王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第四章 思わぬ誤解とライバル出現に焦る俺

80.心揺さぶられて Side.ディオ

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ルーセウスを交えての接待はとても気まずかった。
なんとか取り繕ってはいるものの、心がグラグラ揺れて思考が上手く纏まらない。
パーシバルはそんな俺に気づいていて、少しでも有利な条件を引き出そうとしてくるし、段々疲れてきた。

そんな姿を見せてしまったからだろうか?
ルーセウスが俺を気遣い声を掛けてくれようとしたのだけど……。

「ディ…んグッ?!」
「お前は黙ってろ。俺とディオの会話に口を挟むな」

交渉の邪魔をするなとばかりに、パーシバルは物理的に話せないよう大きめにカットされた白桃をルーセウスの口へと突っ込んだ。
必然的に咀嚼せざるを得なくなったルーセウスは黙らざるを得ない。

やっぱりパーシバルは一枚上手だ。
ここは俺が間に入らないと。

「パーシバル。ルーセウスに手出しは無用と言っただろう?契約違反だ」
「あれは害さないという意味合いだろう?これには当てはまらない。それにさっき俺がディオに食べさせたら怒っていたじゃないか。こうした方が嫉妬しなくて済むんじゃないか?」

挑発的に言ってくるパーシバル。
でもそれはある意味今の自分にとっては地雷だった。

「嫉妬なんて…するはずがないだろう?」

弱みを見せたらダメなのに、気づけばポロリと本音が転がり落ちていた。
どうしよう?
上手く気持ちが立て直せない。
泣いてしまいそうだ。

「ディオ。接待はやめにして今すぐ帰らないか?ちょっとゆっくり話した方がいい気がする」
「えっ…」

そんな俺に気づき、ルーセウスはこれ以上パーシバルと一緒にいるのはマズいと判断したようで、接待は中止にして帰ろうと言い出した。
でも城に帰ったら帰ったで、現実に直面する羽目になる。
ルーセウスから何を言われるかを考えるだけで怖い。
嫌だ。帰りたくない。
そう思っていたら、パーシバルが助け舟を出してくれた。

「ハハハッ!帰りたいなら一人で帰れ。今日は契約の元ディオの時間は俺が貰ってるんだ。夜までずっとディオは俺と一緒だ。そうだな?ディオ」

パーシバルからすれば、弱っている俺に対して存分に有利な交渉を進められる絶好の機会。
帰られるよりは当然引き留めたいだろう。

帰りたくない俺と、交渉を続けたいパーシバル。
二人の利害は一致している。
ここでルーセウスが城へ戻ってくれたらきっと落ち着いて交渉に挑めるようになるし、ここはなんとか先に城へ帰ってもらえるよう伝えよう。

そう思ったのに、ルーセウスはそれを許してはくれなかった。

「具体的には?ディオ、何時までだ?」

強い口調と眼差しに射抜かれて、まるで叱られた子供のように返すことしかできない。

「パーシバルからは半日くれとだけ」
「確認するが、契約と言うからにはこれは仕事なんだな?」
「…うん」
「わかった。じゃあ文官の終業時間である五時半までが契約だ。プライベートじゃないならそれ以上は認めない」

断固として言い切られ、あっさり逃げ場が奪われる。

そこへパーシバルが口を挟んで『ディオの気持ち的にはどうなんだ?帰りたくないなら時間延長は全然大丈夫だが?』と挑発するように言ってきたが、ルーセウスはそれを受け流し、俺を意地でも帰そうと真剣な顔で言ってきた。

「俺は…」
「ディオ。先触れを伝えた時、後でちゃんと話そうって言ったよな?」

確かにそう言ったのは俺自身だ。
逃げるのは間違っている。
でも怖いんだ。

そんな気持ちを見透かすように、ルーセウスは俺を安心させるように言ってきた。

「大丈夫だ。俺が伝えたいのは俺がどれだけディオのことを愛してるかって事だけだからな!ちょっと誤解がありそうだからそれもちゃんと解きたい。だから一緒に帰ろう?」

真っ直ぐ俺を見つめ、思いを伝えるように言葉を尽くされて、信じたい気持ちが込み上げてくる。

(信じて…いいのかな?)

