王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第一章 俺がディオを堕とすまで

11.パーティー

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今日は予定していたガヴァムでのパーティーの日。
ディオと二人でパーティーに出るのは初めてだからドキドキする。
前日にガヴァム入りしたからディオといっぱい愛し合えたし、気分も上々。
今日は心身共に満たされている。

「こうして見るとルーセウスって凄くモテそうだな」

正装姿をマジマジと見つめた後ナチュラルに言われて、そう言えばディオに俺の容姿について何か言われたのは初めてだなと思った。

「ディオから見て、俺ってそんなにモテそうに見えるか?」

まあ特にモテたことはないのが実情だが。
基本的に剣バカな俺は鍛錬場にいることが多いし、気品なんてものは皆無だ。
近隣諸国の王族達と比べるとどうしても粗野な印象は拭えない。
だからディオのその言葉は意外でしかなかった。

とは言え、ちょっと小狡いけど、今ならディオが俺の事をどう思ってくれているのかを聞き出せるかもしれない。
内心ドキドキしながら返答を待ってたら、誉め殺しにあって死ぬかと思った。

「いつもは威風堂々って感じでカッコいいけど、正装だとまた印象が変わるから。精悍な顔つきもそうだけど、タンザナイトみたいな瞳は綺麗だし、姿勢も良いから目が引き寄せられる気がする。でもやっぱり親しみやすい笑みで、気さくな雰囲気があるのが一番そう思うポイントじゃないかな?俺もそうだけど、そんなルーセウスに好印象を抱く女性は多いと思うんだ。それに背も高いし、普段から鍛えてるから身体つきもしっかりしてて頼もしいだろう?安心感があると言うか、包容力を感じさせると言うか…やっぱりこの辺りが魅力的に映るんじゃないかなって。ルーセウス?どうかしたのか?」
「ディオ…俺のこと、そんな風に?」
「…?客観的に見た正当な評価だろう?」
「いや!それもう、どこからどう聞いても俺のこと大好きだろ?!ディオ!今すぐ付き合おう!」
「無理」

一刀両断。スパッと断られた。
何故だ!

(絶対俺の事が好きなのに!!)

歯痒すぎる。

「ほら。じゃれ合いはこれくらいにして、あそこ」

ついっとディオの指先が一つの方向をさりげなく示す。

「あそこにいるのが例の公爵令嬢」

そこには一際煌びやかに着飾った一人の令嬢がいた。

ミラルカのローズマリー姫が華奢で可愛らしいタイプとすると、彼女はその真逆をいくタイプ。
メリハリのある肢体を持つお色気美人だ。

「胸がデカいな」
「あ、ルーセウスは胸が大きい女性が好みなんだ」
「なっ…!俺の好みはディオだぞ?!」
「それは好みとは言わないから」

思い切りスルーされた。
他の女よりディオが好きだって言ってるのに今一伝わらないのはどうしたらいいのか。

「ディオ…」
「ディオ様!!」

ちょっと言い含めてわからせたいと思ったタイミングで、顔を輝かせたその女がこちらへと素早くやってくる。

「本日もご機嫌麗しく。貴方のシェリルが参りましたわ!」

(貴方のシェリル?!)

図々しいにも程がある。
しかもディオをうっとり見つめながら早速とばかりに腕に絡みつこうとしたから、即ディオを引き寄せてブロックした。

「あら。初めてお見かけするお方ですわ。失礼ですがこちらは?」
「彼は私の友人で、ゴッドハルトの王太子、ルーセウス殿だ」

公務モードでニコリと笑い、俺を紹介するディオ。

「ルーセウス=ヘルト=ゴッドハルトです。宜しく」
「シェリル=バーネットですわ。どうぞお見知りおきくださいませ」

言動は兎も角として、彼女は美しい所作でカーテシーを披露してくる。
優雅に微笑む姿は見事なもので、その教育の高さは垣間見えた。
恐らく他の花嫁候補が他国の王族だから、対抗する為にかなり厳しい教育を受けてきたのだろう。

