王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第五章 油断大敵

92.ディオの唇は俺のだ!

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ディオにもう一度自分と結婚式を挙げることを考えてほしいと言われて、ジワリと胸が熱くなった。
嬉しい。
俺もあの予行練習の結婚式には助けられたが、あれはあくまでもディオを仮初でいいから手に入れたいと思って行なったものという認識だったから、本番ではなかったと思っている。
もしディオともう一度結婚式を挙げられるなら、是非神に感謝しながら抱きたい。
ディオと結婚させてくれてありがとう、と。

(嬉しい…ディオ)

思わず感動のままにギュッと愛しいディオを抱きしめて、幸せに浸ってしまった。

「じゃあ今日も仕事に励もうかな」

ディオのその声にハッと我へと返る。

「ルーセウス。もし気が変わったら言ってくれ。俺はルーセウスとなら何度でも神に誓いたいから」

(ん?)

俺の腕からスルリと抜け出し仕事に向かうディオを見送り、さっき言われた言葉を反芻する。

もし気が変わったら言ってくれ?
気が…変わったら?
どう言う意味だ?

そこで俺は返事をしてなかったことに気がついた。

(しまったぁあっ!感激し過ぎてやらかした!)

ディオのプロポーズに対して、俺が抱きしめることしかしなかったから、『嬉しいけど、そこまではしなくていいかな?』とか思ったと受け取られたんじゃ?!

(違うぅうっ!誤解だ、ディオ!)

俺もディオとの結婚式本番がしたい!
このままだとなかったことにされる!

(ディオとの結婚式────!)

慌てて後を追い、すぐさま腕の中へと閉じ込めて、『ディオ!俺も何度でもディオと結婚したい!大好きだ!』って思いっきり叫んだ。
恥も外聞もない。
それだけ必死だった。

「………ルーセウス。流石に恥ずかしいんだけど?」

文官やら大臣やらが行き交う廊下で、元気いっぱいディオへの愛を叫ぶ俺に対して、ディオが恥ずかし気に頬を染める。

「でも本心だし」

本音を隠す気は一切ない。
ディオと結婚式を挙げ直したい。
素直にそう言うと、ディオはしょうがないなと困ったような、でもちょっと嬉しそうな表情で『話は一応大臣達に伝えておく』と言ってくれた。
俺達の願いが叶うといいな。




そんな甘酸っぱいやり取りがあった翌日のこと。
ディオと夕餉を食べた後、部屋に戻る途中でツンナガールが鳴った。
相手はディア王女だ。

「と言うわけで、そちらが落ち着いたら一度戻ってきて、皆の誤解を解いていただきたいです。ついでに結婚式の打ち合わせもすれば無駄もないですし、終わったらすぐにガヴァムへ戻ればいいと思います」

ディオに誤解されないようその場で出て一緒に話を聞くと、うちの兵達が俺とディア王女がラブラブだと勘違いしているからちゃんとその誤解を解いてほしいとお願いされてしまった。
身から出た錆とはこのことか。
自業自得過ぎて泣けてくる。
過去の俺を全力で締め上げたい。
取り敢えずどうすべきか考えてはみると答えて一旦通話を切ったものの、物凄く気が重い。

「………ルーセウス。行ってきていいよ」

やがてディオがちょっと寂しそうに口を開き、そう言ってきた。
でもこれは離れたくないんだなとすぐ分かったし、俺だって離れたくないからちゃんとそこはしっかり言っておきたい。

「嫌だ!ディオから離れたくない!別に後回しにしても問題ないと思う!」
「多分後回しにしたらディアと喧嘩したと思われて、二人を仲良くさせようって皆が動いてくると思う。そっちの方が俺はモヤモヤしそうで嫌だな」
「うぐっ。それは…」

確かにうちの連中ならやってきそうだ。
それでディオに距離を置かれたら洒落にならない。
絶対回避だ!

(でも…往復プラス向こうでの滞在か)

一応直筆サインが必要分もまとめて片付けるとして、5日以上ディオから離れることになる。

「ディオ…一緒に行きたい」
「うーん……。あ、そうだ!バロン国に行くついでにゴッドハルトに行ってくるって言えば調整できるかも!」
「……え?」
「ほら。パーシバルが一昨日こっちに来るような話をしていただろう?だから逆に俺が向こうに行けばいいんじゃないかと思って。ディアの件があったから、バロン国までヴァレトミュラのレールを伸ばして大丈夫なのかって不安視する声も大臣達から聞いてはいるし、俺自らが確認してくるって言えば多分すんなり話は通ると思う」

名案とばかりにディオは言うけど、そんなこと認めるはずがない。

「却下だ」

何が悲しくてわざわざディオを敵地に送り出さないといけないんだ。
冗談でもやめてほしい。

「視察が必要なら俺がついでに行ってくる。ディオはここで待機。絶対にバロン国には行くな」
「え…でも…」
「俺の我儘は忘れてくれ。ちゃんとすぐに帰ってくるから、待っていてくれるか?」
「………わかった。じゃあ後でパーシバルに連絡しておく」

ちょっとしょんぼりしながらそう言われ、思わず慰めるように頭を撫でたけど、『いや、待てよ?』とふと手を止めた。

『後で』連絡して、パーシバルとまた別の約束をしないとも限らない。
俺がいない間に会われたらすごく嫌だ。

「ディオ」
「どうかした?」
「今すぐ連絡してみてくれないか?」
「また?別にいいけど」

やましいことは何もないしとディオはその場で連絡をしてくれる。

『ディオ。待ち合わせの連絡か?』
「パーシバル。実はルーセウスがゴッドハルトに一時帰国するんだけど…」
『その寂しさを紛らわせたいのか?いいぞ。いつにする?俺が遊んでやる』

(やっぱり油断も隙もない…!)

