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第四章 思わぬ誤解とライバル出現に焦る俺
74.最悪な状況
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「ルーセウス陛下!」
「シグ!」
出迎えてくれたのはディオの筆頭暗部のシグだった。
その事にどこかホッとする。
彼からなら情報を得やすい。
「ようこそガヴァムへ!ちっとも来ないからヤキモキしたっすよ」
「すまない。ディオも忙しそうだったし、中途半端に来ると却って邪魔になると思ったんだ」
「なんだ。それなら来てくれて全然良かったのに。ディア王女との結婚を早めたいって言うのは、やっぱり『早くこっちに腰を落ち着けたかったから』で合ってますよね?」
「勿論」
寧ろそれ以外に理由なんてない。
そう思ったのに────。
「じゃあそこんとこちゃんとディオ様には伝えた方がいいっすよ?ディオ様、ルーセウス王子が心変わりしてディア王女と親密になったから早く結婚したくなったのかもって思い詰めてましたから」
「……え?」
「ちゃんと俺も言ったんっすよ?早くこっちに来たいだけでしょどうせって。でもちっとも会いに来ないし、その上ツンナガールでの会話も最低限。ゴッドハルトからの報告も二人の仲睦まじい様子が詳細に入ってくるしで、疑心暗鬼になっちゃって。使えない文官達の件と合わせて相当ストレス溜め込んでて、この間とうとう限界になって街に気分転換の視察に行くって言い出したくらいなんっすから」
「……っ、誤解だ!」
シグからの話を聞いて倒れるかと思った。
そんな風に誤解していたならさっきのディオの反応もわからなくはない。
下手をしたらガヴァムに来る話も立ち消えかもと考えていそうだ。
「ディオは?!会議か?!」
「違いますよ。今日はバロン国のパーシバル陛下のお相手です」
「……は?」
バロン国の国王?何故?
「敵じゃないのか?」
「まあそうっすね」
「危険じゃないか!」
「大丈夫っすよ。今日は契約に基づく接待なので」
それからシグはどうしてこうなったのかを誤解がないようにと説明してくれた。
なんでもストレスの溜まったディオが街へと視察に向かったら、偶々ガヴァムの情報収集に来ていたパーシバルと遭遇。そこで剣を合わせてストレス発散。ついでに何しに来たのか尋ねたら、観光で来たと言われたから、城に招いてチェスで勝負をしたらしい。
俺にはよくわからないが、駒の運び方やなんやらである程度の性格やら戦略スタイル、実力が把握できるんだとか。
それでディオが勝ったことで向こうも火がついて、ここ最近国交条件を盛り込んだ契約書を用意しつつ、毎日のように昼からチェスで戦っていたそうだ。
どうやらディア王女はそれを浮気と勘違いしたようだとわかり、正直心の底から安堵した。
(浮気じゃなくて良かった)
そう思ったのも束の間。
「いやぁ、今回ルーセウス陛下が来てくれて本当に良かったっすよ。パーシバル陛下も最初はディオ様に敵意バッシバシだったのに、日に日にディオ様に傾倒していってましたからね。そのうちルーセウス陛下と別れて自分と結婚しろとか言い出さないかってヒヤヒヤしてたんっすよ」
「…は?」
「ま、ディオ様はちっとも気づいてなさそうですし、靡くこともないでしょうけど。あの人鈍いですしね。自分が男からもモテるんだって気づいてないから、変に無防備ですし」
それはわかる。
ディオは自分の魅力をちっともわかっていない。
だからこそ押したらいけそうな気がするんだ。
もしパーシバルもそんな気持ちになっていたら…?
「…ちなみにシグ。接待ってどこで何をしてるんだ?」
「街案内っすよ。ヴァレトミュラの駅がある第二都市の都市整備をディオ様がやったって知ってたみたいで、本人に案内してもらいたいって言ってました。観光地の作り方とかヴァレトミュラの駅とか色々興味津々みたいでしたよ?あちこち見て回りたいそうなんで、絶対すぐには戻ってきません!」
「思いっきりデートじゃないか!!」
どうやらパーシバルは勝負に勝ったらしく、それを元にディオの貴重な時間をもぎ取ったらしい。
(俺は会えなくてずっと我慢してたのに…!)
ちょっとパーシバルに対して殺意が湧いた。
今すぐデートの邪魔に向かったって構わないよな?
