王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第五章 油断大敵

93.来訪者 Side.ディオ

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ルーセウスとの幸せな日々を送っている中、ディアから連絡が入った。
なんでもルーセウスと自分の仲がゴッドハルトの兵達に盛大に誤解されているから、今後のためにも誤解を解きに帰ってきてほしいとのこと。

まあこれは仕方がないだろう。
だって暗部からの報告では紛れもなく仲睦まじい二人の様子が周知されつつあったようだから。

だから心を殺してルーセウスに帰国を促した。
すごく渋られたけど、今後を考えればディアが言うように誤解は解いておくほうがいいに決まっている。

(バロン国行きを反対されなかったら俺も行けたのに…)

それが残念でならない。
経由地としてゴッドハルトへと同行できれば移動中もずっとルーセウスと一緒にいられたし、直接兵達の誤解を解くことだってできた。
ついでにバロン国で一仕事して、ルーセウスとまた合流しガヴァムに帰れば、会えない日数はゴッドハルトからバロン国への往復期間である二日程度で済んだはず。

(寂しいな…)

すっかりルーセウスが一緒にいる生活に慣れてしまって、そんな感傷に浸ってしまう。
でもここは我慢だ。

そう思いつつ名残を惜しむルーセウスが旅立つのを見送った。

「ディオ陛下!護衛は我々にお任せください!ルーセウス王子から不埒な輩は誰であろうとディオ陛下に近づけるなと厳命されておりますので!」

何故かゴッドハルトから連れてきていた自分の護衛達を二人も置いていったのには驚いたけど、大丈夫だろうか?
まあこの二人は変態じゃないから助かると言えば助かるのだけど。

「リンデン、ミリアン。宜しく」
「はっ!お任せを!」

そうしてルーセウスのお陰で大分使える文官達が増えたのもあり、安心感を覚えながらスムーズに仕事をこなしていたら、ヴィオレッタ王女がやってきた。

「ディオ様。今日は結婚式の打ち合わせに参りました」

各所に既に連絡を終え、料理や花の手配、挙式時及びパーティーでの衣装も手配済みとのこと。
今回はガヴァム式ではなくごく一般的な教会式の結婚式だから、俺も改めて式の流れを確認する。

どうやら話を聞く限りでは、先に俺だけが教会へと入り、花嫁がやってくるのを待つらしい。
シャイナー陛下に手を取られ、ヴィオレッタ王女がヴァージンロードを一歩一歩歩いてきて、俺のところへとやってくるんだとか。
この辺りは国によって多少の違いがあるようで、ゴッドハルト近辺は新郎新婦が最初から入場だったはず。
だからルーセウスとディアはそちらの方法で式を挙げると思う。

「ドレスはデザインは自由ですけれど、色は白が一般的ですわ」
「へぇ。その辺りも国によって結構違うんだ…」
「そうですわね。ゴッドハルト近辺では花婿の色や伝統色を身に纏うのが一般的だったかと」

(ルーセウスの色か。いいな…)

ディアが羨ましい。
俺もルーセウスとの本番の式用に用意したいと思ってしまった。
ガヴァム式ではどうせ脱いでしまうけれど、それでも最初だけでも着れるのなら嬉しいと思う。
戴冠式で身につけた衣装もルーセウスの色を取り入れていたし、やっぱり特別感は否めない。

「そう言えばルーセウス王子がディオ様と再度式を挙げたいと仰っていたとか。そちらはいつのご予定ですか?」
「うーん…既に結婚済みだし、立会人だけしっかり立てられればいつでもとは思ってるんだけど」

要するに一応周知した上で二人で本番の式を挙げられればそれでいいのだ。
それ以外はそれこそ衣装の件さえクリアできれば俺はいつでもいいと思っている。
だからそれをそのまま伝えてみた。

「そうですか。ではルーセウス王子と御衣装の相談をなさって、出来上がり次第挙式の方向で。勿論その日は毎年の国民の休日になりますので、できればわかりやすい日が望ましいですわ」

