王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第四章 思わぬ誤解とライバル出現に焦る俺

79.ただいま

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正直に言おう。
とっても勉強になる!

基本的にパーシバルがあれこれ質問してくるからディオがそれに答えるんだが、これが知らないことが沢山あって、すごく興味深い。
ディオがまた説明上手で、俺でも理解できるように話してくれるからもっと知りたくなるんだ。
それでいてパーシバルにも退屈させていないところがすごい。
時折笑顔で牽制し合ってるし、思ったほど仲良しってわけじゃなさそうで安心した。
相手の気を悪くさせずに駆け引きしているところがまた凄い。
やっぱり頭の出来が俺とは違うんだな。

(俺の嫁、最高!)

何度でも惚れ直してしまう。

でもそんな風にディオを笑顔で見てると、たまにこっちをチラッと見てくるんだが、その様子がまた痛ましいんだ。

多分一瞬でも俺が余所見をすれば、マイナス方面に勘違いされる気がする。
『ディアのことでも考えているのかな』とか『本当は今すぐゴッドハルトに帰りたいのかも』とかだ。
そんな誤解をされたらたまったものじゃない。
俺はそんなドジは踏まないぞ!
ディオが安心できるようにいつ見てきたって笑顔を返して安心させてやる!

そんな風に接待という名の密かな勉強会を堪能しつつディオへの愛も示し続け、やっと夕方になった。

パーシバルが『夕食にガヴァムの美味い料理を教えてほしい』『説明も頼む』なんて言ってくるから渋々付き合ったが、ディオの説明で知らなかったことも知れてよかった。
新しい発見だ。
思えばこんな風に説明されての食事はあまりしたことがなかった気がする。

『ディオのお勧めで!』か『今日は俺のお勧めに行こう!』で店に行き、ディオがたまに豆知識を披露してくれてそこから話が弾んで楽しく食事を済ませる感じだったから、わざわざ自分から質問なんてした事はなかった。

俺達の会話は大抵が日常であったあれこれの話で、仕事のことは俺が相談する形が殆ど。
こんな何気ない料理の話も聞けば色々教えてもらえるんだと目から鱗が落ちた。

(もっとディオのことが知りたいな)

俺が知らないディオをもっともっとこれから知っていきたい。
だから早く誤解も解いて、前みたいに愛情を返してもらいたい。
何より、俺から離れていってほしくないんだ。

「ディオ。今日は色々勉強になったぞ」
「それは良かった」
「俺も明日には国に帰ろうと思う」
「そう」

どうやらパーシバルはこのまま大人しく国に帰ってくれるらしい。
それにホッとしたのも束の間、不穏なことを言い出した。

「ああ。そしてヴァレトミュラを踏み台に、国力を今よりもっと蓄えていくつもりだ」
「それは宣戦布告と受け取っても?」
「まあある意味そうだな」

ニヤリとパーシバルは意味深に笑う。

「まさかこんなに早く契約破棄を宣言するなんて…」
「誤解するな。契約を破棄する気はない」
「?」
「宣戦布告は戦争だけじゃないだろう?」
「…?よくわからないな」

ディオは首を傾げているが、俺は嫌な予感がして固唾を呑む。

「お前がうちを無視できないほどに国を強固にできたら……」
「できたら?」
「お前を落としに行くとここに宣言しよう」
「?」
「な?!」

嫌な予感が的中した。
ディオがわかってなさそうなのが唯一の救いか?

「よくわかっていないという顔だな。まあいい。忘れるな。手を出さないという契約は、ガヴァムとゴッドハルト、そしてルーセウスとディア王女にしか触れていなかったということを」

(つまり元々ディオはそこに含まれてないってことか?!)

そう思って焦ってディオを見ると、全く明後日の方向に思考が飛んでいた。

「まあ…暗殺者は送られてくる前提での契約だし、俺の命を狙いたいなら何度でも挑んできたらいい。受けて立つよ」

(そうじゃないぃいっ!!)

好戦的に見返しながら艶やかに微笑むディオは魅力的だけど、今のはどう聞いても恋愛的意味だから!!

なのにパーシバルはそんなディオの誤解をそのままに言い放つ。

「そうか。ならこれからも適度にお互い牽制し合いながら取引をしよう。お前の悔しそうな顔が見られるのを今から楽しみにしているぞ?」
「逆もあるというのを忘れずに」

また二人揃って笑顔で火花を飛ばし合ってるけど、パーシバルはディオの勘違いを逆手に取って頻繁に会いにきたいだけだろう?!
そのまま食事を終えたらさっさと帰ったけど、気が気じゃないんだが?!

