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第三章 戴冠式は波乱含み

54.ブラン皇子への聴取

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ディオとパーティー会場で挨拶をしていると、ブラン皇子がやってきて、帰ると言ってきた。
どうやらディア王女が俺の側妃になると聞いてショックを受けたらしい。
あまりにも気落ちした様子を見て、心情はわからなくもないとディオは二つ返事で見送ったのだが────。

(おかしいな)

どうもその後ろ姿に違和感を覚える。
落ち込んでいるでもなく、かと言って怒りを露わにしているわけでもない。そんな足取り。
皇子なら当然感情を隠せるものだろうとは思うが、そういう足取りでもなく、どちらかと言うとウキウキしているような印象を受けた。

何故?

それが気になったから、ディオに耳打ちして後を追うことに。
すると暗部を一人つけるから、何かあったら使って欲しいと言われた。
これは有り難い。

「行ってくる」
「気をつけて」

そして静かにブラン皇子の後を追うと、やってきたのは馬車止めだった。
でも一般的に使われている場所からは離れた場所だ。
これは怪しい。
一体何のためにこんなところへ?

そして一台の馬車へと近づくと、その扉を開けながら『ディア王女、お待たせ』と言った。

(聞き間違いか?)

そう思ったのも束の間。次の瞬間には焦ったような顔で馬車をあちこち見回し始めて、挙句に『あり得ない!』と叫ぶ始末。
どうやら何か予定外のことが生じたのは間違いなさそうだ。
俺はディオがつけてくれた暗部に、ブラン皇子の暗部を牽制するよう伝えてから、そっとブラン皇子の方へと歩を進めた。

「何が『あり得ない』んだ?ブラン皇子」

声をかけた途端、ブラン皇子の肩がビクッと反応し、ゆっくりとこちらを向いてくる。

「ルーセウス王子」
「さっきのディオへの挨拶の時、何か気になって追ってきたんだが、どうやら何かあったようだな?」
「くっ…!」

そしてやましいことがありますと白状するかのように、剣を引き抜き斬りかかってきた。

「ディア王女を返せ!!」

その本気の打ち込みに、こちらも迷うことなく素早く剣を抜き迎え打つ。

「…?婚約のことか?」

咄嗟にそう返したら、全く違う言葉が返ってきて驚いた。

「違う!俺が、俺がディア王女をもらおうと思ったんだ!さっきまで計画は上手くいっていた!なのに彼女がどこにもいない!どこにやった?!返せ!返せよ!彼女は俺のものだ!!」

ディア王女をもらう計画────だと?
碌でもない空気がプンプンするのは気のせいだろうか?

いや。それよりもブラン皇子はもっと重要な事を口にしなかったか?
どこにもいない。どこにやった?と。
つまりそれはいるはずの彼女が姿を消したと言う事。

(クソッ!嫌な予感がする!もっと聞き出さないと)

次から次へと剣戟を繰り出してくるブラン皇子をあしらいながら、もっと情報をと言葉を紡ぐ。

「は?ディア王女がいなくなった、だと?いつ?どこで?その馬車からいなくなったのか?」
「そうだ!彼女は睡眠薬で眠ってた!絶対に起きるはずがない!なのにどこにもいない!お前が、お前達がここから連れ去ったんだろう?!」
「いや、待て待て待て?!俺はここに来るまで全くそんなこと知らなかったぞ?!」
「嘘をつけ!返せ!返せぇえっ!」
「……っ、この、馬鹿が!ちょっとは落ち着け!」

睡眠薬で眠らせていたなら自力脱出の可能性は低い。
第三者に攫われた可能性大だ。
でも興奮した状態のブラン皇子には話が通じそうになかった。
だから手っ取り早く吹き飛ばして剣を突きつけたんだ。
この状況下なら流石に頭も冷えるだろう。

そしてざっくり状況を確認すると、攫おうとして薬を盛った上でここに放置していたら、戻ってきたらいなくなっていたとのこと。
ブラン皇子はニッヒガングの残党を探してた裏稼業の者が見つけて救出したんじゃないかと思ったらしいが、それはない。
俺はディオを通して彼らの事を知っているが、彼らはプロだ。
だからこそニッヒガングを調べると決めたら無駄なくスピーディーにことに当たるはず。
役割分担もきっちりやってるから、その行動範囲は主に城外だろう。
そして城内においては暗部が活躍する。
もし彼らがディア王女を見つけたなら、即ディオの側にいる暗部へと連絡が入ったはずだ。
それがなかったと言うことは、ディア王女の身柄を確保したのは全く別の人物ということになる。
こうしてはいられない。
ここからはスピード勝負だ。
遠くに逃げられる前に助け出さないと。
そう思い、暗部を呼び寄せディオへと連絡するよう伝えた。

