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第二章 側妃問題はそっちのけでイチャつきたい!
40.説得
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コンコンコンというノック音に続いて、ドアの向こうからディオの声が聞こえてきたからすぐさま部屋へと引っ張り込んで鍵を閉める。
もう誰にも邪魔はさせない。
そんな気持ちで腕の中へと閉じ込めた。
でも特に抵抗されるでもなく、ギュッと抱きついてこられて不意打ちを喰らったような気持ちになってしまう。
もしかしてディオも寂しかったのか?
それだったら嬉しいんだが。
「ルーセウス」
「どうした?」
「ルーセウスが足りないから補充させて欲しい」
(うおぉおおっ!)
素直なディオが可愛過ぎる!
「勿論いくらでも補充していいぞ!俺もディオを補充できるし、一石二鳥だな!」
嬉しくなってそのまま抱き上げてソファーに移動し膝に乗せたら、抱きつかれながらずっとキスされた。
勿論俺も自分からいっぱいしたけど。
気持ち良過ぎてこのまま抱きたくなったが、晩餐前だし今はまだ我慢だ。
「ディオ…もう今日は俺だけ見ててくれ」
「うん。今日はもうずっと一緒に居たい」
やっぱりこのまま抱きたいな。
(そう言えば…ディオはいつまでここに滞在してくれるんだろう?)
ここに来た目的は結婚の挨拶だ。
反対していたはずの母もあっさり認めてくれたっぽいし、もしかして明日明後日には帰ると言われるんじゃ?
そう思ったら確認せずにはいられなくなった。
「ディオ!その、いつまでここに居てくれる?」
「ここ?ゴッドハルトにってこと?」
「そうだ」
「…………そうだな。あと三日くらい、居てもいいかな?」
「三日と言わず一か月くらいいてほしい!」
「それはちょっと…」
無理と言われてガックリ肩を落とす。
まあ無理なことは重々承知しているけど、離れ難くてつい言ってしまったのだ。
「悪い。無理を言った」
「いや。ディアも到着したし、明日明後日には帰るのかってあっさり言われるかと思ったから」
それは嫌だなと思って三日という微妙に伸ばした日程を口にしてくれたらしい。
(胸が、胸が鷲掴みにされる…!)
ディオも名残惜しく思ってくれてるんだと感じて悶えたくなる。
「そんなに名残惜しく思ってくれるなら、帰りはヴァレトミュラにしないか?俺がガヴァムまで送る」
そうだ。そうしよう。
ヴァレトミュラならワイバーンと違って書類仕事だって持ち込めるし、各国の停車場にあるワイバーン便で急ぎの書類はゴッドハルトに送る事だってできる。
護衛兵や諜報員の訓練も兼ねて数名引き連れて行ってもいいかも。
後はディア王女が言っていた暗部の訓練所の視察も、このタイミングでさせてもらえないか聞いてみようか?
それならディオも『ついでなら』と許してくれそうな気がするし。
「ガヴァムの暗部の訓練所の視察もついでにできればと思ってるんだが、難しいか?」
「なるほど。それなら一緒に視察に行ったらいいかな。日程調整しておく」
(やった!!)
これまでの中で一番一緒に居られる時間が長くなる気がしてウキウキしてきた。
「ディオ。嬉しい。こんなに一緒に居られるなんて思わなかったから、嬉し過ぎて今すぐ抱きたくなった」
昔だったら嬉し過ぎたら剣を振りたくなったんだが、ディオが目の前にいる時だとそんな考えに至らないから不思議だな。
「ディオ。ちょっとだけ、抱いたらダメか?」
「ふふっ。抱かれたいのは山々だけど────残念。時間切れだ」
コンコンコン。
まさにこれからと言うところでドアがノックされ、晩餐の準備が整ったと言われてしまう。
「はぁ…このまま抱き上げて食堂まで行きたいくらいだ」
「それは流石にダメだと思う。ディアなら周囲の目も気にしなくていいかもしれないけど、俺にやったらおかし過ぎるだろう?」
ディオは俺の正妃なのに、周囲に溺愛アピールできないのが悲しい。
(でも戴冠式の後なら許されるかもしれないし、それまでの辛抱だな)
大っぴらに言っていいようになれば絶対にアピールしまくろう。
そうだそうしよう。
そんな事を考えながら俺はディオと共に食堂へと向かった。
***
「ディオ王子。今日ディオ王子から聞いた話を元に計画書を作ってみたの。後で見てもらえないかしら?」
「あら、時間を作ってもらえるならロロイアの話を是非私としていただきたいわ。その方が明日の手合わせも集中できそうだし一石二鳥でしょう?」
母と妹がディオを俺から奪おうとしている。
なんて事だ。
油断も隙もないじゃないか。
(誰がさせるか!)
