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37.※そして俺達は…
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何故か公認カップルにされ、溺愛伊集院とツンデレな俺と言う謎のイメージが広まってしまった学園内。
(俺はツンデレなんかじゃないのに)
本当に噂と言うものはどうしようもないと思う。
まあその噂と風紀の働きのお陰で御堂とダミアンの方の状況も無事に落ち着いたようだけど。
「それにしても、お前は本当に公認になっても全く行動が変わらないな」
西条が『昼も一緒に食べればいいのに』と言ってくるけど、なんでそこまでベッタリしないといけないんだと言いたくなってしまう。
「そもそも俺は交際を了承したつもりはない。それに放課後も土日もここ最近はずっと一緒なんだぞ?平日の昼間くらい好きにさせろ」
「あ、納得。そりゃバレなかったわけだ。伊集院とは部屋の中でイチャついてたんだな」
「あいつの好きにはさせてたけど、俺からイチャついたことなんて一回もない。人聞きの悪いことを言うな」
「そう言うところがツンデレって言われるんだぞ?」
西条は呆れたように言ってくるが、俺は『勝手に言ってろ』と返した。
「もうちょっと素直になれよ?卒業したら同棲するんだろ?」
「同棲じゃない。同居だ」
「いや、絶対同棲だからな?はぁ…何も知らなかったら、お前を落としたい伊集院が卒業してお前に会えなくなるのを危惧して取り敢えず一緒に住んでゆっくり落とすために勝負を持ち掛けたのかなって未だに思ってただろうな。お前本当に変わらなさ過ぎ。普通もっと変わるだろう?」
「俺は俺だ。それにあいつは卒業して俺に毎日会えなくなるのは嫌だって勝負を持ちかけてきてたはずだ。それ以外に理由があるような言い方をするな」
「いや、何言ってんだお前。絶対違うから。もう既に付き合ってたなら、毎日お前を愛でて、女の影がないよう牽制するためだろ?どう考えても」
「だから、付き合ってないって言ってるだろ?わからん奴だな」
「あ~…うん。伊集院がなんで搦め手で攻めたかわかったわ。そう言や前にお前の認識がズレてるとかなんとか言ってたな。こりゃあお前を落とすのは正攻法じゃ絶対無理なわけだ。納得」
「は?」
「まあまあ。お前にもそのうち今俺が言ったことがわかる日が来るって。……多分」
西条はなんだかどこか達観したような遠い目で俺を見ていた。
***
「有馬くん!おはよう!」
「おはよう」
「ねぇ、今度合コンしない?伊集院くんも一緒に!二人とも絶対すぐ彼女できるよ?」
その後大学に入って暫くしたらそんな誘いが増えた。
でも…。
「ダメダメ。美帆、有馬と伊集院付き合ってるんだよ?知らないの?」
「そうそう。サクラで呼ぶならアリなんだけどね~」
事情を知る女生徒のそんなフォローがすかさず入る。
それと言うのも伊集院がいつの間にか女友達を作って、彼女達に俺と同棲してるって吹き込んだせいだ。
俺を合コンに呼ぶ際は自分が持ち帰るから、その前提でセットで呼ぶようにとまで言ってたらしい。
ふざけるな。
「え~?!勿体ない!良い男同士くっつくなんてダメダメ!ね、有馬くん。私と付き合わない?どう?ダメ?」
そう言われてちゃんと考えては見るけど…。
「ん~。悪い」
「ちゃんと有馬くん好みになれるように頑張るよ?」
俺好み?
