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御礼のサイドストーリー
今日はイベントデー③
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最近────王太子がウタに対して動きを見せる。
それも厄介な類のものだ。
子供の頃は全くウタに興味を持たなかったくせに、ウタが16才を過ぎたあたりからその視線に熱が籠り始めた。
きっと享年の憂いが晴れてすっきりしたウタがキラキラし始めたからだと思う。
ウタは子供だから王太子からのそんな視線に気づくことはなかったようだったけど…アレは絶対に恋心。
王太子は女性にモテるからまさかウタにそんな感情を抱くなんて思ってもみなかった。
でも大丈夫。
ウタはこっちしか見ていない。
まだまだ子供だからそんな熱視線、気づきもしないんだ。
そんなこんなで日々が過ぎ────。
ウタの口からたまに飛び出すのは王太子から受けているというセクハラもどき。
今日はこんなことをされた、この間はこんなことをされた。そんな話が段々と増えていく。
王太子もウタに少しでも振り向いてほしいのか、段々あからさまになってきているようだ。
これには俺も大丈夫かと不安になってくる。
ウタに気安く触れないで欲しい。
そんなこと…とても口に出しては言えないけれど、どんどん嫌な気持ちが膨らんでいく。
そして今日、とうとう俺達のおやつタイムにまで割り込もうとしたのか、王太子はウタと一緒にやってきた。
ウタが王太子も一緒にお茶をと言ったら俺はどうしただろう?
遠慮して引き下がっただろうか?
それともヴィーナスを巻き込んで四人で和気藹々と時を過ごしただろうか?
ウタとの時間は俺の中では大事な時間だし、誰にも邪魔されたくないとつい思ってしまう。
それは王太子だけではなくヴィーナスにも言えることで、俺の中にはおかしな独占欲が生じ始めていた。
それこそヒロインは俺になんてかまけてないで王太子を全力で落としに行ってくれたらいいのにとさえ願ってしまうほどだ。
できればハーレムエンドなんてやめにして、王太子一本に絞ってくれないかな?
ウタを王太子に取られたくないなんて────どこまでも俺の我儘にすぎないんだけど、そう願ってしまう気持ちはどうしようもなく自分の中で渦巻いて、どうしてもモヤモヤが消えてくれなかった。
ウタ。可愛いウタ。俺のことが好きだって言う気持ちはどこまで信じていい?
お前がこの先俺以外を見ないなんてどうして言えるだろう?
王太子のように完璧な男に求婚されたらよろめかないか?
ヒロインのことは嫌っているようだけど、守ってやりたくなるようなご令嬢に出会ってそのまま…なんてことにならないか?
踏み込みたいのに怖くてなかなか踏み込めない、そんな女々しい自分に自分で自分が嫌になる。
恋は儘ならないものだと言ったのは誰だっただろう?
そんな不安渦巻く俺の目の前で、ウタは無邪気にヒロインを翻弄しにかかった。
菓子包みを拾ってやって、まさかの言葉を口にしたのだ。
「えっと…これ、さ、貰ってもいいかな?」
その言葉に最初はびっくりしたけれど、どうやらそれはウタ的には王太子を追いやるために利用しただけのようだった。
「殿下。毒見をするのでコレ、受け取ってやってもらえませんか?先程ちょうど菓子を食べたいと仰っておりましたし、どうか可哀想なご令嬢に殿下の優しさをお与えください」
それって殿下はウタのお菓子を食べてみたかっただけだと思うんだけどな。
わかっててやってる?
だとしたら確信犯。
いつまでも子供だと思っていたけど、いつの間にか小狡さも覚えてきてたのかと意外に思った。
目的のためなら手段は選ばないというか何と言うか…困ったやつだなとついつい苦笑が漏れてしまう。
それでもウタが自分と二人きりになりたくてそう言ったのは疑いようのない事実で、なんだか先程までのモヤモヤした気持ちがどこかへと飛んで行ってしまったように感じた。
「シャーレン。お待たせ。俺達はあっちで食べよ?」
そう言いながらウタが指し示したのは王太子とヒロインの二人に勧めたのとは遠く離れた大きな樹の下。
前にそこで俺が膝枕をしてやった時すごく嬉しそうにしていたから、もしかしたら今日もしたいのかもしれない。
ウタと一緒にお菓子を食べてのんびり日向ぼっこ。
うん。悪くない。
一途と言えば一途なウタの気持ちが嬉しい。
ウタの気持ちが真っ直ぐに自分にだけ向けられているのが幸せ。
けれどそれはいつなくなるのかわからない不確かなもの。
でも────不安になったり疑ってばかりいて、それこそ王太子にウタを奪われたら俺は後悔しないだろうか?
少しくらいは……自分に素直になってみてもいいんじゃないか?
