王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第四章 思わぬ誤解とライバル出現に焦る俺

71.駆け引き Side.ディオ

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城に帰ると早速とばかりに大臣達がやってきた。

「ディオ陛下!また効率が悪くなっている部署が…!どうか叱咤激励を至急お願い致します!」

その言葉に溜息が出る。

「すまないが来客だ。働く気概がないなら潔く辞めろと伝えてくれ。それで納得しないなら去勢されるか辞めるか選べと伝えて欲しい。後は最終勧告として各部署に同内容の通達を。俺からは以上だ」

いい加減にして欲しいと冷たく告げたら慌てたように大臣は走り去っていった。
これで不要な人材がいなくなればよし。
また問題を起こすようなら今度こそナイフ投げの練習台にしてやろう。

「なかなかな恐怖政治だな」

そんな中、ポツリとそんな言葉が場に響く。

「今のガヴァムでは変態に人権などほぼ皆無なので。俺が必要とする人材はやる気をなくして仕事を回せなくなった変態達ではなく、真面に仕事をこなせる者達です。現状使えない者には早々に退職願わないと、国が円滑に回りませんから」
「変態?」
「まあこちらの話です。それよりお待たせしてすみません。どうぞこちらへ」

戸惑うパーシバルを応接間へと案内すると、既に優秀な暗部の手によりチェス盤と飲み物が用意されていた。
ソファーへと座るよう促して、チェス盤へと向かい合う。

「では始めましょうか」

にこやかにそう言うと、パーシバルは様子を見るかのように一手駒を動かした。


***


【Side.バロン国国王 パーシバル】

初めて入るガヴァムの城はやはり歴史が感じられる場所で、厳かという表現がぴったりな場所だった。
幽霊でも出てきそうな雰囲気だ。
いや。幽霊よりおっかないのがここにいるな。

退職か去勢か選べなんて初めて聞いたぞ?
そんなこと言われたら誰だって退職するだろう。
好き好んで去勢を選ぶ奴なんているのか?
怖すぎだろう。

取り敢えず俺のガヴァムメモに『国王は民には期待されているようだが、実質はヤバイ奴だった』と書き足しておこう。
後は『腕は暗殺者レベル』も書いておくか。
闇が深いな。

それにしてもおかしい。
ゴッドハルトのルーセウス王子はすごく真っ当な王子なのに、こんな対極にいるような相手と会話が弾むのか?
薬で洗脳したと言われた方がずっとしっくりくるんだが…。

そんな風に首を傾げながら案内された部屋でチェス盤へと向かう。
まずはお手並み拝見。
様子見でコトリと駒を動かす。
それを見てディオも一手進めてきた。

コトリ、コトリと互いに無言で駒を動かし、様子を窺う俺達。

(思ったほど強くないな)

暫くしてからそう思った。
まあ相手はまだ子供同然の若者だ。
こちらが有利なのも当然かもしれない。
そう思ってフッと気を抜いたところで偶然のようにハッとする位置へと駒が動いた。

「どうかされましたか?」

けれどキョトンとした様子を見て我に返る。

(偶然か?)

とは言え油断は禁物と気を引き締め直す。
けれど────。

「なかなかな腕前ですね」
「…わかって言っているのか?」
「勿論。三箇所ほど頑張って仕掛けたんですが、見事に躱されてしまいました」

残念そうに言ってくるが、そんな言葉に俺は惑わされたりはしない。
コイツのコレはそう装っているだけだ。

(コイツは全力で叩き潰す!)

簡単に勝てると一瞬でも考えたのは間違いだった。
偶然を装い、ここぞと言う局面で絶妙の位置に駒がいるから思うように攻め入れない。
しかもそれだけではなく、スルリスルリと俺が仕掛けた罠を掻い潜る様は見事だ。
こんな風に後手に回らされる羽目になるなんてと臍を噛む。

「チェックメイト」

何とか勝ち筋を見つけようと足掻いたが、結果は僅差で俺の負けだった。

(こいつ…!)

「とてもやり甲斐がありました。もう暫くガヴァムに滞在するのなら、また是非遊んでください。お茶の時間にでも来ていただければ歓迎いたしますので」

最早五つも年下とかそんなことはどうでも良かった。
余裕の表情で微笑むコイツに勝ちたい気持ちが沸々と込み上げてくる。

「こんなに血が滾る相手に出会ったのは初めてだ!もう一回やるぞ!」

今度こそ油断はしない。
様子見などせず、最初から攻めてやるとギラつく眼差しで挑んだ。
だがディオは乗り気ではなさそうだ。

「そこまで暇じゃないんですが?」
「遊びじゃなく仕事ならいいのか?」
「そうですね。内容にもよります」

つまり、条件次第でやってやると言いたいらしい。

(生意気な…!)