「俺も行く!」
そう言ったら『取り敢えず一旦荷物を置いて、シャワーを浴びて着替えましょう』とシグから言われ、一刻も早く行きたいのにとヤキモキしたが、このまま突撃してもマイナスの事態にしかなりそうにないから、一旦頭を冷やして落ち着いた方がいいと言われてしまった。
だから出来るだけ素早くシャワーを浴び、迅速に着替えた後、ここ最近のディオの様子を改めて訊かせてもらうことに。
「シグ。すまないが、これからの事も考えて連絡先の交換を頼みたい。それと、ここ最近のディオの様子を詳しく教えてもらえないか?」
「いいっすよ。最近のディオ様は…うーん、仕事の合間にツンナガールを見つめて溜め息を吐いてる事が多かった気がしますね」
それは暗部からの定期連絡待ちなのか?それとも俺からの連絡待ちか?
もしくは俺に連絡するかどうか悩んでたんだろうか?
(我慢なんてせずに連絡すればよかった)
「後は、『やっと仕事が落ち着いてきたから、今日は久し振りにルーセウスとゆっくり話せそうなんだ』って言ってた日があったんですけど、あの日、いつも通りに短時間で切られて愕然となった後、枕に突っ伏して泣いてましたね。『やっぱりもう俺のこと、好きじゃないのかも』とか呟いてたので、結構思い詰めてる感じでしたよ」
思い当たる日があるから、ドキッと鼓動が跳ねた。
一瞬でも『言いたい事があったんなら、きっとまた掛け直してきたよな』と気持ちを立て直していた自分を殴りたくなる。
ディオがそんな風に落ち込んでいたなら、掛け直してくるはずがないじゃないか。
「極め付けが今日っすね」
「え?!今日?!」
「頑張って平静を装ってましたけど、トドメを刺されたって感じで声もなく泣いてて、痛々しかったっす」
(泣いてた?どうして?!)
特におかしな事は言った覚えはないのに!
「俺は普通に話しただけだぞ?!」
「んー。内容は?どんな感じでした?ちゃんと愛の言葉は口にしたんです?」
「急いでたから特には言ってない。近くまで来たからワイバーンの受け入れを頼むって言っただけだ」
「あー…。今のディオ様に愛の言葉もなく業務連絡的言葉だけっていうのは悪手っすよ?他は?ディオ様が泣くような事言ってません?」
「うーん…ディア王女との結婚を早めたいというのは本当かって聞かれたから、早急に婚儀を挙げたいと思ってるってしっかり返したくらいで、特にそれ以外はなかったぞ?」
「はい、アウト。それだけ聞いたら孕ませたから結婚を急いでるって思われてもしょうがないっすよ?まあ報告は上がってないんで、そこに関しては潔白だってわかってますけどね。でもディオ様的にはルーセウス陛下からの自分への愛情が全く感じられなかったんでしょうね。可哀想に。そりゃあ泣きますよ」
シグから言われて愕然となった。
まさかそんな風に受け取られるなんて思いもしていなかったからだ。
「ま、離婚はしないって言ってましたからそこだけは救いですかね?ただ、『気持ちが落ち着くまで帰れそうにないから、遅くなったら適当に誤魔化してくれ』って頼まれたんで迎えに行かないと多分いつまでも帰って来ないと思いますよ?行くなら行くで、その辺りを踏まえた上で上手く宥めてディオ様の身柄を確保してください!」
アハハッと軽い口調で言われるが、とても笑い事じゃない。
(俺、捨てられるんじゃないか?!)
「こんなにディオしか愛してないのに…っ!」
今更ながら後悔ばかりが込み上げてくる。
でも来てよかった。
来ていなかったら気づかないうちに関係が完全に破綻していたかもしれない。
大丈夫。
まだ間に合う。
兎に角土下座してでもいいから誠心誠意謝ろう。
男のプライド?
