【完結】攻略は余所でやってくれ!

オレンジペコ

文字の大きさ
上 下
11 / 11
御礼のサイドストーリー

断罪劇は突然に~シャーレンside.~

しおりを挟む
「シャーレン=グレッグ。本日この場で私はお前を断罪する」

卒業パーティーの席で、突然王太子がそんなことを言い出した。
事前にヴィーナスから断罪シーンがあるかもと聞いてはいたから然程驚きはしなかったけど、まさか悪役令嬢、悪役令息を差し置いて俺に断罪がやってくるとは思ってもみなかった。

てっきりウタに惚れている王太子がウタにあらぬ罪をかぶせて幽閉にでも持ち込むと踏んでいたんだが…。
こちらを追放してウタを慰める名目で囲い込みにかかるとは……随分甘いことだ。
まあここは一先ず真っ当な思考の持ち主でよかったと言うべきなのかもしれない。
もしもの時にウタの冤罪をどう晴らすかというのがここ最近の一番の悩みだったからホッとしたのは確かだった。
これで肩の荷が下りたと言ってもいいだろう。
だから睨みつけてくる王太子の言葉を聞いても俺は何も言わなかった。

王太子は一体俺にどんな罪をかぶせる気なのだろうか?
俺がしたことと言えばウタを独占したくらいのことなんだけど?
美味しいおやつは俺だけが食べてたし、ウタの休み時間も常に俺がもらっていた。
王太子よりも優先されて、笑顔を向けてもらって、スキンシップまでしてもらっていた。
でもそれだけ。
それが何か罪になるのか?
気に入らないのはわかるし、振り向いてもらえなくて悔しいのだってわかるけど、それで断罪すると言われてもな…。
子供か、としか言えない。
昔は子供らしくない知的な王太子だと思ってたけど、恋に溺れると途端に子供っぽくなるんだなと不思議な気持ちになった。

俺を睨みつける王太子。
そんな王太子に困った笑みを浮かべる俺。
そんな二人の様子を見遣る周囲に戸惑いが広がっていくのを感じる。

けれどここでヴィーナスがこちらをフォローするかのように声を上げてくれた。

「殿下!これは何かの間違いですわ!」 

間違い…うん、まあここで断罪を持ち出すこと自体が間違いだからな。その言葉は正しいと言えるだろう。
ここでなかったことにすれば『誤解だった』で丸く収めることは可能だ。

「そうです!シャーレンが一体何をしたというのです?明確な理由をお話しください!」 

ウタも俺を庇うようにそうやって声を上げてくれるが、ここでは逆効果だったかも。

「……お前がそうやって庇いだてすればその男の罪状は増すだけだぞ?」 

王太子の底冷えするような声が場を凍り付かせる。
一体何があったのかと周囲は慄いてるけど、これって単純に自分が惚れてるウタが俺を庇ったから嫉妬しただけの話なんだよな。
迷惑過ぎる……。

「シャーレン…王太子に何かしたのか?俺…全く気付かなかったけど、一緒に謝った方がいい?」 

ウタが王太子の態度に慄いて俺にこっそり言ってくるけど、これも睨まれてるからな?
そもそもなんて謝るんだ?
俺はウタと仲良くしてただけなんだけど?
それがダメって言われてもな…。
小学生じゃあるまいし。寝言は寝て言って欲しい。
こんなもの無視してもいい案件だ。
だから俺は何も言わなかった。

そしたら今度はヒロインや取り巻き達が口々に王太子を庇い出した。

「ウタ様!シャーレン様を信じたいお気持ちはわかりますが、王太子様はずっと悩まれていたんですわ!シャーレン様は王太子様の大切なものを横取りなさったそうですの」

「王太子様が取り戻そうとする度にその男は散々邪魔をしたとの証言も得ている」

こんな風に言われてもウタは自分のことを言われているなんて思ってもいないんだろう。
目を白黒させて、全く見当違いの言葉を紡ぐ。

「えっと…何か誤解があるのでは?シャーレンはこう見えて物欲もあまりないですし、返せと言われて返さないというような男でもありませんが…?」 

その言葉に王太子がまた鋭く睨みつけてくるが、睨まれてもウタはやらないとしか言えない。
そもそも物じゃないし。
ウタはちゃんと自分の意志を持った一人の人間だ。
振り向いてもらえないのは自分のせいだろうに、こちらのせいにしないでもらいたい。
そうして二人火花を散らして目で語りあっていたら、ウタが不安そうにしながらこちらに尋ねてきた。