増援が駆けつけ、ブラン皇子を拘束する中、ツンナガールに出たらディオからで、詳細を聞かれたから伝えたら即発信機を追ってみるという答えが返ってきて安堵する。
これならきっとすぐに居場所がわかるだろう。
そう思ったのに……。

「実はディア王女を説得するために時間を取ってもらって、馬車で待っていてもらったんだ。ディオ陛下に挨拶をした後、二人でゆっくり話せば振り向いてもらえるんじゃないかと思って…」
「そうか」

俺からの報告とは違う内容をディオへとペラペラ話し、挙句次いで暗部が齎した情報はディオ始め、その場の誰をも怒らせるに十分なものだった。

「ディオ様。見つけてきました。はいコレ。ディア王女が身につけていた発信器型イヤリング。ご丁寧に装飾品だけじゃなく、ドレスやら下着やらと一緒に丸ごと袋に突っ込まれて置かれてましたよ?昏睡状態のディア王女付き暗部二人と一緒にね。本人だけが攫われたと見て間違いないと思います」

装飾品だけじゃなく、ドレスに下着…だと?
つまりは何だ。
この男は彼女を素っ裸にして馬車に放置したというのか?

(どんな鬼畜だ!)

辱めるにも程がある。

「ドレスや下着?…これはどういうことか、説明してもらおうか?ブラン皇子」

ディオは何とか冷静にと自分を抑えているのだろうが、その怒りはヒシヒシと伝わってきた。
けれどその怒りを爆発させる前に動いたのは、意外にもロキ陛下だった。

ブラン皇子が下手な言い訳を口にした途端、鞭で縛り上げて床に引き摺り倒したのだ。

「ディオ。時間をかけ過ぎだ。こういう時は素早く聞き取りしないとディアが危ないよ?と言うわけで、レオ。いいよね?」

その口調は柔らかいが、どこか有無を言わさぬ迫力がある。

「……お手柔らかに頼むよ」
「最短で調教して聞き出すから、安心していいよ」

そして獲物を狙う鷹のように鋭い眼差しをブラン皇子へと向けると、艶美に笑って『躾の時間だ』と口にした。

うーん…なるほど。
皆がロキ陛下はドSと言う気持ちはよくわかった。
身近なところで言うとアレだ。
尋問官。
罪人から効率よく聞き取りをするのに痛めつけることがあるだろう?
アレのエロバージョンだ。

閨指導本の後半あたりにあった快楽調教編のテクニックを効率的に使った実に巧みな取り調べだった。
あんなことされたら誰だって一発で全部白状することだろう。

ディオが服に暗器を仕込んでいるのは知っているけど、ロキ陛下は服に調教用のあれこれを仕込みすぎじゃないだろうか?

公衆の面前で恥ずかしい格好で縛られて、許してくださいと泣き叫びながら嬲られる姿はちょっと可哀想だったけど、時間にして20分も経ってなかったし、まあ短い方なんじゃないだろうか?
結果から言うと最初の10分弱で全部白状してくれていて、その時点でディオが各所に指示出ししていたからスムーズに事が運んだと言える。
残りの10分は余罪がないかの確認とお仕置きってところなんだろうな。

『二度と悪さができなくなるよう勃たないようにしてあげようか?ブラン皇子。それともコレなしじゃいられなくなる方がいいかな?選ばせてあげようか?』

そんな言葉と共に前に突っ込む道具を使ってブラン皇子を嬲るロキ陛下はちょっと怖くて、レオナルド陛下なんて真っ青になりながら『ブランが不能になったらどうしよう…』なんて本気で心配していた。
流石にそんな短時間でそれはないだろう。
ないよな?
うん。ないと信じよう。
取り敢えず、アレを見てちょっと寒気がしたから、俺はディオが望まない限り玩具には絶対に手は出さないぞと固く心に誓ったのだった。


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