そんなものディオと天秤に掛ければ紙屑同然だ。
ディオに捨てられるくらいならプライドなんか捨ててやる。
「よし!ディオを迎えに行くぞ!」
「ルーセウス陛下、カッコいい!その愛一筋なところをディオ様にしっかりアピールしてくださいね!」
「任せろ!そこだけは自信がある!」
そう断言したのも束の間。
シグが軽い口調で聞いてきた。
「それはそうと、実際のところディア王女とはどうなんです?もうキスくらいは済ませました?」
冗談にしてはタチが悪い。
そんな軽い奴みたいに思われるのは心外だ。
「してない!俺が好きなのはディオなんだぞ?結婚式ならまだしも、それ以外でする気はない!」
「えー…じゃあ誘惑は?」
「するわけないだろう?!」
ディオの方にいかないようにと、多少一緒に過ごす時間を増やして親しくしているだけで誘惑まではしてないし、これからもするつもりはない。
「…嘘ですよね?」
「本当だ!」
キッパリ言い切ったものの、シグは痛いところを突いてきた。
「んじゃあ、どうしてゴッドハルトに帰ってからディア王女に思わせぶりな態度をずっと取ってるんです?」
「え?!」
「何でしたっけ?『やっぱりディア王女との手合わせは楽しいな』って言いながら毎日お誘いするんですよね?『毎食一緒に食べてると前より仲良くなれた気がするな』って笑顔でじっと見つめながら言ったりしたんでしょ?ああ、そうそう。『ガヴァムよりゴッドハルトの方を気に入ってくれたら嬉しい』ってのもありましたっけ。ディア王女が真っ赤になってたって聞きましたよ?落とす気満々っすよね?」
「…………っ?!」
「そういうのは全部報告で上がってくるんで、その辺りもディオ様を誤解させた要因っすよ?」
「うっ…そ、それは…」
「それは?」
「その…」
「濁さずはっきり言ってください。納得できる話ならディオ様の説得も手伝いますよ?」
「そ、そうか。それなら────」
俺はシグに、ディア王女がディオの側妃に収まるのが嫌だったからだと正直に話した。
「えっと?念の為に聞きますけど、それはディア王女が好きだからではなく?」
「ディオが俺以外の相手と、一人どころか二人も寝るのが嫌だったんだ!本音を言うと独り占めしたいくらいなのに、何が悲しくてそこまで許容しないといけないんだ!無理だ!耐えられない!」
「つまり?ディア王女を自分に惹きつけておけばディオ様はヴィオレッタ王女としか寝ないし、彼女は友人枠だから、ディオ様に大事にされるのも愛されるのも自分だけになるって考えた、と?」
「そうだ」
「それで追い込んで泣かせてたら本末転倒じゃないっすか。アホの極みですね」
「うぐぅっ!」
違う角度から話を聞くとよくわかる。
俺は最低だった。
ディオからしたら仕事で大変な中、心の拠り所であるはずの俺が裏切っていたようなものなのだから、そりゃあ泣きたくもなるだろう。
「思い込んだら一直線も悪い方に働くと拗れますね。頼みますから、ディオ様に話す際は十分気をつけてくださいね?ちなみにさっきの切り出し方は0点です。今のディオ様なら、自分にディア王女を取られたくなかったんだって方に受け止めますよ?絶対。そうなったらもう二度と聞く耳を持ってもらえないかもしれないっす」
「え?!それは困る!」
これ以上ディオに悪い印象を与えるわけにはいかない。
何とかプラスに持っていかないと。
でも今の俺なら何をやっても失敗しそうな気がして、不安になる。
シグならいいアドバイスをくれるだろうか?
