王子の本命~無自覚王太子を捕まえたい〜

オレンジペコ

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第一章 俺がディオを堕とすまで

3.ルーセウスと俺の微妙な関係 Side.ディオ

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幼い頃からずっと好きだった相手にフラれてしまった。

『ごめんなさい。私は貴方の気持ちには応えられないわ』

悲しそうに俺を見るのは、幼い頃からずっと思い続けてきた5つ年上の令嬢だった。
本気で恋して、いつか結婚するんだと夢見ていた相手だったのに、こんなにもあっさりと振られてショックが大きかった。
だから公務で国を離れゴッドハルトに来られたのはある意味救いだったかもしれない。

「ロクサーヌ…」

昼間は公務もあったから思い出すこともなくなんとか取り繕えたものの、夜一人になると考えるのは彼女のことばかり。
彼女を忘れられなくて、胸が痛くて夜も眠れない。
仕方なく庭に出て風に当たってみたものの、結局物思いに耽るから気分転換にはならなかった。

そんな俺のところに、ゴッドハルトの王太子であるルーセウスが顔を見せた。
どうやら俺を心配してくれたらしく、親切にもそれとなく話を聞いてくれたのだ。
しかもなんと抱いて忘れさせてやるとまで言ってくれる親切さ。
年上の安心感が凄い。

とは言え実際はある意味勢いが大きかったんだろう。
部屋について、いざという時にルーセウスの童貞が判明したから、遊びではなく本気で慰めてくれる気で誘ってくれたんだなとじんわりと心が温かくなった。

俺も男に抱かれるのは初めてだし、ここは年下とは言え知識がある俺がリードすべきだろうと閨本の中身を思い出しながら彼にあれこれ教えてあげた。

ちなみに現在のガヴァムの閨指導本はロキ父様が監修した最新版で、全12巻となっている。
自慰の仕方から初夜での悦ばせ方。男女でのやり方の違い。玩具の使い方から複数プレイ。更にはハニートラップへの対策まで幅広く網羅されていて、絵で解説までつけられていてとっても分かりやすくまとめられてあるから、その本は一部を除き密かに庶民にまで広がっているくらいだ。
お蔭で我が国の出生率はこれまで以上に鰻登り。
経済の発達と共にガヴァムは輝かしい時代を築き上げていた。

俺もディアもこの本は熟読済みだから、知識だけはしっかりある。
だから教えてあげられたのだけど、誤算だったのはその本の内容が素晴らしすぎたという点だろうか?
伊達に『これさえあれば初めての相手でも悦ばせられる』と言わしめられるだけのことはあった。

教え始めの最初はまだ余裕が保てたのに、ルーセウスに本の通りに実行させたらあっという間に俺の余裕が消えてしまったのだから。
流石ロキ父様監修と言いたくなるほど、初めてなのに気持ちよくなれてしまって困ったほどだ。

結果的に頭が真っ白になるほど感じることができて、ルーセウス王子には感謝しかない。
だから『悪くない初体験だった』と思いながら俺は笑顔で国に帰ったんだ。

本当に俺にとってはそれでおしまいといった関係だったのに────何故かその後ツンナガールが送られてきて、ルーセウスと連絡を取り合う仲になった。
お互いに王太子同士だし、国と国の繋がりとしてはおかしくはないかと思い、友人として付き合うことにしたのだけど…。

ハニートラップ対策も書かれてあって勉強になるからと閨指導本を一式送ったのが悪かったのか、その後再会した際に『抱きたい』と言われて驚いた。
まあまだ失恋を少しだけ引きずっていたのもあってその時は快諾したのだけど、恋愛関係を求められて困惑してしまう。

「ディオ。好きだ。俺の恋人になってくれないか?」

いや。どう考えても無理だろう?
俺達は王太子同士なんだから。
なのにどうやらルーセウスは本気で俺と恋仲になりたいらしい。
その表情は真剣そのもの。

困った。
ルーセウスの事は嫌いではないし、どちらかと言うと好感を持ってはいる。
話していて楽しいし、視野も広がるから有り難い存在だ。
友人として申し分のない相手。
言ってみればロキ父様とミラルカのレオナルド陛下みたいな関係だと思う。

だから断ったのだけど、ルーセウスは納得してくれなかった。
仕方なくその場はお茶を濁して国へと帰り、下手に動いて国同士の仲が拗れても困るから、一応ロキ父様に相談してみることにしたんだ。

そしたらあっさりと『そんなにややこしく考えなくても、もう身体の関係があるのなら後は堕とし切ればいいだけだろう?簡単だ』と言われて目から鱗が落ちた。
どうやら自分に夢中にさせてしまえばなんでも言うことを聞いてくれるようになるということらしい。
確かにアンシャンテのシャイナー陛下なんかは良い例だろう。
ロキ父様があまりにも簡単そうに言うから、取り敢えずやってみようと早速実践してみることに。

だからそれ以降もルーセウスを避けるのではなく積極的に交流をしたし、会って誘われる度に快諾して、積極的に寝たんだ。

でも狙い通りルーセウスをどんどん自分に夢中にはさせられたけど、そこからが難しい。
さっさと堕ちてもらって早急に適度な距離を取らせないと、俺の方がハマりそうで怖い。
ルーセウスは例の本を熟読したのか、的確にツボを押さえて攻めてくるし、元々身体の相性も良かった上にテクニックもどんどん上達していって、俺の余裕なんてあっという間に消えてしまいそうになるのだ。

ダメなのに、気持ち良過ぎて溺れてしまいそう…。

これはマズイ。
俺が先にルーセウスに陥落したら意味がない。
そうなる前になんとかルーセウスを堕としきって、俺との恋人関係は諦めて、友人の距離感を取るよう言い含めないといけないのに────。

気づけばこちらが親友と言っていいほどルーセウスに好感を抱いてしまっていて、すっかり仲良くなってしまっていた。

これはどうしたらいいんだろう?