今目の前にいるルーセウスは以前と何も変わらない、俺を愛してくれていたルーセウスに見える。

そう思ったところで更にずっと俺が欲しかった愛がたっぷり込められた言葉が紡がれて、どうしようもなくその胸の中に素直に飛び込みたくなった。

「ディオ。俺の気持ちは何も変わってない。信じてもらえないなら今日からずっとガヴァムで暮らしたっていい。毎日好きだって伝え続けるし、四六時中くっついてる!だからこれからも俺だけを変わらず愛してほしい」
「ルーセウス…」

言い訳をするなら、白昼夢のように今がどう言った状況なのかを忘れていたんだ。
それほど欲しかった言葉がもらえて、全く周囲が見えていなかった。

そんな俺を現実へと引き戻したのは、当然パーシバルだ。

「熱烈な告白は後にしてくれ。ディオ、私情に流されるな。いつも冷静なお前らしくないぞ?仕事は仕事だろう?契約書がある分、こちらが優先だ」

冷静な言葉と口調に、そうだったと我に返る。

「さ、じゃあ次はヴァレトミュラの駅だな。具体的に用意すべき物資のことも聞かせてくれ」

公私は分けろとばかりにサクサク場を仕切り先を促すパーシバルに、俺も慌てて椅子から立ち上がった。

しっかりしなければ。

幸いルーセウスのさっきの言葉のお陰でグラついた気持ちは立て直せたし、この後はパーシバルから何を言われても大丈夫。
ちゃんと対応はできる。
だから安心して先に帰ってもらおうと声を掛けたのだけど…。

「ルーセウス。その…ちゃんと帰るから、先に帰って待っててく────」
「俺も行くに決まってるだろう?ディオが心配だから着いていく」

ルーセウスは帰る気なんて一切ないとばかりにそんなことを言い出した。

「え?」
「今のディオは隙だらけだから絶対一人にはしない。護衛の一人だと思ってくれてもいいから、俺も連れていってくれ」

しかもそのまま俺の手をパッと取って、指を絡めて歩き出す。

「ルーセウス…」
「俺ともまたデートしような」

優しく微笑んでそう告げるルーセウスを見て、やっぱりこれは俺の願望が見せる白昼夢なんじゃないかと、そっと頬を染めた。


***


(やっぱりこれは夢なんじゃないかな?)

時間が経てば経つほどそう思う。
だってパーシバルを案内しながら説明して、時折ルーセウスへと視線を送ると必ずと言っていいほど目が合い優しく微笑まれる。
一度や二度じゃない。毎回だ。
だから余計にそう思った。

この夢がいつ覚めるかわからないから、つい様子を窺うようにルーセウスを見てしまう。
その度にパーシバルから鋭い質問が飛んできて現実へと引き戻され、丁寧に説明するという繰り返し。

まあそちらはそつなくこなせたし、問題は何もなかった。




夢から覚めたのは夕餉を摂った後のこと。
パーシバルを見送り、後は帰るだけとなったところでルーセウスに怒鳴られた。

「ディオ!どうして受けて立ったんだ?!」

それは多分さっきのパーシバルの言葉に対してのものだろう。
宣戦布告に対して俺が受けて立ったのがルーセウス的には許せなかったらしい。

そこでやっと夢から醒めて現実を思い出した。
ルーセウスはディアも巻き込まれると思って怒ったのだ。

「あ…。えっと、ルーセウスとディアの安全はちゃんと確保してるから、ゴッドハルトに帰ってもらえれば大丈夫だし…」

動揺から鼓動が早まって、背中に嫌な汗が流れ落ちていく。
気づけばジワリジワリと後退り、どうやってこの場から逃走しようか考え出していた。
そこで視界の端に自分が信頼を寄せる暗部の姿があるのを確認する。

(助かった…)

「シグ!俺はまだちょっと寄るところがあるから、ルーセウスを城まで────え?!」

でもまるでそれを予期したかのように、突然ルーセウスに抱き上げられ、馬車へと連れて行かれたかと思ったら膝の上に乗せられて、ギュウギュウ抱きしめられてパニックに陥った。

(一体何が?!)

夢の時間は終わったはずなのに、もしかして終わってなかったんだろうか?
でも力強い抱擁はどう考えても夢じゃなさそうだし、ルーセウスから伝わってくる熱も本物だった。

なのにルーセウスはパーシバルがいないにもかかわらず、俺が欲しかった言葉を口にしてくれる。

「ディオ。怒鳴って悪かった。寂しい思いをさせたのも、色々誤解させたのも、全部俺が悪かった。いくらでも罵ってくれていいから、あんな男の口車になんて乗らないでほしい。ディオが他の男に盗られるなんて絶対に嫌だ。ディオがどうしようもなく好きなんだ。誰にも渡したくない!」

どうしよう。
涙が止まらない。
でも今なら聞けると思った。

「ルーセウス…」
「なんだ?」
「まだ…俺のこと、好き?」
「勿論だ!ディオしか愛してない!」

その言葉に胸が震えてしまう。

「ディア…は?」
「ディア王女はディオにとってのヴィオレッタ王女と同じだ!」
「……本当に?」
「本当だ!」

信じたい。
信じさせてほしい。
そんな思いでキュッとルーセウスにしがみつく。

「ディオ。不安にさせてすまなかった」
「うん…」
「ディオの側に早く行きた過ぎて結婚式を早めようと思ったけど、それよりこうしてもっと早く会いにくれば良かったんだよな?本当にすまない」
「…うん」

そうして城に着くまでずっと、ルーセウスは贖罪のように俺を抱きしめ続けた。


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