「二人とも。ディオはこの後俺と二人で過ごすから」
邪魔するなと笑顔で牽制する。
「それと父上。ディオは予定では三日後くらいに帰るそうなんですが、その日程に合わせて今後諜報員を育てるためガヴァムの暗部訓練所の視察に行けたらと思っています。ディオを送りがてら、行ってきてもいいですか?ヴァレトミュラで行けば書類仕事もできるし、問題ないんじゃないかと思ってるんですが」
「あー…そうだな。視察か。うん。行ってこい」
(やった!)
なんだかんだで父はディオと俺の仲を認めてくれているからか、すんなり許してもらえた。
これでディオと一緒に居られる時間が確保できた。
嬉しい。
「ルーセウス。貴方ばかりディオ王子を独り占めするのは良くないわよ?」
「そうよ!ルーはディア王女とイチャイチャしていたらいいでしょう?婚約者なんだから。ね、ディオ王子?」
「それを言うならディオは俺の嫁だ!!」
身内なんだからセレナにも言っていいだろうとそう言ったら、冗談と思われて笑い飛ばされた。
「もうっ、ルーセウスったら。本当にしょうがないわね。いくら仲が良いからって嫁なんて言っちゃダメでしょう?」
(本当に俺の嫁なのにっ!!)
そう思って思い切り睨みつけたら、父と母が間に入ってちゃんと説明してくれる。
しかも給仕達もいつの間にか下げてくれていて、気づけば人払いがしっかりされていた。
「ちょっと信じられないかもしれないけど、ディオ王子は本当にルーセウスの正妃なんだ」
「そうなのよ。もう何ヶ月も前に勝手に結婚しちゃってたみたいで、私も驚いたのよ?ちょっと遅くなったけど、今回ここに来てくれたのも結婚後の挨拶でなの」
「……え?!」
セレナは驚き過ぎて目と口がこれでもかと開いている。
「え?冗談よね?」
「兄妹揃ってお世話になります」
ニコリとディオが挨拶したら、セレナがあり得ないと騒ぎ出した。
「どうしてルーセウスがこんな優良株なディオ王子を捕まえられるのよ?!あり得ないでしょう?!そもそもディオ王子はもうすぐ即位するのに、無理でしょう?!え?何?どうなってるの?!」
「セレナ。そう言いたくなるのもわかるが、落ち着け」
「落ち着けと言われて落ち着けるはずがないでしょう?!合体?!うちとガヴァムがくっつくの?!」
「その予定はない。遠距離婚なだけだ」
「ルーに遠距離婚なんてできるはずがないでしょう?!ただでさえ今の執務も手探り状態なのに、国政が疎かになるに決まってるわ!」
破綻する未来しか見えないと見事にパニックになるセレナ。
酷い言いようだけど、微妙に当たってるから全否定はし難い。
ディオと一緒に居たい気持ちは確かに大きいから、お互い忙しくなった時が一番心配だ。
「まあ確かに心配な気持ちはよくわかる。でもディオが好きな気持ちは絶対変わらないから、これからも手探りで上手くやっていきたいんだ」
結婚前も結婚後も、仕事が手探りなのは一緒だ。
寧ろディオに教えてもらってる分自分的にはプラスになっている。
「ディオのお陰で仕事の効率は上がってるし、問題点も見えてきた。国政が疎かになるっていうセレナの気持ちもわかるけど、それならそれで文官達や大臣達の底上げができないか、ディオと一緒に考えていきたい。それでディオに会いに行く時間ができたら俺も嬉しいし、国政にもプラスになるから文句はないだろう?」
「見事にディオ王子に負担が全部ふっかかってるじゃないの!!そんな迷惑行為をするくらいなら今すぐ別れなさい!」
