王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第四章 思わぬ誤解とライバル出現に焦る俺

69.遭遇 Side.ディオ

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街を歩きながら民達の生活に不便はないかと見て回る。
買い食いするのも品質チェックだ。
質の悪い固い肉を仕方なく食べていないか?
食品はじめ雑貨や衣類、魔道具に生活道具などなど、物価は上がり過ぎていないか?
見るべきところは沢山ある。
民の表情を確認するのも忘れない。

問題が多い国は民の元気も無くなるし、表情も暗くなると聞く。
だからしっかりチェックをしておかないと。

そう思いながら歩いていると、スッと暗部が近づいてきて小さな声で『バロン国の新王があそこにいるようです』と告げてきた。

(バロン国の新王?)

もしかして、第一王子だったパーシバルだろうか?
確か父王が亡くなって、こちらと然程変わらない時期に慌ただしく即位したはず。

「どこだ?」
「あの茶色のローブを着た男です」

そちらを見ると如何にもお忍びと言った感じの眼鏡をかけた男が一人、ブラブラと歩いては街人と話している。
情報収集だろうか?
その周辺には、街人に紛れて護衛らしき者達もチラホラいる様子。
恐らく本人に間違いないだろう。

どうすべきか?
いつもの自分ならまず間違いなく暗部に見張らせて、後日詳細な報告を待っただろう。
でも何故か、今日は疲れていたのもあってそれを面倒だと思ってしまった。
たまには自分らしくない行動をしたっていいんじゃないだろうか?

そう思った時には彼の方に向かってスタスタ歩き出していた。
ギョッとしたのは護衛達だ。
隙なく暗部に指示を出すだろうと思っていた主人が、予想外の行動に出たのだから。
慌ててこちらへとついて来た。

果たして向こうは自分の顔を知っているだろうか?

「初めまして」
「?」

どうやらわからなかったようだ。
訝しげにこちらを見てくる。
ただ、護衛をつけていることには気づいたようで、すぐに警戒したようにこちらを見てきた。

「誰だ?」
「ガヴァムへようこそ。悪巧みの下見ですか?それとも戴冠式の日の現場検証にわざわざ?」

にこやかに挑発したら素早い剣戟が飛んできた。
それを右手に持った短剣で受け止め、左手で死角から頸動脈へと斬りあげる。

「くっ…!」

間一髪でバックステップで躱す男へと素早く追撃をかける。
キンキンッと受け止めながら、男は焦ったように言い放った。

「お前っ、暗殺者か?!」
「いえ。国王本人です。そもそも先に剣で斬りかかってきたのは貴方の方でしょう?ちゃんと寸止めはするので、ちょっとストレス発散に付き合ってください」
「絶対に嘘だろ?!国王のフリした暗殺者だろ?!それか腕の立つ影武者か?!」
「影武者?」

初めて聞く言葉だ。
どういう意味なんだろう?

(まあいいか)

護衛達がある程度民達を近寄らせないように動いてくれたから、ちょっとだけ打ち合いをさせてもらおう。




「さて、お遊びはこの辺にして。ご用件は?」

目の前には尻餅をついて荒い呼吸を落ち着かせているバロン国国王。
そんな彼にニコリと笑んで短剣を突きつける。
暫く身体を動かしたらスッキリしたし、ここは穏便にいこう。

「クソッ。誰だ。新王ディオが生真面目で優しく穏やかだって言った奴は。とんでもなくヤバイ奴じゃないか」
「うーん。ちょっと今ストレスが溜まり過ぎてて、八つ当たりに丁度良さそうだったからつい」
「ついってなんだ?!お前絶対殺気なんて放たず、笑顔で誰でも殺せるだろ?!すれ違ったら誰かが死んでたとか、十分あり得そうだぞ?!」

ギャンギャン責められるけど、熱くなられればなられるほど、こっちの心は凪いでいくから助かる。

「まあできなくはないですけど、それはまだやったことはないですよ?」

ニコリと答えたら思い切り睨まれた。

パーシバルは歳の頃はルーセウスより二つ三つ年上に見える、如何にも頭脳派寄りのクールな印象を受ける男だ。
でもちゃんと鍛えている剣筋をしていたから、見た目で判断すると痛い目に遭わされると見た。

濃紺の髪に紅玉のような瞳色という珍しい色合いは綺麗だが、俺としてはルーセウスが一番カッコいいと思っているから、特にそれ以外に感想はない。

「はぁ…。では改めて挨拶しよう。バロン国国王パーシバル=シュトレーゼ=バローネリアだ。熱烈な歓迎痛みいる」

呼吸が落ち着いたところで警戒しつつ立ち上がり、相手が鷹揚に挨拶をしてくる。

「ご丁寧にありがとうございます。ガヴァム国国王ディオ=ハイルング=ヴァドラシアです。思わぬ場所でバロン国の新王にお目にかかれて光栄です」

お互いに笑顔だが、双方目は笑っていない。
恐らく彼は自分と同類だ。
報復は確実に。
隙を狙って喰らいつくタイプだろう。

「それで?今回の我が国への訪問理由は?」
「観光だ」
「観光…ですか」

そんな事あり得ないだろうに。

「まあ今はそういう事にしておきましょう。観光と言うなら時間はあるんですよね?折角こうして会えたので、この後ご一緒にチェスでも如何ですか?」
「それはこちらを正式に城に招くと言うことか?」
「ただの私的なお誘いですよ。城に滞在しろとは言いません。私も忙しい身の上なのでもてなしも十分にはできないでしょうし、来ていただけるなら後で宿まで安全に送り届けますよ?」

その言葉に彼は暫し考え込み、結果、警戒しつつもその話を受けた。
まあ敵を知る為に受けるだろうと思ったから、予想通りだ。
俺の方も彼が素直に口を割るとは思っていないから誘ったのだし、探り合いと言った意味合いが強い。

「ではどうぞ」

互いの護衛達が警戒し合う中、俺達は揃って城へと歩き出した。




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