王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第一章 俺がディオを堕とすまで

14.出した答え Side.ディオ

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部屋から出ていくルーセウスの背を呆然と見送り、今言われたことをなんとか思い返す。

ルーセウスの真剣に紡がれた告白は正直言って胸が震えるほど嬉しかった。
できればその手を取りたかった。

でもダメだ。
この手を取るのは間違っている。
誰も幸せになれない。
未来もない。
この手を取って、そのうちどうせ別れるのなら最初から取らない方が傷は浅い。

そう思った時点で、自分はいつの間にかルーセウスを愛していたんだとやっと気がついた。
でもだからこそ、ロクサーヌの時のように、幸せを願って手放さないといけない。そう強く思った。

精一杯の強がりで、幸せになってくれと突き放す。

(誰とでもいいから俺以外の相手と幸せになって)

それは確かに本心からの思いだった。
自分では幸せにしてあげられないから。
だからそう言った。

ルーセウスが結婚したら国と国同士立場をわきまえた関係で仲良くしていこうと思った。

それなのに、ルーセウスはよりにもよってディアと結婚すると言い出した。
どこの誰でもいいはずだったのに、一番身近にいる妹がルーセウスへと嫁ぐと聞いて、ショックを受ける自分がいた。

(なんて自分勝手なんだ、俺は)

俺は現実をちゃんと見れていなかったのだ。
自分こそが先に結婚し、罪悪感を抱きながら日々を過ごし、数年後に気持ちを落ち着かせて、俺を忘れたルーセウスをひっそりと祝福するのだろうと思っていたのに……。

(祝福…してあげられない)

手放すなんて無理だと思ってしまった。
ダメなのに、どうしようもなく心が悲鳴を上げている。
心の中がグチャグチャで、涙が止められない。
俺は一体どうしたいんだろう?

そんな混沌に陥りそうになる中、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。

「ディオ様?こちらですか?」

その声はアンシャンテのヴィオレッタ王女。
シェリル嬢やローズマリー皇女だったらきっと返事は返さなかった。
でも彼女なら話を聞いてくれると思った。
だから部屋に入ってもらったんだ。

「まあ…見事に打ちひしがれていますわね」

コロコロと笑い飛ばしながらスタスタと歩いてきて、俺の前のソファーへと優雅に座る。
こういう時、付け入るような行動をしてこないところが本当にありがたい。

「ヴィオレッタ王女…」
「心配なさらなくてもちゃんと話は聞いて差し上げます。どうぞ全部吐き出してくださいな」

テキパキとお茶を用意し、一人で勝手に飲み始める姿を見て、少しだけ気が楽になった。
他の誰かならきっとこんな気持ちにはなれなかっただろう。

「ありがとう…」

そしてゆっくりとルーセウスとの事を話したのだけど…。

「なるほど?つまりはお互いの側妃問題という事ですわね?」
「…正妃だけど?」

おかしい。
普通に経緯を追って話したのに、どうして側妃問題だと思ったんだろう?

「…………」

暫し二人で見つめ合う。
そうして暫く経ったところで、ヴィオレッタ王女がポンッと手を打った。

「ああ!そう言えばディオ様達は認識してないとかなんとか笑ってらっしゃったわ!」

よくわからない。
彼女は何を言っているんだ?

「まあまあ。気になさらないでくださいな。それで?結局ディオ様としてはどうされたいんですの?」

どうしたいかと聞かれたら正直途方に暮れていると言っていい。
でもヴィオレッタ王女と話せた事で、さっきよりは少しだけ冷静に考えられるようになっていた。

「ロキ父様は俺に早く譲位したいはずなんだ」
「そうですわね」
「でも譲位するなら先に俺の結婚をと周囲が言ってるのも事実だ」
「ええ。それも知っておりますわ」

先に譲位してしまうとロキ父様はさっさとカリン父様達とフォルティエンヌに行ってしまって、きっと帰ってこなくなる。
結婚式に確実に参列してもらうためにも結婚式の方が先だと、ある意味決定事項になっていた。
そして俺の結婚が決まらないとロキ父様は退位できない。
当然誰でもいいから結婚しろと言われるだろう。

「出すべき答えはわかり切ってるのに、ルーセウスと一緒にいたくて……手離さないといけないのに手離せなくて。…ロクサーヌの時より辛い」

逃げられない現実とルーセウスへの気持ちの板挟みで、結局答えを出せぬまま堂々巡りになってしまう。

いっそ全部投げ出したい。
そんな気持ちに襲われる。
でも王太子としての責任感を捨てることもできない。
自分の肩に国民の生活が掛かっているのをちゃんと理解しているからだ。

「なるほど。これは確かに他の方より私が適任ですわね」
「……?」
「ディオ様、ここはサクッと私と結婚致しましょう!」
「…え?」
「要するに結婚しろと煩い周囲を黙らせられればよろしいのでしょう?」
「それは…まあ」
「私なら他国の王女ですから、結婚式は普通の神式でできますわ」
「…………?」
「つまり、そうしておけば実際にことに及ばなくてもバレないということです」
「それは…」

