聖女の従者は副業を始めました

オレンジペコ

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12.その頃の王族達①

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【Side.王弟 ローラン】

向こうから誘われたとはいえ兄の妻と身体の関係を持ってしまったのは自分も悪かったとは思う。
なにせ相手は王妃だ。
子をなしてしまったのはどう考えても大問題だった。
それで生まれてきたのがレイモンドだ。
王である兄も外聞が悪いからと自身の子として引き取ってはくれたが、内心いらない子だと思っているのは明らかだった。

けれど自分からしたら結婚を諦めた時点で得るのを諦めていた自分と血の繋がった唯一の我が子だ。
可愛く思わないわけがない。
身体が弱くずっと王宮の片隅で兄とごく少数の使用人達とだけ関わる日々に変化をもたらした一つの光明。それがレイモンドだった。
しかも我が子は自分とは違い健康そのもので、兄の子達よりも聡明で優秀だった。
正直それはこれまで劣等感の塊だった自分にとってはこれ以上ないほどの喜びでもあった。

こんな自分から生まれた子が兄の子に勝っている。
しかもその子は自分に容姿だってそっくりだ。
綺麗な金の髪に深い緑の瞳。
線の細さは自分ほどではないが整った顔立ちで、上の3兄弟と比べても一番美しかった。

そんな我が子の成長を見守るのは非常に楽しく、体調を崩してから遠く離れた離宮に押し込まれてからもずっと影をつけ、報告書でその成長を見守り続けた。

そんなレイモンドが……死んだという。
特定ダンジョンに行くという報告は受けていた。
当然その時も影をつけてはいたけれど、魔物がひっきりなしに現れるダンジョンだ。
ずっと目を離さずについているのは難しかったらしく、強敵と戦っている間にその姿を見失ってしまい、仕方なく森の外で待機していたところ、レイモンドと一緒に特定ダンジョンに入った者達だけがそこから出てきたのだという。
これはおかしいと思い彼らが王へ入れた報告を聞きに行ったのだが、そこでレイモンドが死んだという話を耳にしたとのこと。
正直聞いた当初は絶望に目の前が真っ暗になる思いだった。
それから自分も体調を崩し、食べ物も喉を通らないほど衰弱してしまった。
けれどそんな日々を送る自分に朗報が届けられる。

「レイモンドの装備が?」

それは確かにレイモンドがあの日身に着けていた装備品で、全てに即死回避の魔法陣が刻まれた一級品だった。
一応一般にも出回ってはいるものだが、その効果故に高級品で買い手は少ない。
それに王族が使う物にはそれとわからないように僅かに手も加えられているからまず間違いなくレイモンド本人のものだろう。
そんなものが街の武器防具店で売られていたのを自分の手の者がたまたま見つけ、すぐさま買い取ってきてくれたらしい。
但しこれを売りに来た男は赤髪の男だったらしいので、レイモンド本人の居場所が突き止められたわけではない。
それでも仮に特定ダンジョンで死んでいたとしたら装備一式がこうして手に入るはずがないので、レイモンドが生きているのは確実だと思われた。

「そうか…生きていてくれたか」

それが分かっただけでも僥倖だ。
一先ずレイモンドの無事を確認することが一番だろう。
城に戻っていないことから推察するに、何かただ事ではないことが起こったのはまず間違いないだろうが、それは本人に確認をとれば何があったのかはわかる話だ。
自分には然程力はないが、匿う必要があるのなら手は貸してやりたいと思う。

「レイモンド……。どうか無事で」

そう願いながらレイモンドの行方を探れと手の者に指示を出した。


***


【Side.第一王子 エドモンド】

「レイモンドが死んだだと?」

ずっと昔から母に比べられ続けてきたレイモンドが死んだと聞き、俺は驚いて思わず聞き返してしまった。
レイモンドは昔からおとなしく、本ばかり読んでいるような子供だった。
そのせいか頭はすこぶる良くて、3つ上の自分と同じレベルの教養を軽々と修めていた。
それは自分の劣等感を煽るばかりだったが、当時はそれでもまだ良かった。
何故なら小柄なレイモンドはただの賢しいだけの子供に過ぎなかったからだ。
けれどある日何を思ったのか魔法を習いたいと言い出した。
そんなレイモンドに王弟は優秀な魔法使いの教師をつけた。
それによってレイモンドは瞬く間に魔法が使えるようになり、そこでも有能さを見せつけてくる。
俺はそのせいで母からどうしてお前はあんな風にできないんだと言われるようになってしまった。

それからは地獄だった。
勉強でも魔法でもその他のマナー的なことまで事細かに比べられるようになり息苦しい日々が続いて行く。
そうこうしているうちに小柄だったレイモンドは成長し、剣も握るようになった。
正直そこでも負けるなんて思ってもいなかった。
せめてそこだけはと負けじと頑張っていた分野だったからだ。
子供の三才差は大きい。
だから絶対に負けるはずはないと思っていたのだ。
それなのに……。

「それまで!レイモンド様、流石ですな」

俺の剣の師がそうやってレイモンドを褒めた時、俺の中で何かがぽきりと折れてしまった。
何をやってもレイモンドは自分の上を行く。
前に出過ぎてくるわけでもないのに、控えめな態度ながら周囲に認められていくその姿は目障り以外の何ものでもなかった。
何が違う?俺とお前で何が違うというんだ?
同じ母から生まれた父の子だというのに────。
そんな俺にこっそりと言ってくる者があった。

『母君は同じでも、レイモンド様は御父上の子ではなく弟君のお子なのです』

それで全てがわかった。
父との間に出来た俺が弟との間に出来た子より劣っているのは母からしたら体裁も悪く嫌なことだったのだろう。
父もまた然り。弟の子より自分の子の方が劣っているのは嫌だったに違いない。
二人揃ってお前はもっと優秀なはずだと言ってくるのも道理だった。
つまりは血が違っていたのだ。
そこが俺とレイモンドの違いだった。
それなら父がレイモンドを次代の王に指名する可能性はほぼなくなるだろう。
その時───心のどこかにあった不安がほんの少し和らいで、久方ぶりにホッと息を吐けた気がした。
焦る必要はない。
レイモンドが目障りであるのはその通りだが、自分から王位を奪う存在ではないのだ。
それだけが唯一の救いだった。

そんなレイモンドが────死んだ…だと?

嬉しいはずだ。
そのはずなのに……どうしてという気持ちが湧き上がる。
目障りな存在が、消えて欲しい存在が、いなくなったと聞いたのにどうして自分はこんなにショックを受けているのだろう?
曲がりなりにも弟だったから?
いや、違う。
これはそう────『喪失感』だ。

自分のモチベーションを上げるべき存在の突然の喪失に……俺はどうやら予想外にショックを受けてしまったらしい。
だからだろうか?
つい手の者にこう命令していたのだ。

「あいつが死ぬはずがない。探し出して俺の前に連れてくるのだ」

そう。あいつがこんな簡単に死ぬはずがない。
死んでもらっては困る。
あいつを葬るのなら俺はこの手で殺したい。
だから────生きて俺の前に戻ってこいと願いながら俺は自らの影に命を下し、レイモンドを探させることにしたのだった。
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