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16.デネフの森 Side.レイモンド
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夕刻の五時を過ぎたばかりの特定ダンジョン、デネフの森は徐々にその様相を変えていく。
これから12時間、この森は昼間とは全く違う顔をのぞかせるのだ。
魔物の数は激増し、昼間には現れない魔物達が手ぐすね引いて人々を待ち受ける。
いつもはこの時間帯の森の浅い部分で狩りをするが、今日は指名依頼でサーベルウルフの討伐を受けているため、いつもよりも更に奥へと足を踏み入れた。
とは言えジェイドとの出会いの時ほど深くは入り込まない。
一人であそこまで入るのは危険だし、サーベルウルフの縄張りはそこまで深い場所でもないからだ。
ちなみに早朝とは言えダンジョンタイムが終わる前に一人で森に入るのは危険だとジェイドには言っておいたが、魔物除けポーションがあるんだから大丈夫だって笑い飛ばされた。
ポーション用の薬草を採取する時はいつもそれを使っているらしく、そのお陰で危険に遭遇したことはないのだとか。
普通に考えたらすごい効果だ。
一応魔物除けポーションは市場にも出回っていて商人達がよく使っているが、それでも効かない魔物もいるから遭遇率は半々といったところだ。
それなのにジェイドの魔物除けポーションは100%だというからその凄さがよくわかる。
それこそ売ればいいのにと勧めてはみたけれど、隙間産業の方が売れるからと言い切られ正直勿体ないなと思った。
ジェイドは魔法薬師二級の資格しか持ってないと言ってるけど、その腕はとっくに一級資格でもおかしくはないほど優秀な気がする。
自分に力があれば推薦状だって出せるのにと少し悔しい気持ちになった。
「……あれか」
ダンジョンに足を踏み入れてから一時間弱。やっと目的のサーベルウルフの姿を確認する。
ここにくるまでにも魔物には遭遇し何体かは仕留めてきているが、魔力はそれほど減ってはいないし、体力も十分だ。
けれど念には念をとジェイド特製のポーションをそっと口にする。
これはいつものポーションとは別に『試しに作った栄養ドリンク』と笑って渡された方のポーションだ。
魔力と体力をこれ一本で一定量だけ回復するから戦う前の保険にと言われたものだ。
それでも効果は十分で、一本で二重の効果が得られるのは凄いことだと飲んで驚愕した。
ジェイドはこれがおかしいとは全く思ってなさそうだったけど、一体どういう感性をしてるんだろうか?
こんなものが売り出されたらバカ売れするのではないだろうか?
例えば魔力体力を使い切っていたあの刺された日、これ一本さえあれば飲んで反撃することだって十分できただろう。
それを考えるに、これは自分だけではなく全ての冒険者にとって命綱にさえなりうる希少なポーションと言える代物だった。
帰ったら一度きちんと話をしてみようか?
本当にジェイドには驚かされてばかりだ。
それから剣を手にサーベルウルフへと向かって素早く一撃で一体を仕留める。
すぐに他の個体がこちらに気づき攻撃を仕掛けてくるが、飛びかかってきた方を剣で一刀両断にし、風魔法で攻撃してきた方を間一髪魔法で相殺し距離を取り、魔法の詠唱に入り炎の矢できっちりと仕留めきった。
「ふぅ…」
無事に仕留められたのは良かったが、血の匂いを嗅ぎつけて他の魔物が来る前に討伐部位を切り取って立ち去らなければならない。
大きな牙はすべて回収してきて欲しいと言われているので全部しっかりと回収してバッグへと仕舞う。
その時、パキッと枯れ枝を踏む音がしたのでそっと振り向くと、そこには冒険者パーティーではなく不穏な空気を纏った数人の男達が立っていて一気に警戒心が高まり、素早く身構えた。
(兄達の手の者か?)