名案だと思ったのに別れろと言われた。
酷過ぎる。
「セレナ王女。そこは然程負担でもないので、大丈夫ですよ?」
「ディオ王子!でも今のを聞いたでしょう?!ルーセウスは貴方に負担をかける事ばっかり言っていたんですよ?!勝手過ぎます!」
セレナの勢いが止まらない。
これは説得にも骨が折れそうだと思ったのだが…。
「セレナ王女」
「何でしょう?!」
「俺がルーセウスの正妃であると同時に、ルーセウスは俺の、つまりガヴァムの王太子の伴侶でもあります」
「え?は、はい。そうですね?」
落ち着いた声でゆっくりと話すディオにセレナが戸惑いながらそう返す。
「俺はこれまで良き王となれるよう研鑽を重ねてきました。それこそいつ王位についても問題がないよう努力してきたつもりです」
「は、はい」
「そんな俺が、自分の愛する伴侶のやりたいこと一つ、やってほしいと願う事一つ、叶えてあげられない、許容してあげられない器の小さい男だと思われるのは大変心外です」
「え?!」
「余程のことでない限り、どんな事でも全部受け止めてあげられるので、何も問題はありません。これでご納得いただけるでしょうか?」
「「「「…………」」」」
ヤバい。ディオが男前過ぎる。
いつもはあんなに可愛いのに、既に王の風格が滲んでいる。
これで年下とか、凄過ぎだろう。
その笑顔には余裕さえ感じられるし、カッコ良過ぎだ。
とは言え普通ならこんな姿を目の当たりにしたら気後れしそうなものだけど、全然そんな気持ちにはならないんだよな。
もしかしたら昔からブルーグレイのルカと接してきてたからかも。
あいつも若くして王になるのは決定事項なんだって感じだったから。
何だろう?
今の心境を口にするなら、お手本が身近に溢れててラッキーくらいの感じ?
まあまた脳筋とか言われそうだから絶対言わないけど。
そう思ってたらディア王女が切り込んできた。
「ルーセウス王子。絶対今、ノー天気な事を考えているでしょう?」
「ん?ディオは男前でカッコいいなと思ってただけだぞ?」
「普通は気後れして劣等感を抱いたりするものだと思いますけど?」
「ディオが凄いのは前から知ってるし、そこも惚れた一因だから。ギャップ萌えはしても、気後れはないな」
「変に大物ですわね?びっくりですわ」
「ディア。ルーセウスは俺よりずっと器が大きいんだ。動じるはずがないだろう?」
嫁の信頼が嬉しい。
「いや、単に理解できてないだけじゃないか?」
「剣ばっかり振ってた脳筋だし、馬鹿なのよ」
うんうん、とディオ以外皆が頷くけど、俺は気にしない。
だってディオがカッコいいのも、俺が動じないのも事実でしかないんだから。
「ディオ王子。騙されてますよ?」
「本当に。ルーセウスのどこがそんなにいいのかさっぱりだ」
セレナと父が酷い。
でもそこで母が何故かディオに加勢した。
「あら。ディオ王子は本気でルーセウスが大好きなのよ?沢山良いところを挙げてくれて、幸せそうに『そういうところが好きなんです』って教えてくれたもの。正直驚くくらいルーセウスにベタ惚れだったわ」
母が言うには色々俺の良いところをアピールしてくれていたらしい。
剣一つとってもその褒め言葉は多岐にわたっていたらしいし、仕事に関しても意欲的で柔軟だと褒めてくれていたとか。
それだけじゃなくいつだって揺らがずドンと構えてくれているから安心できるし、甘えられるからすごく一緒に居て癒されるとも。
嬉しい!
