王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第三章 戴冠式は波乱含み

62.的確なアドバイス Side.ディア王女

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朝起きて、昨日のは気の迷いだったはずと改めて思いながらディオの部屋へとやってくる。
どうせ二人仲良くベッドにいるだろうし、そんな姿を見れば自分も頭が冷えるだろうと思って部屋に飛び込んだ。
でも…。

ベッドの上で身を起こし、しどけない姿を見せるディオはいつも以上に色気が凄まじく、その原因となっているのが首周りのキスマークの数だった。

(どれだけ貪られたのよ?!)

否応なく想像の翼を広げさせるその姿に、ルーセウス王子の夜が凄いんだと改めて思い知らされる。

(え?私、初夜でそれを堪能できるの、よね?)

そう考えただけでちょっとどころではない悦びが湧き上がって、同時にディオに対する後ろめたさに襲われた。
結婚条件が『大満足の初夜』なんだから別に気にする必要はないはずだけど、思いがけず恋に落ちかけてしまっているから罪悪感が半端ないのだ。

(ごめんなさい、ディオ。でも期待せずにはいられないの…!取る気は全くないけど、期待してしまう気持ちだけは許してちょうだい!)

そう思いながら、急いでコンシーラーを部屋へと取りに帰る。
とは言えどうせ暗部への指示出しなんかもあるだろうし、ちょっと深呼吸をして落ち着こう。
平常心が大切だ。

そしてディオの部屋へと戻ると、一際眩しく見えるルーセウス王子がいて、慌ててディオへと目を向けた。
でももうその表情が一目で何を言いたいのかわかるほど、私へと告げている。

『ルーセウスは俺のだから、惚れても今更あげないよ?』と。

取り敢えず怒らせないようにだけは気をつけよう。
ディオは私を妹として大事にはしてくれているけど、多分ルーセウス王子と天秤にかければ私よりルーセウス王子を選ぶ。
ロクサーヌの時も私が親しくしてたら嫉妬されたし、ここは距離感を間違えないように気をつけなければ。

「ディア。もしかしたら暗部から既に報告がいってるかもしれないけど、一先ずこの報告書に目を通してくれないか?ブラン皇子と話す前に、ちゃんと把握しておくべき内容だと思うんだ」

そう言いながらバサッと報告書を渡されたから、コンシーラーでディオがキスマークを隠している間に一通り目を通す。

(ちょっと?!聞いてないわよ?!)

書いてある内容はあまりに酷いもので、私の怒りに火を注ぐには十分なものだった。

(あのクソ皇子!!変態にも程があるわ!)

そう思ってキッと顔を上げたら、ディオが鏡で見ても把握できない所にもつけてしまったからとイソイソとルーセウス王子が嬉しそうにコンシーラー片手にキスマークを隠してる姿が目に入った。
イチャつくのもいい加減にしてほしい。

でも、以前なら砂を吐きそうだとうんざりしたはずのその光景に、呆れるよりもモヤッとしている自分に気づいて驚いた。

「ディオ。読んだわよ」
「うん。それでディアはどうしたい?」
「ディオの判断は?」
「廃太子が妥当かなと思ってるけど、それじゃあ軽過ぎると言うなら変態騎士達の指導を三年、もしくは一番厳しい暗部養成施設に放り込む実質幽閉と強制労働的な罰でどうかと思ってる」

確かに廃太子だけだと軽過ぎる気はする。
でも既に詳細を聞き出すためにロキお父様の尋問とお仕置きも受けていると昨日聞いたから、トータルで言えば悪くない判断かもしれない。
良くも悪くもロキお父様のお仕置き加減は容赦なく絶妙だから、文句のつけようもないはずだ。

「そうね。私としては廃太子で構わないわ。但し、個人的には腹が立ってるし、報復だけはさせてほしいわね」
「自分の手で半殺しにしてやりたいってこと?それとも二度と不埒な考えができないよう去勢するってこと?」

サラリと小首を傾げて言ってくるところが怖い。
ディオは一見真面目で誠実だから勘違いされやすいけど、割と判断が裏に準拠してるところがあるから油断ならない。

(そう言えば昨日私を犯そうとしてたクズのも刻んでいたわね)

それこそ躊躇なんて毛先ほどもなかったくらいの容赦のなさだった。
ここはちゃんと止めておこう。

「そこまでするつもりはないわ。ちょっと往復ビンタをしてから踏んでやれれば十分よ」
「そっか。それなら良かった」

本当にそう思ってくれていたらいいんだけど。

正直こんなディオを手の平で転がせるルーセウス王子は実は凄いんじゃないだろうか?
今更ながら評価を上げてしまう。

(ただの脳筋呼ばわりして申し訳なかったわね)

「じゃあ行きましょうか」
「ああ」

三人揃って部屋を出て、先導するディオの隣で愛おしそうに見つめながらエスコートするルーセウス王子。
もう隠さなくて良くなったからか、その表情は凄く嬉しそうだ。

愛されてるディオが羨ましい。

(でもこれも、一方通行じゃないからこそそう思えるんでしょうね)

改めてブラン皇子を思い返してそう思ってしまう。
彼は私を愛していると言うけれど、私が応えなければそれはただの押し付けでしかない。
そしてそんな独りよがりの愛の押し付けをする姿を見て知っているからこそ、私はルーセウス王子に気持ちを押し付ける気にはなれないのだ。




「ディア王女!無事で良かった!」

私の顔を見た第一声がそれで、心底心配したと言わんばかりの表情を向けてくるブラン皇子。
たとえば…何もやらかしてなくてこの姿を見せられていれば、また違ったのかもしれない。

