聖女の従者は副業を始めました

オレンジペコ

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30.ぶっ飛ばしていいかしら? Side.聖女

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昨日帰り際にもう貴方の同居人は探さなくてもいいわよと言ってあげようと思っていたのに、タイミング悪く急患が入ったせいで言いそびれてしまった。
でも翌朝顔を出したジェイドはどこかスッキリとした顔をしていて、いつも通りのジェイドの姿に戻っていたので不思議に思ってしまう。

「ジェイド、大丈夫なの?」
「はい。お騒がせしました」
「もう…あの男のことはいいの?」
「いえ。昨日顔を見て安心できたので」
「…………え?」

あの男がジェイドの前に顔を出した?
どの面下げて?

「ジェ、ジェイド?!また一緒に暮らすってことなの?!」
「いえ。どうやら記憶が戻ったようだったので、家に帰しました」
「家に帰した…?」
「はい」
「そ…そうなの。その…誠意あるお話し合いはできたのかしら?その…向こうの事情とかも含めて……」
「いいえ。でも持参金の話をしていたことから多分貴族だと思うんで、込み入った話をされても仕方がないと思って深くは聞きませんでした」
「な…?!ま、まあ確かにそうかもしれないけれど……」
「ただ、一年後に迎えに来ると言ってもらえたので、それまでに従者の後任を頑張って探そうと思います」
「え…えぇ~……。事実上婚約したっていうこと?で、でもねっ!この仕事はずっと続けてくれてもいいのよ?」
「大丈夫ですよ、聖女様。聖女様のお眼鏡に適う相手を必ず見つけてみせますから」

輝く笑顔で言いきられてちょっとどころではなく凹んでしまう。
こんなにすっぱりと言い切られたら、本気で付け入る隙が無いではないか。

「さ、聖女様。今日の朝一番の患者さんは貴族の方で、毛根を蘇らせてほしいという深刻なものです。よろしくお願いしますね?」

私の恋心を滅多打ちにしながらそんな風に人の毛根の心配をするジェイドに涙が出る。

(ちょっとは毛根よりも私を思いやってほしいわ…!)

そう思いながらも仕事に打ち込んで、絶対にあんな男、認めてやらないんだからと強く思った。


***


それからひと月後────私の元に二通の手紙が舞い込んできた。
一通は王太子からのパーティーのお誘い。
もう一通は王弟からで、嫌な予感を感じつつその中身を確認すると。

(息子の婚約の申込み……?もしかして……っ!)

ビリィッ…!!

その息子の名と文面を確認してすぐ、私はその手紙を破り捨てた。

(あんのクソ男が────!!)

ダンッ!!グシャッ。

手紙を破り捨て思い切り踏んづけてグリグリ踏みにじる私の姿に、一体何事だとジェイドがすっ飛んでくる。

「聖女様?!何かありましたか?」
「な、何でもないのよ!それよりも今日は急ぎの仕事はなかったかしら?」
「ええ。まあ」
「王太子様からパーティーの招待状を頂いたのよ。二週間後に復帰パーティーをするんですって」
「そうでしたか。またドレスがいりますね」
「まあわざわざ買わなくても物置部屋から引っ張り出してきて適当に着ていけばいいでしょう。午後の時間の空いた時間にでも合わせたいわ。時間を作ってちょうだい。ついでに他の物は返しやすいように上手く纏めておいてちょうだいね」
「ああ、それは既に終わってるんでいつでも大丈夫ですよ?ドレスの色はどうしますか?」
「ジェイドに全部任せるわ。私に似合うと思うものをジェイドのセンスで選んでちょうだい」

装飾品も靴もドレスも全部ジェイドに丸投げよ!
そんなことより一刻も早くあの男を引っ叩きにいかなくてはという使命感の方が強かった。

「ねぇ、ジェイド」
「なんでしょう?」
「結婚の約束をした男がたったひと月で約束をたがえて他の女性に求婚したら、半殺しの目に合っても文句は言えないわよね?」
「え?」
「言えないわよね?」
「まあそうですね。でもそんな最低な男は幸せにはなれないと思うので、わざわざ聖女様が怒りを露にしなくてもいいんじゃないでしょうか?勝手に自滅するでしょうし」

もしや王太子のことかと首をひねりながらそう答えたジェイドに私はにっこりと笑いつつ、心の中であの男を絞め殺してやった。
こんなに疑いもしないほど愛されてるくせに裏切るなんてと。
王太子といいあの男といい、どうして男というものは自分を助けた相手に弱いんだろう?
そもそも助けた相手というならジェイドを大事にしなさいよと文句を言いたくて仕方がなかった。
移り気な男に腹が立ってイライラしてしまう。

「あ~もう!本当に王族には碌な男がいないわね!」
「聖女様。ちょっと落ち着いてくださいよ。折角の可愛い顔が歪んでしまいますよ?」
「可愛い?本当に?本当にそう思う?」
「ええ、まあ客観的に見れば?」
「嬉しいわジェイド!ねぇ、今日の仕事が終わったら一緒に夕飯を食べましょう?たまにはいいでしょう?一人分作るのも二人分作るのも変わらないでしょうし」
「…………まあ、今は一人ですし、別に構いませんけど」
「やったわ!じゃあお願いね!」
「はいはい。じゃあお仕事の方頑張ってくださいね」

珍しいジェイドの快い返事に機嫌の悪さはあっという間に吹き飛んで、ウキウキしながら仕事に戻る。
ついでに予定を調整してもらって明日の午後に一人で王弟の屋敷に行くことにした。
やっぱり一言ビシッと言ってやらないと気が済まないからだ。

「さて、あのふざけた男をどうしてくれようかしらね?」

ふふふと聖女にあるまじき笑みで笑っていると、すかさずジェイドから『顔、顔』って突っ込まれたけどそんなこと知ったこっちゃないわ!

(覚えてなさいよ、あのクソ男~!!絶対ぶっ飛ばしてやるんだから!)

こうして私は明日へと闘志を燃やし、愛しいジェイドに癒されながら仕事に励んだのだった。

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