可愛い!
いっぱい甘やかしてやりたい!
頬が緩みまくって困る。
「うわ…こんなデレデレなルーセウス、初めて見たわ」
セレナにドン引きされたけど、こんな話を聞かされて喜ばないはずがない。
「ま、まあそう言うことなら二人の関係は認めるわ。でもその…ディア王女はこの件はどう思っているのかしら?」
これまで俺とディア王女の仲を勘違いしていた手前、気まずくなったんだろう。
すごく聞きにくそうにセレナはディア王女へと尋ねた。
そんなセレナに、ディア王女はこともなげに返す。
「構いませんわ。私にも目的があってのことですし」
「目的?」
「有体に言えば、鬱陶しい婚約者候補達から逃げるために、ルーセウス王子に隠れ蓑になっていただきたかったんです。正直親の意向が多分に含まれた各国からの求婚は面倒で。ディオとルーセウス王子の仲を知って利用させてもらうことにしました。そこに打算はあっても愛情はありませんのでご心配なく」
ニコリと笑うディア王女に俺はその通りと頷くけど、家族達は驚いている様子。
(そう言えば言ってなかったかも)
単純に俺が一方的にディア王女を隠れ蓑にしたと思われていた可能性はある。
「つまり?」
「完全なる合意の上での政略結婚ですわ」
「そ、そう。まあお互い納得しているなら、いい…のかしら?」
「ええ。それにここは暗部が全くいないのでのびのび好きに情報収集ができて最高ですわ。ガヴァムはそう言った意味で動きにくくてしょうがありませんでしたもの。暗部と裏稼業の者達、各国の密偵達の目を掻い潜って動くなんて疲れる以外のなにものでもありませんし、それをものともせず利用しながら動けるディオは本当にすごいと思いますわ」
とても真似できないし、やりたいとも思わないとディア王女は言い切った。
「ですので、兄妹揃って受け入れていただければ幸いです」
ディア王女は笑顔でそう締めくくり、食事を再開する。
ここまで言い切られればもう何も言えないだろう。
もう誰にも邪魔はさせない。
そんな気持ちで腕の中へと閉じ込めた。
でも特に抵抗されるでもなく、ギュッと抱きついてこられて不意打ちを喰らったような気持ちになってしまう。
もしかしてディオも寂しかったのか?
それだったら嬉しいんだが。
「ルーセウス」
「どうした?」
「ルーセウスが足りないから補充させて欲しい」
(うおぉおおっ!)
素直なディオが可愛過ぎる!
「勿論いくらでも補充していいぞ!俺もディオを補充できるし、一石二鳥だな!」
嬉しくなってそのまま抱き上げてソファーに移動し膝に乗せたら、抱きつかれながらずっとキスされた。
勿論俺も自分からいっぱいしたけど。
気持ち良過ぎてこのまま抱きたくなったが、晩餐前だし今はまだ我慢だ。
「ディオ…もう今日は俺だけ見ててくれ」
「うん。今日はもうずっと一緒に居たい」
やっぱりこのまま抱きたいな。
(そう言えば…ディオはいつまでここに滞在してくれるんだろう?)
ここに来た目的は結婚の挨拶だ。
反対していたはずの母もあっさり認めてくれたっぽいし、もしかして明日明後日には帰ると言われるんじゃ?
そう思ったら確認せずにはいられなくなった。
「ディオ!その、いつまでここに居てくれる?」
「ここ?ゴッドハルトにってこと?」
「そうだ」
「…………そうだな。あと三日くらい、居てもいいかな?」
「三日と言わず一か月くらいいてほしい!」
「それはちょっと…」
無理と言われてガックリ肩を落とす。
まあ無理なことは重々承知しているけど、離れ難くてつい言ってしまったのだ。
「悪い。無理を言った」
「いや。ディアも到着したし、明日明後日には帰るのかってあっさり言われるかと思ったから」
それは嫌だなと思って三日という微妙に伸ばした日程を口にしてくれたらしい。
(胸が、胸が鷲掴みにされる…!)