そう思いながら様子を窺っているとそのうちの一人がこちらへと質問をしてきた。
「なあ兄ちゃん。赤髪の冒険者全員に聞いて回ってるんだけどな?ひと月くらい前にこの森で金髪の男を助けなかったか?」
「……知らないな」
「本当に知らねぇのか?」
「ああ」
「じゃあ防具の類を売りに行ったりはしてねぇか?」
「さあな」
どうやら自分が以前の防具を売りに出したことがバレているようで、そこから俺が生きている可能性が浮上したのだろうと気づいてしまう。
(しまったな…)
正直迂闊だったと舌打ちしたい気分でいっぱいだった。
少し考えればわかる事だったのに…。
けれど自分にそれを聞いてくると言うことはまだ俺がレイモンドだとバレたわけではないということはわかる。
あくまでも彼らは『金髪の男』を探しているのだから。
今の自分はジェイドのお陰で髪色も瞳の色も変わっているのだ。
何も焦る必要はない。
「話はそれだけか?なら、俺はもう行く」
そしてあっさりと彼らの横を通り抜けその場から立ち去ろうとした。
本当は背中を向けたくはない。
後ろからまた刺されるのではないか────そう考えるだけで冷や汗が出てくるからだ。
だから油断なんてしないし、警戒心は絶対に解くことができなかった。
けれど────それが良くなかったのかもしれない。
「ちょっと待てや、兄ちゃん」
ガシッと肩を掴まれビクッと反応をしてしまう。
「その反応。どうやら間違いないようだなぁ?」
お前が防具を売ったんだろうと聞かれて心臓がバクバクと激しく鳴り、上手く頭が回らない。
彼らの数はざっと12名。
戦って確実に勝てるかと訊かれたら無理だと答えるしかない数だ。
何故なら彼らは兄達の優秀な影。所謂暗殺のスペシャリスト達だ。
狙われたら最後、死ぬしかない。
(動け…動け……!)
ここで殺されたらもうジェイドに会えなくなってしまう。
だから────俺は戦うことを選んだ。
強張る身体を何とか動かし、彼等へと対峙する。
「やる気か?兄ちゃん」
「俺達に逆らったらどうなるかきっちり教えてやるよ」
「お前が助けた奴の暗殺を俺達は頼まれてるんだ。今ここで吐いたら命だけは助けてやってもいいんだぜ?」
つまり狙いはやはり俺だと言うことに変わりはないわけだ。
どちらにせよこいつらをここで迎え撃たずに逃げ切ったとしてもすぐに嗅ぎつけられて今度はジェイドに迷惑がかかると言うこと…。
それなら尚更引けないと思った。
そこから先手必勝とばかりに一撃を入れると戦闘が始まった。
簡単にやられるわけにはいかないと一人二人と必死になって倒していくが、相手は手練れ揃い。
そう簡単には倒させてはくれない。
だからこそ戦闘時間はその分長くなり、場に血の匂いがじわりと広がっていく。
それはここ────ダンジョンでは致命的な状況で、魔物を自然と呼び寄せてしまう結果となった。
しかもやってきたのは運悪くオーガ3体だ。
「ぐぁッ!」
対人には慣れていようと対魔物には長けてはいなかったのだろう。
急に襲ってきたオーガの攻撃に対処できず数人があっという間にやられてしまう。
自分からすればこれ以上ないほどの援軍だった。
けれどそれは自分にとってというだけであって、オーガにとっては自分も獲物に変わりはない。
ある意味敵が増えたともいえるこの状況────。
それでも自分の敵を減らしてくれるオーガの乱入は有難かった。
そんなオーガの攻撃を受けあちらは撤退を試みたようだったが、更に後からやってきた魔物に次々やられてしまう。
「まさか…オーガキング……?」
現れたのはオーガよりも更に大きく、見上げるほどの異形の巨体────。
その巨体から振り下ろされる拳は強烈で、男達はあっという間に血溜まりに沈んだ。
(どうしてこんなところに……)
ただのオーガだけならまだしも流石にこれは想定外だ。
こんな中層に出てくる相手ではない。
まさかここでこんな強敵が出てくるなんてと嫌な汗が止まらなくなる。
パーティーで挑むなら倒せるが、こんな相手、自分一人で勝てるわけがない。
試しに攻撃用の火炎ポーションを投げて隙を作り、魔法を使うために詠唱を始めるがオーガキングの動きは思った以上に素早く、最後まで詠唱ができず不発に終わる。
火炎ポーションによるダメージも受けてはいなさそうだ。
ならばと剣を振るってもかすり傷程度しかダメージを入れられず、絶望的な気分に襲われてしまう。