「ち、ちなみにどう言ったら誤解されないと思う?」
「気持ちを全面に押し出すのが一番確実っすかね?ディオ様のことが好き過ぎてディア王女が側妃に収まるのが許せなかったんだ、って感じなら誤解はしないと思いますけど」
「ディオが好き過ぎて、か。うん。そうだな。それなら真っ直ぐ伝わりそうな気がする!」
すごく親身に相談に乗ってもらえて助かった。
今の言葉はしっかり頭に刻もう。
「後はいっぱい甘やかしてあげたらいいと思います。今はかなりルーセウス陛下の愛情を疑ってるんで、中途半端にするとただのご機嫌取りっぽく受け止められそうな気がするんっすよね。だから、ちょっとやり過ぎくらいの溺愛っぷりでちょうどいいんじゃないかなと」
「なるほど。捨てられないようにと変に気を遣いすぎたら余計に疑われて怪しまれるってことか」
ここは愛情全開で突撃するに限るな。
「わかった。頑張る」
「はい。健闘を祈ります!」
そして俺はゴッドハルトから連れてきた護衛の兵三人と一緒にシグの案内でディオがいる第二都市へと向かった。
「シグ!」
出迎えてくれたのはディオの筆頭暗部のシグだった。
その事にどこかホッとする。
彼からなら情報を得やすい。
「ようこそガヴァムへ!ちっとも来ないからヤキモキしたっすよ」
「すまない。ディオも忙しそうだったし、中途半端に来ると却って邪魔になると思ったんだ」
「なんだ。それなら来てくれて全然良かったのに。ディア王女との結婚を早めたいって言うのは、やっぱり『早くこっちに腰を落ち着けたかったから』で合ってますよね?」
「勿論」
寧ろそれ以外に理由なんてない。
そう思ったのに────。
「じゃあそこんとこちゃんとディオ様には伝えた方がいいっすよ?ディオ様、ルーセウス王子が心変わりしてディア王女と親密になったから早く結婚したくなったのかもって思い詰めてましたから」
「……え?」
「ちゃんと俺も言ったんっすよ?早くこっちに来たいだけでしょどうせって。でもちっとも会いに来ないし、その上ツンナガールでの会話も最低限。ゴッドハルトからの報告も二人の仲睦まじい様子が詳細に入ってくるしで、疑心暗鬼になっちゃって。使えない文官達の件と合わせて相当ストレス溜め込んでて、この間とうとう限界になって街に気分転換の視察に行くって言い出したくらいなんっすから」
「……っ、誤解だ!」
シグからの話を聞いて倒れるかと思った。
そんな風に誤解していたならさっきのディオの反応もわからなくはない。
下手をしたらガヴァムに来る話も立ち消えかもと考えていそうだ。
「ディオは?!会議か?!」
「違いますよ。今日はバロン国のパーシバル陛下のお相手です」
「……は?」
バロン国の国王?何故?
「敵じゃないのか?」
「まあそうっすね」
「危険じゃないか!」
「大丈夫っすよ。今日は契約に基づく接待なので」
それからシグはどうしてこうなったのかを誤解がないようにと説明してくれた。
なんでもストレスの溜まったディオが街へと視察に向かったら、偶々ガヴァムの情報収集に来ていたパーシバルと遭遇。そこで剣を合わせてストレス発散。ついでに何しに来たのか尋ねたら、観光で来たと言われたから、城に招いてチェスで勝負をしたらしい。
俺にはよくわからないが、駒の運び方やなんやらである程度の性格やら戦略スタイル、実力が把握できるんだとか。
それでディオが勝ったことで向こうも火がついて、ここ最近国交条件を盛り込んだ契約書を用意しつつ、毎日のように昼からチェスで戦っていたそうだ。
どうやらディア王女はそれを浮気と勘違いしたようだとわかり、正直心の底から安堵した。
(浮気じゃなくて良かった)
そう思ったのも束の間。
「いやぁ、今回ルーセウス陛下が来てくれて本当に良かったっすよ。パーシバル陛下も最初はディオ様に敵意バッシバシだったのに、日に日にディオ様に傾倒していってましたからね。そのうちルーセウス陛下と別れて自分と結婚しろとか言い出さないかってヒヤヒヤしてたんっすよ」
「…は?」
「ま、ディオ様はちっとも気づいてなさそうですし、靡くこともないでしょうけど。あの人鈍いですしね。自分が男からもモテるんだって気づいてないから、変に無防備ですし」
それはわかる。
ディオは自分の魅力をちっともわかっていない。
だからこそ押したらいけそうな気がするんだ。
もしパーシバルもそんな気持ちになっていたら…?
「…ちなみにシグ。接待ってどこで何をしてるんだ?」
「街案内っすよ。ヴァレトミュラの駅がある第二都市の都市整備をディオ様がやったって知ってたみたいで、本人に案内してもらいたいって言ってました。観光地の作り方とかヴァレトミュラの駅とか色々興味津々みたいでしたよ?あちこち見て回りたいそうなんで、絶対すぐには戻ってきません!」
「思いっきりデートじゃないか!!」
どうやらパーシバルは勝負に勝ったらしく、それを元にディオの貴重な時間をもぎ取ったらしい。
(俺は会えなくてずっと我慢してたのに…!)
ちょっとパーシバルに対して殺意が湧いた。
今すぐデートの邪魔に向かったって構わないよな?
