王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第二章 側妃問題はそっちのけでイチャつきたい!

28.騎士達の言い分

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「ど、ど、ど、どんな魔法を?!」

ディア王女が驚愕の眼差しで俺を見つめ尋ねてくるが、言われていることの意味がわからない。

「魔法?」
「そうですわ!これまで騎士達を更生させたくて、ミラルカやアンシャンテの騎士達と合同訓練を何度もさせてきたのに、一向に変わらなかった、この!変態騎士達が!まともに訓練していましたわ?!」
「???つまりサボり魔達の宝庫だったのか?」

他国との合同訓練なんて良い経験になるだろうに、折角のチャンスを不意にするなんて勿体なさすぎる。

「俺だったら自分の力がどれくらい伸びてるかの指標にするし、普段とは違う指導をされたら上手く自己鍛練に取り入れられないか色々考えるけどな。強い奴と戦えるかもしれないし、それこそ其々の鍛錬法とかで意見交換だってしたら楽しいだろうし。折角の成長のチャンスを無駄にするなんて勿体ないぞ?」

そう言いながら騎士達を振り返ったら、今度は彼らが呆然を俺を見ていた。

「どうした?おかしな事でも言ったか?」

不思議に思って首を傾げたら、眩しいとばかりに膝をつかれた。

「感服致しました、ルーセウス王子。指導の際もおかしいおかしいと思いつつ、自身の腕が上がっていくのが楽しくてついつい童心に還るような気持ちで向かっていっておりましたが…」

代表の騎士が俺を見上げて言ってくる。

「今わかりました。貴方には邪念がない!剣に対するどこまでも真っ直ぐな姿勢。それが剣を合わせると我々に伝わってきて、邪な気持ちを抱かせないのです!」

騎士達がウンウンと皆共感するように頷いている。
邪念ってなんだ、邪念って。
皆真摯に強さを追求してないのか?
うちは真っ直ぐな奴らばかりだぞ?
そう考えてたらディア王女が怒ったように割り込んできた。

「邪念って何?私やディオが貴方達を真面にする為にしてきたことが邪念に満ちていたとでも言いたいの?」
「ディア王女!ああ、怒ったお顔も麗しい…どうぞそのまま至らぬ我らを踏みつけてください」

(あ、変態化した)

「だからそれがダメだと何度も言ってきたでしょう?!あのディオでさえ貴方達を見る目は虫ケラを見るような目なのよ?ちょっとは反省しなさい!」
「それは仕方がないのです!ディア王女もディオ王子も、打ち合えば打ち合うほど色っぽくなるんです!疲れで気怠げにしながらも一切手を抜かず我々の為に厳しく指導し、汗を光らせ色気が増し増しになって、そんな状態で蔑んだ目で見てこられたらもう!たまらんのです!」

何か…うん。
自然に想像できた。
確かにそのシチュエーションは変態達にはたまらないだろう。

「そんなの何の言い訳にもならないわ!私達以外が指導している時も大して変わらないじゃないの!」
「それも理由があるんです!合同訓練は目的が我々の更生といった要素が多く、とても厳しいのです!」

まあそれはそうだろう。わからなくはない。
目的が目的だけに、頼まれた方も訓練に力が入るはず。

「それで?」
「疲れ切ったら脳が囁くんです。虐められるって気持ちいいよなって…!」
「はぁ?!」
「ある種の防衛本能なのです!」
「ただドMなだけでしょう?!」

怒りが頂点に達して、ディア王女が叫んだ。

(う、う~ん…)

一応彼らは彼らなりに言い分があったようだし、なんとなくわかったから、そこを上手く調整してやればいいだけなんじゃないだろうか?
邪念云々もまた今度聞いてみればいいし、ここは丸く納めよう。

「あー…ディア王女。もし良ければだが、暗部の件でガヴァムには世話になるし、騎士団の方はゴッドハルトで定期的に世話をしようか?」
「え?」
「まあ距離があるから大々的に合同訓練とかはできないだろうけど、少数ずつうちに来て腕を上げて帰ってくれる分には良い刺激にもなっていいんじゃないかと思ってな」
「ルーセウス王子…」