まあ確かにそうだろう。
ガヴァムではほぼあり得ないが、他国では白い結婚なるものがあるという。
いわゆる偽装結婚だ。

「正直今のご心境で女性を抱けます?無理でしょう?その点誤魔化しがきくので、アリだと思いますわ」
「でもそれだとバレるんじゃ…」

流石にシーツの取り替えでわかると思う。

「それなら初夜は手技だけで可愛がっていただくというので如何です?血はこう…ピッと指先でも切ればいいですし。きっと誤魔化せます」
「…子供は?」
「そこはディオ様が欲しくなった時にまた話し合えば良いのでは?気負い過ぎも良くありませんし、気楽にいきましょう?」

あっけらかんと明るく言われて、彼女となら結婚してもいいかもしれないと思えた。

「勿論ルーセウス王子との関係にも協力させて頂きますし。如何です?」

情けない話、これ以上ないほどの提案だった。
一人で答えを出せない今の俺にはこの話を蹴る理由はない。

「そもそもの話、素直にロキ陛下にルーセウス王子と結婚したいと一言仰れば笑って解決いただけたでしょうに」
「どうかな?結局のところロキ父様は俺よりカリン父様の方が大事だから、誰かしら結婚しろとは言われたと思うけど」
「うふふ。でもきっと今ほどは悩まずに済んだはずですわ?」
「結果は同じなのに?」
「ええ。だってディオ様?貴方の正妃と言うか正室は、既にルーセウス王子なんですもの」

「…………は?」

ヴィオレッタ王女からコロコロと楽しげに笑われて、どういう事かと詳しく聞いたら、まさかまさかであの時の予行練習の時点でルーセウスと俺の婚姻が成立していたと聞かされて思考が停止してしまった。

(え?でもあれは…)

立会人がいなかったから成立しているはずがない。
そう思ったのに────。

「護衛の暗部が立会人になっていたそうですわよ?あっさり成立していたそうです。まあでも…ロキ陛下に遊ばれましたわね。きっとディオ様の気持ちなんてあの方はお見通しだったと思いますわ」

その時点で報告されていたら、きっと俺は『あれはただの予行練習だった』と言い張っただろう。
そうなったらきっとロキ父様は『ふーん』でサクッとなかったことにしたはず。

でもそれをすることなく、独断でさっさと書類を作って婚姻を成立させたのは、俺がルーセウスから結局離れられないとわかっていたからかもしれない。

とは言え誰もツッコまなかったんだろうか?
それが本当に成立していたなら反対の声の一つや二つ絶対に上がったはず。
カリン父様なんて聞いた途端に絶対にどういう事だと飛んでくるだろう。
それなのに誰にも何も言われなかった。
だからあの予行練習の婚儀が成立していたなんて気づかなかったのだ。
そんな疑問にヴィオレッタ王女がサラリと答えをくれる。

「それはそうでしょう。ロキ陛下が大丈夫と認めた口が固くて文句も言わない人達にしか周知されていないのですもの」
「じゃあ…?」
「カリン陛下でさえご存知ではない話ですわ。私はロキ陛下に認めていただけたからこそ知っているだけですの」
「じゃあディアは?」
「ディア様はまだ知らないはずですわ。ルーセウス王子とディオ様の関係くらいは知っていると思いますけど、恐らくロキ陛下は伝えていらっしゃらないんじゃないでしょうか?」

状況判断でその辺りの差配は決めているようだったからとヴィオレッタ王女は口にする。
つまりディアの口からルーセウスに伝わってはいないということ。

「……じゃあルーセウスが知ったら、ディアとの結婚もなくなる?」

思わずそう口にしたらクスリと笑われる。

「なくなった方が嬉しいですか?」

嬉しいか嬉しくないかと聞かれたら嬉しい。
でも結局それは俺のエゴでしかない。

ディアが嫁がなければ他の誰かが嫁ぐことになるのは変わらないし、きっと他の誰かが嫁いだ場合、俺はルーセウスの正妃ではなくなるはずだ。
相手がそれを良しとするはずがないのだから。
それがわかるからこそ首を横に振る。

正直心持ち一つでこんなにもあっさり答えが出せるのかと、自分で自分に驚いた。

「ズルい考えだけど、このままいかせてもらう。俺は…ルーセウスの正妃でいたい」

だからディアが嫁ぐと言うならその通りにしてやろう。

「答えは出たようですわね」
「ああ」

彼女は笑顔で俺が出した答えを受け入れて理解してくれる。
だから気負わずに婚約に踏み切れた。

「ヴィオレッタ王女。勝手なことばかりですまない」
「謝られるより、お礼を言っていただけた方が嬉しいですわ。私もディオ様の側妃なら、退屈せずに済みそうですし、お父様も満足してくださるでしょう。まさにwin-winですわ」

屈託なく笑う彼女に困った笑みを浮かべてしまうけど、俺はそっと手を差し伸べて『ありがとう』と伝えたのだった。


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