王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第三章 戴冠式は波乱含み

63.全てはディア次第 Side.ディオ

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ルーセウスに沢山愛してもらった翌朝、ディアの声で目を覚ますと首周りがキスマークで凄いことになっていた。
流石にちょっとこれは困る。
ルーセウスは謝ってくれたけど、抱き潰してと言ったのは自分だからこれは俺の失態だろう。

とは言え各国の賓客への挨拶もあるし、早急に隠さないとと思い、ディアにコンシーラーを借りることにした。
完璧とは言わないけど、少しは隠せるんじゃないだろうか?

そう考えていると、バサッとルーセウスから紙の束を渡された。
どうやらシグが夜にルーセウスへと渡してきたらしい。
恐らく王配として認めた故の挨拶を兼ねていたんだろう。
そう思いながらサッと目を通す。

ニッヒガングの王弟ヴィレは戦争を企てていたのもそうだが、それに伴いルーセウス暗殺を真っ先に企んでいたから即始末させた。
それに対して俺は後悔は一切ない。
なんなら俺の手で始末してやりたかったくらいだ。
逆恨みするなんてもってのほかだ。

そう思ったから、ツンナガールで暗部へと指示を出した。

「外務大臣が匿ってる輩は、密かに毒を使って始末しろ」
『お任せを』
「その後も監視だけは怠らないように」
『はっ!』

ニッヒガングの外務大臣は自分は何も知らないと主張し、残党など匿ってはいないとも言っているらしい。
それならそれで好都合。
『いないことになっている』のなら本当にいなくなればいいだけの話だ。
いる場所がわかっているなら食事にそっと毒を混ぜるだけで事足りるだろう。
いないと言った手前、騒ぎにもできず外務大臣は口を噤まざるを得なくなるし、そのまま大人しく国に帰るはず。

バロンに関しては、残党は全て捕らえて牢へと入れることができたようだ。
彼らは相応の罰を与えた上で国に帰す予定だが、それこそ逆恨みされる可能性は高い。
引き続き警戒はしておこうと思う。

ブラン皇子の件はロキ父様の介入がある可能性があると考えていた。
レオナルド皇王は昔からロキ父様に泣きつく事が多かったからだ。
面倒だと突き放す確率と、仕方がないと手を打つ確率は半々といったところか。

(まあでも内容も酷いし、廃太子だけは譲れないかな)

監禁して孕ませてでも結婚してやるという強い執着心が感じられる、準備周到さが見て取れる内容だ。

これまでミラルカとは友好的に付き合ってきたが、まかり間違ってブラン皇子に王位につかれたら、こっちが迷惑をかけられる確率が格段にアップする気がして思わず眉間に皺を寄せてしまう。

それは流石に遠慮したいし、そうなってから国同士で揉めるより、ここでばっさりブラン皇子だけを切り捨てたいというのが本音だった。

(とは言え、ディアが一番の被害者だしな)

やっぱり意見は聞いてあげたい。
そもそもどこまでディアに情報がいっているだろう?
傷つけないよう敢えて報告されていない可能性は非常に高い。
言う言わないは俺の判断でと考えてシグが報告書を渡してきた可能性は十分にあった。

「……これ、ディアは知ってるのかな?」

だから思わず口にしてしまったのだけど、それを聞いてルーセウスが尋ねてくる。

「ブラン皇子の件か?」
「そう。昨日の件と合わせて、下手したら半殺しにしかねないなと思って」

割とディアは武闘派だ。
自分の手でケリをつけたいと言い出す可能性もなくはない。

「ディオ的にはどうする気なんだ?」
「え?去勢…かな?」

個人的にはそうしてやりたいからそう口にした。
王としては廃太子判断でも、兄の立場的に言えばそちらの方が報復にいいんじゃないかと思ってしまう。

「まあそこまでしたらミラルカから恨まれそうだし、レオナルド陛下の顔を立てて、廃太子で手打ちかな。ローズマリー皇女を皇太女に指名してもらうことができればもうこっちにゴリ押しもしてこないだろうし」
「なるほど」

一先ずさっき考えた俺の結論を口にすると、ルーセウスはどこかホッとした表情で俺を見てきた。
もしかして本気に取られてしまったんだろうか?

(うーん…)

それならちょっと真面目に考えてみようか。
万が一、ロキ父様が絡んで来なかった場合。且つ、ディアが廃太子だけでは納得しなかった場合。どう判断を下すか?

(無難なのは強制労働か絶対に逃げられない幽閉、かな?)

皇族だし、ドMな事も考えると体罰よりも精神的にクルものの方がいい気がする。

「ディアがもしその処断は甘いって言うなら、他にも候補はあるし、一応聞いては見るけど」
「へぇ。どんな?」
「強制労働として、うちの変態騎士達の指導に三年間従事。ルーセウスには変態化しないけど、あの騎士達は本当に懲りないから十分罰になるんじゃないかって思うんだ」
「さっきより随分優しい罰だな」
「いや。これは正直泣きたくなるくらい嫌な罰だ。俺なら一日で逃げ出したくなるから、三年なんて言われたら絶望しかない」
「そ、そうか?」

ルーセウスは平気そうだけど、多分ブラン皇子なら一週間で逃げ出そうとするに違いない。

「後は一番厳しい暗部育成施設に強制的に放り込むとか。あそこはスキルを得るまで外には出れないし訓練も凄く厳しいから、ある種幽閉と強制労働を兼ねた形の罰になると思う」
「え?!すっごい楽しそうだな?!ただで使えるスキルを得られるなんて最高じゃないか?!」

顔を輝かせて自分もやってみたいと好奇心を弾けさせているルーセウスが眩し過ぎる。

「勿体ないな。折角の修行の場を有効活用しないなんて」
「ルーセウスが規格外なだけだから、一緒にしたら可哀想だ」
「そうか?」

罰が罰じゃなくなるところがすごいと思う。
ルーセウスは本当に規格外だ。
そう思ったところで、少しだけ興味が湧いた。
ルーセウスならどんな罰を与えるんだろう?

