し付け、彼女が見当違いな提案をしてくる。
「ディオ様。いつまでも過去を引きずってはいけませんわ。私が身体を使ってお慰め致します。どうぞ今夜、夜伽にお召しくださいませ。精一杯ご奉仕させていただきますわ」
「それは十分間に合っているから、必要ないよ」
本当にやめてほしい。
お金を払ってでも遠慮したい。
だって俺は全く彼女に興味がないんだから。
「何故です?ヴィオレッタ王女に気を遣われていらっしゃるのですか?」
「いや。俺が寝たいのはルーセウスだけだから」
もうこの際ハッキリ言おう。
彼女にはこれくらいハッキリ言わないときっと通じないだろうし。
「ホホホ!お戯れを。ルーセウス王子は体格もガッシリしたお方。女性のような豊満な胸も、柔らかなお尻も、魅惑のくびれも何一つ持ち合わせておられませんわ」
「そうかな?ルーセウスの鍛えられた逆三角形の身体って惚れ惚れするほどカッコいいし、魅力的だと思うけど?」
「それは普通に男性目線から見たらそうかもしれませんが、伴侶として見るなら話は別なのでは?ディオ様は柔らかな胸に顔を埋めたいと思いません?この胸を…揉んでみたいと、お思いにはなられませんか?」
シェリル嬢が艶美に微笑み、そっと俺の手を胸へと誘導してくる。
「特に思うことはないかな」
昔からアンヌ母様に『ディオ!ロキ陛下がツレないの!慰めてちょうだい!』と言って思い切り抱き締められることが多かったのだけど、それで窒息するかと思ったこと数回。
あれはある種凶器だと思っている。
胸を揉むのも、何歳頃だったか。
ディアが『お母様みたいに胸が大きくなるように自分で揉んでるけど、ちっとも大きくならない!ディオ!試しに揉んでくれないかしら?お願い!一回でいいから!』ってお願いしてきたことがあった。
面倒臭いなとは思ったけど、『将来ロクサーヌに触れる時に力加減を間違えなくて済むかもよ?』って言われたから渋々やったっけ。
フニフニしてたけど、特になんとも思わなかった。
思うに好きでもなんでもない相手にやっても何とも思わない物なんだろう。
取り敢えず力加減だけ覚えたし、まあいいかと言った感じ。
「私に…口づけしたいと、お思いにはなりませんか?」
「うん。全く思わないかな」
それなら部屋に戻ってルーセウスのを模したディルドにキスしてる方がずっといいと思う。
もしくはルーセウスとのキスを思い出しながらさくらんぼをモグモグしたい。
「やっぱりそういうのは好きな人としたいと思う」
ニコリと答える俺を見て、シェリル嬢が悔しそうに顔を歪めた。
「…それほどまでに、ロクサーヌ嬢のことが忘れられないと?」
「ロクサーヌ?」
「そうでしょう?!ディオ様はルーセウス王子のお名前を口になさいますけど、本当はロクサーヌ嬢のことがずっと忘れられないのですわ!」
おかしい。
俺はずっとルーセウスのことを頭に思い浮かべながら話していたつもりだったのだけど、彼女の中では違ったようだ。
「私が!過去なんて忘れさせて差し上げます!」
そんな言葉と共にグイッと引き寄せられ、驚いている間にシェリル嬢の唇が思い切り重ねられる。
「ディオ様!!」
そして今度はそんな言葉と共に後ろへと引っ張られて、そのまま別の誰かの唇が俺の唇を塞いできて…。
「ほらディオ。口直しだ」
何故か気づけば最終的にパーシバルに抱き込まれながら口づけされていた。
瞬く間に三連続で唇を奪われて俺は放心するしかない。
「…………え?」
「ヴィオレッタ王女!何故私達の愛の口づけを邪魔するのです?!」
「貴女が勝手にしただけでしょう?!そこに愛はありませんわ!」
「なっ?!では貴女との口づけに愛はあるとでも?!」
「少なくとも友愛くらいはありますわ」
呆然としている間にヴィオレッタ王女とシェリル嬢の言い争いが白熱していく。
そんな中、宥めるようにパーシバルがチュッチュッと啄むようにキスしてくるんだが、俺は誰にどこから突っ込めばいいんだろう?