騎士達の目がキラキラと輝く。

「まあ、指導はさっきみたいな感じで、個人のいいところを伸ばしつつ悪いところは直していくってスタイルだ。自分の腕を伸ばして強さを求める男は歓迎する。一緒に強くなろう」
「うおぉ!眩しい!」
「清々しいほど強さにしか興味がない!」
「その純粋な笑顔に浄化されてしまうっ!」

よくわからないが騎士達が勝手に地に伏せた。

「す、すごいわ。一瞬変態化しそうな気配を感じたのに、即座にその気配を無に帰すなんて…」

そんな大層な事、した覚えはないんだが?
意味がわからない。俺は普通だぞ?

「結果は出ましたわね、ディア王女」
「ヴィオレッタ王女」
「変態耐性について、私はローズマリー皇女とシェリル嬢は『ほどほどにしかなかった』と判断いたしました。でもルーセウス王子はそれに臆する事なく進み出て、ディア王女を助け指導を代わり、彼らを更生へと導き、且つ騎士団の正常化に向けての提案までこなされました。器の差は明らかですわ。これでお二人共ご自分達の力量が足りていないと、お分かりになられた事でしょう」

悠然と微笑んだヴィオレッタ王女にローズマリー皇女もシェリル嬢も涙目だ。

「どうぞ出直してきてくださいませ」

なかなかどうして彼女も大した器だ。
側妃には勿体ない女性だと思う。

まあだからと言って俺がディオの隣の席を明け渡す気はないし、彼女なら俺が駆けつけられない時でもディオを支えてくれるだろうなと思えるから有り難い存在ではある。
少々妬けるがここはグッと飲み込もう。

「ディア王女。私達はこれで失礼させていただきますので、ディオ様には宜しくお伝えください」
「「え?!」」

ローズマリー皇女とシェリル嬢がバッとヴィオレッタ王女へと勢いよく顔を向けた。

「そんな!せめてディオ様にご挨拶だけでも…」
「ディオは休むと言っていましたわ。折角快復に向けて眠っているのに、起こして邪魔をしてしまっては本末転倒です。ご遠慮下さい」

ヴィオレッタ王女が何か言うより先に、ディア王女がシェリル嬢へと釘を刺す。
ローズマリー皇女もそこは弁えているようでスッと大人しく引き下がった。

「そうですわね。ディオ様のご体調が最優先ですわ。後日改めてお元気な顔を見させて頂こうと思います」

うん。抜け目ない皇女だな。
しつこくせず引くべき時は引き、次の機会に態勢を立て直して再起を図る。
賢妃と名高いユーフェミア皇妃の血を引くだけのことはある。

「ではディア王女。今日はこれで失礼させていただきますわ」
「ごきげんよう」

ヴィオレッタ王女が目を光らせ二人を連れ帰ってくれて、残された俺達は揃って息を吐いた。

「私達も戻りましょうか。ディオが読みやすい報告書を作らないと」
「そうだな。俺は部屋で剣の手入れをしてからディオの様子を見てこようと思う。構わないか?」
「ええ。ルーセウス王子なら問題ありませんわ」
「なら良かった」

それから部屋へと戻る道すがら、ディオが近衛騎士達だけでも正常化した騎士で固めたいと思っている事、文官達の方の変態達もなんとかしたいと考えている事などを教えてもらう。

「ディオは日々変態の相手に疲れ切っていますの。だから淡白なのはしょうがないと思っていたのですが…」

そこでジトッとした目で見られて、ちょっと責められている気持ちになったが…。

「まあ好きな相手と毎日イチャつきたいと思えるようになったのは良い傾向ですわ。精々癒してあげてくださいな」

結果的にディア王女に認めてもらえ、あっさりそう言ってもらうことができた。

(癒しか…)

今夜はディオが望むだけ甘やかして、悩みも何もかも、一時的にでも忘れさせてやりたいなと思ったのだった。



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