他国の姫達と違い、彼女は頻繁にディオにアピールできるのが強みと言えば強み。
一番のライバルだったディオの想い人を蹴落としたなら、側に侍りに来るのも当然と言えば当然だ。

「ルーセウス王子は王太子殿下でいらっしゃるのですね。もうご婚約者はいらっしゃるのかしら?ディオ様はまだ決まっておられなくて、私、ヤキモキしておりますのよ?」
「ゴッドハルトは新興国なので、他国ほどその辺りはうるさくないんですよ。婚約したい相手ができたら連れてこいといった感じですね」
「大らかなお国柄で羨ましいですわ。ガヴァムはその辺りは周囲が煩くて。昔からディオ様の結婚相手には注目が集まっているのですわ。私も幼い頃からお慕いしておりまして、選んでいただけるよう努力を重ねて参りましたの」

うふふと笑いながら、物凄く自然にディオの腕にくっつこうとしたからこちらもディオをさりげなく抱き寄せながらサッとそれを逃れにかかる。
全く油断も隙もない女だ。

「ロクサーヌ様が身を引かれて、ディオ様の正妃の座を狙う女性が後を絶ちませんのよ?それだけじゃなく男性まで慰め目的で近づいてくるから、本当に目が離せなくて」

その言葉に思わず反応してしまう。

「男もディオに?」
「ええ。まあディオ様は、今のガヴァムでは非常に貴重なノーマルで一途な方なので、そんな者達は歯牙にもかけておりませんけど。ウフフ」

シェリル嬢は笑っているが、そんなディオと俺に身体の関係があると知ったらきっと激怒することだろう。

「…そうは言っても力づくで襲おうとする者も居るのでは?」

少し心配になって探りを入れると、クスリと笑われ、それは大丈夫だと断言された。

「ディオ様もお強いですし、ご心配には及びませんわ。それにディオ様は裏の方々からとても可愛がられておりますもの。無体を働こうとすれば即日で消されると専らの噂ですわ」

それは怖い。
俺が消されなかったのはディオが受け入れていたからだろうか?
ガヴァムの暗殺者は凄腕と聞いたことがあるから、ちょっとだけ冷や汗が出た。

「それよりもディオ様。最近お会いできず寂しかったですわ。今日は沢山お話ししてくださいませ」
「すまないけど、今日はルーセウス王子に大臣達を紹介して、有意義な話を沢山していってもらいたいんだ。ゴッドハルトはまだまだこれからどんどん栄えていくだろうし、その一助になればとね」
「まあ…それではあまり無理は言えそうもありませんわね。それでしたら後日にでも是非お時間をいただきたいですわ」
「公務の合間に時間があれば考えておくよ」
「そう言っていつもお忙しいと、ちっともお会いしていただけないではありませんか。ロクサーヌ様とはあんなにお時間を作ってお茶を飲んでいらしたのに。ズルいですわ」
「そうだね。ロクサーヌと君じゃ、比べるまでもなく天と地ほど重要度が違うから仕方がないよ」

ニコッとディオが微笑みながら毒を吐く。
意外だ。
こんなディオは初めて見た。
それだけ失恋相手とのことは地雷だったのかもしれない。

「私ではお時間を作る価値もないと?」

悔しそうに涙を浮かべプルプル震える公爵令嬢。

「傷口に塩を塗る行為をされたらそうなると…わからないかな?」

(うわぁ…)

これは怒ってる。
いつも穏やかなディオが本気で怒っている。
物凄く冷たい。

そんな中、明るい声が割り込んできた。

「ディオ様。お取り込み中ですか?」
「ヴィオレッタ王女?」

目をやると金髪碧眼のいかにも活発そうな印象の女性が立っていた。
どうやら彼女はアンシャンテの姫らしい。
ちょっと思っていたタイプとは違っていて驚いた。

「こちらがロキ陛下から先程伺ったゴッドハルトの王太子様かしら?良い男ですわね!ディオ様が気に入るのもわかる気がしますわ」

何の含みもない満面の笑みを向けられて、他の候補達とは一線を画しているなと感心してしまう。

「ゴッドハルトの王太子、ルーセウス=ヘルト=ゴッドハルトです。どうぞ宜しく」
「ご丁寧なご挨拶痛み入りますわ。私はヴィオレッタ=ダリア=シャンティ。ディオ様とは昔ディア様と三人でうちのお父様に痺れ薬入りのクッキーを渡して一緒に叱られた仲なんです。楽しい幼馴染枠ですの。宜しくお願い致しますわ」

