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第三章 戴冠式は波乱含み
59.ルカへの説明
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パーティー会場に戻ってきたら普通に変わらない光景でちょっとびっくりした。
よっぽどカリン陛下達が上手く隠してくれたんだろうか?
そう思って感心していたら、ルカがこちらへとやってきた。
その表情はどこへ行っていたんだと言わんばかり。
「王配になった詳しい話を聞こうと思ってたのに、気づいたらいなくなってるし、不穏な話も小耳に挟んだから心配した」
周囲に聞こえないよう小声で言われる。
どうやら暗部から情報は得ていたらしい。
流石にブルーグレイの暗部は優秀だ。
「ルーセウス。こっちは大丈夫だから、行ってきていいよ」
空気を読んだディオがそう言ってくれるが、できれば離れたくない。
「ルーセウス王子。私が一時的に代わりますわ」
「ヴィオレッタ王女」
「でもできればお早めにお戻りくださいね?私では貴方の代わりにはなれませんから」
ディオの隣を奪うつもりはないと笑顔で言ってくれるヴィオレッタ王女は本当にできた人だと思う。
「すぐ戻る」
「お待ちしております」
そう言ってルカと二人その場を離れて、人けのない場所へと移動する。
「それで?ブラン皇子がロキ陛下にお仕置きされた話やらディア王女が行方不明になったって話はどっちも解決したのか?」
「あ?ああ。問題ない」
「そうか。じゃあ一番の問題は、お前が俺に黙っていつの間にか結婚してた話だな」
どうやら前者の二件に関しては解決済みなら触れる気はないらしい。
でも結婚についてはちゃんと説明しろと圧をかけられてしまう。
「その…実はな?」
で、最初から話したらメチャクチャ驚かれた。
「それって初めて寝た相手に夢中になる童貞男の典型的パターンじゃないか」
「なっ?!」
「年下とは言っても相手はガヴァムの王太子。手練手管は娼婦並みだろうし、童貞だったお前はチョロかっただろうな」
その言葉に怒りが湧く。
「ルカ?殺されたいのか?」
「そ、そんなに怒るなよ。事実だろう?」
「俺が!失恋で落ち込んでたディオに付け込んで処女をもらったんだ!責められるとしたらそれは俺の方だ!」
「いや、絶対気にしてなかったって。寧ろ『一時的にでも慰められてラッキー』くらいのノリだったと思うぞ?」
確かにディオは最初の頃は俺を好きでもなんでもなかったし、会ったら寝るセフレみたいに思ってたっぽいけど、いくらなんでも娼婦と一緒の扱いは酷いだろう。
「ディオは俺としか寝ないし、他の男も知らないんだ。娼婦と一緒にするな!」
「悪かった。そこは謝るから取り敢えず落ち着け」
どうどうと馬を諌めるように言われてちっとも怒りは収まらない。
「それで?責められるべきは自分だって言うからには、惚れ込んで押せ押せで迫っても振られ続けたから、騙して結婚したって認識でいいのか?」
「やっぱり死にたいようだな?」
思わず剣に手を掛けたら、ルカがニッと笑って剣を抜いた。
「殺気立った本気のルーセウスとやれるなんて、最高だな」
どうやら狙って煽られたらしい。
そして騒ぎにならないよう人払いをして、二人で剣を合わせる。
「俺は、本気でディオと愛し合ってる!いくらルカでも、そこを茶化すのは許さない!」
「くっ、じゃあ、どうしてディア王女と婚約もしてるんだよ?!都合のいいように利用してるだけじゃないのか?!」
「それはディア王女の方から話を持ち込まれたんだ!俺から頼んだわけじゃない!」
ガガガッと激しく打ち合いながら言い合いが続く。
「初めから条件ありきの契約だ!文句を言われる筋合いはない!」
そして僅かな隙をつき袈裟斬りにすると、それを避けるようにルカが後ろへと跳んだ。
「契約をディア王女の方から持ち込まれた?お前から言い出したわけじゃなく?じゃあちゃんと話し合って決めたってことか?」
「そうだ!」
「ヴィオレッタ王女も?」
「勿論だ!」
二人は別に俺達のことを恋愛対象として見てはいない。
最初から二人の仲を応援すると言ってくれていたし、それは結婚後も変わらないだろう。
だから断言した。
俺達に後ろ暗いことなんて何一つない。
「…そうか」
そしてルカは剣を下ろし、気は済んだとばかりに鞘へと戻す。
「疑って悪かった。ちょっと私情が入り過ぎたようだ。すまなかった」
どうやらルカは俺がディオに夢中になり過ぎて利己的になり、セドリック王子のようになるんじゃないかと思ってしまったらしい。
ルカの母親はルカを産んだ後は正妃の仕事はしているものの、愛されることもないままずっと放置されている。