そう言われて俺の好みと言うのを考えてみる。
「ね?どんな子がタイプ?」
そう聞かれた俺の答えは────。
「話が合って…」
「うんうん」
「一緒に居て心地良くて…」
「うんうん」
「一生張り合えるライバルかな」
「え?!ライバル?!」
「そう。ライバル」
「つまり俺だな」
そう言いながらふわっと後ろから抱き締められた。
「誉…」
「知臣がまた狙われてるって聞いて、飛んできた」
「嘘つけ。どうせ今日も一緒に帰ろうって言いに来ただけだろ?」
「そう。今日講義終わったら一緒に買い物に行こうと思って」
「ああ、そう言えば卵と牛乳買わないと」
「知臣は半熟オムレツ好きだもんな」
「洋食はあれなら大丈夫だからな」
「今日は何か食べたいものあるか?」
「ん~…あ、筑前煮が食べたい!こんにゃく入りの」
「わかった。一緒に作ろう」
そこまで話したところで、伊集院がさっきの女生徒へと目を向ける。
「悪いな?」
笑顔とその一言で追い払う伊集院。
こんな風にするから結局俺は彼女ができない。
まあ敢えて欲しいかと聞かれれば、これっぽっちもいらないんだけど。
「知臣」
大学に入ってからお互い外でも名前で呼ぶようになった。
多分それが最初の切っ掛け。
「あっ…んんっ…」
もう一つは、大学に入ってから同じ年頃の男女が揃っているある意味『普通』の環境で、改めて恋愛について考えてみたことが大きい。
そもそもの話、伊集院は俺の初恋相手だから、男だからと恋愛から除外していた色眼鏡を外してみたんだ。
その上で伊集院ほど俺を大事に愛してくれて、且つ俺と張り合える相手はそうそう居ないなと感じた。
「あ…っ!誉っ…」
それに同居生活も思った以上に快適で、最初は不慣れだった料理もなんだかんだと伊集院と張り合っているうちにあっという間にできるようになった。
同居って一般的には最初はぶつかって喧嘩する事も多いって聞くけど、伊集院とは不思議なほどそういうのがない。
話せばわかる奴だってわかってるし、お互い尊重し合って、これまでと然程変わらない生活ができているのもあるとは思う。
「もっと甘えていいぞ?知臣」
「はっ…ぁあっ!」
「知臣。愛してる」
「ぁあっ!は、ぁんっ!あっあっ!」
「可愛い俺の知臣。ちゃんと約束通り、ずっと俺だけを見てろよ?」
その言葉を聞いて、いつだったか伊集院が言っていた言葉を思い出す。
ただの恋人ではなくライバルなら絆が深いから大丈夫というやつだ。
俺は今、その言葉をひしひしと実感している。
だってこんなに信頼できる相手を、俺は他に知らない。
伊集院の手はいつだって優しく、でも熱い想いを込めて俺を好きだと告げてくる。
俺がどんなに付き合わないと言い続けても、伊集院は絶対に俺に酷いことはしてこなかった。
言葉と身体で毎日沢山の愛情を与えられ、すっかりそれが当たり前になった俺にはそれを手放すことなんてきっともうできないんじゃないだろうか?
多分今の俺は『好き』では収まらないほど大きな気持ちで伊集院を想ってると思う。
あの内原の一件があったあの日の夜、もどかしくも言葉にできなかった想いはきっと『愛しい』という感情だったんだと今ならわかる。
『いつから好きだったのか』────そう考えた時、俺は最初、あのインターハイを終えた日からかなと考えた。
でもそれは違ったんだ。
「誉っ!あっ!イクッ!」
「知臣っ…!一緒に…っ」
そうしてほぼ同時に伊集院と一緒に絶頂へと駆けあがった。
俺の中で伊集院の熱が俺へと移り、それを心地良く受け止める。
そう。俺はずっと前から伊集院との触れ合いに嫌悪感なんて感じていなかった。
それは実際に繋がって、こうして中に出されても何も変わらなかったんだ。
それは俺が伊集院を好きだからこそできた事だったのに、そんな事にさえ俺は気づいていなかった。
後ろに触れていいかと尋ねられ、他の誰かと比較した時に本当は気づくべきだった。
伊集院は俺の中で特別だったのだということを。
俺は『ライバル』にこだわり過ぎて、自分の心の在り処を見失っていたんだ。
(そっか。俺はずっとずっと、こいつが好きだったんだな…)
気づいてしまえば簡単な話だった。
ライバルという言葉で包み隠して、俺はずっと三年間伊集院だけを見つめ続けていたんだ。
