【完結】俺はライバルの腕の中で啼く。

オレンジペコ

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御礼閑話.告白

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【Side.伊集院 誉】

大学に入ってまず思った事。
それはやっぱり知臣は人目を惹くということだ。
それは決して俺の贔屓目ではなく、男女問わず視線を集めている。

一応対策として知臣に近づいてくる輩には学園で一緒だった友人や、新たに親しくなった友人達にそれとなく頼んで『俺と知臣は同棲中』だと伝えてもらい、誰も間に入る隙はないぞと牽制を掛けてはいるが、極稀にそれが効かない相手もいる。
例えば以前しつこく知臣に粉をかけてた女生徒や、例えば今、友人と見せかけて知臣に近づくあの羽崎という名の男のように────。




「有馬。俺のこと祐也って呼んでいいから、知臣って呼んでいいか?」
「え?」
「知臣って、高校時代あの伊集院と張り合ってたんだろ?凄いよな。俺そんなお前を尊敬する!なあ、今度俺とも勝負しないか?それか一緒に資格試験受けようぜ!」
「え…」

こんなに押せ押せで来る奴、学園にはいなかったせいか、知臣は困惑している。

「知臣?」
「あ~…羽崎?悪い。俺、勝負は誉とだけって決めてるんだ」
「え~なんでだよ?俺とだってしようぜ!ライバルは多い方が楽しいだろ?」
「…………」
「な?取り敢えず今度一緒に遊ぼうぜ!いつなら空いてる?」

その言葉に俺は素早く動いた。

「知臣の空いてる時間は俺とのデート時間だ。遠慮してくれ」

そんな風に割り込んだ俺に、知臣は明らかにホッとした表情を見せてくる。
可愛い。

「なんだよ。独り占めするなよ、伊集院」
「独り占めするに決まってるだろう?知臣は俺と付き合ってるんだから」
「知臣はそう思ってないかもしれないだろ?お前が勝手にそう思い込んで束縛してるだけかもしれないじゃないか」
「人聞きの悪い事を言うな。それと勝手に知臣を呼び捨てにするな。不愉快だ」

全く引く気がない羽崎と俺の間で火花が散る。
けれどそれを吹き飛ばしたのは知臣だった。

「悪いな、羽崎。誉が嫌がるから名前では呼ばないでくれるか?ほら、誉。行くぞ」
「え?ちょっ…知臣!」
「有馬だ。今度からそう呼ばないと返事しないぞ。じゃあな」

羽崎にそうはっきりと言い放ち、知臣は俺を引っ張ってその場から連れ出していく。
それからどんどん歩いて行って、中庭の端までたどり着き、やっと足を止めた。

「はぁ…」
「知臣…」

深々と溜め息を吐く知臣に『余計な事を』と思われていないか心配になって声を掛けると、クルッと振り返った後キッと睨んでこう言われてしまう。

「あのな、俺がまだ告白もしてないのに、勝手に付き合ってるとか口にするな!い、言い難くなるだろう?」
「え…」

(告…白?誰に?羽崎…に?それとも俺が知らない…女に?)

知臣の口から飛び出した思い掛けない言葉に、頭の中が真っ白になる。

告白は付き合いたいと思った、好きな相手にするものだ。
学園時代から今にかけて、俺がどんなに欲しくてもずっと手に入れられなかったもの。
知臣とほぼ付き合っているも同然の俺には最早無縁のものだ。
それを…知臣がする?
あり得ない。

(俺はフラれるのか?こんなに好きなのに?知臣は俺が好きなはずなのに、どうして?)

相手はどこの誰だ?
嫌だ。
聞きたくない。
でも…続く言葉に、違う意味で自分の耳を疑った。

「誉。お前が好きだ。俺と…正式に付き合ってほしい」
「……え?」

聞き間違い…だろうか?
フラれたくない俺の幻聴か?

「返事は…くれないのか?」

少し困ったような知臣の顔を見て、それが聞き間違いでもなんでもなかった事に呆然となる。
ずっとずっと望んでいた、知臣の言葉。
それが今、自分に向けられているということが信じられなかった。

「知臣…」
「なんだ?」
「俺…起きてる…よな?」
「起きてるぞ」
「夢じゃ…」
「夢でもないぞ」
「……聞き間違い?」
「でもない!」
「じゃあ…?」
「正真正銘ちゃんとしたお前への告白だ。返事は保留か?なら俺は先に行くぞ」
「え?!」

しかも言い逃げのようにあっさりこの場から去ろうとするなんて、とても現実とは思えない。
でもよく見ると知臣の耳は赤くて、照れ臭いから限界だったんだとわかってしまった。
これは紛れもなく現実だ。
そう思ったところで、俺は弾かれたように素早く動いた。

「知臣!」
「ちょっ…!」
「俺が…お前からの告白を、断るはずがないだろう?」

そう言いながら背中から抱き込んで、そのまま愛しい気持ちを伝えるように口づける。

「嬉しい。凄く嬉しくて…夢みたいだ」

これが夢でないようにと願いながらギュッと抱き締めると、特に逃げるでもなく知臣はポツリと言った。

「さっきさ…羽崎にライバルは多い方が楽しいだろって言われて、気づいたんだ」
「……何を?」
「その…俺の中のライバルの定義は、ズレてたんだなって」
「…………」
「いつだったか、お前がさ、俺に聞いたよな?俺にとってのライバルは、一時的な競い相手か、長期的に競い合いたい相手かって」
「……ああ」
「俺さ、あの時無条件にお前のことしか頭になくて、そんなの関係なくずっと一緒に居たいって思った。ずっと一緒ならずっと競い合えるのに何言ってんだこいつって…その時は思ったんだけど────」
「…………」
「今思えば、そんな言葉が出たのもライバル=お前で、お前が好きだったからだよな?お前以外の他の誰かをライバルの立ち位置においたとしても、俺はきっとそんな風には思わなかったと思う。それがさっき凄くわかった。気づくのが遅くなって悪かった」
「知臣……」
「ここ最近お前への自分の気持ちには気づいてたし、ちゃんと気持ちに応えたいとは思ってたけど、正直どのタイミングでどう切り出せばいいのかちょっと悩んでた。だから…さっきのは良い切っ掛けになったと思う」