きっとそれは子供心に複雑なものを抱かせたんだろう。
「こんなことを俺が言うのは余計なお世話だと思うが…たとえ契約婚だろうとディア王女を妃として迎えるのなら、ちゃんと大事にしてやって欲しい。母はいつも自由にのびのび暮らせて快適だって笑ってるけど、父に会う時はいつも震えてるんだ。あんなのは正常な夫婦とは言えないと思ってる」
ルカの目には強い意思が宿っていて、きっとルカは妃を迎えたら大事にするんだろうなと感じさせられた。
「ルカの気持ちはわかった。俺が愛してるのはディオだけだけど、ちゃんとディア王女も大事にすると誓う。それでいいか?」
言われるまでもなくディア王女を冷遇する気は一切なかったからそう答えたら、満足そうに笑って『そうしてくれ』と言われた。
「それにしても、まさかお前に先を越されるとはな」
溜め息混じりにそんな風に言われて首を傾げる。
ディオとの結婚は確かに寝耳に水だっただろうが、ディア王女との結婚は把握していたはず。
ルカだって然程時を置かず結婚しそうなものだが…。
「確かお前もジーナ王女といい感じだって言ってなかったか?」
「んー…。一緒にいて楽しいのは楽しいけど、正直それが恋かと言われるとよくわからない」
俺みたいな何がなんでも欲しいってくらいの熱量はまだ持っていないことに気づいたらしい。
でもディオだって最初から俺に惚れてたわけじゃないし、こういうのは人それぞれじゃないかと思う。
「俺は育む愛だってあると思うぞ?」
恋は落ちるものと言うけど、愛は育むものだと思う。
そう思ってそのまま口にしたら『おかしい!凄くいい事言ってるのに、お前に似合わなさ過ぎる!』って大笑いされた。
失礼だな。
「でもまあ、ありがとな。一応俺も前向きに結婚を考えてみる」
アルフレッドへの気持ちに整理もつけられたのか、案外あっさりそう言ってくるルカ。
これなら結婚もそう遠くないかもしれない。
そう思ったが────。
「そう言えば今日はやたらとアンシャンテの王子に睨まれたんだよな」
「アンシャンテの王子?」
「そう。どうやらジーナ王女のことが好きみたいで、俺がジーナ王女と仲良く話していたからライバル視されたのかも」
「へぇ。お前をライバル視してくるなんて、中々気骨がある王子だな」
「思いっきり小犬っぽかったけどな」
どうやらルカから見れば小犬が吠えてる程度の認識らしい。
歯牙にも掛けていないところに、大国ブルーグレイの王太子特有の傲慢さが見て取れる。
「虐めてやるなよ?」
「心外だな。よっぽど噛みついてこない限り、虐める気はないぞ?」
「どうだか」
さっき俺を思い切り煽ってきたくせに、どの口が言うのか。
いい奴ではあるが、あのセドリック王子の息子なだけあってルカはちょっと癖がある。
そこをアンシャンテの王子が変に刺激しなければいいんだが…。
(まあアンシャンテはブルーグレイから離れた国だし、そんなに接点もないだろうから大丈夫だろう)
「で?実際のところ、ディオ王子、いやもう陛下か。ディオ陛下は床上手なのか?」
「惚気られたいのか?聞きたいならいくらでも聞かせてやるぞ?ディオの可愛さなら俺はいくらでも語れる」
「…………いや、いい。そもそも愚問だったな。忘れてくれ」
「懸命な判断だな」
「逆にお前が満足させてやれてるのかって方が気になる。下手くそとか言われないのか?」
「言われないな」
「嘘くさい。剣にしか興味なかったお前が、百戦錬磨っぽいディオ陛下を満足させられるとは全く思えないけどな」
「そこはもうガヴァムの閨指導本を全巻覚えるほど読み込んだ上で実践を重ねたからな。自信を持って言える。ディオは俺にしか満足させられない!」
自信満々に言ったらドン引きされた。
なんて奴だ。自分から話を振ってきたくせに。
「色々ツッコミたいけど、取り敢えず今度その本を貸せ。それを見て判断してやる」
「別にいいけど」
見たいなら貸すのは別に構わないしと俺はあっさり了承し、じゃあまた帰国後に会おうと約束して別れた。
(結構時間がかかったな)
気づけば小一時間が過ぎていて、慌ててディオの元へと戻る。
パーティー会場で人に囲まれながらヴィオレッタ王女と一緒に笑顔で対応しているディオ。
でもその笑顔は俺に向けてくるものとは全然違っていて、社交用のものだとすぐにわかった。
そつなく公務をこなすディオを少し遠く感じて、なんだかモヤッとしてしまう。
(俺が王配なのに)
ヴィオレッタ王女は結婚したらずっとディオの隣に居られるのにと考えると、益々モヤモヤしてたまらなかった。
けれどそこで俺はふと思う。
(王太子と王配の立場は王配の方が高いよな?)