考えてみれば、気になる相手に勝てない自分が気に入らなくて、切磋琢磨し続けていたのかもしれない。
全力で挑んだら同じ分だけ返ってくるのが嬉しかった。
伊集院と対等でいられる自分が誇らしかった。
でも…他の誰かと楽し気にしている姿を見るとモヤモヤするから、接点は最低限でいいとも思った。
伊集院に対する想いが恋だと気づかぬまま不器用にただライバルとして接していた俺の恋は、そのまま放っておけば自分でも気づくことなく終わってしまうものだっただろう。
あの日伊集院が行動を起こさなかったなら、それで終わっていただけの儚い恋心。
普通なら気持ちが返ってこない時点でさっさと諦めるだろうに、伊集院はただひたすら一途に俺の傍で気持ちを伝え続けた。
俺はそんな伊集院に絆されたわけじゃなくて、ただ自分の気持ちを自覚させられただけだったんだ。
「知臣。余所見できないくらい俺に溺れてほしい」
大学に入ってから、時折切なげに…どこか不安げな表情を見せるようになった伊集院。
学園時代はいつだって余裕ある態度を崩さなかったのにと思わなくはない。
俺の心境に変化があったように、きっと伊集院にも心境の変化があったんだろう。
俺にとってはプラスだった心境の変化。
でも多分伊集院にとっては逆だったんだと思う。
環境が変わって、不安になったのかもしれない。
(そんな顔をしなくても俺はとっくにお前のものなのにな…)
気持ちを自覚した今の俺は、伊集院の気持ちに応えたい気持ちでいっぱいだった。
でもだからこそ、これまで時間をかけて沢山の愛情を俺に与えてきてくれた伊集院には、熱に浮かされたような睦言ではなく、ちゃんとした場で真っ直ぐに告白をしたいなと思ったんだ。
「誉…俺、お前だけに抱かれたい」
「……っ!」
だから今はどうかこの言葉だけで許してほしい。
俺が求めてるのは他の誰でもない伊集院なんだと少しでも伝わるように、首に腕を絡めるように抱き着いて、気持ちを込めてキスをする。
「知臣…」
伊集院の顔が嬉しそうに綻んだのを確認して、俺は笑顔でもう一度キスをした。
さて。告白はいつにしようか?
それが今一番の問題だ。
そして今日も俺はライバルの腕の中で啼く。
────二人の愛の、巣の中で。
Fin.
****************
※これにて本編完結となります。
お付き合いくださった皆様、ありがとうございましたm(_ _)m
※お気に入りに登録してくださった皆様への御礼を兼ねて、知臣の告白話を誉視点で、その後の大学での一幕(雨の日の彼シャツ話)を知臣視点で書かせていただきました。
そちらもよろしければ是非お付き合いください(^^)
(俺はツンデレなんかじゃないのに)
本当に噂と言うものはどうしようもないと思う。
まあその噂と風紀の働きのお陰で御堂とダミアンの方の状況も無事に落ち着いたようだけど。
「それにしても、お前は本当に公認になっても全く行動が変わらないな」
西条が『昼も一緒に食べればいいのに』と言ってくるけど、なんでそこまでベッタリしないといけないんだと言いたくなってしまう。
「そもそも俺は交際を了承したつもりはない。それに放課後も土日もここ最近はずっと一緒なんだぞ?平日の昼間くらい好きにさせろ」
「あ、納得。そりゃバレなかったわけだ。伊集院とは部屋の中でイチャついてたんだな」
「あいつの好きにはさせてたけど、俺からイチャついたことなんて一回もない。人聞きの悪いことを言うな」
「そう言うところがツンデレって言われるんだぞ?」
西条は呆れたように言ってくるが、俺は『勝手に言ってろ』と返した。
「もうちょっと素直になれよ?卒業したら同棲するんだろ?」
「同棲じゃない。同居だ」
「いや、絶対同棲だからな?はぁ…何も知らなかったら、お前を落としたい伊集院が卒業してお前に会えなくなるのを危惧して取り敢えず一緒に住んでゆっくり落とすために勝負を持ち掛けたのかなって未だに思ってただろうな。お前本当に変わらなさ過ぎ。普通もっと変わるだろう?」
「俺は俺だ。それにあいつは卒業して俺に毎日会えなくなるのは嫌だって勝負を持ちかけてきてたはずだ。それ以外に理由があるような言い方をするな」
「いや、何言ってんだお前。絶対違うから。もう既に付き合ってたなら、毎日お前を愛でて、女の影がないよう牽制するためだろ?どう考えても」
