聖女の従者は副業を始めました

オレンジペコ

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17.安らぎの家 Side.レイモンド

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駆けて駆けて駆けて、必死に森を抜けやっと一息ついた。

正直本当に生きた心地がしなかった。
まさかあんな場所でオーガキングに出会うなんて誰が予想できただろう?
それもこれもあんな場所で人同士で争っていたせいなのかもしれないが…。

命が助かっただけでもよしとしなければと荒い息を整え、ジェイド特製栄養ドリンクポーションを口にした。
スッと身体に染み渡るポーション由来の栄養素が速やかに魔力と体力を回復してくれるのを感じてホッと息を吐く。
やはりこのポーションは凄い。
今度お金をちゃんと払って沢山作ってもらおうと思った。

それからギルドへ寄って元々のサーベルウルフの依頼の完了手続きをしてもらい、ついでにオーガキングが出た件についても報告を入れておいた。
俄かには信じがたいと言われたが、信じる信じないはギルドに任せると口にしたら調査隊を出しておくとは言ってもらえたし、きっと大丈夫だろう。
それらの一連の処理を終えてやっと家に帰る事ができる。



疲れたと思いながら家路につくとそこには明かりの灯った温かな家がある。

「おかえり、レイ」

いつもとは逆で笑顔で俺を出迎えてくれるジェイドの姿を見て、俺は涙腺が緩むのを感じた。

(ああ…無事に…ここへ帰ってこれた……)

そう思ったら勝手に涙が出てきて、そんな俺に驚いて優しく中へと入れてくれたジェイドにソファへと連れて行かれ、泣き止むまでただおとなしく抱き締められていた。
ずっと張りつめていた神経がジェイドの腕の中でゆっくりとほぐれていく。
生きてここに帰ってこれて本当に良かった────そんな気持ちで次から次へと込み上げてきてしまい、なかなか涙を止められない。

「今日は大変だったんだな」

根掘り葉掘り聞いたりせず、ただ穏やかな声でそう言ってくれたジェイドはやっぱり自分より大人なんだと思って、安心してつい甘えてしまった。

「ジェイド…今日はジェイドのポーションに沢山助けられたんだ」

だから────沢山のありがとうを伝えたい。

涙が止まってからぽつりぽつりと今日の出来事を話せる範囲で話した俺に、ジェイドは明るく笑ってくれる。

「良かった!じゃあ、栄養ドリンクと目くらましは追加で渡しておこうか?」
「助かる…。ちゃんとお金は払うから」
「いいよ。それよりさ、そういう時はついでに魔物除けポーションも使ったらもっと安全に簡単に逃げられたと思うけど?」
「え?」
「あのポーション、対魔物専用嗅覚麻痺成分と認識疎外成分が入ってるからさ、見つかりにくくなるんだよ」

ジェイド曰く通常の魔物除けポーションというのは魔物が嫌いな匂いを放つようなものらしいのだが、それだと効く魔物と効かない魔物が出てきてしまう。そこで、嗅覚ではなく視覚に訴えた方がいいんじゃないかと考えて作ったものがジェイド特製の魔物除けポーションなのだとか。

魔物の嗅覚を狂わせる成分と認識疎外成分を合わせることで完璧に魔物から認識されなくなるらしい。
そこに嫌悪感を覚える成分を混ぜることによって魔物の方から忌避してくれるからほぼ100%魔物に会わなくなるのだと説明された。
だから余程ではない限りそれさえあれば逃げ切れるよとサラッと言われた。

というよりも、その説明を聞いてその忌避成分を入れなければ認識疎外効果に特化したポーションを作れるということなのでは?と思った。
試しに聞いたらサラッと「できるよ」と言われてしまって俺はジェイドの才能に改めて驚愕してしまう。
本当にジェイドは冒険者の仕事をわかってないんだなと思いながらも、だからこそ自由な発想で色々作れるのかもしれないとも思った。
お試しでいいから今度作ってくれないかと頼むと笑顔で了承してもらえたし、今度強敵に挑む際には是非使わせてもらいたい。
相手から認識されなくなるのだから使い方次第でこちらが一方的に有利になるのはまず間違いないし、不意打ちにも最適だ。
もちろん逃げる時にも重宝することだろう。

「それより、今日は疲れただろう?お風呂沸かしておいたから」

そう言って労ってくれるジェイドにホッとする。

「今日は一緒に入ろうか?」

しかもそんなご褒美的なことまで言ってくれるから嬉しさもひとしおだ。

「お疲れなレイをちゃんと癒してやるからな」
「……ありがとう」

そして二人でゆっくりと風呂へと行ったのだけど……。

「そう言えば、ジェイドの方は帰り際あの聖女様に掴まらなかったのか?」

湯船に浸かりながらふと思い出して気になったことを訊いてみた。

「え?」
「癒してあげるから一緒にお酒を飲もうって誘われてただろう?」
「ああ、あれな。全然平気。だって聖女様ってお酒の事わかってないし」
「え?」
「あんなこと言ってるけど、あの人まだまだお子様舌でさ、甘いお酒しか飲まないんだよ。だから俺が好きなお酒は理解できないって顔を顰めてた」
「ああ…なるほど」

どうやら聖女はジェイド好みのお酒は用意出来なかったらしく、そのお陰で上手く逃げ出せたらしい。

「後で一緒にとっておきのワイン、飲もうな?」

ニコッと笑ってくれるジェイドは湯で火照ってるせいかどこか色っぽくて、ドキッとさせられてしまう。
だからつい引き寄せられるかのようにそっとその美味しそうな唇を塞いでしまった。

「ん…レイ。あんまり危ないこと、しないでくれよな」

本当は心配だったんだからと言って腕を回して抱きついてくるジェイドに、ゴメンと謝って暫く二人で口づけ合った。
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