そんな気持ちが自分の恋心をそっと後押ししてくれた。
普段はしないけど、ウタの身体をそっと抱き寄せて髪に優しく唇を落とす。
チュッ…。
これくらいなら許される?
そう思っていたらウタから熱烈な告白を受けた。
「シャーレン!今日こそ俺と付き合って!」
情緒も何もあったものじゃない、そんな真っ直ぐな変わらないウタの告白が眩しくてつい躱してしまう自分。
「いつも付き合ってるだろう?」
────美味しいおやつタイムに。
ウタが言いたいことと違っていることなんて百も承知だけど、まだその告白を受け止められるだけの勇気のない俺を許してほしい。
俺は狡い大人だから、純粋な子供はただただ眩しすぎるんだ。
「今日はシャーレンの好きなキャロットケーキと野菜クッキーだから、楽しみにしてて」
そんなこっちの健康にまで気を遣ってくれるウタが好きで好きで仕方がないけれど、そんな気持ちに蓋をして今日も余裕の表情を取り繕う。
「うん。ウタはお菓子作りが上手だからいつも楽しみにしてる」
そんな言葉に王太子がギリギリと歯噛みしながら睨んでくるけど、ここで牽制くらいはさせてもらわないとな。
ウタがお菓子を作るのは他の誰でもない。俺の為だってことを主張させてほしい。
気持ちに応えられないくせにそれがまかり通るのか?
そんなこと、俺が聞きたい。
なあ、健太。お前の息子────いつか俺が貰っても怒らないか?
幸せにするからって言ったらお前はきっと笑ってくれるだろう。
好きになってゴメン。
でも、何度考えてもこの気持ちはこの先も勝手に膨らんでいって、きっといつか伝えずにはいられなくなる気がするんだ。
ウタが成長して、もっと大人の狡さを知って、それでも俺を好きだと言ってくれるなら俺はきっとその手を取るよ。
だから…その時は許してほしいと思う。
それまでは狡いとは思うけど、このまま…現状維持でいさせてほしいとは思ってる。
我儘だってわかっているけど、俺だってここでは16才なんだ。
少しくらい現状に甘えたって罰は当たらないだろう?
「シャーレン!」
真夏の太陽みたいに眩しく笑うウタに自然と笑みを浮かべ、俺は今日も小狡く生きる。
大人の狡さと子供の無邪気さの狭間で悩みながら────この世界で生きていく。
そんな人生もまた悪くないと…そう思えるから。
俺は澄み渡る青空を見上げながら、今日もまたウタと過ごせる時を大切に思ったのだった。
Fin.
それも厄介な類のものだ。
子供の頃は全くウタに興味を持たなかったくせに、ウタが16才を過ぎたあたりからその視線に熱が籠り始めた。
きっと享年の憂いが晴れてすっきりしたウタがキラキラし始めたからだと思う。
ウタは子供だから王太子からのそんな視線に気づくことはなかったようだったけど…アレは絶対に恋心。
王太子は女性にモテるからまさかウタにそんな感情を抱くなんて思ってもみなかった。
でも大丈夫。
ウタはこっちしか見ていない。
まだまだ子供だからそんな熱視線、気づきもしないんだ。
そんなこんなで日々が過ぎ────。
ウタの口からたまに飛び出すのは王太子から受けているというセクハラもどき。
今日はこんなことをされた、この間はこんなことをされた。そんな話が段々と増えていく。
王太子もウタに少しでも振り向いてほしいのか、段々あからさまになってきているようだ。
これには俺も大丈夫かと不安になってくる。
ウタに気安く触れないで欲しい。
そんなこと…とても口に出しては言えないけれど、どんどん嫌な気持ちが膨らんでいく。
そして今日、とうとう俺達のおやつタイムにまで割り込もうとしたのか、王太子はウタと一緒にやってきた。
ウタが王太子も一緒にお茶をと言ったら俺はどうしただろう?
遠慮して引き下がっただろうか?
それともヴィーナスを巻き込んで四人で和気藹々と時を過ごしただろうか?
ウタとの時間は俺の中では大事な時間だし、誰にも邪魔されたくないとつい思ってしまう。
それは王太子だけではなくヴィーナスにも言えることで、俺の中にはおかしな独占欲が生じ始めていた。
それこそヒロインは俺になんてかまけてないで王太子を全力で落としに行ってくれたらいいのにとさえ願ってしまうほどだ。
できればハーレムエンドなんてやめにして、王太子一本に絞ってくれないかな?
ウタを王太子に取られたくないなんて────どこまでも俺の我儘にすぎないんだけど、そう願ってしまう気持ちはどうしようもなく自分の中で渦巻いて、どうしてもモヤモヤが消えてくれなかった。
ウタ。可愛いウタ。俺のことが好きだって言う気持ちはどこまで信じていい?
お前がこの先俺以外を見ないなんてどうして言えるだろう?
王太子のように完璧な男に求婚されたらよろめかないか?