「俺も行く!」
そう言ったら『取り敢えず一旦荷物を置いて、シャワーを浴びて着替えましょう』とシグから言われ、一刻も早く行きたいのにとヤキモキしたが、このまま突撃してもマイナスの事態にしかなりそうにないから、一旦頭を冷やして落ち着いた方がいいと言われてしまった。
だから出来るだけ素早くシャワーを浴び、迅速に着替えた後、ここ最近のディオの様子を改めて訊かせてもらうことに。
「シグ。すまないが、これからの事も考えて連絡先の交換を頼みたい。それと、ここ最近のディオの様子を詳しく教えてもらえないか?」
「いいっすよ。最近のディオ様は…うーん、仕事の合間にツンナガールを見つめて溜め息を吐いてる事が多かった気がしますね」
それは暗部からの定期連絡待ちなのか?それとも俺からの連絡待ちか?
もしくは俺に連絡するかどうか悩んでたんだろうか?
(我慢なんてせずに連絡すればよかった)
「後は、『やっと仕事が落ち着いてきたから、今日は久し振りにルーセウスとゆっくり話せそうなんだ』って言ってた日があったんですけど、あの日、いつも通りに短時間で切られて愕然となった後、枕に突っ伏して泣いてましたね。『やっぱりもう俺のこと、好きじゃないのかも』とか呟いてたので、結構思い詰めてる感じでしたよ」
思い当たる日があるから、ドキッと鼓動が跳ねた。
一瞬でも『言いたい事があったんなら、きっとまた掛け直してきたよな』と気持ちを立て直していた自分を殴りたくなる。
ディオがそんな風に落ち込んでいたなら、掛け直してくるはずがないじゃないか。
「極め付けが今日っすね」
「え?!今日?!」
「頑張って平静を装ってましたけど、トドメを刺されたって感じで声もなく泣いてて、痛々しかったっす」
(泣いてた?どうして?!)
特におかしな事は言った覚えはないのに!
「俺は普通に話しただけだぞ?!」
「んー。内容は?どんな感じでした?ちゃんと愛の言葉は口にしたんです?」
「急いでたから特には言ってない。近くまで来たからワイバーンの受け入れを頼むって言っただけだ」
「あー…。今のディオ様に愛の言葉もなく業務連絡的言葉だけっていうのは悪手っすよ?他は?ディオ様が泣くような事言ってません?」
「うーん…ディア王女との結婚を早めたいというのは本当かって聞かれたから、早急に婚儀を挙げたいと思ってるってしっかり返したくらいで、特にそれ以外はなかったぞ?」
「はい、アウト。それだけ聞いたら孕ませたから結婚を急いでるって思われてもしょうがないっすよ?まあ報告は上がってないんで、そこに関しては潔白だってわかってますけどね。でもディオ様的にはルーセウス陛下からの自分への愛情が全く感じられなかったんでしょうね。可哀想に。そりゃあ泣きますよ」
シグから言われて愕然となった。
まさかそんな風に受け取られるなんて思いもしていなかったからだ。
「ま、離婚はしないって言ってましたからそこだけは救いですかね?ただ、『気持ちが落ち着くまで帰れそうにないから、遅くなったら適当に誤魔化してくれ』って頼まれたんで迎えに行かないと多分いつまでも帰って来ないと思いますよ?行くなら行くで、その辺りを踏まえた上で上手く宥めてディオ様の身柄を確保してください!」
アハハッと軽い口調で言われるが、とても笑い事じゃない。
(俺、捨てられるんじゃないか?!)
「こんなにディオしか愛してないのに…っ!」
今更ながら後悔ばかりが込み上げてくる。
でも来てよかった。
来ていなかったら気づかないうちに関係が完全に破綻していたかもしれない。
大丈夫。
まだ間に合う。
兎に角土下座してでもいいから誠心誠意謝ろう。
男のプライド?