ゴッドハルトは父がまだまだ現役だ。
当分自分に王の座が来ることはないだろう。
(となると、仕事が慣れるまで大変なディオを支えるって名目で、ちょっとくらいガヴァムに腰を落ち着けたっていいんじゃないか?)
どうして気づかなかったんだろう?
寧ろ頻繁に行ったり来たりする方が無駄が多い気がする。
諜報部員の育成も少しずつできているし、こっちにいる方が様子も見やすい。
彼らを定期的にゴッドハルトに戻して、情報を持ってきてもらいつつ必要な時だけゴッドハルトで王太子の仕事をしたらいいんじゃないか?
ガヴァムの騎士達への指導も、こっちである程度俺が指導した上でゴッドハルトに送り出すようにすれば、正常化へのスピードも更にアップするかもしれない。
(ディオの側にいて支えてやれるし、一石二鳥だ)
離れているせいで変にヤキモキさせずに済むし、俺もモヤモヤせずに済む。
なんだかすごく名案な気がしてきた。
早速後でディオに相談だ!
よっぽどカリン陛下達が上手く隠してくれたんだろうか?
そう思って感心していたら、ルカがこちらへとやってきた。
その表情はどこへ行っていたんだと言わんばかり。
「王配になった詳しい話を聞こうと思ってたのに、気づいたらいなくなってるし、不穏な話も小耳に挟んだから心配した」
周囲に聞こえないよう小声で言われる。
どうやら暗部から情報は得ていたらしい。
流石にブルーグレイの暗部は優秀だ。
「ルーセウス。こっちは大丈夫だから、行ってきていいよ」
空気を読んだディオがそう言ってくれるが、できれば離れたくない。
「ルーセウス王子。私が一時的に代わりますわ」
「ヴィオレッタ王女」
「でもできればお早めにお戻りくださいね?私では貴方の代わりにはなれませんから」
ディオの隣を奪うつもりはないと笑顔で言ってくれるヴィオレッタ王女は本当にできた人だと思う。
「すぐ戻る」
「お待ちしております」
そう言ってルカと二人その場を離れて、人けのない場所へと移動する。
「それで?ブラン皇子がロキ陛下にお仕置きされた話やらディア王女が行方不明になったって話はどっちも解決したのか?」
「あ?ああ。問題ない」
「そうか。じゃあ一番の問題は、お前が俺に黙っていつの間にか結婚してた話だな」
どうやら前者の二件に関しては解決済みなら触れる気はないらしい。
でも結婚についてはちゃんと説明しろと圧をかけられてしまう。
「その…実はな?」
で、最初から話したらメチャクチャ驚かれた。
「それって初めて寝た相手に夢中になる童貞男の典型的パターンじゃないか」
「なっ?!」
「年下とは言っても相手はガヴァムの王太子。手練手管は娼婦並みだろうし、童貞だったお前はチョロかっただろうな」
その言葉に怒りが湧く。
「ルカ?殺されたいのか?」
「そ、そんなに怒るなよ。事実だろう?」
「俺が!失恋で落ち込んでたディオに付け込んで処女をもらったんだ!責められるとしたらそれは俺の方だ!」
「いや、絶対気にしてなかったって。寧ろ『一時的にでも慰められてラッキー』くらいのノリだったと思うぞ?」
確かにディオは最初の頃は俺を好きでもなんでもなかったし、会ったら寝るセフレみたいに思ってたっぽいけど、いくらなんでも娼婦と一緒の扱いは酷いだろう。
「ディオは俺としか寝ないし、他の男も知らないんだ。娼婦と一緒にするな!」
「悪かった。そこは謝るから取り敢えず落ち着け」
どうどうと馬を諌めるように言われてちっとも怒りは収まらない。
「それで?責められるべきは自分だって言うからには、惚れ込んで押せ押せで迫っても振られ続けたから、騙して結婚したって認識でいいのか?」
「やっぱり死にたいようだな?」
