王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第三章 戴冠式は波乱含み

46.戴冠式

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半年というのは長いようであっという間だ。
なんだかんだで月に数日会い、それ以外の日は毎日ツンナガールで声を聞き、お互い忙しく公務をこなしていたら気づけば戴冠式間近になっていた。

ちなみにその間ディオは何度もシェリル嬢やローズマリー皇女のアプローチに悩まされていたけど、なんとかヴィオレッタ王女と協力して躱し続けたようだ。
仲が良い二人に嫉妬したのは記憶に新しい。

但し嫉妬していたのは俺だけじゃない。
ディオもディア王女にたまに嫉妬していたらしく、ディア王女が俺達が会う間際に毎回愚痴をこぼしがてら教えてくれた。
『今からディオに会うんでしょう?それなら嫉妬なんて必要ないとわからせてやってくださいな。この間なんて────』といった感じだ。

正直そんな事を聞かされたら、より一層愛し合いたくなるに決まってる。
ディオからは『ルーセウスが相手だと、嫉妬することはあっても不安になることは一切ないから安心できる』と言ってもらえた。
俺も、会えばディオが俺にベタ惚れなのは確認できたし、既に結婚済みだから全く不安になる必要もなくドンと構えていられた。

そうしてイチャイチャしながら日々を送り、俺は戴冠式に出席すべく家族と共に揃ってガヴァムへとやってきた。
勿論ディア王女も一緒だ。

国の留守は母と大臣達に任せてきたし、何かあればすぐに連絡はくるようにしている。

本当は母も来たいと言っていたが、父と俺は戴冠するディオの王配とその父親として出席は必須で、セレナはセレナでルイージ王子と会える貴重な日なんだと譲らなかったためこうなった。

挨拶など改めてするため余裕をもってガヴァム入りし、当日の流れや衣装についても打ち合わせを行う。
勿論内密に、だ。

「トルセン陛下、ルーセウス王子、セレナ王女。ようこそガヴァムへ」
「ロキ陛下。この度はおめでとうございます」
「ありがとうございます。やっと退位できるかと思うと感無量です」

そう言えばロキ陛下は退位を心待ちにしていたんだったか。
ウキウキした気分がものすごく伝わってきてわかりやすい。

それからソファーに腰を落ち着けて、当日の流れを教えてもらう。
まずは粛々と滞りなく譲位の儀式を行い、ディオへと王位を譲渡する。
それから国民達へ挨拶を行い、そのままパーティーへ。
各国の王侯貴族達が集まるその場で、王配として俺をサプライズ紹介。
既に婚姻も成立していると発表。
そして婚約者であるヴィオレッタ王女は側妃として迎えるため、そこから更に数ヶ月後に婚儀の予定だと発表するそうだ。
勿論文句は出るだろうけど、当事者同士で既に話は終わっているし、俺とディオの結婚も逆算して一年は過ぎてるから今更無効化なんて議会を通しても無理らしく、『だから何も心配はないよ』とロキ陛下は笑った。
なかなかの確信犯だ。
この人が味方で本当に良かった。


***


戴冠式当日。
豪奢な衣装に身を包み毅然と立つディオの姿は、目を奪われるほどの神々しさだった。
ガヴァムの王族は神の血を引いていると聞くが、すごく信憑性が高い気がしてくる。

国賓達が見守る中、厳かに始まる戴冠式。
民達の祝福に満ちた歓声を背にロキ陛下と共に定位置へと颯爽と向かい、進行役の内務大臣の言葉で式は順調に進んでいき、最後にスッとロキ陛下の前へと跪いて首を垂れるディオ。
そしてロキ陛下がそれを合図に王位譲渡の言葉を口にする。

「ガヴァムの血を受け継ぎし者よ。この地に愛着を抱く限り、この地を発展させ、人々に尽くし、安寧を与えよ。さすれば常しえに其方の名は人々によって語り継がれることだろう。ロキ=アーク=ヴァドラシアの名の下に、ディオ=ハイルング=ヴァドラシアを今より王としてかかげる事をここに認める」

そしてロキ陛下の手によって、そっと王冠がディオの頭の上へと乗せられる。

「確かに拝命致しました」

厳かにそう答え、ディオは迷う事なくスッと立ち上がった。
堂々としたその姿に誰もが見惚れるのを肌で感じる。
そして次の瞬間、割れんばかりの拍手と歓声がその場へと満ちた。
新王の誕生だ。

(ああ…すごいな)

俺のディオが本当に王になったんだと胸がいっぱいになる。
まだまだ実感は湧かないが、これはちゃんと現実なんだとしっかりと噛み締める。
眩し過ぎてたまらない。

けれどその先で事件は起こった。
バルコニーへ出て民達に笑顔で手を振っていたディオだが、そこに発煙筒のような物が突如投げ込まれたのだ。
忽ち白い煙が辺り一面へと広がり、一体何事だと場が騒然となる。

「ディオ!」

俺はすぐさまディオの傍へと駆け、周囲を警戒しにかかった。
俺の目の前でディオを一瞬たりとも危機に晒すなどあり得ないことだ。

「新王、ディオを殺せ!」

そんな声まで聞こえてきて心臓が跳ねる。
明らかにこの騒ぎを起こした賊達はディオを狙っている。
そんな中、足音が近づいてきた。

キィンッ!