そんなものディオと天秤に掛ければ紙屑同然だ。
ディオに捨てられるくらいならプライドなんか捨ててやる。
「よし!ディオを迎えに行くぞ!」
「ルーセウス陛下、カッコいい!その愛一筋なところをディオ様にしっかりアピールしてくださいね!」
「任せろ!そこだけは自信がある!」
そう断言したのも束の間。
シグが軽い口調で聞いてきた。
「それはそうと、実際のところディア王女とはどうなんです?もうキスくらいは済ませました?」
冗談にしてはタチが悪い。
そんな軽い奴みたいに思われるのは心外だ。
「してない!俺が好きなのはディオなんだぞ?結婚式ならまだしも、それ以外でする気はない!」
「えー…じゃあ誘惑は?」
「するわけないだろう?!」
ディオの方にいかないようにと、多少一緒に過ごす時間を増やして親しくしているだけで誘惑まではしてないし、これからもするつもりはない。
「…嘘ですよね?」
「本当だ!」
キッパリ言い切ったものの、シグは痛いところを突いてきた。
「んじゃあ、どうしてゴッドハルトに帰ってからディア王女に思わせぶりな態度をずっと取ってるんです?」
「え?!」
「何でしたっけ?『やっぱりディア王女との手合わせは楽しいな』って言いながら毎日お誘いするんですよね?『毎食一緒に食べてると前より仲良くなれた気がするな』って笑顔でじっと見つめながら言ったりしたんでしょ?ああ、そうそう。『ガヴァムよりゴッドハルトの方を気に入ってくれたら嬉しい』ってのもありましたっけ。ディア王女が真っ赤になってたって聞きましたよ?落とす気満々っすよね?」
「…………っ?!」
「そういうのは全部報告で上がってくるんで、その辺りもディオ様を誤解させた要因っすよ?」
「うっ…そ、それは…」
「それは?」
「その…」
「濁さずはっきり言ってください。納得できる話ならディオ様の説得も手伝いますよ?」
「そ、そうか。それなら────」
俺はシグに、ディア王女がディオの側妃に収まるのが嫌だったからだと正直に話した。
「えっと?念の為に聞きますけど、それはディア王女が好きだからではなく?」
「ディオが俺以外の相手と、一人どころか二人も寝るのが嫌だったんだ!本音を言うと独り占めしたいくらいなのに、何が悲しくてそこまで許容しないといけないんだ!無理だ!耐えられない!」
「つまり?ディア王女を自分に惹きつけておけばディオ様はヴィオレッタ王女としか寝ないし、彼女は友人枠だから、ディオ様に大事にされるのも愛されるのも自分だけになるって考えた、と?」
「そうだ」
「それで追い込んで泣かせてたら本末転倒じゃないっすか。アホの極みですね」
「うぐぅっ!」
違う角度から話を聞くとよくわかる。
俺は最低だった。
ディオからしたら仕事で大変な中、心の拠り所であるはずの俺が裏切っていたようなものなのだから、そりゃあ泣きたくもなるだろう。
「思い込んだら一直線も悪い方に働くと拗れますね。頼みますから、ディオ様に話す際は十分気をつけてくださいね?ちなみにさっきの切り出し方は0点です。今のディオ様なら、自分にディア王女を取られたくなかったんだって方に受け止めますよ?絶対。そうなったらもう二度と聞く耳を持ってもらえないかもしれないっす」
「え?!それは困る!」
これ以上ディオに悪い印象を与えるわけにはいかない。
何とかプラスに持っていかないと。
でも今の俺なら何をやっても失敗しそうな気がして、不安になる。
シグならいいアドバイスをくれるだろうか?
「ち、ちなみにどう言ったら誤解されないと思う?」
「気持ちを全面に押し出すのが一番確実っすかね?ディオ様のことが好き過ぎてディア王女が側妃に収まるのが許せなかったんだ、って感じなら誤解はしないと思いますけど」
「ディオが好き過ぎて、か。うん。そうだな。それなら真っ直ぐ伝わりそうな気がする!」
すごく親身に相談に乗ってもらえて助かった。
今の言葉はしっかり頭に刻もう。
「後はいっぱい甘やかしてあげたらいいと思います。今はかなりルーセウス陛下の愛情を疑ってるんで、中途半端にするとただのご機嫌取りっぽく受け止められそうな気がするんっすよね。だから、ちょっとやり過ぎくらいの溺愛っぷりでちょうどいいんじゃないかなと」
「なるほど。捨てられないようにと変に気を遣いすぎたら余計に疑われて怪しまれるってことか」
ここは愛情全開で突撃するに限るな。
「わかった。頑張る」
「はい。健闘を祈ります!」
そして俺はゴッドハルトから連れてきた護衛の兵三人と一緒にシグの案内でディオがいる第二都市へと向かった。
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