聖女の従者は副業を始めました

オレンジペコ

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11.棚ぼた?

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朝起きたら何故かいつものソファではなくベッドで寝ていて驚いた。
当然自分の後ろからはレイの温もりが伝わってくる。
しかも寝惚けているのかギュッと抱きしめられてしまった!

(えぇ~?!まさか俺、夜中に寝惚けたのか?!)

間違って寝惚け眼でベッドに潜り込んで寝てしまったのかもしれない。
そんなことをグルグル考えていると、背後から名前を呼ばれて思わずビクッと身体を震わせてしまう。
正直罪悪感でいっぱいだ。
こんな言い逃れできない状況で、俺は一体どうしたらいいんだろう?
でも恐る恐る呼び掛けた俺に、レイは極自然におはようと言ってくれた。
そんなレイに俺は益々申し訳なくなってしまう。

「ゴメン!もしかして俺、やらかした?!夜中に寝惚けてベッドに潜り込んだかも?!」

だから慌ててそう言って謝ったのに、今度はレイが慌てたようにそれを遮ってくる。

「え?いや、違うっ!違うから!」
「でも、俺ソファで寝たはずなのに…」
「う……その、ゴメン」

そしてレイが口にしたのは意外なことで……。

「その…夜中にトイレに行ったらジェイドが寝返りを打った拍子に落ちそうになってて…」
「うん」
「慌てて受け止めたら…その、ずっと抑えてた気持ちが暴走してしまって……」
「…うん?」

助けてくれたのはわかるとして……気持ちが暴走って?

「その……調子に乗ってキス…を……。ゴメン!!」

(キス?キスってあのキス?)

「……え?レイから?」
「え?うん」
「俺が誘ったんじゃなく?」

(あれ?これ、もしかして夢?俺まだ寝てる?)

「……え?」

でもレイの温もりはちゃんとあるし、そのレイの驚いた表情を見る限り、どうも本当っぽい。
これはもしかしてもしかしなくても棚ぼたというやつではないだろうか?

「なんだ。良かった~…。俺、レイの事いいなって思ってたからついうっかり寝惚けてやらかしたのかと…んっ」

良かったと心底安堵したところで、何故かレイに唇を優しく塞がれてしまう。

「ジェイド…本当に?嫌じゃないか?」
「んっ…別に嫌なんかじゃ……」
「それじゃあ…もっとさせて…?」

その極自然なキスにうっとりしてしまいそうになる。
どうしてレイとのキスは全然嫌じゃないんだろう?
助けた時はあんまり考えなかったけど、よく考えたらその後水を飲ませるのは別に口移しじゃなくてもよかったよな?
それでもそうして飲ませてしまったのは……俺がレイとキスしたかったからなのかな?
わからないけど……こうして唇を合わせるのも、積極的に舌を絡められるのも単純に気持ち良かった。

「レイ…キス上手いな」

だからそう言ったんだけど、それを聞いたレイはクスッと笑って「それ、夜寝惚けながらも言ってた」と言ってくる。

(恥ずかしすぎる!!────でも…ま、いっか)

このことは前向きに考えよう。

「あ、でも…」

そう、懸念点が一つあるからすぐにお付き合いという訳にはいかないんだよな。

「レイの記憶が戻るまで、ちゃんとした付き合いはやめとかないか?俺、忘れられたら嫌だし」

レイからキスをしたと言ってくれたから弱みに付け込んで~っていう心配はないだろうけど、いざ付き合い始めて、好きになってしまってから記憶が戻った途端忘れられて捨てられるのは多分結構ショックだと思うんだ。

今も好きだけどまだ引き返せる”好き”ではある。
これがそれこそどっぷり好きになってから別れるとかなったらちょっと辛い。
だから狡いかもしれないけど予防線だけは張っておきたかった。
そんな俺にレイも少し考えて、わかったと言ってくれる。

「でも……キスはしたいな」

そう言ってくれたから、じゃあ同居人以上恋人未満の関係でって言っておいた。

「うん。今はそれでもいい。でも……予約は入れておきたい。ジェイドが好きだから…」

そんな風に甘く耳元で囁いてくるレイはやっぱりかなり俺的に好きなタイプ。
だってちょっとは駆け引きとかやってみたいじゃないか!
聖女だって似たようなことやってるだろうって?
あれは全然違うから!
あれはどう考えても駆け引きじゃなくて嫌がらせだろう。
俺がやってみたいのはこう…なんて言うか、色っぽい恋愛的意味合いのやつなんだ。

「ん…じゃあ、記憶が戻ったらまたその時、考えさせて?」
「わかった」

ちょっと色っぽい表情で答えてきたその普段とのギャップもまた良くて、俺はご機嫌にチュッとレイにキスを落とすとサッとベッドから降りて悪戯っぽく笑った。

「じゃあ今夜はワインで乾杯でもしようか」

身体の関係は今はまだ持つ気はないけど、ちょっとだけ恋人っぽく演出しながらイチャイチャしよう。
それくらい楽しんだっていいはずだ。
普段のちょっと可愛いレイも、こうやって少し背伸びしたっぽいレイも全部好きだと思った。


***


【Side.レイモンド】

嘘みたいだ────。
やっぱり夢じゃないだろうか?
まさかジェイドが…こんな怪しい素性の俺を受け入れてくれるなんて思ってもみなかった。
正直、こんなに自分に都合のいい展開があっていいのかと信じられない気持ちでいっぱいだった。

更にジェイドが俺に求めたのが『同居人以上恋人未満の関係』だったというのもまた信じられなかった。

俺が記憶喪失だと嘘を吐いたせいだとは思うけど、ジェイドは狡い俺にそんな魅力的な提案をしてくれたのだ。
これは願ったり叶ったりの展開と言っても過言ではない。

好きだからキスはしたい。でも寝てしまったらきっと後戻りできない。
もっともっとと願って、いざ危険が迫った時にジェイドを逃がしてあげられなくなってしまう。
手放せなくなるほど大切になってしまったら困るのだ。
ただでさえ好きなのに、危険な目には合わせたくはない。
でも自分に繋ぎ止めておきたい。
抱き締めて思う存分キスをしたい。

勝手な言い分だなんて、ちゃんとわかってる。
我儘な狡い自分が嫌になる。
でも…ジェイドは怒りもせず、ただ受け入れてくれた。
そんなジェイドに益々嵌ってしまう。

大人なジェイドに釣り合う自分になりたい。
そう思って少しだけ背伸びして手慣れた風を装ってみたけど、きっとジェイドにはバレバレだったと思う。

でもそれでもいいんだ。
今だけでも夢を見ていたい。
好きな相手と幸せな時間を過ごす────そんな夢を…。

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