「シャーレン。心当たりはある?」 

このままだと俺があらぬ罪を着せられると心配になったんだろう。
可愛いウタ。
俺は大丈夫だ。
だって罪なんて何一つ犯していないんだから。

「さあ何のことかわからないな」

わかっていてそんなことを言う俺に王太子の目がきつく吊り上げられるが、そんなもの知ったことじゃない。
俺がここで同じ土俵に立つと思ったら大間違いだ。
不利な言質をとらせるようなこと、俺がするはずがないだろう?
明確な罪状がない以上、王太子にこれ以上出来ることはない。

「殿下。シャーレンは心当たりはないと申しておりますし、この場は一先ず矛を収めて後日改めて真偽を含め調査をなさっては?」 

ウタのそんな言葉に王太子が苦々し気に顔を歪めるが、この場で出来ることはこれ以上ないと察したのだろう。
大きく息を吐き、俺に向かって冷たく言い放った。 

「シャーレン=グレッグ。お前の罪状はその胸に聞け。後程正式に国外追放を言い渡す。覚悟しておけ」 

さて、上手いことを言ったものだ。
これで周囲には俺に罪ありという印象を抱かせた。
こじつけだろうとなんだろうと後は適当に罪を押し付けて国から放逐すればいいだけだ。
取り敢えず俺の国外追放は確定と言っていいだろう。
まあ内容が稚拙なだけに家族が国王陛下に取り成してくれたらすぐにでも戻れるとは思うけど。

さて、どうしたものかな。
別に言われるがまま国を出るのは全然かまわない。
最近はウタとの時間が嬉しくもあり辛くもあった。
だからここで距離を一旦置くのも悪くはないと思ったのだ。
少し距離を置いて、手紙のやり取りだけして俺は俺で落ち着くまでは隣国を旅して回ってもいいとさえ思った。
それなのに、思わぬ伏兵にしてやられてしまった。

ここにきて転生者であることをウタにカミングアウトしたヴィーナスだ。
この世界のことを話すだけならまだしも、彼女は思った以上に曲者だった。

「俺達じゃなく、シャーレンが追放エンドっておかしくないか?!」 
「あら、一緒ですわ。だってシャーレン様が国外に出られたらお兄様もご一緒なさるでしょう?」 

驚き慌てふためくウタに『当然一緒に行くんですよね?』と小首を傾げながら尋ねるヴィーナス。
その言葉にウタは迷うことなくすぐに頷いてしまう。
それは嬉しくもあったが、暗に腹をくくれと言われたも同然の出来事だった。
 
「シャーレン様とお兄様の新居は既に隣国にご用意しておりますわ♡」 

そう言い放った彼女は可憐な笑みを浮かべてはいたが、その目は全く笑ってはいなかった。
その目を見て俺はいつだかの彼女との会話を思い出す。



「シャーレン様…お兄様のこと、どうなさるおつもりですの?」
振るならさっさと振ってやれと言われたあの日、俺は何も答えることが出来なかった。
「即答できないと言うことは好きというお気持ちも当然お持ちということですわよね?」
そんな問いかけに応えられず困ったように笑うことしかできない自分。
「またそうやって逃げるんですのね。よろしいですわ。一つ、狡いシャーレン様に子供の本気というものを見せて差し上げます」
その時になって慌てふためいても知らないぞと彼女は迫力ある笑みを浮かべながらこちらを挑発していた。



彼女はなんだかんだでウタの味方なのだ。
ちっとも気持ちをはっきりしない俺を、こうして追い込み、もう逃げられないぞと答えを迫る。
これには流石に俺も降参だと言わざるを得なかった。
ここでウタが手紙を書くよと言ったなら逃げられたかもしれないが、一緒に来ると言ってくれたのだから俺も腹をくくらざるを得ないだろう。
だからそっと深く息を吐いて、ウタにちゃんと向き合った。

「ウタ」

そう呼び掛けた声はこれまでとは違う俺の本当の声。
その名はどこまでも愛しい俺の想い人の特別なもの。

「俺と…一緒に国を出てくれるか?」 

戸惑うウタに自分の言葉でついてきて欲しいと口にする。
こんな風に追い込まれないとお前に向き合えなかった情けない俺だけど、それでもこの手を取ってもらえるだろうか?
そんな思いで紡いだそれは、満面の笑みで受け入れてもらえた。

「シャーレン!好き!」

その無邪気な姿はやっぱり子供そのものだけど、それでもいいんだ。
ウタが俺を必要としてくれるなら、傍で見守っていよう。
一緒に暮らしているうちにまたこの関係も変わっていくかもしれないし。
 そんな俺を横目にヴィーナスがまた仕方がないですわねと溜息を吐いていたけれど、これが今の俺の精一杯なんだから許してほしいと思った。