ディオも名残惜しく思ってくれてるんだと感じて悶えたくなる。
「そんなに名残惜しく思ってくれるなら、帰りはヴァレトミュラにしないか?俺がガヴァムまで送る」
そうだ。そうしよう。
ヴァレトミュラならワイバーンと違って書類仕事だって持ち込めるし、各国の停車場にあるワイバーン便で急ぎの書類はゴッドハルトに送る事だってできる。
護衛兵や諜報員の訓練も兼ねて数名引き連れて行ってもいいかも。
後はディア王女が言っていた暗部の訓練所の視察も、このタイミングでさせてもらえないか聞いてみようか?
それならディオも『ついでなら』と許してくれそうな気がするし。
「ガヴァムの暗部の訓練所の視察もついでにできればと思ってるんだが、難しいか?」
「なるほど。それなら一緒に視察に行ったらいいかな。日程調整しておく」
(やった!!)
これまでの中で一番一緒に居られる時間が長くなる気がしてウキウキしてきた。
「ディオ。嬉しい。こんなに一緒に居られるなんて思わなかったから、嬉し過ぎて今すぐ抱きたくなった」
昔だったら嬉し過ぎたら剣を振りたくなったんだが、ディオが目の前にいる時だとそんな考えに至らないから不思議だな。
「ディオ。ちょっとだけ、抱いたらダメか?」
「ふふっ。抱かれたいのは山々だけど────残念。時間切れだ」
コンコンコン。
まさにこれからと言うところでドアがノックされ、晩餐の準備が整ったと言われてしまう。
「はぁ…このまま抱き上げて食堂まで行きたいくらいだ」
「それは流石にダメだと思う。ディアなら周囲の目も気にしなくていいかもしれないけど、俺にやったらおかし過ぎるだろう?」
ディオは俺の正妃なのに、周囲に溺愛アピールできないのが悲しい。
(でも戴冠式の後なら許されるかもしれないし、それまでの辛抱だな)
大っぴらに言っていいようになれば絶対にアピールしまくろう。
そうだそうしよう。
そんな事を考えながら俺はディオと共に食堂へと向かった。
***
「ディオ王子。今日ディオ王子から聞いた話を元に計画書を作ってみたの。後で見てもらえないかしら?」
「あら、時間を作ってもらえるならロロイアの話を是非私としていただきたいわ。その方が明日の手合わせも集中できそうだし一石二鳥でしょう?」
母と妹がディオを俺から奪おうとしている。
なんて事だ。
油断も隙もないじゃないか。
(誰がさせるか!)
「二人とも。ディオはこの後俺と二人で過ごすから」
邪魔するなと笑顔で牽制する。
「それと父上。ディオは予定では三日後くらいに帰るそうなんですが、その日程に合わせて今後諜報員を育てるためガヴァムの暗部訓練所の視察に行けたらと思っています。ディオを送りがてら、行ってきてもいいですか?ヴァレトミュラで行けば書類仕事もできるし、問題ないんじゃないかと思ってるんですが」
「あー…そうだな。視察か。うん。行ってこい」
(やった!)
なんだかんだで父はディオと俺の仲を認めてくれているからか、すんなり許してもらえた。
これでディオと一緒に居られる時間が確保できた。
嬉しい。
「ルーセウス。貴方ばかりディオ王子を独り占めするのは良くないわよ?」
「そうよ!ルーはディア王女とイチャイチャしていたらいいでしょう?婚約者なんだから。ね、ディオ王子?」
「それを言うならディオは俺の嫁だ!!」
身内なんだからセレナにも言っていいだろうとそう言ったら、冗談と思われて笑い飛ばされた。
「もうっ、ルーセウスったら。本当にしょうがないわね。いくら仲が良いからって嫁なんて言っちゃダメでしょう?」
(本当に俺の嫁なのにっ!!)