そんな風に言ってくる知臣に胸がいっぱいになる。

知臣が俺を好きだと知ってはいたけど、いつだって自信はなかった。
このまま気づいてもらえず、ある日突然『彼女ができた』と言われたらと思うと不安だった。
だってここはもう男ばかりの学園じゃなく、綺麗に着飾った女性も、ライバルになり得る男だって────探せばいくらでも魅力的な相手がいるんだから。

でも知臣はちゃんと自分の気持ちに気づいてくれて、面と向かって俺に気持ちを伝えてくれた。
ずっと外してくれなかったおかしなフィルターもいつの間にか外して、ちゃんと俺とのことを考えてくれたんだ。

「誉。ライバルとしてだけじゃなくて、恋人としても一生俺と一緒にいて欲しい」
「ああ。…もちろん。もちろんだ。知臣」

伝え続けた想いがやっと知臣の中で花開く。
それがただただ嬉しくて、気づけば目の端から温かい涙がこぼれ落ちていた。

「な、泣くなよ!本当に悪かったって!」

そう言いながらハンカチで涙を拭いてくれる知臣。
嬉し泣きなんだから、こんな時くらい好きなだけ泣かせてくれればいいのに。
俺はそのまま暫く知臣を抱きしめて、そっと身を離したところで俺を見つめる知臣が微笑んでくれたから、今の幸せな気持ちを伝えるようにゆっくりと唇を重ねた。




そんな感動的なシーンを迎えたものの、俺が泣いていたのを見て勘違いされたのか、その後俺が知臣にフラれたとかいう噂が流れて、折角晴れて恋人同士になれたのに色々邪魔が入ってしまった。
腹立たしいことこの上ない。

「知臣。また言い寄られてただろう?」
「お前もだろう?」
「全く…こんなにラブラブなのにな」
「ラブラブじゃない。外でベタベタしてくるな。恥ずかしいだろ?」
「これは周囲の牽制のために必要なんだ」
「本当か?」
「本当だ。虫避けにはこれが一番だ」
「……なら我慢する」

その後の俺達の関係は、こんな感じで校内ではそんなに大きく変わらなかったものの、二人きりの時の糖度は上がったと思う。

知臣からの告白を受けて『もっと深く繋がりたい』『一つになりたい』って二人で夢中になってるうちに偶然奥に嵌って、終わった後で知臣に『どうしよう?誉が好き過ぎて俺の身体が誉のを食べようとしたのかも…怖い』って愕然とした顔で言われたんだ。
俺が悶えたくなった気持ちがわかるだろうか?
好き過ぎて食べようとしたのかもって…。発想が可愛すぎる。

(嬉しすぎる…。あの知臣がまさかこうなるなんてっ)

でもそう思いながら喜んでたら『もう怖くて誉と寝れない』と蒼白になりながら言い出したから、慌ててフォローを入れた。
やっとの思いで相思相愛になれたのに、即レスになるなんて死んでも御免だ。

「知臣。大丈夫だ。そこは女性でいうところの子宮口みたいなものだって聞いたことがある。両想いになったし、きっと俺が子供が欲しいくらいお前を好きって強く思ったせいでちょっと深く入ってしまったんだと思う。毎回そこまで深く挿れる気はないから、怖がらずこれまで通り抱かせてほしい」

そんな風に気持ちを伝えたら、ちょっと驚いたような顔をした後真っ赤になって『そ、そうか。子作り的な感じだったのか…』って恥じらわれた。
その顔がまた可愛い過ぎて、ついもう一度襲いたくなったけどそこは必死に我慢した。
ここはポーカーフェイス一択だ。
先に安心させてやらないと。

「まあ実際は残念ながらできないけどな」
「もちろんわかってる。でも…それなら、うん。安心した」

その甲斐あって知臣は納得がいったのか、心底安堵したように笑ってくれて、その後も変わらず抱かせてくれるようにはなったのだけど…。
割と高頻度で奥まで受け入れてくれるから、物凄く深読みしたくなったのは言うまでもない。

俺と奥まで一つになるのはなんだか幸せなんだって。
しかも奥に出されたら幸福感で胸がいっぱいになるんだって。
俺との赤ちゃんなら欲しいかもだって…!

え?無理矢理言わせた?
半分妄想?
ないない。
ちょっと焦らして本音を言わせた感はあるけど、ちゃんと本人が言ってくれたんだ。

それに、何とは言わないが他にも知臣に言って欲しい言葉があったからおねだりしてみたら『もう一緒に住んでるし、言ってみれば現時点で事実婚みたいなものだろ?!俺が大昔に言った言葉まで持ち出してきて、これ以上恥ずかしいことを口走ってくるな!』と言われてしまった。残念。
可愛いかったのにな。
あの頃のはにかみ知臣のプロポーズ。

(でも…事実婚か)

自分で言ったのにまたしても知臣本人は無自覚っぽいが、知臣的には俺とは既に結婚したも同然と思ってくれている様子。
それは知臣の性格的に、イコール浮気をする気は全くないと言ってくれたようなものだ。
もうそれだけで嬉しくて仕方がない。

俺はこんな可愛い知臣を、これからもずっと愛し続けたいと思う。



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