状況を把握し蒼白になる自分にオーガキングは無慈悲にも強烈な一撃を見舞ってきて、俺はそれを間一髪で避けるがスピードがこれまでとは段違いで追撃されてしまえば避けることなどできず、辛うじて自分から飛ぶことでダメージを減らすことには成功したがかなり遠くまで吹き飛ばされて木に叩きつけられた。
「ぐっ…ゴホッ…!」
内臓がやられたのか血を吐いてしまうが、早く逃げなければ自分もあの男達のように殺されるだけだ。
幸い他のオーガ達はオーガキングの邪魔はしない姿勢を貫いていてこちらを攻撃するつもりはないようだが、それでもこちらがやられるのは時間の問題だろう。
最後の獲物の様子見は終わったとでも言いたげな空気を感じた。
(ジェイド……)
こんなところで死にたくないと思った俺はジェイドの顔を思い浮かべ、絶対に生き抜いて帰るからと自分に気合いを入れ直す。
そしてそこで初めてジェイドのスモークバリアポーションの存在を思い出し、オーガキングめがけて思い切り投げつけた。
最早勝ち目はないのだ。
効かなくてもいい。時間稼ぎさえできれば逃げる切っ掛けにはなるだろう。そう思っての事だった。
けれど、そのポーションがオーガキングにあたると同時にパリンと割れ、そのままブワッとオーガキングの周囲半径3メートル四方にバリアを張ったかと思うとその中を煙幕がたちまち覆ってしまった。
オーガキングは突然のことに戸惑い怒り、バリアの中で暴れ狂うがバリアはびくともせずそのままオーガキングの視界を完全にシャットアウトしてしまう。
その様子に俺は驚きを隠せなかったがこれはチャンスだと思い急いでポーションを飲み傷ついた体を癒すと身体強化の魔法を唱えてその場から離脱した。
(ジェイド…)
ジェイドがくれたポーションが自分の命を繋いでくれたことに感謝して必死に森の外に向かって駆け続ける。
イメチェンポーションにも助けられたが他の数々のポーションにも助けられっぱなしだ。
「どけぇえっ!!」
オーガキングから逃げたとはいってもここはダンジョン。
他のオーガ達や魔物は当然いるし、次々と敵は自分の前へと立ちふさがってくる。
それでも怯むことなく剣を振り、魔法を放って俺は魔物達を倒しながら森を駆け抜けた。
全てはジェイドの元へと帰るために────。
これから12時間、この森は昼間とは全く違う顔をのぞかせるのだ。
魔物の数は激増し、昼間には現れない魔物達が手ぐすね引いて人々を待ち受ける。
いつもはこの時間帯の森の浅い部分で狩りをするが、今日は指名依頼でサーベルウルフの討伐を受けているため、いつもよりも更に奥へと足を踏み入れた。
とは言えジェイドとの出会いの時ほど深くは入り込まない。
一人であそこまで入るのは危険だし、サーベルウルフの縄張りはそこまで深い場所でもないからだ。
ちなみに早朝とは言えダンジョンタイムが終わる前に一人で森に入るのは危険だとジェイドには言っておいたが、魔物除けポーションがあるんだから大丈夫だって笑い飛ばされた。
ポーション用の薬草を採取する時はいつもそれを使っているらしく、そのお陰で危険に遭遇したことはないのだとか。
普通に考えたらすごい効果だ。
一応魔物除けポーションは市場にも出回っていて商人達がよく使っているが、それでも効かない魔物もいるから遭遇率は半々といったところだ。
それなのにジェイドの魔物除けポーションは100%だというからその凄さがよくわかる。
それこそ売ればいいのにと勧めてはみたけれど、隙間産業の方が売れるからと言い切られ正直勿体ないなと思った。
ジェイドは魔法薬師二級の資格しか持ってないと言ってるけど、その腕はとっくに一級資格でもおかしくはないほど優秀な気がする。
自分に力があれば推薦状だって出せるのにと少し悔しい気持ちになった。
「……あれか」
ダンジョンに足を踏み入れてから一時間弱。やっと目的のサーベルウルフの姿を確認する。
ここにくるまでにも魔物には遭遇し何体かは仕留めてきているが、魔力はそれほど減ってはいないし、体力も十分だ。
けれど念には念をとジェイド特製のポーションをそっと口にする。
これはいつものポーションとは別に『試しに作った栄養ドリンク』と笑って渡された方のポーションだ。
魔力と体力をこれ一本で一定量だけ回復するから戦う前の保険にと言われたものだ。
それでも効果は十分で、一本で二重の効果が得られるのは凄いことだと飲んで驚愕した。
ジェイドはこれがおかしいとは全く思ってなさそうだったけど、一体どういう感性をしてるんだろうか?
