王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第四章 思わぬ誤解とライバル出現に焦る俺

83.ルーセウスの実力 Side.ディオ

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ルーセウスに連れ帰られて、事情を説明されて凄く納得がいった。
どうやら俺のことが好き過ぎて暴走していただけだったらしい。
何回も謝られたけど、確認を怠った俺が悪い。
疲れ切っていたとはいえ、こんなに俺しか好きじゃないルーセウスを疑うなんてどうかしていた。

そう。
それもこれも使えなくなった変態達が悪い。

そんな使えない変態達も概ね排除できたものの、完全にゼロになったわけではない。
多少の行き違いやミスくらいはあるものの、まあ許容の範囲内と言ったところか。

とは言え流石に今日の疲れ切った中でそれをやられたのは辛かった。
馬車でルーセウスに縋り付きながらボロボロ泣いて、弱りきっていた中で仕事?
勘弁して欲しい。

そう思っていたら、ルーセウスが一喝して黙らせてくれた。
書類一枚だけですんなり収まるなんてありがた過ぎる。

その後も部屋でいっぱい愛してくれて、身も心も満たされて、凄く気が楽になった。
やっぱり凄く好きだなと改めて実感してしまったくらいだ。




「ほらディオ。アーン」

そして今日は朝からせっせと朝食を俺に食べさせてくれている。
恥ずかしいけど嬉しいというこのなんとも言えない感情はどう処理したらいいんだろう?

「昨日抱いた時に、前より痩せてたのが気になったんだ。ちゃんと食べないと体力が持たないだろう?倒れたら大変だし、俺がしっかり食べさせてやる」
「あ、ありがとう」

確かにちょっとは痩せたかもしれないけど、そんなに変わらない気もしないでもないのにな。

「後、今日は騎士達の鍛錬に付き合ってくるから、何かあったらすぐ言いに来てくれ。ディオのところに飛んでくるからな」

どうやら変態騎士達の鍛え直しを買って出てくれた様子。
本当にありがたい。

「まだまだ弛んでる奴もいるだろうし、ビシビシ鍛えてちゃんと使えるようにしておくからな」

ルーセウスの笑顔が頼もし過ぎる。

「それと、文官でも弛んでる奴がいたらこっちに回してくれ。剣は振れなくても筋トレは誰でもできる。ふざけたことを言う奴は大抵腹筋が弱いし、ヘラヘラしてる奴は猫背になってるから背筋がなってない。書類をチマチマ小分けで持ってくる時間の無駄遣いをする奴は腕の力が足りないんだ。腕立てでもやらせて鍛えてやる。全員性根から叩き直してやるから、遠慮せず連れてこい」

(文官まで鍛え直してくれる?本当に?!)

どうしよう。
ルーセウスが男前すぎて後光が差して見えてしまう。
眩しい。

「ありがとう、ルーセウス。凄く助かるよ」

パーシバルはルーセウスのどこが良かったんだと言っていたけど、どこからどう見ても良いところしかない。
救世主以外の何者でもないだろう。

そして初日の今日、お試しでよく問題を起こしていた三名の文官をルーセウスに任せてみた。

この三名は去勢か退職か選べと通達を出した際、心を入れ替えて頑張りますと言った三名だ。
でも内実は『以前に比べてマシ』程度。
書類紛失で大騒ぎという事はなくなったが、ぼんやりして計算ミスは多いという感じ。

鍛え直しをしてもらえるならとお願いしてみた次第だ。



翌日職場復帰した三人はちょっとこっちが戸惑うほどに見違えていて驚いた。
全員動きがキビキビしているし、集中力も段違い。
他の者達も目を丸くして驚いている。

「そんなに沢山、大丈夫か?」

これまでに溜め込んでいた書類まで全部積み上げ、期限に合わせてキビキビ仕分け、順次手をつけていく彼らに同僚が不安そうに声を掛けるが、返ってきたのはこれまでとはまるで別人のような言葉。

「これはディオ陛下が私達を信じて任せてくださっている仕事だから、しっかり責任を持ってやらないと」

そうして熱心に仕事に取り組み出した三人。
でも流石に根を詰めすぎじゃないだろうか?