「まさかこんな事になるなんて思ってなかったんだ!信じてほしい」

肩を落として反省する姿も、まるで本当に悔いているように見える。
でも────報告書に書かれてあった内容を知っているだけに、許してあげようかなんてこれっぽっちも思えなかった。

「ブラン皇子。貴方、ご自分がなさった事、ちゃんとわかっているのかしら?」

冷え冷えとした声が口から飛び出すけれど、それを受けて彼は的外れなことを口にしてくる。

「攫おうとした事は反省しているし、武器を取り上げるためとは言えガウン一枚で護衛も置かず放置したのは本当に悪かった!ちゃんと責任は取る。だから安心して嫁いできて…ッグフっ?!」

平手打ちにするつもりがつい拳で殴りつけてしまったわ。
でもこれはブラン皇子が悪いと思う。
なんで私がこんなふざけた男のところに嫁がないといけないのか。
寝ぼけるのも大概にしてもらいたい。

「誰が貴方なんかに嫁ぐものですか。貴方に嫁ぐくらいなら兄妹婚制度でも利用してディオの側妃の一人に収まる方が百倍マシよ!」

ルーセウス王子の存在で諦めないなら、更に上の相手を提示するまで。
正直ガヴァムの変態文化から離れたい私からすればあり得ない選択肢なのだけど、それを引き合いとして口にしたくなるくらいには腹が立ったのだ。
そもそもディオにもその気は一切ないから、そんな話は成立するはずもないのだけれど。

「な?!俺よりディオ陛下を選ぶだって?!で、でも確かにディオ陛下と比べられたら俺に勝てる要素がない…。い、嫌だ!頼む!それだけはやめてくれ!ルーセウス王子になら勝ち目はあるけど、ディオ陛下と比べられたら困る!お願いだから考え直してほしい!」

どうやら身の程は弁えているらしい。

(それにしてもルーセウス王子、随分舐められてるわね。結構ハイスペックなのに、残念過ぎるわ)

やっぱり一見脳筋な印象がダメなのかしら?
イメージアップは必要かもとちょっと考えてしまう。

「ディア?」

不満げなディオの声が聞こえてくるけど、今は無視だ。
言いたいことはわかる。
きっとどうしてルーセウス王子より自分が上に見られてるんだと不満なんでしょうね。
ルーセウス王子にベタ惚れなだけあってとっても不服そう。

「え?ディオはあげないぞ?」

そしてルーセウス王子も黙っててほしい。

(誰も本気で言ってないわよ!)

わざわざ腕の中に隠さなくても盗ったりしないのに、失礼な話だ。

「兎に角!貴方にだけは絶対に嫁ぎませんから!」

兎にも角にもブラン皇子さえ諦めさせられればいいだけの話なのに。

「そんな!責任を取らせてほしい!」
「絶対にお断りです!何が悲しくて監禁拘束孕ませコースまっしぐらにならないといけないの?!ふざけないで!」

ゲシッと足で蹴ってそのまま踏みつけ、怒りのままにグリグリと踏んでやる。

「ああっ!これこれ!ディア王女。もっと怒りをぶつけてくれ!」

その嬉しそうな表情と声にゾワゾワっとして、もっと強めに踏んだけど、効果は全くない。
寧ろより一層悦ばせてしまった。
悔しい。

(この変態ぃいっ!)

イライラしていたら見かねたようにルーセウス王子が口を挟んできた。

「ディア王女。踏むところを間違えてるぞ?」
「え?まさか急所を踏めとでも?」

ロキお父様が変態相手に股間を踏みながら嬲っていたのを見たことはあるけど、あれもブラン皇子を更に悦ばせるだけなんじゃないだろうか?
そう思って訝しげに尋ねると、違うと言われた。

「急所は急所でも、踏むならここだろ?」

ルーセウス王子が鳩尾付近を指差し、言ってくる。

「後、爪先で徐々に体重を掛けるんじゃなくて、ディア王女の場合、靴は脱いで、踵に力を乗せて真っ直ぐこう振り下ろすようにゲシゲシ踏むんだ。ほら、やってみろ」
「え?ええ」

ルーセウス王子はサボってる兵士にやったことがあるらしく、そんな風にアドバイスをくれた。
そういう事ならと思い、ヒールを脱いでそのまま思い切り踏んでみる。

ドスッ!

「ぐふぅうううっ?!」

(す、すごいわ!)

初めて真面にダメージが入れられた気がする。
今のブラン皇子はさっきまでの嬉しそうな表情から一転。やめてくれと言わんばかりに涙目になっている。

「う、うぅっ、わ、悪かった、ちゃんと反省するっ、から、許してくださいっ」

何度か踏んだらグスグスと泣き出し、やっと反省が見られたので凄くスッキリした。

「はぁ…スッキリ。なんだかとっても気が済んだわ」
「それなら良かった」

ニコリと笑いルーセウス王子は付け足すように言ってくる。

「これでディオの側妃云々はもう言わないよな?」
「……私は貴方の側妃予定なんですが?」

何故ディオを取り合う話になっているのか甚だ疑問だ。
私が気になってるのはディオじゃなくルーセウス王子なんだから、笑顔で牽制してくるのはやめてほしい。
ちょっと考えればさっきの話はブラン皇子への牽制だということくらい、分かりそうなものなのだけど。

(この鈍感王子!)

私の気持ちも知らずに明後日方向に嫉妬するルーセウス王子に溜め息を吐きたくなる。
ディオはそんなルーセウス王子を見て嬉しそうだし、本当に羨ましい。

そしてちょうどそのタイミングでドアがノックされ、ロキお父様とレオナルド皇王が顔を出した。


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