ヒロインのことは嫌っているようだけど、守ってやりたくなるようなご令嬢に出会ってそのまま…なんてことにならないか?
踏み込みたいのに怖くてなかなか踏み込めない、そんな女々しい自分に自分で自分が嫌になる。
恋は儘ならないものだと言ったのは誰だっただろう?
そんな不安渦巻く俺の目の前で、ウタは無邪気にヒロインを翻弄しにかかった。
菓子包みを拾ってやって、まさかの言葉を口にしたのだ。
「えっと…これ、さ、貰ってもいいかな?」
その言葉に最初はびっくりしたけれど、どうやらそれはウタ的には王太子を追いやるために利用しただけのようだった。
「殿下。毒見をするのでコレ、受け取ってやってもらえませんか?先程ちょうど菓子を食べたいと仰っておりましたし、どうか可哀想なご令嬢に殿下の優しさをお与えください」
それって殿下はウタのお菓子を食べてみたかっただけだと思うんだけどな。
わかっててやってる?
だとしたら確信犯。
いつまでも子供だと思っていたけど、いつの間にか小狡さも覚えてきてたのかと意外に思った。
目的のためなら手段は選ばないというか何と言うか…困ったやつだなとついつい苦笑が漏れてしまう。
それでもウタが自分と二人きりになりたくてそう言ったのは疑いようのない事実で、なんだか先程までのモヤモヤした気持ちがどこかへと飛んで行ってしまったように感じた。
「シャーレン。お待たせ。俺達はあっちで食べよ?」
そう言いながらウタが指し示したのは王太子とヒロインの二人に勧めたのとは遠く離れた大きな樹の下。
前にそこで俺が膝枕をしてやった時すごく嬉しそうにしていたから、もしかしたら今日もしたいのかもしれない。
ウタと一緒にお菓子を食べてのんびり日向ぼっこ。
うん。悪くない。
一途と言えば一途なウタの気持ちが嬉しい。
ウタの気持ちが真っ直ぐに自分にだけ向けられているのが幸せ。
けれどそれはいつなくなるのかわからない不確かなもの。
でも────不安になったり疑ってばかりいて、それこそ王太子にウタを奪われたら俺は後悔しないだろうか?
少しくらいは……自分に素直になってみてもいいんじゃないか?
そんな気持ちが自分の恋心をそっと後押ししてくれた。
普段はしないけど、ウタの身体をそっと抱き寄せて髪に優しく唇を落とす。
チュッ…。
これくらいなら許される?
そう思っていたらウタから熱烈な告白を受けた。
「シャーレン!今日こそ俺と付き合って!」
情緒も何もあったものじゃない、そんな真っ直ぐな変わらないウタの告白が眩しくてつい躱してしまう自分。
「いつも付き合ってるだろう?」
────美味しいおやつタイムに。
ウタが言いたいことと違っていることなんて百も承知だけど、まだその告白を受け止められるだけの勇気のない俺を許してほしい。
俺は狡い大人だから、純粋な子供はただただ眩しすぎるんだ。
「今日はシャーレンの好きなキャロットケーキと野菜クッキーだから、楽しみにしてて」
そんなこっちの健康にまで気を遣ってくれるウタが好きで好きで仕方がないけれど、そんな気持ちに蓋をして今日も余裕の表情を取り繕う。
「うん。ウタはお菓子作りが上手だからいつも楽しみにしてる」
そんな言葉に王太子がギリギリと歯噛みしながら睨んでくるけど、ここで牽制くらいはさせてもらわないとな。
ウタがお菓子を作るのは他の誰でもない。俺の為だってことを主張させてほしい。
気持ちに応えられないくせにそれがまかり通るのか?
そんなこと、俺が聞きたい。
なあ、健太。お前の息子────いつか俺が貰っても怒らないか?
幸せにするからって言ったらお前はきっと笑ってくれるだろう。
好きになってゴメン。
でも、何度考えてもこの気持ちはこの先も勝手に膨らんでいって、きっといつか伝えずにはいられなくなる気がするんだ。
ウタが成長して、もっと大人の狡さを知って、それでも俺を好きだと言ってくれるなら俺はきっとその手を取るよ。
だから…その時は許してほしいと思う。
それまでは狡いとは思うけど、このまま…現状維持でいさせてほしいとは思ってる。
我儘だってわかっているけど、俺だってここでは16才なんだ。
少しくらい現状に甘えたって罰は当たらないだろう?
「シャーレン!」
真夏の太陽みたいに眩しく笑うウタに自然と笑みを浮かべ、俺は今日も小狡く生きる。
大人の狡さと子供の無邪気さの狭間で悩みながら────この世界で生きていく。
そんな人生もまた悪くないと…そう思えるから。
俺は澄み渡る青空を見上げながら、今日もまたウタと過ごせる時を大切に思ったのだった。
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