「ディオ!どうして受けて立ったんだ?!」

断ってくれれば良かったのに!
そう思って怒鳴った形になったのが悪かった。

「あ…。えっと、ルーセウスとディアの安全はちゃんと確保してるから、ゴッドハルトに帰ってもらえれば大丈夫だし…」

目を逸らされながらジワリジワリと距離を取られて、やらかしたと気づいてしまった。

「シグ!俺はまだちょっと寄るところがあるから、ルーセウスを城まで────え?!」

(逃げられる前に身柄を確保だ!)

ここで逃げられたら致命的だ。
取り返しがつかなくなる。
そう直感で感じ、俺は逃すかとばかりにディオを肩に担ぐように抱き上げて、ギュッとしっかり拘束しながら馬車乗り場までダッシュした。

「ちょっ、ルーセウス?!」

ディオに考える時間を与えたらダメだ。
眠り針でプスッと刺される前に連れ去るのみ!

そして馬車に乗り込み城まで行ってくれと指示を出し、ディオを膝の上へと乗せ替えて、ギュウゥッと抱きしめた。

思いっきり固まってるけど、気にしたら負けだ。

「ディオ。怒鳴って悪かった。寂しい思いをさせたのも、色々誤解させたのも、全部俺が悪かった。いくらでも罵ってくれていいから、あんな男の口車になんて乗らないでほしい。ディオが他の男に盗られるなんて絶対に嫌だ。ディオがどうしようもなく好きなんだ。誰にも渡したくない!」

思いの丈を全部ぶつけてみた。
これでダメだったらどうしよう?

そう思ってたらディオがポロポロ涙を流して泣き出した。

「ルーセウス…」
「なんだ?」
「まだ…俺のこと、好き?」
「勿論だ!ディオしか愛してない!」
「ディア…は?」
「ディア王女はディオにとってのヴィオレッタ王女と同じだ!」
「……本当に?」
「本当だ!」

そう断言したらキュッと抱きついてくれた。

「ディオ。不安にさせてすまなかった」
「うん…」
「ディオの側に早く行きた過ぎて結婚式を早めようと思ったけど、それよりこうしてもっと早く会いにくれば良かったんだよな?本当にすまない」
「…うん」

グスグス泣いてるからうんしか返ってこないけど、精一杯謝ろう。


***


城に着いたから、取り敢えずディオの部屋に行ってゆっくり話そうと馬車から降りた。

でもこんなに痛々しいディオの元へ文官が数名駆けてくる。

「ディオ陛下!お待ちしておりました!急ぎの提出書類が後から出てきてしまいまして、申し訳ないのですが至急で目を通していただきたく!」「ディオ陛下!お帰りなさいませ!予算についてご相談したいことがっ」「ディオ陛下!お留守の間に外務大臣と財務大臣が…っ」

(どいつもこいつも、勝手ばかり…!ディオの今の姿を見て何も思わないのか?!こんなディオに何をさせる気だ?!)

「静まれ!」

ビクッと全員がその場で直立不動の姿勢を取る。

「急ぎの書類は俺が預かる。予算は明日出直してこい。それと明日以降業務終了後にディオに仕事を持ってきたい奴は腹筋100回背筋100回懸垂100回全部やってから来いと伝えておけ。それだけの根性を見せる奴の仕事以外は却下だ!わかったら行け!」
「は、はい!」
「かしこまりました!」

バタバタと文官達が去っていく。
全くしょうがない奴らだ。

「ディオ。大丈夫か?この書類だけゆっくりやればいいからな」

毎日毎日夜遅くまで仕事漬けなんだし、少しは休ませてやりたい。
そう思って気遣う言葉を掛けたらディオの肩が震え出した。

「ふ…ふふっ」
「ディオ?」

さっきまで泣いていたはずなのに、ディオが笑ってる?!
しかも俺が大好きないつもの笑顔だ。

「ルーセウス。おかえり」

俺へと真っ直ぐな視線を向け紡がれた言葉に、ジワリと胸が温かくなる。
やっと────本当にディオが俺の元に帰ってきてくれたような気がした。

泣きそうだ。

「ディオ。ただいま」

やっと安心してそう言える。
それが何よりも嬉しかった。


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