それからすぐ、俺達は隣国へと旅立った。
旅立ちの日、ヴィーナスから手紙を渡された。
そこには兄を泣かせるなという言葉と、いつまでも大人ぶってないでちゃんとウタ本人を見てやれと言うお説教なんかがツラツラと書かれていた。
あと、嫌味っぽく『大人なら大人で自分好みに育てるくらいの気概を持て』とまであって、それにはクスリと笑わされてしまった。
確かに言われてみればその通りなのかもしれない。
いつかなくなるかもしれない気持ちに怯える位なら、その方がずっと前向きと言えるのかもしれない。
本当にヴィーには感謝の気持ちばかりだ。

だから俺は隣国で新しい一歩を踏み出すと同時にウタに対する態度を変えた。
自分の気持ちを素直に出して、ウタにも愛情表現をするようになった。
決定的な言葉を口にしてないからウタは喜びつつも戸惑いが大きいようだけど…。
でも、キスだけは少しずつ慣れてきたんじゃないだろうか?

そんな日々の中、王太子から手紙が届けられた。
その大半は当然ながら恨み節だ。
王太子はウタがまさか俺を追って国外に出てしまうなんて思ってもみなかったのだろう。
ウタを返せと呪詛のように書かれてあって滅茶苦茶怖かった。
まあ暖炉にポイッと入れて燃やしたけどな。
浄化浄化。炎で燃やしたらきっと呪いも大丈夫なはず。

「シャーレン!今日はミートボールのマスタードソース煮込みにしてみた!どう?美味しい?」 
「ああ。ウタの料理は愛情いっぱいで何でも美味しい」 

今日も今日とて幸せな日々は過ぎていく。
ウタが作るものはお菓子だけじゃなく料理も何でも美味しい。
こんな幸せも悪くはない。
尻込みしていた俺に一歩を踏み出させてくれたヴィーナスには心から感謝しているから、今度ウタに相談して何か素敵な贈り物でもしたいと思う。

「苦節十二年!今日こそシャーレンを襲いたいー!」

どこからかそんな声が聞こえてきて、思わず笑ってしまった。
それってさ、本当に…今の俺をそんな対象として見てくれてるってことだよな?
キスだけじゃなくその先にも進みたいと、本当に思ってくれる?
それなら俺は何の憂いもなく一歩を踏み出せるんだけど……。

さて、ウタがそんな風に思ってくれているのなら今夜は思い切って攻防戦でも仕掛けてみようか。
ウタはどっちが希望なんだろうな?
大人の狡さを発揮して、上手く丸め込めるといいな。

そしてどこか吹っ切れたような気持ちで俺はウタの可愛い姿を思い浮かべほくそ笑んだ。



Fin.

しおりを挟む
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

アルサール
2020.01.14 アルサール

とても面白かったです。
ヒロインは誰かを攻略できたのでしょうか?
そこが気になります。

オレンジペコ
2020.01.15 オレンジペコ

感想ありがとうございます(^-^)
ヒロインはきっとイケメンハーレムができなくて落ち込んでいたところを誰かが慰めてくれて、そのまま幸せになるんじゃないでしょうか。
それが攻略対象じゃなくてもきっと疲れた心には癒しになるはずです(´∀`;)

解除
りーん
2019.07.05 りーん

あ、うん。まじ好き。大好き。
ありがとうございます。

オレンジペコ
2019.07.06 オレンジペコ

気に入ってくださって嬉しいです。
ありがとうございます(´∀`*)

解除
腹ペコ
2019.04.18 腹ペコ

これから2人のイチャラブ生活楽しみでしかないです!!

オレンジペコ
2019.04.19 オレンジペコ

ありがとうございます(´∀`*)
もうイチャラブ一直線な二人なので、きっと甘々な毎日を過ごしていくと思います♪

解除

あなたにおすすめの小説

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

お可愛らしいことで

野犬 猫兄
BL
漆黒の男が青年騎士を意地悪く可愛がっている話。

そういった理由で彼は問題児になりました

まめ
BL
非王道生徒会をリコールされた元生徒会長が、それでも楽しく学校生活を過ごす話。

陛下の失われしイチモツをみつけた者を妃とする!………え、ヤバいどうしよう!?

ミクリ21
BL
主人公がヤバいことしてしまいました。

だから振り向いて

黒猫鈴
BL
生徒会長×生徒会副会長 王道学園の王道転校生に惚れる生徒会長にもやもやしながら怪我の手当をする副会長主人公の話 これも移動してきた作品です。 さくっと読める話です。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話

天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。 レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。 ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。 リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?

ある意味王道ですが何か?

ひまり
BL
どこかにある王道学園にやってきたこれまた王道的な転校生に気に入られてしまった、庶民クラスの少年。 さまざまな敵意を向けられるのだが、彼は動じなかった。 だって庶民は逞しいので。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。