「ロキ父様。ちっとも上手くできません。どうしたら上手くいくかアドバイスが欲しいです」

肩を落としながらこれまでの経緯をロキ父様へと話し相談したら、アハハと笑われて『そこまでいったら手遅れかも。もう諦めて一旦くっついたらいいじゃないか』とあっさり言われた。

酷い。
そんな将来性が欠片もないような事を言わないで欲しい。

「一度付き合ったら向こうだって満足するだろうし、関係を終わらせたくなったら中途半端な今よりは理由をつけて綺麗に終わりやすくなるだろう?」
「えぇ…?」

それはアリなんだろうか?
よくわからない。

「ロクサーヌに振られた時、お前は泣いたけど、彼女の幸せを願って見送れるくらいの気持ちしかなかった。それはまだ綺麗な初恋だったからだと思う」

ロキ父様は前触れもなく俺にそんなことを言ってくる。

「どんなに辛かろうと最終的に手放せるのは恋心。必死になって掴み取りたくなるのが愛のきざはしだと俺は思う。ディオがフラれた時に、みっともなくなりふり構わず相手を求め足掻いたなら…そこまで好きになれていたら、俺もロクサーヌを引き留めて正妃にと推したんだけど」

確かにあの日、泣く俺にロキ父様は聞いてくれた。
『ロクサーヌをどうしたい?』と。
あれは『何が何でも正妃に迎えたいか?』という意味だったのかと遅ればせながら気がついた。

てっきりロキ父様のことだから『調教してでも引き留めたいか?』って言われてるのだと思って、『彼女には幸せになってもらいたいんです。フラれたのは辛いけど、ちゃんと諦めます』と答えた。
『手放せるんだ』って驚かれたけど、無理強いはよくない。そう思って頷いたのを覚えている。

「聞く限りルーセウス王子はディオに夢中みたいだし、このままズルズル中途半端に引っ張るよりも、取り敢えずくっついてから考えた方がいいと思う」

変に現状を長引かせる方がルーセウスの執着心が増すから、却って逃げるのが難しくなるぞと忠告された。
まさかそんなことを言われるなんて思いもよらなかった。
愕然とする俺にロキ父様は続けて言う。

「逃げ切りたいなら同情なんて必要ない。割り切って付き合って、頃合いを見計らってさっさと切り捨てればいい。やり方はいくらでもあるから必要ならそれも教える。でもそれができないなら、お前も憎からず相手を想っているということだし、そのまま付き合いを続ければいいし、結婚したっていい。この先どうするかなんて、それから考えたって遅くはない。そうだろう?」

ニコリと笑顔で言い切られた。

(そんなただの恋愛みたいに…)

でもそうだ。この人はこういう人だった。
国のことは二の次で、好きな人が最優先。
一見爛れた性生活を送っているように見えるけど、ちゃんと線引きがあることくらい知っている。

そんなロキ父様からすれば、お互いに王太子同士だろうときっと関係ないのだろう。
自由に好きなように生きてる人だから、簡単にそう言ってしまえるのだ。

(相談相手を間違えたかも…)

今更ながらそう思う。
恋愛だけならロキ父様で良かったけど、国が絡む話だったしカリン父様に相談した方が良かったのかもしれない。
そう思ったところで、こちらの考えを見透かすかのようにクスリと笑われる。

「ああ、ちなみに兄上に最初の時点で相談してたら、きっと交流自体をやめろと言われたと思うな」
「え?」
「公私は分けるべきだから、問題が生じたら双方の気持ちが落ち着くまで距離を置くべしってね。それが元々の王族教育にあるんだ。でもそっちの方が危ういのにね?俺だったらそんな相手の方が落としやすくて、逆に笑ってしまうけど」

クスクス笑うロキ父様の目には楽しそうな色が浮かぶばかり。
恋愛上級者の考えはさっぱりわからない。

取り敢えずこれ以上ここに居ても『くっついてから考えろ』という以上の意見は得られなさそうだし、部屋に戻ろうかな。

そんな俺にロキ父様が意味深に微笑みながら告げてくる。

「ディオ。くっつく以外の方法で本気で逃げ切りたいなら、相手は誰でもいいから結婚して、そのまま王位につくといい。相手は王太子。こちらが王になればもう強気には出れなくなる。いつでも即日で譲ってあげるから、その気になったら言っておいで」
「それは単にさっさと引退してカリン父様とイチャイチャしたいだけでしょう?まだまだ現役で頑張ってください」

状況的にとっても心強い言葉のはずなのに、ロキ父様が口にするとどうしても『早く退位したい』としか聞こえないから非常に困る。
重鎮達から恨まれたらどうしてくれるのか。

そうして俺は困った顔でお礼を言って、自室へと帰った。


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