「だから、付き合ってないって言ってるだろ?わからん奴だな」
「あ~…うん。伊集院がなんで搦め手で攻めたかわかったわ。そう言や前にお前の認識がズレてるとかなんとか言ってたな。こりゃあお前を落とすのは正攻法じゃ絶対無理なわけだ。納得」
「は?」
「まあまあ。お前にもそのうち今俺が言ったことがわかる日が来るって。……多分」
西条はなんだかどこか達観したような遠い目で俺を見ていた。
***
「有馬くん!おはよう!」
「おはよう」
「ねぇ、今度合コンしない?伊集院くんも一緒に!二人とも絶対すぐ彼女できるよ?」
その後大学に入って暫くしたらそんな誘いが増えた。
でも…。
「ダメダメ。美帆、有馬と伊集院付き合ってるんだよ?知らないの?」
「そうそう。サクラで呼ぶならアリなんだけどね~」
事情を知る女生徒のそんなフォローがすかさず入る。
それと言うのも伊集院がいつの間にか女友達を作って、彼女達に俺と同棲してるって吹き込んだせいだ。
俺を合コンに呼ぶ際は自分が持ち帰るから、その前提でセットで呼ぶようにとまで言ってたらしい。
ふざけるな。
「え~?!勿体ない!良い男同士くっつくなんてダメダメ!ね、有馬くん。私と付き合わない?どう?ダメ?」
そう言われてちゃんと考えては見るけど…。
「ん~。悪い」
「ちゃんと有馬くん好みになれるように頑張るよ?」
俺好み?
そう言われて俺の好みと言うのを考えてみる。
「ね?どんな子がタイプ?」
そう聞かれた俺の答えは────。
「話が合って…」
「うんうん」
「一緒に居て心地良くて…」
「うんうん」
「一生張り合えるライバルかな」
「え?!ライバル?!」
「そう。ライバル」
「つまり俺だな」
そう言いながらふわっと後ろから抱き締められた。
「誉…」
「知臣がまた狙われてるって聞いて、飛んできた」
「嘘つけ。どうせ今日も一緒に帰ろうって言いに来ただけだろ?」
「そう。今日講義終わったら一緒に買い物に行こうと思って」
「ああ、そう言えば卵と牛乳買わないと」
「知臣は半熟オムレツ好きだもんな」
「洋食はあれなら大丈夫だからな」
「今日は何か食べたいものあるか?」
「ん~…あ、筑前煮が食べたい!こんにゃく入りの」
「わかった。一緒に作ろう」
そこまで話したところで、伊集院がさっきの女生徒へと目を向ける。
「悪いな?」
笑顔とその一言で追い払う伊集院。
こんな風にするから結局俺は彼女ができない。
まあ敢えて欲しいかと聞かれれば、これっぽっちもいらないんだけど。
「知臣」
大学に入ってからお互い外でも名前で呼ぶようになった。
多分それが最初の切っ掛け。
「あっ…んんっ…」
もう一つは、大学に入ってから同じ年頃の男女が揃っているある意味『普通』の環境で、改めて恋愛について考えてみたことが大きい。
そもそもの話、伊集院は俺の初恋相手だから、男だからと恋愛から除外していた色眼鏡を外してみたんだ。
その上で伊集院ほど俺を大事に愛してくれて、且つ俺と張り合える相手はそうそう居ないなと感じた。
「あ…っ!誉っ…」
それに同居生活も思った以上に快適で、最初は不慣れだった料理もなんだかんだと伊集院と張り合っているうちにあっという間にできるようになった。
同居って一般的には最初はぶつかって喧嘩する事も多いって聞くけど、伊集院とは不思議なほどそういうのがない。
話せばわかる奴だってわかってるし、お互い尊重し合って、これまでと然程変わらない生活ができているのもあるとは思う。
「もっと甘えていいぞ?知臣」
「はっ…ぁあっ!」
「知臣。愛してる」
「ぁあっ!は、ぁんっ!あっあっ!」
「可愛い俺の知臣。ちゃんと約束通り、ずっと俺だけを見てろよ?」
その言葉を聞いて、いつだったか伊集院が言っていた言葉を思い出す。
ただの恋人ではなくライバルなら絆が深いから大丈夫というやつだ。
俺は今、その言葉をひしひしと実感している。
だってこんなに信頼できる相手を、俺は他に知らない。
伊集院の手はいつだって優しく、でも熱い想いを込めて俺を好きだと告げてくる。
俺がどんなに付き合わないと言い続けても、伊集院は絶対に俺に酷いことはしてこなかった。
言葉と身体で毎日沢山の愛情を与えられ、すっかりそれが当たり前になった俺にはそれを手放すことなんてきっともうできないんじゃないだろうか?