こんなものが売り出されたらバカ売れするのではないだろうか?
例えば魔力体力を使い切っていたあの刺された日、これ一本さえあれば飲んで反撃することだって十分できただろう。
それを考えるに、これは自分だけではなく全ての冒険者にとって命綱にさえなりうる希少なポーションと言える代物だった。
帰ったら一度きちんと話をしてみようか?
本当にジェイドには驚かされてばかりだ。
それから剣を手にサーベルウルフへと向かって素早く一撃で一体を仕留める。
すぐに他の個体がこちらに気づき攻撃を仕掛けてくるが、飛びかかってきた方を剣で一刀両断にし、風魔法で攻撃してきた方を間一髪魔法で相殺し距離を取り、魔法の詠唱に入り炎の矢できっちりと仕留めきった。
「ふぅ…」
無事に仕留められたのは良かったが、血の匂いを嗅ぎつけて他の魔物が来る前に討伐部位を切り取って立ち去らなければならない。
大きな牙はすべて回収してきて欲しいと言われているので全部しっかりと回収してバッグへと仕舞う。
その時、パキッと枯れ枝を踏む音がしたのでそっと振り向くと、そこには冒険者パーティーではなく不穏な空気を纏った数人の男達が立っていて一気に警戒心が高まり、素早く身構えた。
(兄達の手の者か?)
そう思いながら様子を窺っているとそのうちの一人がこちらへと質問をしてきた。
「なあ兄ちゃん。赤髪の冒険者全員に聞いて回ってるんだけどな?ひと月くらい前にこの森で金髪の男を助けなかったか?」
「……知らないな」
「本当に知らねぇのか?」
「ああ」
「じゃあ防具の類を売りに行ったりはしてねぇか?」
「さあな」
どうやら自分が以前の防具を売りに出したことがバレているようで、そこから俺が生きている可能性が浮上したのだろうと気づいてしまう。
(しまったな…)
正直迂闊だったと舌打ちしたい気分でいっぱいだった。
少し考えればわかる事だったのに…。
けれど自分にそれを聞いてくると言うことはまだ俺がレイモンドだとバレたわけではないということはわかる。
あくまでも彼らは『金髪の男』を探しているのだから。
今の自分はジェイドのお陰で髪色も瞳の色も変わっているのだ。
何も焦る必要はない。
「話はそれだけか?なら、俺はもう行く」
そしてあっさりと彼らの横を通り抜けその場から立ち去ろうとした。
本当は背中を向けたくはない。
後ろからまた刺されるのではないか────そう考えるだけで冷や汗が出てくるからだ。
だから油断なんてしないし、警戒心は絶対に解くことができなかった。
けれど────それが良くなかったのかもしれない。
「ちょっと待てや、兄ちゃん」
ガシッと肩を掴まれビクッと反応をしてしまう。
「その反応。どうやら間違いないようだなぁ?」
お前が防具を売ったんだろうと聞かれて心臓がバクバクと激しく鳴り、上手く頭が回らない。
彼らの数はざっと12名。
戦って確実に勝てるかと訊かれたら無理だと答えるしかない数だ。
何故なら彼らは兄達の優秀な影。所謂暗殺のスペシャリスト達だ。
狙われたら最後、死ぬしかない。
(動け…動け……!)