驚き過ぎて思考が停止するって本当にあるんだと愕然となった。
プルルルル…。
しかも狙いすましたように鳴るツンナガール。
恐ろしい事に表示はルーセウスのものだ。
「…………はい」
『ディオ?なんとなくさっき嫌な予感がしたんだけど、何もなかったか?特になかったならいいけど』
ルーセウスの第六感が鋭過ぎて隠し事ができない。
「…ルーセウス。俺は一体どうしたら?」
『何かあったのか?』
「シェリル嬢と…」
『シェリル嬢?最近見かけなかったのに、来たのか?』
「ヴィオレッタ王女と…」
『ああ、彼女が間に入ってくれたのか?』
「パーシバルの三人に…」
『パーシバル?何かされたのか?』
訝しげな声。
言ったら絶対に怒られる。
でも言わないともっと怒られる気がするから、言うしかない。
「立て続けに口づけされたんだけど、これは浮気になるのかな?」
『……は?』
物凄く低音で紡がれたかつてない程の『は?』に心臓がバクバク弾んで壊れそうだ。
(逃げたい!)
そんな俺を見てパーシバルがニヤニヤ笑う。
「ディオ。逃げたいならルーセウスが来る前に俺とワイバーンで逃亡するか?ちょうどブルーグレイに呼び出されたところだしな。あそこなら、逃げ込むには最高じゃないか?」
「乗り気じゃなかったくせに」
「ディオと二人で行けるならアリだと思ってな?」
「取り敢えず離れようか?」
「もう少しくらいこうして守らせてくれないか?」
「いや。シェリル嬢と戦ってくれてるのはヴィオレッタ王女だから」
そんなやり取りをしていたら、ツンナガールの向こうからルーセウスの声が聞こえてきた。
『ディオ?取り敢えず、まずはパーシバルから今すぐ離れろ』
その冷ややかな声音にすぐさまパーシバルから距離をとる。
「離れた!」
ツンナガール越しにルーセウスの怒りがビシバシ伝わってくる。
(かなり怒ってる)
当然と言えば当然だろう。
あんなに忠告されていたのにこんな事になったのだから。
でもまさか、パーシバルなら兎も角として、シェリル嬢があんな暴挙に出るなんて思いもしなかったのだ。
動揺もする。
『話はこの後聞くから、一旦ヴィオレッタ王女に代わってくれないか?』
「わかった。ヴィオレッタ王女!ルーセウスが代わって欲しいそうなんだけど、大丈夫かな?」
「構いませんわ」
そう言って音量を下げてヒソヒソと何かを話し出す。
ちょっと気になるけど、パーシバルが庇うように前に出てシェリル嬢との間に立ってる関係で話を聞くことができない。
ありがたいけど迷惑という絶妙な位置取りだ。
「ディオの唇を何度も味わってしまったしな。せめてもの詫びに守ってやろう」
「ただの言い訳だろう?」
「お前の唇をタダでもらう気はないぞ?どこかの女とは違って、俺は誠実な男だからな」
シェリル嬢を挑発するように見ながら言うところが実にパーシバルらしい。
「ディオ様!私が先程言ったこと、どうかお忘れにならないでくださいませ!今夜、お声がけいただけるのをずっとお待ちしておりますから!」
「悪いが今夜はこちらが先約だ。残念だがディオとの逢瀬は諦めてもらおうか」
「バロン国のパーシバル陛下とお見受けいたしますが、ディオ様の夜のプライベートにまで口出しする権利はお持ちでないはず。ディオ様。私が誠心誠意お慰め致しますので、どうぞお心のままお召しくださいませ」
熱い眼差しを向けられるけど、絶対拒否だ。
「いや。絶対に呼ばないから、潔く諦めてくれないか?」
「お恥ずかしいのですね。では後でコッソリお声掛けください」
「本当に呼ばない。先約があるのは本当だし、帰ってほしい」
キッパリ言い切るけど、シェリル嬢は引こうとしない。
そんな中、通話を終えたヴィオレッタ王女が戻ってくる。
「ディオ様!後は私が片付けますので、どうぞ執務室へお戻りを。ルーセウス王子が二人きりでゆっくり話を聞きたいとのことですわ。パーシバル陛下。ディオ様をお守りいただきありがとうございました。内輪の話にこれ以上巻き込むわけには参りませんので、どうぞお部屋でゆっくりとお寛ぎ下さいませ」
そう言ってヴィオレッタ王女は近くに控えていた侍従にパーシバルを連れて行ってもらい、騎士にも言ってシェリル嬢を帰すようお願いしていた。
俺は受け取ったツンナガール片手に執務室行きだ。
何を言われるのかわからなくてすごく怖い。
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