多分今の俺は『好き』では収まらないほど大きな気持ちで伊集院を想ってると思う。
あの内原の一件があったあの日の夜、もどかしくも言葉にできなかった想いはきっと『愛しい』という感情だったんだと今ならわかる。
『いつから好きだったのか』────そう考えた時、俺は最初、あのインターハイを終えた日からかなと考えた。
でもそれは違ったんだ。
「誉っ!あっ!イクッ!」
「知臣っ…!一緒に…っ」
そうしてほぼ同時に伊集院と一緒に絶頂へと駆けあがった。
俺の中で伊集院の熱が俺へと移り、それを心地良く受け止める。
そう。俺はずっと前から伊集院との触れ合いに嫌悪感なんて感じていなかった。
それは実際に繋がって、こうして中に出されても何も変わらなかったんだ。
それは俺が伊集院を好きだからこそできた事だったのに、そんな事にさえ俺は気づいていなかった。
後ろに触れていいかと尋ねられ、他の誰かと比較した時に本当は気づくべきだった。
伊集院は俺の中で特別だったのだということを。
俺は『ライバル』にこだわり過ぎて、自分の心の在り処を見失っていたんだ。
(そっか。俺はずっとずっと、こいつが好きだったんだな…)
気づいてしまえば簡単な話だった。
ライバルという言葉で包み隠して、俺はずっと三年間伊集院だけを見つめ続けていたんだ。
考えてみれば、気になる相手に勝てない自分が気に入らなくて、切磋琢磨し続けていたのかもしれない。
全力で挑んだら同じ分だけ返ってくるのが嬉しかった。
伊集院と対等でいられる自分が誇らしかった。
でも…他の誰かと楽し気にしている姿を見るとモヤモヤするから、接点は最低限でいいとも思った。
伊集院に対する想いが恋だと気づかぬまま不器用にただライバルとして接していた俺の恋は、そのまま放っておけば自分でも気づくことなく終わってしまうものだっただろう。
あの日伊集院が行動を起こさなかったなら、それで終わっていただけの儚い恋心。
普通なら気持ちが返ってこない時点でさっさと諦めるだろうに、伊集院はただひたすら一途に俺の傍で気持ちを伝え続けた。
俺はそんな伊集院に絆されたわけじゃなくて、ただ自分の気持ちを自覚させられただけだったんだ。
「知臣。余所見できないくらい俺に溺れてほしい」
大学に入ってから、時折切なげに…どこか不安げな表情を見せるようになった伊集院。
学園時代はいつだって余裕ある態度を崩さなかったのにと思わなくはない。
俺の心境に変化があったように、きっと伊集院にも心境の変化があったんだろう。
俺にとってはプラスだった心境の変化。
でも多分伊集院にとっては逆だったんだと思う。
環境が変わって、不安になったのかもしれない。
(そんな顔をしなくても俺はとっくにお前のものなのにな…)
気持ちを自覚した今の俺は、伊集院の気持ちに応えたい気持ちでいっぱいだった。
でもだからこそ、これまで時間をかけて沢山の愛情を俺に与えてきてくれた伊集院には、熱に浮かされたような睦言ではなく、ちゃんとした場で真っ直ぐに告白をしたいなと思ったんだ。
「誉…俺、お前だけに抱かれたい」
「……っ!」
だから今はどうかこの言葉だけで許してほしい。
俺が求めてるのは他の誰でもない伊集院なんだと少しでも伝わるように、首に腕を絡めるように抱き着いて、気持ちを込めてキスをする。
「知臣…」
伊集院の顔が嬉しそうに綻んだのを確認して、俺は笑顔でもう一度キスをした。
さて。告白はいつにしようか?
それが今一番の問題だ。
そして今日も俺はライバルの腕の中で啼く。
────二人の愛の、巣の中で。
Fin.
****************
※これにて本編完結となります。
お付き合いくださった皆様、ありがとうございましたm(_ _)m
※お気に入りに登録してくださった皆様への御礼を兼ねて、知臣の告白話を誉視点で、その後の大学での一幕(雨の日の彼シャツ話)を知臣視点で書かせていただきました。
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