「逆にルーセウスが考える相応の罰は?」
「んー…やっぱり二度と悪さができないようにどこかに幽閉するか、ディア王女が受けた恐怖を追体験させるか、その辺りじゃないか?」
「そっちの方が罰が軽い気がするけどな。ただの幽閉だと休暇を与えたようなものだし、追体験はアリかもしれないけど、ブラン皇子はちょっとMっ気があるから、下手をしたらご褒美になりかねないと思う。一番有効そうなのはロキ父様の調教だけど、カリン父様との新生活に浮かれてる今話を持ち込んでも、片手間に終わらせられるか、全く聞いてもらえない可能性の方が高いと思う」
「そうか」

正直言って意外だった。
ただの幽閉だけだと、脱出し放題じゃないかと思ってしまうのは俺だけだろうか?
暫くのんびり過ごして、休暇を満喫し終えたら脱出して好きなところで自由に暮らす。
お金だっていくらでも稼ぎようはあるし、それ即ち、ただのご褒美だと思う。

追体験も、人によっては有効な罰になりそうだけど、相手はブラン皇子だ。
Mっ気がある相手に有効かと問われれば微妙としか言えない罰だ。
ロキ父様の調教ならいけるかもしれないけど、これもロキ父様がやる気になって自主的にやってくれないと無理だ。
あの人はある意味逃げの天才だから。
捕まえられるのは護衛騎士のリヒターだけだろう。

もうこれでこの話も終わりかなと思っていたら、ルーセウスが思いもよらない事を言い出した。

「あ、そうだ。それならうちの父に相談してみたらどうだ?詳細を伏せて聞いたら案外無難な落とし所が聞けるかも」
「なるほど」

これは正直目から鱗の提案だった。
この柔軟な考え方はルーセウスならではだと思う。

しかもゴッドハルトの罰だけじゃなく、その近隣諸国の罰まで教えてもらえた。
それを聞いて改めて自分の視野の狭さを実感する。
ルーセウスのこうして俺の世界を広げてくれるところがすごく有難いと思う。

ガヴァムの法ではどうなっているのかも聞かれたけど、ガヴァムはこの辺りが杜撰だから、もう少しちゃんと考えていかないといけない。
カリン父様が議会を作ってくれてからはだいぶ変わったと聞くけれど、基本的に王の意見が通る形だ。
まともな王が上にいるなら別だが、愚王がトップに収まればたちまち国は傾いていくだろう。

これにはルーセウスも驚いていたし、そういったことからもこれからは法の整備は必須だと考えている。
だからこそ、新たな視点がもらえてルーセウスには感謝の気持ちでいっぱいだった。

「取り敢えずディアの意思を尊重して決めようか」

すっかり話が逸れてしまったが、肝心なのはディアの気持ちだと言って話をまとめることに。

どうせこの後ブラン皇子のところへディアと行くのだ。
ロキ父様も多分そのタイミングで来るはず。
どうなるかはわからないが、結論を出すのはその後で十分だろう。

そうこうしているうちにディアが戻ってきた。
報告書を渡し、読んでもらっている間にキスマークを隠すべくコンシーラー片手に鏡へと向かう。

(結構ついてるな)

でもそれはそれだけルーセウスに愛された印でもある。

「ディオ。後ろまでは見えないだろう?俺がやろうか?」

嬉しそうに言ってくるルーセウスにちょっと気恥ずかしくなって、そっと視線を外す。

「ディオ?」
「…つけ過ぎ」
「ゴメン。今日から隠さなくていいんだって思ったら嬉しくなって、暴走した」

愛おしそうに見つめられながら言われたら文句も言えない。

「ほら。俺が責任持って隠すから、貸してみろ」

いそいそとコンシーラーを手に取り、隠していくルーセウス。
そんなルーセウスが好き過ぎる。

でもそのタイミングでディアが報告書を読み終わり、そんなルーセウスを苦々しい表情で見てくる。
まあ…好きになった後にこれを見せられたらそんな表情にもなることだろう。
でも譲る気はないし、敢えてスルーさせてもらう。
だって俺にはどうしてやることもできないから。

諦めるもそのまま振り向かせるべく努力するも、全てはディア次第。
俺だってとられないよう頑張らないといけないし、そこを気遣うほどお人好しではないつもりだ。

そして連れ立って歩きながらブラン皇子が隔離されているという貴賓牢へと向かう。
そこは鉄格子ははまっているが、中は清潔感のあるごく普通の部屋だ。

(まあ見た目だけだけど)

実はベッドはひっくり返せる仕様になっていて、スイッチ一つで電気がビリビリ通る仕様だし、あっちもこっちも裏の者達が実験的に面白がって色々仕込んであるから、うっかり触ると危険な部屋と言える。

(知らない方がいいことってあるよな)

万が一にでもブラン皇子が反抗的だったら拷問官を呼ぼうと思いながら、何食わぬ顔で部屋へと入る。

そして────この時はまだ、ディアがブラン皇子に言った言葉に対してルーセウスが思いの外強く反応し、牽制しつつディアの目を自分の方に向けさせるべく動き出そうとするなんて、全く思いもしていなかったのだった。


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