思わず剣に手を掛けたら、ルカがニッと笑って剣を抜いた。
「殺気立った本気のルーセウスとやれるなんて、最高だな」
どうやら狙って煽られたらしい。
そして騒ぎにならないよう人払いをして、二人で剣を合わせる。
「俺は、本気でディオと愛し合ってる!いくらルカでも、そこを茶化すのは許さない!」
「くっ、じゃあ、どうしてディア王女と婚約もしてるんだよ?!都合のいいように利用してるだけじゃないのか?!」
「それはディア王女の方から話を持ち込まれたんだ!俺から頼んだわけじゃない!」
ガガガッと激しく打ち合いながら言い合いが続く。
「初めから条件ありきの契約だ!文句を言われる筋合いはない!」
そして僅かな隙をつき袈裟斬りにすると、それを避けるようにルカが後ろへと跳んだ。
「契約をディア王女の方から持ち込まれた?お前から言い出したわけじゃなく?じゃあちゃんと話し合って決めたってことか?」
「そうだ!」
「ヴィオレッタ王女も?」
「勿論だ!」
二人は別に俺達のことを恋愛対象として見てはいない。
最初から二人の仲を応援すると言ってくれていたし、それは結婚後も変わらないだろう。
だから断言した。
俺達に後ろ暗いことなんて何一つない。
「…そうか」
そしてルカは剣を下ろし、気は済んだとばかりに鞘へと戻す。
「疑って悪かった。ちょっと私情が入り過ぎたようだ。すまなかった」
どうやらルカは俺がディオに夢中になり過ぎて利己的になり、セドリック王子のようになるんじゃないかと思ってしまったらしい。
ルカの母親はルカを産んだ後は正妃の仕事はしているものの、愛されることもないままずっと放置されている。
きっとそれは子供心に複雑なものを抱かせたんだろう。
「こんなことを俺が言うのは余計なお世話だと思うが…たとえ契約婚だろうとディア王女を妃として迎えるのなら、ちゃんと大事にしてやって欲しい。母はいつも自由にのびのび暮らせて快適だって笑ってるけど、父に会う時はいつも震えてるんだ。あんなのは正常な夫婦とは言えないと思ってる」
ルカの目には強い意思が宿っていて、きっとルカは妃を迎えたら大事にするんだろうなと感じさせられた。
「ルカの気持ちはわかった。俺が愛してるのはディオだけだけど、ちゃんとディア王女も大事にすると誓う。それでいいか?」
言われるまでもなくディア王女を冷遇する気は一切なかったからそう答えたら、満足そうに笑って『そうしてくれ』と言われた。
「それにしても、まさかお前に先を越されるとはな」
溜め息混じりにそんな風に言われて首を傾げる。
ディオとの結婚は確かに寝耳に水だっただろうが、ディア王女との結婚は把握していたはず。
ルカだって然程時を置かず結婚しそうなものだが…。
「確かお前もジーナ王女といい感じだって言ってなかったか?」
「んー…。一緒にいて楽しいのは楽しいけど、正直それが恋かと言われるとよくわからない」
俺みたいな何がなんでも欲しいってくらいの熱量はまだ持っていないことに気づいたらしい。
でもディオだって最初から俺に惚れてたわけじゃないし、こういうのは人それぞれじゃないかと思う。
「俺は育む愛だってあると思うぞ?」
恋は落ちるものと言うけど、愛は育むものだと思う。
そう思ってそのまま口にしたら『おかしい!凄くいい事言ってるのに、お前に似合わなさ過ぎる!』って大笑いされた。
失礼だな。
「でもまあ、ありがとな。一応俺も前向きに結婚を考えてみる」
アルフレッドへの気持ちに整理もつけられたのか、案外あっさりそう言ってくるルカ。
これなら結婚もそう遠くないかもしれない。
そう思ったが────。
「そう言えば今日はやたらとアンシャンテの王子に睨まれたんだよな」
「アンシャンテの王子?」