なるほど。
一理ある。

「わかった。じゃあ連絡しておくよ」
「ええ。宜しくお願い致します」

そこまで話し終わったところで一時休憩で紅茶を飲む。
華やかな香りがしてとても美味しい。
これはアンシャンテの物だろう。

「この紅茶はヴィオレッタ王女が?」
「ええ。私の最近のお気に入りですわ」
「へえ。俺もこれは好きだな」
「気に入っていただけて嬉しいですわ。そうそう。結婚式の時に誓いのキスがありますけど、どうされます?」

そう言われて少し考える。

「女性にとってのキスって特別だし、そこはヴィオレッタ王女の希望次第かな」

昔ロクサーヌの母であるエメラルダ夫人から『一般的な正しい恋愛とはこういうものなので知っておいた方がいいですよ』と何冊か恋愛小説を読まされた事がある。
それで女性はキスに夢を持ってるものだということを知って目から鱗が落ちた。
男同士のアレコレは両親達を見て育った関係で色々わかっているつもりだったけど、女性には特別気を遣わないとと思ったものだ。
当時ロクサーヌに『やっぱりファーストキスに夢はある?』と聞いてみたことを思い出す。
その時彼女はすごく可愛く微笑んで、『勿論ありますわ』と言いながら一冊の愛読書を貸してくれた。
『王子様との優しいキス』というタイトルで凄くドキドキしたんだ。
今思うと凄く初々しかったな。

まあ何はともあれ女性にとってのキスは特別ということだ。
ディアはちょっとガヴァムに染まり過ぎてるから濃厚なのを求めそうだけど、ヴィオレッタ王女はどうだろうか?
そう思って見つめていると、暫し考えた後で困ったように告げられた。

「その場の雰囲気で惹きつけられるようにキスするものだと思っていたので、私次第と言われるなんて思いもしませんでしたわ」
「その場の雰囲気で、か」
「ええ。ですからディオ様次第で好きにしていただいて構いませんわ」

そう言われると困ってしまう。

「俺に任せると額か頬へのキスになりそうだけど?」
「うふふ。正直ですわね」

楽しそうにヴィオレッタ王女が笑う。

「とは言え一応参列者も大勢いますし…触れるか触れないかくらいの軽いキスで如何でしょう?」
「わかった。頑張ってみる」
「ええ。バレないように上手くしてくださいね」

クスクスと笑いながらヴィオレッタ王女が楽しそうに言ってくる。

「そうそう。後はこちらをどうぞ」

そして今度は一枚の紙を渡された。

「これは?」
「初夜の日にディオ様と遊ぼうと思って、ディア王女にお願いしてリストアップしてもらった媚薬一覧ですわ」
「媚薬?」
「ええ。一口に媚薬と言っても色々あるでしょう?なので初夜の場で指先にチョンとつけて味見をする試飲会なんてどうかと思いまして」

もしそれで間違いが起こっても問題はないし、楽しく一緒に媚薬談義でもしていればルーセウスとディアの初夜も気にならないんじゃないかというヴィオレッタ王女なりの配慮が感じられた。

「まあもし万が一媚薬の効果が出てしまったら、先日発注をかけたディルドで可愛がってくださいませ」
「わかった」

サラッとこういう事を言ってくれるから俺としては凄く気が楽だ。
きっとヴィオレッタ王女以外の女性ならこうはいかなかっただろう。
自分との初夜に集中してくれと泣きながら訴えられたはず。

「ありがとう。ヴィオレッタ王女」
「いいえ。これくらいのこと。当然ですわ」

微笑み合い、その後も軽く打ち合わせをし終えたところで見送りのためワイバーン乗り場へと向かう。

「じゃあヴィオレッタ王女。また」
「はい。ディオ様もどうかご無理をなさらずに」

そう言っていざ見送ろうとしたところで、ワイバーンの一団がこちらへやってくるのが見えた。
誰だろう?
特に先触れは来ていなかったはずなのに。

一先ず安全のためにヴィオレッタ王女を一度ワイバーンから降ろして背へと庇う。

「ディオ。来てやったぞ?」

そして不遜に笑いながらやってきたのは、バロン国の正装を身につけた国王パーシバル、その人だった。



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