そう思って思い切り睨みつけたら、父と母が間に入ってちゃんと説明してくれる。
しかも給仕達もいつの間にか下げてくれていて、気づけば人払いがしっかりされていた。
「ちょっと信じられないかもしれないけど、ディオ王子は本当にルーセウスの正妃なんだ」
「そうなのよ。もう何ヶ月も前に勝手に結婚しちゃってたみたいで、私も驚いたのよ?ちょっと遅くなったけど、今回ここに来てくれたのも結婚後の挨拶でなの」
「……え?!」
セレナは驚き過ぎて目と口がこれでもかと開いている。
「え?冗談よね?」
「兄妹揃ってお世話になります」
ニコリとディオが挨拶したら、セレナがあり得ないと騒ぎ出した。
「どうしてルーセウスがこんな優良株なディオ王子を捕まえられるのよ?!あり得ないでしょう?!そもそもディオ王子はもうすぐ即位するのに、無理でしょう?!え?何?どうなってるの?!」
「セレナ。そう言いたくなるのもわかるが、落ち着け」
「落ち着けと言われて落ち着けるはずがないでしょう?!合体?!うちとガヴァムがくっつくの?!」
「その予定はない。遠距離婚なだけだ」
「ルーに遠距離婚なんてできるはずがないでしょう?!ただでさえ今の執務も手探り状態なのに、国政が疎かになるに決まってるわ!」
破綻する未来しか見えないと見事にパニックになるセレナ。
酷い言いようだけど、微妙に当たってるから全否定はし難い。
ディオと一緒に居たい気持ちは確かに大きいから、お互い忙しくなった時が一番心配だ。
「まあ確かに心配な気持ちはよくわかる。でもディオが好きな気持ちは絶対変わらないから、これからも手探りで上手くやっていきたいんだ」
結婚前も結婚後も、仕事が手探りなのは一緒だ。
寧ろディオに教えてもらってる分自分的にはプラスになっている。
「ディオのお陰で仕事の効率は上がってるし、問題点も見えてきた。国政が疎かになるっていうセレナの気持ちもわかるけど、それならそれで文官達や大臣達の底上げができないか、ディオと一緒に考えていきたい。それでディオに会いに行く時間ができたら俺も嬉しいし、国政にもプラスになるから文句はないだろう?」
「見事にディオ王子に負担が全部ふっかかってるじゃないの!!そんな迷惑行為をするくらいなら今すぐ別れなさい!」
名案だと思ったのに別れろと言われた。
酷過ぎる。
「セレナ王女。そこは然程負担でもないので、大丈夫ですよ?」
「ディオ王子!でも今のを聞いたでしょう?!ルーセウスは貴方に負担をかける事ばっかり言っていたんですよ?!勝手過ぎます!」
セレナの勢いが止まらない。
これは説得にも骨が折れそうだと思ったのだが…。
「セレナ王女」
「何でしょう?!」
「俺がルーセウスの正妃であると同時に、ルーセウスは俺の、つまりガヴァムの王太子の伴侶でもあります」
「え?は、はい。そうですね?」
落ち着いた声でゆっくりと話すディオにセレナが戸惑いながらそう返す。
「俺はこれまで良き王となれるよう研鑽を重ねてきました。それこそいつ王位についても問題がないよう努力してきたつもりです」
「は、はい」
「そんな俺が、自分の愛する伴侶のやりたいこと一つ、やってほしいと願う事一つ、叶えてあげられない、許容してあげられない器の小さい男だと思われるのは大変心外です」
「え?!」
「余程のことでない限り、どんな事でも全部受け止めてあげられるので、何も問題はありません。これでご納得いただけるでしょうか?」
「「「「…………」」」」
ヤバい。ディオが男前過ぎる。
いつもはあんなに可愛いのに、既に王の風格が滲んでいる。
これで年下とか、凄過ぎだろう。
その笑顔には余裕さえ感じられるし、カッコ良過ぎだ。
とは言え普通ならこんな姿を目の当たりにしたら気後れしそうなものだけど、全然そんな気持ちにはならないんだよな。
もしかしたら昔からブルーグレイのルカと接してきてたからかも。
あいつも若くして王になるのは決定事項なんだって感じだったから。
何だろう?