視界は煙のせいで奪われているが、空気の流れを読み、ディオを狙った相手の攻撃を受け止めそのまま斬り捨てる。

(いける!)

「ディオ、俺から離れるな!」
「わかってる。でも援護はさせてほしい」
「わかった」

ちなみに何故俺が剣を持ち込めているかと言うと、ロキ陛下が許可を出したからだ。

『なんとなく何かが起こる気がするから、今日は敢えて全員に剣の持ち込みを可にしたんだ。あ、剣限定だからそこは間違えないように。他の武器は没収だよ?』

(なるほど。こう言ったことを予想していたのか)

そう思っていたら、暗部らしき者達の手で発煙筒は袋へと回収され、開け放たれた窓から風が吹き込んで、あっという間に視界がクリアになり、剣を手にした腕に覚えのある者達が次々と賊の制圧をし始めた。
ルカもそうだがアルフレッド妃殿下も、なんだったらアンシャンテのシャイナー陛下まで協力してくれている。

『ロキ!俺はこの件に関しては全く何一つ絡んでいないから信じてくれ!』なんて、なにやら必死に弁明しているけど、シャイナー陛下は何か心当たりでもあるんだろうか?
それとも日頃の行いがそうさせるんだろうか?
甚だ疑問だ。
そう思いながら俺はディオを狙ってきた男達を5人倒しきった。

「くそっ…!」

今俺の前に相対しているのは後三人。
この程度なら余裕だ。

「ヴィレ様の仇!!」

そう言いながら斬りかかってくる男を難なく仕留める。
でもそこでディオが『ああ、ニッヒガングか』と思い当たる節があるように呟いた。

「ディオ。心当たりがあるのか?」
「まあ、ちょっとだけ?」

特に構える様子もなく、ディオはあっさりと軽く答えるが、相手はそうではなかった。

「お前のせいで計画は頓挫したのだ!」

憎々し気に残る二人がこちらへと殺意を撒き散らしてくる。

「逆恨みにもほどがあるな。今日という日にゴッドハルトに戦争を仕掛けようなんて企むから潰されるんだと、わからないかな?」

ニコリとディオが微笑む。
でも口にした内容は酷く物騒なものだった。

「戦争?!」
「そう。王族が出払う日を狙って戦争を仕掛けようとしてたから……その前に事故死してもらった」

事故死。
そう言えばニッヒガングは最近災難続きだったなと思い出す。
大商会を営む貴族の屋敷が一夜にして火事で燃えて焼死者が多数出たり、その貴族とは別の商会が持つ商船が燃えて大赤字になったり、また別の貴族の隠し財産が何者かにごっそり盗まれて破産したとか言う話も聞いたし、王弟の一人ヴィレが酔ってバルコニーから転落して大怪我をし、それが元となり亡くなったり、馬の暴走で馬車がひっくり返り、運悪く乗っていた軍務大臣がそのまま亡くなったり……。

(事故じゃなかったのか)

通りで立て続けに不運なことが起こるなと思った。
つまり、戦争を回避しようと資金源を断った上で首謀者達を綺麗に事故死に見せかけて片付けたら逆恨みされた、ということのようだ。

「これはニッヒガングが悪いな」
「黙れ!!計画は順調だったのに…っ、我が国とバロン国が同時に攻めこめばゴッドハルトなど簡単に落とせるはずだったのにっ…!」

その言葉にギョッとなる。
まさか2国から同時攻撃される予定だったなんて全く考えていなかった。

「何故お前が出てくる?!ガヴァムが介入さえしなければっっ!!」
「さあ。どうしてだろうな?」

ヒュヒュッ。

ディオが放ったらしい暗器の攻撃で目の前の賊達が一瞬で命を刈り取られる。
一先ずこれで賊は概ね片付いたと見ていいだろう。

「ディオ…」
「ルーセウス。怒ってないか?」

少し不安げに俺を見てくるディオ。
隠し事をしていたという後ろめたさでもあるんだろうか?
俺の妃としてこっそり陰ながら国を守ってくれたんだから、もっと堂々としてくれていいのにな。

「いや。それはいいんだが。一言くらい言ってくれればよかったのにと思って」
「ゴメン。今度からはちゃんと相談する」

困ったようにそう言うディオを見て、そうかと思い至る。
俺の正妃と発表される前だし、こっそり片付けておこうと思ったのかもしれない。
優しいディオのことだ。
俺に心配をかけたくなかったんだろう。きっと。

「はぁ…何はともあれ助かった。ありがとう。ディオ」
「どういたしまして」

そうして俺達はそっと微笑み合った。



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