「わかった。それならお前が勝ったらガヴァムとゴッドハルト、双方に向こう10年戦争は仕掛けないと約束しよう。どうだ?」
「戦争は仕掛けなくても暗殺者は送れますから」

暗に送ってくる気だろうと言われて悔しく思う。
それはその通りだったからだ。
コイツが既にやってきた後だからこそ、『戦争はしてないだろう?』と嘲笑ってやれると思ったのに。

「望みはなんだ?俺の首か?それとも国そのものか?」
「それは別にいりません。ゴッドハルトとガヴァム…後はルーセウスとディアへ個人的手出しをしないで欲しいといったところですね。そちらは?」
「そうだな。お前の首と言いたいところだが、ここでそれを言っても無意味な事くらいはわかる。だから────ヴァレトミュラのレールをうちまで延ばしてもらう、なんていうのはどうだ?」

レトロンに話を持ち込む予定だったが、一番反対しそうなコイツに認めさせるチャンスをここで不意にする程愚かではないつもりだ。
ここは交渉に使うべき場面だろう。

「なるほど?国益に繋がるし、悪くはない条件ということですね」

そういうことならとディオは早速書面で契約書を作ってくれる。
口約束で終わらせないということは、さっき口にしてきた内容は本気で望んでいることだったのだろう。
ちょっと意外だ。
どう見ても情に流されるタイプには思えないんだが…。

「では確認後、サインを」
「わかった」

一応じっくりと目を通して内容を確認する。
特に問題はなさそうだ。

そしてサインをして二局目へと入った。今度はディオが先行だ。
先程の一局でクセはある程度把握したから、それを念頭に置いて攻めてみよう。

コトリ、コトリとまた互いに互いを窺いながら駒を進めていく。
けれどどうしても攻めきれない。

(クソッ!本気で強いな)

弱いように見せかけて罠を仕掛けてくるところに性格の悪さが滲み出る。
まあ俺も似たような事をやっているから人の事は言えないが、向こうは上手く躱していくのに、何度かヒヤリとさせられたから悔しくて、絶対に負けたくない気持ちがどんどん増していった。

「うーん…。リザイン。俺の負けです」

だからそう言ってディオがキングを横に倒したのを見て、思わず呆けてしまう。

「は?」

盤面はまだチェックメイトまで進んではいない。
手はまだありそうに見えるのに、投了?本当に?

「まだいけたんじゃないか?」

もしかして時間制限の関係で投了したんじゃないかと思い、疑わしげに尋ねたら、そうじゃないと返された。

「相手の力量が劣っていれば手はありましたけど、例えばここで俺がこう置いたら、貴方は間違いなくここに置くでしょう?それをこう受けたら今度はこっち。それでここの駒が良い仕事をしてくるから…………ほらこれでチェックメイト。俺の負けでしょう?」
「確かに」

ディオは俺の手を完全に把握していて驚いた。

「二手前でこっちに置いておけば俺の勝ちだったんですけど、読み違えました」

残念そうにするディオは年相応に見える。

「ディオ。じゃあ本当に俺の勝ちでいいんだな?」
「契約書まで用意したのに、今更なしにはしませんよ。悔しいですが、契約通りヴァレトミュラをバロン国まで通すと約束します」

そう言ってディオは次の三カ国会議で提案すると確約してくれた。
でもなんだろう?
なんだかモヤモヤする。
勝ったはずなのに、負けた気になるのはどうしてなんだ?

「…ディオ」
「はい?」
「明日もできるか?」
「明日、ですか?」
「そうだ。お前だってさっきの条件を俺に呑ませたいんじゃないか?」
「まあ…そうですね。昼食後なら大丈夫だと」
「わかった。じゃあまた明日昼を食べたら来る。逃げるなよ?」
「気に入ったんですか?」
「勘違いするな。俺は投了じゃなく、ちゃんと自分の口でチェックメイトと言ってやりたかっただけだ」
「そうですか」

そうだ。
投了なんて認めない。
俺がこの手で追い詰めとどめを刺してやりたかった。
ただそれだけだ。

「首を洗って待っていろ。明日はきっちり勝ってやる」
「そうですね。楽しみにお待ちしています」

ニコリと笑い、ディオは暗部に声をかけ、約束通り俺を宿へと送らせた。

こうしてガヴァムに滞在する間、俺は毎日城へと赴き、勝ったり負けたりしながら国益になる条件を提示し続けたのだった。


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