ここで殺されたらもうジェイドに会えなくなってしまう。
だから────俺は戦うことを選んだ。
強張る身体を何とか動かし、彼等へと対峙する。
「やる気か?兄ちゃん」
「俺達に逆らったらどうなるかきっちり教えてやるよ」
「お前が助けた奴の暗殺を俺達は頼まれてるんだ。今ここで吐いたら命だけは助けてやってもいいんだぜ?」
つまり狙いはやはり俺だと言うことに変わりはないわけだ。
どちらにせよこいつらをここで迎え撃たずに逃げ切ったとしてもすぐに嗅ぎつけられて今度はジェイドに迷惑がかかると言うこと…。
それなら尚更引けないと思った。
そこから先手必勝とばかりに一撃を入れると戦闘が始まった。
簡単にやられるわけにはいかないと一人二人と必死になって倒していくが、相手は手練れ揃い。
そう簡単には倒させてはくれない。
だからこそ戦闘時間はその分長くなり、場に血の匂いがじわりと広がっていく。
それはここ────ダンジョンでは致命的な状況で、魔物を自然と呼び寄せてしまう結果となった。
しかもやってきたのは運悪くオーガ3体だ。
「ぐぁッ!」
対人には慣れていようと対魔物には長けてはいなかったのだろう。
急に襲ってきたオーガの攻撃に対処できず数人があっという間にやられてしまう。
自分からすればこれ以上ないほどの援軍だった。
けれどそれは自分にとってというだけであって、オーガにとっては自分も獲物に変わりはない。
ある意味敵が増えたともいえるこの状況────。
それでも自分の敵を減らしてくれるオーガの乱入は有難かった。
そんなオーガの攻撃を受けあちらは撤退を試みたようだったが、更に後からやってきた魔物に次々やられてしまう。
「まさか…オーガキング……?」
現れたのはオーガよりも更に大きく、見上げるほどの異形の巨体────。
その巨体から振り下ろされる拳は強烈で、男達はあっという間に血溜まりに沈んだ。
(どうしてこんなところに……)
ただのオーガだけならまだしも流石にこれは想定外だ。
こんな中層に出てくる相手ではない。
まさかここでこんな強敵が出てくるなんてと嫌な汗が止まらなくなる。
パーティーで挑むなら倒せるが、こんな相手、自分一人で勝てるわけがない。
試しに攻撃用の火炎ポーションを投げて隙を作り、魔法を使うために詠唱を始めるがオーガキングの動きは思った以上に素早く、最後まで詠唱ができず不発に終わる。
火炎ポーションによるダメージも受けてはいなさそうだ。
ならばと剣を振るってもかすり傷程度しかダメージを入れられず、絶望的な気分に襲われてしまう。
状況を把握し蒼白になる自分にオーガキングは無慈悲にも強烈な一撃を見舞ってきて、俺はそれを間一髪で避けるがスピードがこれまでとは段違いで追撃されてしまえば避けることなどできず、辛うじて自分から飛ぶことでダメージを減らすことには成功したがかなり遠くまで吹き飛ばされて木に叩きつけられた。
「ぐっ…ゴホッ…!」
内臓がやられたのか血を吐いてしまうが、早く逃げなければ自分もあの男達のように殺されるだけだ。
幸い他のオーガ達はオーガキングの邪魔はしない姿勢を貫いていてこちらを攻撃するつもりはないようだが、それでもこちらがやられるのは時間の問題だろう。
最後の獲物の様子見は終わったとでも言いたげな空気を感じた。
(ジェイド……)
こんなところで死にたくないと思った俺はジェイドの顔を思い浮かべ、絶対に生き抜いて帰るからと自分に気合いを入れ直す。
そしてそこで初めてジェイドのスモークバリアポーションの存在を思い出し、オーガキングめがけて思い切り投げつけた。
最早勝ち目はないのだ。
効かなくてもいい。時間稼ぎさえできれば逃げる切っ掛けにはなるだろう。そう思っての事だった。
けれど、そのポーションがオーガキングにあたると同時にパリンと割れ、そのままブワッとオーガキングの周囲半径3メートル四方にバリアを張ったかと思うとその中を煙幕がたちまち覆ってしまった。
オーガキングは突然のことに戸惑い怒り、バリアの中で暴れ狂うがバリアはびくともせずそのままオーガキングの視界を完全にシャットアウトしてしまう。
その様子に俺は驚きを隠せなかったがこれはチャンスだと思い急いでポーションを飲み傷ついた体を癒すと身体強化の魔法を唱えてその場から離脱した。
(ジェイド…)
ジェイドがくれたポーションが自分の命を繋いでくれたことに感謝して必死に森の外に向かって駆け続ける。
イメチェンポーションにも助けられたが他の数々のポーションにも助けられっぱなしだ。
「どけぇえっ!!」
オーガキングから逃げたとはいってもここはダンジョン。
他のオーガ達や魔物は当然いるし、次々と敵は自分の前へと立ちふさがってくる。
それでも怯むことなく剣を振り、魔法を放って俺は魔物達を倒しながら森を駆け抜けた。
全てはジェイドの元へと帰るために────。
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