そう思って俺も声を掛けた。

「昼くらい食べに行ったらどうかな?」
「いえ。ディオ陛下もここ暫く昼はたまにしか食べていらっしゃいませんよね?陛下が食もとらずに頑張っているんですから、私もこれまでの分をサクサク片付けないと!」

困った。
俺の事は気にしなくていいから食べに行って欲しい。

「自分にとって必要な時間を確保するのも仕事の内だから、行ってきてほしい」

そう言ったら何とか行ってくれたけど、本当に三人とも別人のようだ。

「さてと。誰もいないうちにちょっと気合を入れて頑張ろうか」

シグの報告によるとパーシバルはヴァレトミュラに乗って帰ったらしいし、チェスの勝負に使っていた時間も全部仕事に回そう。

そんなことを考えて仕事を黙々とこなしていたら、ルーセウスが飛んできて、『昼抜きは禁止だ!』と言われ食堂へと連行された。
どうやら文官達から俺が食べてないと聞いて慌ててやってきたらしい。

「もしかして昨日も昼抜きか?!」
「うん。まあ。ここ最近はずっと食欲もなかったし、食べないことの方が多かったかな」
「なっ?!それじゃあ保たないだろう?!」
「あ、でもパーシバルが来ている間は一応クッキーを二枚くらい摘まんでたよ。頭を使うから糖分が欲しくて」
「ディオ!食事は全ての基本だ!身体は資本とよく言うだろう?お菓子で誤魔化さず、ちゃんと食べろ!」

思い切り叱られた。
一応言い分はあるんだけどな…。

「でもほら。家族が皆城を出たし、一人で食べても仕事のことかルーセウスの事ばかり考えて手が進まなくて…」

食欲も湧かないから抜いたって平気だったんだ。
そう言ったら、これからは毎食一緒に食べると断言された。

「ほぼ俺のせいだろう?ちゃんと責任は取る!」

ルーセウスはそれから毎日三食欠かさず俺と一緒に食事を摂ってくれた。
ディアと毎食一緒に食べてるって聞いた時、凄く羨ましかったから、とっても嬉しい。
夜も毎日抱いてもらえるし、肌艶も良くなってきたとシグに冷やかされたくらいだ。

でもルーセウスはゴッドハルトに帰らなくて大丈夫なんだろうか?
流石に10日も過ぎたら心配になってきた。

「ルーセウス。向こうは大丈夫なのか?」
「ん?平気平気。実はシグに相談してな、裏でよく使われてるっていう複写転送の魔道具を使ったらどうかって教えてもらったんだ」

複写転送の魔道具、オクレール。
それは遠方にいる裏稼業の者へと指示書を出したりする時に使われるものだ。
その魔道具に文書を翳すと、送信したい相手の方の魔道具から複写された紙が出てくる仕様になっている。
裏の技術者がツンナガールの仕組みを応用させて開発した物らしいけど、詳細な仕組みまでは知らない。
ある種の裏の機密情報だからだ。
でも便利なのは確かだし、確かにそれを使えばゴッドハルトと文書のやり取りは可能だ。

「サインが必要な書類は直接送ってもらわないとダメだけど、それ以外はその魔道具があれば指示出しも可能だし、わざわざ帰らなくても大丈夫じゃないかってなったから、早速手配してもらって父にも連絡済みなんだ。そろそろ設置されてる頃じゃないか?」
「それなら良かった」

話を聞いてまだ一緒に居られるんだとちょっとホッとしていたら、腕の中に包み込まれて、安心させるかのようにキスされてしまう。

「ディオ。俺はちゃんとここにいるから、不安そうな顔をするな」
「ルー…」

ルーセウスと居るとなんだかすごく甘えたくなってしまう。
前はここまでじゃなかったはずなのに。

「騎士達も文官達もこの10日でだいぶビシッとしてきたし、一ヶ月もすればちゃんと使い物になるだろう」

弛んでるだけで元は優秀なんだし、あっという間だとルーセウスは笑うけど、それを可能にしたのはルーセウスだからこそ。
はっきり言ってこの10日で、これまでお飾りの王配と思われていたルーセウスがその実力をまざまざと見せつけ、流石俺が選んだ王配だと皆に認められ始めたと言っても過言ではない。

ルーセウスのカリスマ性を見ると、やっぱりいくら仕事ができようと、その立ち位置にまではいけないなと実感するのだ。

「ディオ。仕事に余裕ができたらデートに行こうな」
「え?」
「パーシバルとのデートに、俺がどれだけ嫉妬したと思う?」
「あれは接待であって、デートじゃ…」
「街を一緒に楽しく見て回って、カフェでパフェを食べさせられて、最後にディナーで締めたんだから立派なデートだ」
「その半分くらいはルーセウスも一緒だったんだし、やっぱりデートには当てはまらないんじゃ…」
「ディオに俺の好みも誤解されてたし、やっぱりもっとディオとの時間をもっと取らないとって思ったんだ。だから手始めにディオの好みを熟知していくことから始めようと思う!」

そう断言されて、嬉しい気持ちに満たされる。
愛されてるなと、それだけですごく伝わってくるから。

「じゃあルーセウス。俺にももっとルーセウスのことを教えてほしい」

チュッ。

「誘ってるのか?」
「どうかな?」
「じゃあ俺が誘う。ディオ。そろそろ寝ようか」
「添い寝?」
「それでディオが満足できるなら」

二人で笑い合いながらベッドに向かう。
そうして幸せを実感しながら、思う存分ルーセウスを独り占めしたのだった。


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