今の心境を口にするなら、お手本が身近に溢れててラッキーくらいの感じ?
まあまた脳筋とか言われそうだから絶対言わないけど。
そう思ってたらディア王女が切り込んできた。
「ルーセウス王子。絶対今、ノー天気な事を考えているでしょう?」
「ん?ディオは男前でカッコいいなと思ってただけだぞ?」
「普通は気後れして劣等感を抱いたりするものだと思いますけど?」
「ディオが凄いのは前から知ってるし、そこも惚れた一因だから。ギャップ萌えはしても、気後れはないな」
「変に大物ですわね?びっくりですわ」
「ディア。ルーセウスは俺よりずっと器が大きいんだ。動じるはずがないだろう?」
嫁の信頼が嬉しい。
「いや、単に理解できてないだけじゃないか?」
「剣ばっかり振ってた脳筋だし、馬鹿なのよ」
うんうん、とディオ以外皆が頷くけど、俺は気にしない。
だってディオがカッコいいのも、俺が動じないのも事実でしかないんだから。
「ディオ王子。騙されてますよ?」
「本当に。ルーセウスのどこがそんなにいいのかさっぱりだ」
セレナと父が酷い。
でもそこで母が何故かディオに加勢した。
「あら。ディオ王子は本気でルーセウスが大好きなのよ?沢山良いところを挙げてくれて、幸せそうに『そういうところが好きなんです』って教えてくれたもの。正直驚くくらいルーセウスにベタ惚れだったわ」
母が言うには色々俺の良いところをアピールしてくれていたらしい。
剣一つとってもその褒め言葉は多岐にわたっていたらしいし、仕事に関しても意欲的で柔軟だと褒めてくれていたとか。
それだけじゃなくいつだって揺らがずドンと構えてくれているから安心できるし、甘えられるからすごく一緒に居て癒されるとも。
嬉しい!
可愛い!
いっぱい甘やかしてやりたい!
頬が緩みまくって困る。
「うわ…こんなデレデレなルーセウス、初めて見たわ」
セレナにドン引きされたけど、こんな話を聞かされて喜ばないはずがない。
「ま、まあそう言うことなら二人の関係は認めるわ。でもその…ディア王女はこの件はどう思っているのかしら?」
これまで俺とディア王女の仲を勘違いしていた手前、気まずくなったんだろう。
すごく聞きにくそうにセレナはディア王女へと尋ねた。
そんなセレナに、ディア王女はこともなげに返す。
「構いませんわ。私にも目的があってのことですし」
「目的?」
「有体に言えば、鬱陶しい婚約者候補達から逃げるために、ルーセウス王子に隠れ蓑になっていただきたかったんです。正直親の意向が多分に含まれた各国からの求婚は面倒で。ディオとルーセウス王子の仲を知って利用させてもらうことにしました。そこに打算はあっても愛情はありませんのでご心配なく」
ニコリと笑うディア王女に俺はその通りと頷くけど、家族達は驚いている様子。
(そう言えば言ってなかったかも)
単純に俺が一方的にディア王女を隠れ蓑にしたと思われていた可能性はある。
「つまり?」
「完全なる合意の上での政略結婚ですわ」
「そ、そう。まあお互い納得しているなら、いい…のかしら?」
「ええ。それにここは暗部が全くいないのでのびのび好きに情報収集ができて最高ですわ。ガヴァムはそう言った意味で動きにくくてしょうがありませんでしたもの。暗部と裏稼業の者達、各国の密偵達の目を掻い潜って動くなんて疲れる以外のなにものでもありませんし、それをものともせず利用しながら動けるディオは本当にすごいと思いますわ」
とても真似できないし、やりたいとも思わないとディア王女は言い切った。
「ですので、兄妹揃って受け入れていただければ幸いです」
ディア王女は笑顔でそう締めくくり、食事を再開する。
ここまで言い切られればもう何も言えないだろう。
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