コロコロと楽しげに笑う姿に毒気が抜かれてしまう。
それはディオも一緒だったのか、クスリと笑ってヴィオレッタ王女へと視線を向ける。

「ヴィオレッタ王女。ルーセウス王子にあまり昔の恥ずかしい話は教えないでくださいね」
「あら。きっとディオ様の意外な一面を知って喜んでいただけるのでは?」

そうですよねと目を向けられ、確かにと俺も頷く。
もっと色々聞かせてもらいたいくらいだ。

「是非、教えていただきたいです」
「ウフフ。では滑って転んで顔面キャッチのお話でも…」
「ヴィオレッタ姫!そういうことでしたら是非お二人でじっくりお話しくださいませ!ディオ様!先程は申し訳ございませんでした。是非お詫びをさせてくださいませ!ここは賑やかですし、あちらで静かに二人だけでお話し致しましょう?」

存在を忘れかけたところでシェリル公爵令嬢が割り込んできて、素早くディオの腕を引いて俺から引き離そうとしてくる。
本当に油断も隙もない。
勿論黙って連れ去られるような失態は犯さない。
させるはずがない。
俺はしっかりとディオの腰を抱き寄せた。

「あらあら。シェリル様ったら…。困ったお方ですこと」

そんなシェリル嬢へと微笑み、スッと近づいてサッと離れるヴィオレッタ王女。
するとシェリル嬢の身体がフラリと眩暈でも起こしたかのように揺れた。

「…え?」
「シェリル嬢。どうやら少々お疲れのようですね。椅子を用意しますので、どうぞそちらにお掛けください」
「馬車の手配を」

ディオとヴィオレッタ王女が息ぴったりにシェリル公爵令嬢を介抱して、素早く馬車の手配まで終わらせる。
あまりにも鮮やか過ぎる手際の良さ。
まるでシェリル嬢の具合が悪くなるのがわかっていたかのようだ。

「ヴィオレッタ王女。鮮やかですね」
「あら。本当ですか?ディオ様にそう言っていただけると自信がつきますわ」

シェリル嬢を見送った後、笑顔でそんなやり取りをする二人にヤキモキする。
でもこの会話で恐らく何かしたんだろうということだけはわかった。

「ディオ?」

どういうことだと暗に問う。
するとヴィオレッタ王女が悪戯っぽく笑ってこう言った。

「ロキ陛下のご指示でちょっとチクッとして差し上げただけですわ」
「え?!」
「症状から見て暗部特製の軽い痺れ薬だから、特に後遺症も出ないし安全なものだよ」

サラリと口にされる内容に愕然となる。
流石ガヴァム。噂通りの怖い一面があった。
ただそれを平然と実行してしまうアンシャンテの王女がまた怖い。

「ではディオ様。私これからロキ陛下に報酬をいただきに参りますので、これで失礼しますわ」
「ありがとう。ヴィオレッタ王女」

手を振ってあっという間に姿を消すヴィオレッタ王女。
そこにディオへの恋情は全く見られない、実にあっさりした態度だ。

「じゃあルーセウス。行こうか」
「え?」
「言っただろう?折角来たんだし、大臣達に紹介するよ。俺も手伝うから、いっぱい話を引き出して、使える情報があればしっかり活かして将来ゴッドハルトを治めるのに役立ててほしい」

その言葉に目を丸くする。
ただの女避けに呼んだわけじゃなく、俺のことも考えてくれていたのかと胸がいっぱいになった。

「ディオ…ありがとう」

嬉しい。

「俺がルーセウスにしてあげられるのは、これくらいしかないから」

感激する俺とは対照的に、そう言ったディオの顔は何故か憂いを含んでいるように見えたけど、どうしてそんな顔をしているのかわからないまま、俺はディオに促されるまま挨拶回りへと向かったのだった。


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