王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第二章 側妃問題はそっちのけでイチャつきたい!

閑話.それは幻の夢 Side.ディオ

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毎日毎日ルーセウスに愛されて、子種を注がれる日々。
それこそ自分が女だったならきっと孕んでいた事だろう。
だから────そんな夢を見てしまったんだと思う。


***


「うぅ…」

目の前がぐるぐる回る。
食べ物の匂いで気持ち悪くなる。

執務に影響が出てどうしようもないから闇医者に診てもらったら、『ご懐妊です』と言われた。

誰の子かと聞かれたらルーセウス以外にいない。
率直に言うとすごくすごく嬉しかったし、感動した。

でも公にはできない子供でもある。
だって俺達の結婚は成立しているけど、公表はされていないから。

「どうしよう…」

ただでさえ戴冠式を控えて激務の中での懐妊。
しかもルーセウスは今はゴッドハルトにいるから、この問題は自分一人で抱え込まないといけない。
辛い。

いつも冴えている頭はどこかぼんやりして思考がまとまらないし、微熱が出て身体はだるいし、吐き気がするから食べ物も喉を通らない。
でも懐妊の件は誰にも言えていないから普通に病気だと思われる始末。

『ディオ王子は働き過ぎなんです。ご安静にして早く治してください』と言われるけど、悪阻の時期はそこそこ長いと聞く。
そのうち腹も膨らんでくるだろうし、そうなったらもう黙ってることなんてできなくなるだろう。

「ルーセウス…」

すごく不安だ。
おろせと言われたらどうしよう?
絶対に嫌だ。
何より、こっそり食事に堕胎薬が盛られでもしたらと考えるだけでますます何も食べられなくなる。

だから正直にツンナガールで気持ちを吐露したんだ。

「子が…できたんだ。でも、嬉しいのにいなくなってしまいそうで怖い。絶対に産みたいけど、怖くて誰にも言えない。ルーセウス、俺、どうしよう…」

ポロポロと情けない言葉と共に涙が込み上げてきて、誰にも言えない本音が吐き出されていく。

「ディオ!大丈夫だ!俺がすぐ側に行ってやる!」

ルーセウスはそんな情けない俺に力強くそう言って、あっという間に俺のところへと来てくれた。

「ディオ!やったな!おめでとう!俺とディオの子だ!嬉しい!」

心底嬉しそうに笑って俺を抱きしめて、やったやったと喜ぶルーセウスを見ていたらそれまでの不安があっという間に霧散していく。

「名前はどうする?!男かな?女の子もいいな。ディオに似たら美人になるぞ。楽しみだな!」
「気が早いよ。ルーセウス」
「そんな事はないぞ?ああでも俺もディオも双子だから、一人とは限らないな。双子の可能性も考えて、服もいっぱい用意しないと。玩具に絵本に、後はなんだ?兎に角忙しくなるな!」

暗く沈んでいた気持ちが消え、ルーセウスが振り撒く明るい空気に引っ張られて、俺に笑顔を取り戻させてくれる。

「ディオの負担も早速減らさないとな。事情を知ってるロキ陛下に相談してくる!ディア王女とヴィオレッタ王女にも手伝ってもらえないか相談しないと!あ、今日から俺が添い寝するから心配しなくていいからな。他にもできる事は全部やるから、いくらでも使ってくれ」

なんでも引き受けるぞと胸を叩いてくれるルーセウスの姿を目にして、胸の中にジワリと安堵が広がっていく。

改めてすごく好きだなぁと純粋に思う。
ルーセウスが居てくれるだけで、こんなにも安心できる自分がいる。
これまで一人で頑張らないとと思ってやってきたのに、どうしてルーセウスになら頼りたいと思えるんだろう?

「ルーセウス。俺、ルーセウスの子なら10人でも20人でも産みたい」
「ディオ…!よし、いっぱい子作りしよう。それだけ育てたら俺も育児のスペシャリストになれそうだな!」
「ふふっ。そうだな。それにそれだけ子供がいたらすごく賑やかになりそうだ」

ルーセウスと一緒ならきっとなんとかなる。
そう思いながら愛おしげに腹をそっと撫でた。


***


目が覚めたら一人ベッドの上で、隣を見てもルーセウスの姿はなかった。
ぺたんこの腹には当然ルーセウスの子もいない。

「夢…か」

体調もどこも悪くはないけど、ここに子がいたはずなのにと思ったら涙が止まらなくなった。




「ルーセウスの赤ちゃんが欲しい」

その日は執務も全く手につかなくて、思わずそんな言葉を口にしてしまう。
叶わぬ夢だと知りつつも、リアルな夢を見たせいでどうにも諦めきれない。

「…………ゴッドハルトに行こう」

物凄く私情に駆られての行動だとわかるけど、ルーセウスに会いたくて仕方がなくなったから、気持ちを切り替えて最速で仕事を捌いて予定を組んだ。

「ルーセウス。明日ゴッドハルトに向けて発とうと思うんだけど、三日後は国にいるかな?」
『三日後?!いるいる!ディオが来てくれるなんて嬉しい』

ツンナガール越しに喜びの声を響かせるルーセウス。

『騎士達の視察か?』
「うーん…そっちはついでかな?ただルーセウスに愛されて孕みたくなったんだ」
『え?!』
「ルーセウス。俺を孕ませてくれないか?」
『~~~~っ!ディオ!そういうのは頼むから会ってから言ってくれ!』

朝まで離してやれそうにないから、抱き潰されても怒るなよと言われて、俺はクスクスと笑った。

それから三日後、ゴッドハルトで散々抱かれて、たっぷり注がれた腹を撫でながらルーセウスが『男でも女でもいいからできないかな』と言うのを聞いて、夢と似てるなと思いその時の話をしたら、ズルイと言われてしまった。

「俺もディオと懐妊の喜びを分かち合いたかった!」
「ルーセウス」
「今度からはすぐに報告してくれ。夢でも嬉しいから!」

そして『ディオの子なら絶対男でも女でも美人だろうな』なんてウキウキしながら腹を撫で、『滞在中は子作り頑張ろうな』と嬉しそうにキスされた。

こうしてすんなり受け入れてもらえる幸せに、ジワリと心が温かく満たされる。

「ディオ。愛してる」

ルーセウスの溢れる愛に包まれて、俺もだと伝えてキスを返した。

たとえ叶わぬ幻の夢だとしても、ルーセウスとの子供に夢で会えたら嬉しい。

(いつか出産する夢も見れたらいいのに)

そんな事を考えながら俺はそっとルーセウスの逞しい胸へと顔を埋めたのだった。


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