何が『遊んでやる』だ!
冗談じゃない。
ディオに手を出す気満々じゃないか!

「遊びの誘いはまた今度。それで、ルーセウスがヴァレトミュラの駅建設予定地の視察にそっちに行くから、この間話していた件はその時にルーセウスに話してほしいなと思って」

ディオはサラッと流したけど、どうも遊び=チェスと思っていそうでヤキモキする。

『ルーセウスに?交渉なんてできそうもないのに来るのか?俺に有利なように話を進められて、気づけば身包み剥がされていると思うぞ?そんなつまらない交渉はゴメンだ。お前が来い』
「パーシバルは存外欲がないな。てっきりこれ幸いと受け入れてくれると思ったのに」
『お前がどう思っているかは知らないが、俺はお前とのやり取りはこれでも楽しんでいるんだ。そうだな、今度チェスで勝てたらお前の唇でももらおうか。毒の味がしそうで実にスリリングだ』

(唇?!)

ちょっと聞き捨てならないセリフだ。
なのにディオは軽口と受け取ったようで、深く考えずに返事をしてしまう。

「まさか。唇に毒を塗る趣味は持ってない」
『本当か?じゃあ今度是非確かめさせてくれ。お前との勝負を今から楽しみにしている』
「わかった。じゃあ交渉の書類をまとめておく。ルーセウスには視察は今度俺が行くから今回は不要だと伝えておくから」
『そうしてくれ。じゃあな』

プツッ。

「と言うわけで、今回視察はしなくていいことになったから、ゴッドハルトとの往復だけでいいよ」
「ディオぉおおおっ!何でパーシバルとキスの約束なんてしてるんだ?!」

冗談じゃないぞ?!
これは流石に怒ってもいいよな?!

「ディオの唇は俺のだ!」
「え?」
「パーシバルとキスするなんて、絶対に許さないからな?!」

嫉妬全開でそう言うけど、ディオはわかってくれない。

「大丈夫。そう簡単に負ける気はないから」
「ディオは隙だらけ過ぎる!危なっかしくて心配だ!」
「大丈夫。パーシバルは完璧に見えて案外抜けてるところもあるから」

(それはディオもだろう?!似た者同士か!)

だから油断するのかとわかってイライラした。
やっぱり離れたくない。
目を離した隙にパーシバルに奪われそうで怖い。
攫っていったらダメだろうか?

「シグ!お前からも何か言ってやってくれ!」

ここはディオをよく知る相手にも、是非一言言ってもらいたい。
そう思って呼んだらすぐに来てくれたけど、無茶振りもいいところだと溜め息を吐かれてしまう。
それでも協力してくれるから有り難かった。

「えっと?ディオ様、いくらなんでも迂闊っすよ?あの男は…うーん…。そう!小狡いので、ディオ様を手篭めにして言うこと聞かせようとか考えているかも知れないっす!その方がわざわざ命を狙わなくてもディオ様を屈服させられるとか、思ってそうじゃないです?」

シグのその言葉にディオは暫し考え、『なるほど。そういう手もあるかもしれないな』と言ってくれた。
ナイスだ!
単純に貞操が狙われてるって言っただけだと右から左に聞き流されるが、これなら説得力がある!

「それなら一応気をつけておこうか。ルーセウス以外とそういう事はしたくないし」

(よし!)

流石シグ。頼れる暗部筆頭!

「ディオ。頼むから、絶対にパーシバルの口車には乗るな」
「わかってる。大丈夫だから心配しないでゴッドハルトに行ってきてくれ」

そうは言ってくれるけど、すごく不安だ。
でもディア王女の件も放置は危険だし────。

「シグ。俺が留守の間にもしパーシバルが来たら、追い返してくれ」
「え?」
「ディオの安全確保のためにも頼む」

そう言ったらシグは頷いてくれたけど、ディオは不満気だ。

「そんなに心配しなくても…」
「どうしてもと言うならヴィオレッタ王女同席なら可と言って一旦追い返してほしい」
「ルーセウス。そんなに俺が信用できないのか?」
「この件に関して言えば信用云々じゃなく、俺の我儘と思ってくれていい。ディオを誰にも取られたくないから絶対に妥協する気はない。ディオが万が一にでも連れ去られたら後悔してもしきれない。だからディオ。心が狭い俺を許してほしい」
「ルーセウス…」

ちょっと驚いた顔になったが、結果的にディオは受け入れてくれた。

「ルーセウスはちょっと俺を好き過ぎだと思う」

そんな風に頬を染めながら────。



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