「そう。どうやらジーナ王女のことが好きみたいで、俺がジーナ王女と仲良く話していたからライバル視されたのかも」
「へぇ。お前をライバル視してくるなんて、中々気骨がある王子だな」
「思いっきり小犬っぽかったけどな」
どうやらルカから見れば小犬が吠えてる程度の認識らしい。
歯牙にも掛けていないところに、大国ブルーグレイの王太子特有の傲慢さが見て取れる。
「虐めてやるなよ?」
「心外だな。よっぽど噛みついてこない限り、虐める気はないぞ?」
「どうだか」
さっき俺を思い切り煽ってきたくせに、どの口が言うのか。
いい奴ではあるが、あのセドリック王子の息子なだけあってルカはちょっと癖がある。
そこをアンシャンテの王子が変に刺激しなければいいんだが…。
(まあアンシャンテはブルーグレイから離れた国だし、そんなに接点もないだろうから大丈夫だろう)
「で?実際のところ、ディオ王子、いやもう陛下か。ディオ陛下は床上手なのか?」
「惚気られたいのか?聞きたいならいくらでも聞かせてやるぞ?ディオの可愛さなら俺はいくらでも語れる」
「…………いや、いい。そもそも愚問だったな。忘れてくれ」
「懸命な判断だな」
「逆にお前が満足させてやれてるのかって方が気になる。下手くそとか言われないのか?」
「言われないな」
「嘘くさい。剣にしか興味なかったお前が、百戦錬磨っぽいディオ陛下を満足させられるとは全く思えないけどな」
「そこはもうガヴァムの閨指導本を全巻覚えるほど読み込んだ上で実践を重ねたからな。自信を持って言える。ディオは俺にしか満足させられない!」
自信満々に言ったらドン引きされた。
なんて奴だ。自分から話を振ってきたくせに。
「色々ツッコミたいけど、取り敢えず今度その本を貸せ。それを見て判断してやる」
「別にいいけど」
見たいなら貸すのは別に構わないしと俺はあっさり了承し、じゃあまた帰国後に会おうと約束して別れた。
(結構時間がかかったな)
気づけば小一時間が過ぎていて、慌ててディオの元へと戻る。
パーティー会場で人に囲まれながらヴィオレッタ王女と一緒に笑顔で対応しているディオ。
でもその笑顔は俺に向けてくるものとは全然違っていて、社交用のものだとすぐにわかった。
そつなく公務をこなすディオを少し遠く感じて、なんだかモヤッとしてしまう。
(俺が王配なのに)
ヴィオレッタ王女は結婚したらずっとディオの隣に居られるのにと考えると、益々モヤモヤしてたまらなかった。
けれどそこで俺はふと思う。
(王太子と王配の立場は王配の方が高いよな?)
ゴッドハルトは父がまだまだ現役だ。
当分自分に王の座が来ることはないだろう。
(となると、仕事が慣れるまで大変なディオを支えるって名目で、ちょっとくらいガヴァムに腰を落ち着けたっていいんじゃないか?)
どうして気づかなかったんだろう?
寧ろ頻繁に行ったり来たりする方が無駄が多い気がする。
諜報部員の育成も少しずつできているし、こっちにいる方が様子も見やすい。
彼らを定期的にゴッドハルトに戻して、情報を持ってきてもらいつつ必要な時だけゴッドハルトで王太子の仕事をしたらいいんじゃないか?
ガヴァムの騎士達への指導も、こっちである程度俺が指導した上でゴッドハルトに送り出すようにすれば、正常化へのスピードも更にアップするかもしれない。
(ディオの側にいて支えてやれるし、一石二鳥だ)
離れているせいで変にヤキモキさせずに済むし、俺もモヤモヤせずに済む。
なんだかすごく名案な気がしてきた。
早速後でディオに相談だ!
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